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7. はじまりの日
カナダでのサマースクールは、緯度が日本より高いこともあってか、ほとんど避暑のように快適だった。
望と朔也は、サマースクールを十分以上に謳歌していた。語学が中心とはいえ、各国から集まった子どもたちが共同で取り組むカリキュラムは興味深く、割り当てられた学生寮の二人部屋も快適だった。
そもそも、幼少期より、お互いの家が所有する避暑地の別荘へ招き招かれ、夏休みはともにすごすことが多かったから、それと同じ感覚だったともいえる。二段ベッドの下の段に二人並んでごろごろして、望は多分持参のゲームをしていて、朔也はスクールから借りてきた難しそうな本を読んでいた。
そういう、なんでもないはずの夏の日だった。
なんだか暑いな、と思ったのが最初の異変だった。妙に身体が火照って、なにか、甘ったるいような匂いが鼻を擽った。今日の夕食にケーキでも出るのだろうか。思いながら、望はエアコンのリモコンを探し、仰向けからうつ伏せに姿勢を変えた。そうしてベッドサイドのチェストに置いたリモコンに手を伸ばしたとき、朔也が上から伸し掛かってきて、「なんだよ」と望は文句を言った。
「暑いだろ。なに、……」
スキンシップを仕掛けるのは、いつもは、望のほうからであることが多かった。
まだバースは発現しておらず、けれども、朔也がアルファであることは、誰にだってわかっただろう。朔也はそれぐらい、『アルファらしいアルファ』だった。
すらりと伸びた背は高く、手と足とが形よく大きいのが、彼の背がまだまだ伸びるだろうことを予測させた。ふとすると冷たく見えるぐらいに端正な顔立ち、さらりとして癖のない黒い髪、深い知性を感じさせる瞳、ひとたび開かれれば鋭く真実だけを解く薄い唇。彼が社交的な性質でないことがまた、その孤高によって、彼の特別さを引き立てていた。
誰も彼もが、彼の反応を欲しがっていた。
だから周りは、彼にとって一番近しい存在である望を介して、彼と少しでも繋がろうとした。朔也が望にしかまともに反応しない──それを感じるたび望の中に優越感が芽生えていたことを、きっと朔也は知らないだろう。朔也のテリトリーに入ることを自分だけが許されている、という事実を確認するため、必要以上に朔也にくっついていたことも。
ともかく、いつもなら自分からは触れてくることのない朔也からの唐突な接触に、望は流石に訝しんで視線を向けた。喜んでもいい状況だったが、不審のほうが先に来て、けれども、文句は言葉にならなかった。そのまま体重をかけてきた朔也が、べろり、と望の首筋を舐め上げたからだ。
「……!?」
いきなりなんだ、と振り向こうとした瞬間に、かくんと身体から力が抜けた。
なにかに身体が包まれるような浮遊感があって、頭の中に一気に霞がかかる。眠りに落ちる寸前のふわふわとした心地よさから眠気だけを綺麗に取り除いたみたいな感覚に、わけもわからないのにいい気持ちになる──と、ぐるんと身体を反転させられて、望はきょとんと朔也を見上げた。
朔也は、見たことのない顔をしていた。
頬は紅潮し、くろぐろとした瞳がいつもより一層深い色をして、まっすぐに望を見下ろしている。普段は引き結ばれていることの多い唇はゆるく開かれ、その隙間から、熱く浅い息が忙しなく溢れている。
苦しそうだ。まるで、息ができないみたいに。その背中を擦ってやりたくて、力の入らない手をどうにか持ち上げ──ほとんど落とすみたいに朔也の背に置くと、それが合図になったかのように、朔也の顔が近づいてきた。
唇が、塞がれる。
「……!」
望が驚愕で目を見開いている間にも、まるで望の口の中にだけ酸素があるみたいに、朔也の舌が必死に望の唇を割り開く。舌を絡められ、思い切り吸われると、下腹部の辺りからぞくぞくとなにかが込み上げてくる──望は思わず目を閉じて、朔也の背中に回した腕に力を込めた。
