わが家の吸血鬼さん〜イケメンヴァンパイアを拾ったら執着されました〜

私とモンスターと吸血鬼⑧

 　青年の蹴りを食らった老人が、勢いよく真横に吹き飛ぶ。しかし、老人は何故か私を諦めることはなく――恐るべき身体能力で、真横にあった壁に垂直に着地すると、そのまま壁を蹴り、再度私目掛け飛び掛かってくる。

 （嘘でしょ!?　もう嫌っ……！）

 　全身を襲う深い恐怖と絶望に、私の頬を伝い落ちる一粒の涙。

 　瞬間、私は何か黒くて大きな――暖かいものの中に引き入れられる。

 「わっぷ……!?　えっ、何……!?」

 　慌てて顔を上げると、間近にあった青年の顔――その紫色の瞳と再度視線が重なった。

 （え、え？　何でこんなに近いの……え、まさか?）

 　隣に立っていた吸血鬼の腕の中に抱き寄せられたのだ、ということを理解するまで数秒。

 　全てを悟った私は思わず大きな声を上げた。

 「ぅえええええっ!?」

 　しかしその叫びは、目の前で上がった老人の苦悶の叫びによりかき消されてしまう。

 「ウッ、グ、ガァァァァァ！　アアアァァァァァ!!」

 （今度は何が起きたの……!?）

 　私が叫び声のした方を振り向いてみると――そこには、青年の腕に胸を貫かれた老人の姿があった。しかも、私に食らい付く寸前だったらしく、ごく間近に。

 「～～～っ!?」

 　口から大量に血を吐き、此方を物凄い怨みの形相で見つめる老人の顔を、うっかり至近距離で見てしまう。

 　私は思わず腰を抜かして、ぺたんと座り込む。

 　青年は、そんな私を片腕だけでひょいと抱き上げると、まるで涙を拭う様に優しく私の目元にキスをした。そして、私の頭を黒いマントで包み込む。

 　彼が何をしたのかは想像するしか出来ないが……直後に老人が断末魔の叫びを上げた。

 　きっと、私にそれを見せたくなかったのだろう。

 「ギァァァァァァ!!!!」

 　それでもマントの隙間から見えてしまった――胸部を大きく引き裂かれ、辛うじて体の側面の筋と皮だけで上半身を繋いでいる老人の姿が。