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第一章 グリマルディ家の娘
10,特待クラスのメンバー
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そう思って緊張していたけれど、心配なんてさほど必要なかったみたい。
──特待クラスの練習場に初めて足を踏み入れたとき、少し拍子抜けしちゃった。
クラスのメンバーは意外にも優しそうな人たちばかり。あちこちで他愛ない会話が繰り広げられていて、和気あいあいとしている。
なのに練習が始まった瞬間、全員ダンサーの顔に切り替わるの。
ジャスティン先生が練習場にやって来ると、メンバーたちはそれぞれのポジションに素早く移動する。先生は普段柔らかい物腰なのに、音楽が流れると指導者の姿に変わった。
さっきまでの和やかな空気が一転し、ピリピリとした緊張感が伝わってきて、私は更に身が引き締まる思いになった。
今度のイベントの為に、事前に練習してきたダンスの振り付け。激しいムーヴと細かいステップがいくつもあってなかなか難しい。テンポに乗って、私は隅の方で必死に踊り続ける。
ヒルスやメイリー、私より十くらい年上の人たちがセンターで堂々としたダンスを魅せていた。誰も彼もが機敏で、しなやかで、迫力のある踊りをしていて、本当に格好いい。
全員がチームワークを大事にしているのが伝わってきた。お互いがお互いのリズムに合わせようと呼吸を感じ、ムーヴをよく見てるの。
その中で、それぞれの個性も惜しみなく表現してた。誰か一人が変に目立とうとすることは決してないけれど、さりげないアピールでステップを決め込んだ。
個性とチームワーク両方を大事にする、そんな上品なダンスだと思った。
今までのクラスとはレベルがまるで違う。特待クラスにいる全員のダンスが最高にクールだ。
私はできるかぎり遅れを取らないよう、とにかく集中した。
小休憩になり、練習場には熱気が充満していた。ついさっきまで真剣な顔だったメンバーの表情はたちまちほぐれ、普段の様子に戻っていく。切り替えが早いのも見ていて感動する。
ヒルスに話しかけようと思ったけど、スポーツドリンクで喉を潤す彼の隣にはメイリーがいた。
「ヒルス、サビのときちょっとだけズレちゃったー」
「そうか? 良くできていたと思うけどな」
「本当にっ? でも、まだ自信ないからこの後一緒に合わせようよ。ヒルスと同じ振り付けだし」
「まあ……少しくらいならいいけど」
「やった、嬉しい!」
ニコニコの笑顔で彼と話すメイリーはなんだか楽しそう。厳しそうな印象だったけど、そうでもないのかなあ。
会話に割り込むのは悪いと思い、遠目で二人の様子を眺めていると、スポーツドリンクを差し出す大柄な人が現れた。
「レイ、水分補給はしっかりした方がいいぜ」
「えっ? あ……はい。ありがとうございます」
差し出されたドリンクを受け取りながら、その人の顔を見上げた。
サングラスをかけていて表情があまり分からない。タトゥーがたくさん刻まれた太い両腕を組みながら、じっと私を見下ろしてくる男の人。ちょっと柄が悪そう。
思わず顔を強張らせていると、その人は歯茎を出して笑うの。
「ヒルスの妹って聞いてるぜ。想像以上にセンスがあるな!」
「そう、ですか?」
「このクラスは初日で緊張するだろ。それでもあんなにいいダンスができるんだからさすがだぜ」
その男の人はどうやら私を褒めているみたい。心の中でひっそりと胸を撫で下ろす。見た目がどうしても怖いから、私の口調は堅くなってしまうけれど。
「まったく、ライクったら。また新人にちょっかい出して」
話をしていると、いつの間にかメイリーとヒルスが私たちのすぐ横に並んでいた。
ライクと呼ばれたその人は、上機嫌に笑うの。
「なんだよメイリー。おれは緊張しているレイを和ませようとしているだけだぜ!」
「そう言うけど、あんたいつも女子にウザ絡みするじゃない。ヒルスの妹なんだから、あんまり変なことしない方がいいわよ。ね、ヒルス?」
話を振られ、ヒルスは私をちらりと見た。でもすぐに目を逸らした。そして面倒臭そうな顔をしてから、ため息を吐くの。
「別に。俺には関係ない」
……あ。今のはちょっと寂しい。少しは気にかけてくれると思ったのに。
「兄貴はいつもクールぶってつまんねえ奴だよな。こんなに頑張ってるのにどうせ褒めてやらねぇんだろ? 次のイベントが成功したら、ご褒美におれがレイをノース・ヒルに連れていってやりたいくらいだぜ!」
「はぁ? こんなガキをデートにでも誘う気か」
ヒルスは不機嫌そうに、語尾を強くした。それから不貞腐れたように口を閉じてしまう。
以前に比べたら多少話せる仲になったけれど、まだまだヒルスとの距離は遠い気がした。私がもっと上手に踊れるようになれば……。そんな風に考えた。
誰かに認めてほしいとか、大会に出たいだとか、ソロやセンターで踊りたいとか、特待クラスでの目標は色々ある。
でもね、私が踊る理由はそれだけじゃない。何よりもダンスをするのが純粋に楽しかった。
クラスのメンバーには誰も彼もが輝くものがあり、その中で自分も踊らせてもらえるということがただただ嬉しかった。