「っ、……ふ、ぁ、……」
今度はこちらが息できなくなって苦しくて、息継ぎのためにと顔を横に向けると、朔也が必死で追いすがってきてまた唇を塞ぐ。その様子がなんだか可愛くて、望は思わず朔也の頭を抱え込んで撫でた。
「ん、っ、……さくや、……ッふ……」
苦しいのなんて、一瞬でどうでもよくなった──苦しくてぼうっとすることすらなんだか気持ちが良かった。
大丈夫だから、となにが大丈夫なのかもわからないまま安心させたくて笑ったのが、朔也に伝わったのかはわからない。ただ、深まる口づけとともに、自身がどんどん熱を持っていくのははっきりわかった。もっと直接的な刺激が欲しくて、重なり合った朔也の身体に押し付けるように腰を揺らす──と、気付いた朔也が、確かめるように望のモノを手のひらでなぞる。望は思わず息を呑んだ。
「ッ、あ……!」
軽く仰け反ったはずみで外れた唇は朔也によってすぐさま捉えられ、抑え込まれるようにまた深く口付けられる。同時に、部屋着のジャージの中、その更に下の下着の中に朔也の手が入り込み、望の性器を直に握り込んだ。
「っん、ん、ッ、……!」
上げようとした声はすべて朔也の口によって塞がれて、朔也の手の動きに合わせて、ただびくびくと腰が跳ねる。自分以外の手に触れられたのなんて勿論はじめてで、気づかないうちに先走りでべとべとになっていたらしいそれは、朔也の決して上手くはない手淫でも、あっという間に限界を迎えた。
「ッ、うぁ、……あッ……!」
朔也の体によって押さえつけられている身体が、それでもびくんと仰け反って震える。気持ちよかった。自分でするよりずっと。朔也がやっと唇を解放してくれたので、必死に息を整える。その間も朔也は小さな口づけを望の顔中に落とし──そのとろりとした、望のことしか見えていない甘い眼差しに、体の奥がきゅんと甘く疼いた。
「……あ、……」
じわり、と、濡れたような感覚があった。
性器が、ではない。性器の上、臍の下辺り、尻の穴の奥──女性であったら、子宮があるのだろう場所だ。もちろん望の身体にそんなものがあるはずもなく、だからこれは、過度の快感が望に見せる幻覚であるはずだった。
わかっているのに、朔也にイかせてもらったばかりなのに、どうして、物足りないなんて思うんだ?
望がその問いについて深く考える前に、望の息が落ち着いたのを確認した朔也が、ふたたび望の唇に口づけてくる。今度は軽く触れ合わせるだけのそれを繰り返しながら──朔也の指が、それが当たり前であるみたいな動きで、望の尻の窄まりに触れた。
「………!」
つぷ、と、指先が中に入り込む。
思った以上に抵抗なく、朔也の指が望の中に入り込んでくる。痛みはなく、ただ、気持ち悪さと紙一重の異物感があって、望は思わず目を見開いた。指一本があっさり入ったのは、先程の『濡れた』ような感覚が、まさか事実だったからだろうか? とはいえそれが限界で、朔也が軽く探るように動かした指は、やはり滑らかに動くとは言い難かった。
ぐ、と望が息を詰めたのがわかったのだろう、朔也が中から指を抜く。それはそれで寂しく感じる身勝手な望の身体を、朔也が、ふたたび反転させる。
「……?」
うつ伏せにされ、腰を持ち上げられ膝をつかされて、尻だけを上げるような姿勢になる。何だこの姿勢。ぼんやりした頭で枕に顔を埋めていると、朔也の手が望の尻を割り開き、ぬるりとしたものが穴に触れるのがわかった。
「……!? 待っ、お前、なに、……っあ、あ!」
流石に頭の靄も吹き飛んで、振り向いて抗議しようとして失敗する。容赦なく入り込んできた朔也の舌が、身体の内側を舐めている──その感覚にぞくぞく背中が震え、あっさりと勃起する自分自身が信じられない。望は混乱したまま、目の前にある枕に取りすがった。
「あ、あ、あ、……や、やだ、ッ、……さくや、あ、あ……!」
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