転生悪役令嬢は双子執事を護りたい～フィギュア原型師は推しの為なら異世界生活も苦じゃありません！～

私の世界

　――遡ること数時間前。

　ある日の深夜。

「よしっ、出来た！」

　目の前に完成した「ある物」を見て、歓声に近い声をあげる私。

　そこにあったのはーー今にも走り出しそうな姿で長い髪を靡かせた、美少女のフィギュアだった。

「我ながら、中々良い出来なんじゃ無い？」

　まだ、色もついていない……パテで作ったままの状態のフィギュアの原型。

　それを見下ろしながら、私は額の汗を拭う。

　長くパテに触っていた為、額にもパテがついてしまったが、今の私はそんなこと気にならなかった。

　なんせ、長く時間がかかっていたフィギュアの原型ーーそれが漸く今日完成したのだ。

「う～ん、難産だったなぁ。特に、この髪の動き具合」

　私は、担当や依頼者と何度も打ち合わせ、確認を繰り返したフィギュアの髪……そこに触れながら、会心の笑みを浮かべる。

　そう、体の曲線や動きなどは既にOKを貰っていたが、この髪の靡き方だけは中々企業担当者や絵師さんからOKが出なかったのだ。

　でも、それがやっとーーこの程、OKが出たのである。

　それは、実に100回以上の試行錯誤を重ねて出来た、私の努力の賜物だった。

「でも、妥協してファンの解釈違いになる物を作るよりは、ずっと良いよね」

　私は、このフィギュアを手に入れたファンの笑顔を想像し、ぐっと伸びをした。

　――そう、私の仕事はフィギュア原型師なのだ。

　しかも、パテを使用する……今時珍しい、アナログタイプの。