特待クラスのメンバーたちに刺激され、私は益々ダンスに夢中になっていった。
──特待クラスの練習場に初めて足を踏み入れたとき、少し拍子抜けしちゃった。
クラスのメンバーは意外にも優しそうな人たちばかり。あちこちで他愛ない会話が繰り広げられていて、和気あいあいとしている。
なのに練習が始まった瞬間、全員ダンサーの顔に切り替わるの。
ジャスティン先生が練習場にやって来ると、メンバーたちはそれぞれのポジションに素早く移動する。先生は普段柔らかい物腰なのに、音楽が流れると指導者の姿に変わった。
さっきまでの和やかな空気が一転し、ピリピリとした緊張感が伝わってきて、私は更に身が引き締まる思いになった。
今度のイベントの為に、事前に練習してきたダンスの振り付け。激しいムーヴと細かいステップがいくつもあってなかなか難しい。テンポに乗って、私は隅の方で必死に踊り続ける。
ヒルスやメイリー、私より十くらい年上の人たちがセンターで堂々としたダンスを魅せていた。誰も彼もが機敏で、しなやかで、迫力のある踊りをしていて、本当に格好いい。
全員がチームワークを大事にしているのが伝わってきた。お互いがお互いのリズムに合わせようと呼吸を感じ、ムーヴをよく見てるの。
その中で、それぞれの個性も惜しみなく表現してた。誰か一人が変に目立とうとすることは決してないけれど、さりげないアピールでステップを決め込んだ。
個性とチームワーク両方を大事にする、そんな上品なダンスだと思った。
今までのクラスとはレベルがまるで違う。特待クラスにいる全員のダンスが最高にクールだ。
私はできるかぎり遅れを取らないよう、とにかく集中した。
小休憩になり、練習場には熱気が充満していた。ついさっきまで真剣な顔だったメンバーの表情はたちまちほぐれ、普段の様子に戻っていく。切り替えが早いのも見ていて感動する。
ヒルスに話しかけようと思ったけど、スポーツドリンクで喉を潤す彼の隣にはメイリーがいた。
「ヒルス、サビのときちょっとだけズレちゃったー」
「そうか? 良くできていたと思うけどな」
「本当にっ? でも、まだ自信ないからこの後一緒に合わせようよ。ヒルスと同じ振り付けだし」
「まあ……少しくらいならいいけど」
「やった、嬉しい!」
ニコニコの笑顔で彼と話すメイリーはなんだか楽しそう。厳しそうな印象だったけど、そうでもないのかなあ。
会話に割り込むのは悪いと思い、遠目で二人の様子を眺めていると、スポーツドリンクを差し出す大柄な人が現れた。
「レイ、水分補給はしっかりした方がいいぜ」
「えっ? あ……はい。ありがとうございます」
差し出されたドリンクを受け取りながら、その人の顔を見上げた。
サングラスをかけていて表情があまり分からない。タトゥーがたくさん刻まれた太い両腕を組みながら、じっと私を見下ろしてくる男の人。ちょっと柄が悪そう。
思わず顔を強張らせていると、その人は歯茎を出して笑うの。
「ヒルスの妹って聞いてるぜ。想像以上にセンスがあるな!」
「そう、ですか?」
「このクラスは初日で緊張するだろ。それでもあんなにいいダンスができるんだからさすがだぜ」
その男の人はどうやら私を褒めているみたい。心の中でひっそりと胸を撫で下ろす。見た目がどうしても怖いから、私の口調は堅くなってしまうけれど。
「まったく、ライクったら。また新人にちょっかい出して」
話をしていると、いつの間にかメイリーとヒルスが私たちのすぐ横に並んでいた。
ライクと呼ばれたその人は、上機嫌に笑うの。
「なんだよメイリー。おれは緊張しているレイを和ませようとしているだけだぜ!」
「そう言うけど、あんたいつも女子にウザ絡みするじゃない。ヒルスの妹なんだから、あんまり変なことしない方がいいわよ。ね、ヒルス?」
話を振られ、ヒルスは私をちらりと見た。でもすぐに目を逸らした。そして面倒臭そうな顔をしてから、ため息を吐くの。
「別に。俺には関係ない」
……あ。今のはちょっと寂しい。少しは気にかけてくれると思ったのに。
「兄貴はいつもクールぶってつまんねえ奴だよな。こんなに頑張ってるのにどうせ褒めてやらねぇんだろ? 次のイベントが成功したら、ご褒美におれがレイをノース・ヒルに連れていってやりたいくらいだぜ!」
「はぁ? こんなガキをデートにでも誘う気か」
ヒルスは不機嫌そうに、語尾を強くした。それから不貞腐れたように口を閉じてしまう。
以前に比べたら多少話せる仲になったけれど、まだまだヒルスとの距離は遠い気がした。私がもっと上手に踊れるようになれば……。そんな風に考えた。
誰かに認めてほしいとか、大会に出たいだとか、ソロやセンターで踊りたいとか、特待クラスでの目標は色々ある。
でもね、私が踊る理由はそれだけじゃない。何よりもダンスをするのが純粋に楽しかった。
クラスのメンバーには誰も彼もが輝くものがあり、その中で自分も踊らせてもらえるということがただただ嬉しかった。
特待クラスのメンバーたちに刺激され、私は益々ダンスに夢中になっていった。
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