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第二章 特別な花
49,悪夢から逃れたい
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◆
寒い季節が苦手だった。どうしてだろう。冬になると気持ちが落ち込んでしまう。
誰にも打ち明けたことはない。夜、一人で眠るとなぜか私の胸の上が熱くなることがある。あの大嫌いなシミの部分が、ズキズキしてとても嫌な感覚がした。
今夜も私は、その痛みに耐えながら自分の部屋で眠りにつく。
そんな夜には決まってあの悪夢を見る。ほら……今日も。怖くて苦しくてどうしようもない孤独の中に、私は放り出される。
夢の中では薄暗くて寒い部屋の中にいる。そして、いつも天井をぼんやりと眺めていた。身体中は痛いし力が出ない。寂しさと孤独が私の心を支配している。
嫌だ……見たくない。怖いの。
何度も繰り返されるあの恐怖が、私に襲いかかってくる。早く目覚めないと。だけど、なかなか悪夢から逃れられない。
その部屋はいつも煙たくて、変な匂いが漂っていた。誤ってその煙を吸ってしまうと、息が苦しくなって咳が止まらなくなる。どうしようもなく泣き声を上げてしまうと──ほら、また来た。口に何かを咥えながら悪魔のような顔をして、私を冷たい眼差しで見下ろす人。この人はずっと隣にいるけれど、私が少しでも泣くと叩いたり殴ったりしてくるんだよ。今日ももちろん、私は身体のあちこちを痛めつけられた。
『怖い。怖いよ、やめてよ』
どんなにそう訴えても、この人に声は届かない。だって私は、泣くことしかできないんだもの。
けれど……どうしても痛いから、心も身体もボロボロだから、私は泣いちゃうんだよ。
『やめて、やめて、やめてよ、お願いお願いお願い』
どれほどの時間が経ったのだろう。私の泣き声が枯れてきた頃、やっと地獄の時間が終わったと思ったの。悪魔が私を痛めつけるのをピタリとやめてくれたから。眠気で目の前がぼんやりしたとき、突如私は胸の上あたりに耐えられないほどの激痛を感じた。
──熱い。
違う、これは痛みなんかじゃない!
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
意識が遠のいていく中、悪魔が器のような物を持って私の身体の上に水を垂らしているのが見えた。
どうしてこのお水は皮膚がえぐられそうになるほど熱いの?
苦しい 怖い 痛い 悲しい 逃げたい
熱さで身体の一部の感覚がなくなってきた。ゆっくりと瞼が閉ざされていく。周りの音までも遠のく中、悪魔が狂ったような目をして何かを叫んだ。
『お前なんかいらない さっさとシネ!』
いつも同じ。悪魔は私に向かってシネと言う。
あなたにとって私は邪魔な存在。安心して。私もあなたなんかいらないから……。
そこで目を覚ます。飛び起きた私の全身は、汗でぐっしょり濡れていた。息も乱れる。全身を流れる血が、まるで沸騰しているかのように身体中が熱かった。
「怖い……」
真っ暗な部屋で私は震えた。恐怖で動けない。布団に身を隠し、あの悪夢から逃れようとした。だけど何度も何度も同じ夢を見ると、頭の中から恐怖の映像が離れなくなるの。
そのときに、ふと思い出すのが彼の顔。
震えながらも、枕元に置いてあった携帯電話に手を伸ばす。時刻は深夜の二時過ぎ。
──寝てる、よね……?
いくらなんでもこんな時間に電話したって、彼が出てくれるはずはない。だけど、とにかく声だけでも聞いてこの恐怖から逃れたかった。
『俺に遠慮なんてするなよ』
彼が言ってくれた優しさを思い出す。
こんな夜遅くだけど……ごめんね。遠慮、しない……。
彼の番号を探し、コールしてみる。携帯電話からは無機質な呼び出し音が虚しく響くだけだ。
ドキドキしながら待ってみたけど、十回ほどコールしたところで留守電に繋がってしまう。
「そうだよね。寝てるに決まってるよ……」
出てくれるかもしれないという期待が、ここで打ち砕かれてしまった。
寒い季節が苦手だった。どうしてだろう。冬になると気持ちが落ち込んでしまう。
誰にも打ち明けたことはない。夜、一人で眠るとなぜか私の胸の上が熱くなることがある。あの大嫌いなシミの部分が、ズキズキしてとても嫌な感覚がした。
今夜も私は、その痛みに耐えながら自分の部屋で眠りにつく。
そんな夜には決まってあの悪夢を見る。ほら……今日も。怖くて苦しくてどうしようもない孤独の中に、私は放り出される。
夢の中では薄暗くて寒い部屋の中にいる。そして、いつも天井をぼんやりと眺めていた。身体中は痛いし力が出ない。寂しさと孤独が私の心を支配している。
嫌だ……見たくない。怖いの。
何度も繰り返されるあの恐怖が、私に襲いかかってくる。早く目覚めないと。だけど、なかなか悪夢から逃れられない。
その部屋はいつも煙たくて、変な匂いが漂っていた。誤ってその煙を吸ってしまうと、息が苦しくなって咳が止まらなくなる。どうしようもなく泣き声を上げてしまうと──ほら、また来た。口に何かを咥えながら悪魔のような顔をして、私を冷たい眼差しで見下ろす人。この人はずっと隣にいるけれど、私が少しでも泣くと叩いたり殴ったりしてくるんだよ。今日ももちろん、私は身体のあちこちを痛めつけられた。
『怖い。怖いよ、やめてよ』
どんなにそう訴えても、この人に声は届かない。だって私は、泣くことしかできないんだもの。
けれど……どうしても痛いから、心も身体もボロボロだから、私は泣いちゃうんだよ。
『やめて、やめて、やめてよ、お願いお願いお願い』
どれほどの時間が経ったのだろう。私の泣き声が枯れてきた頃、やっと地獄の時間が終わったと思ったの。悪魔が私を痛めつけるのをピタリとやめてくれたから。眠気で目の前がぼんやりしたとき、突如私は胸の上あたりに耐えられないほどの激痛を感じた。
──熱い。
違う、これは痛みなんかじゃない!
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
意識が遠のいていく中、悪魔が器のような物を持って私の身体の上に水を垂らしているのが見えた。
どうしてこのお水は皮膚がえぐられそうになるほど熱いの?
苦しい 怖い 痛い 悲しい 逃げたい
熱さで身体の一部の感覚がなくなってきた。ゆっくりと瞼が閉ざされていく。周りの音までも遠のく中、悪魔が狂ったような目をして何かを叫んだ。
『お前なんかいらない さっさとシネ!』
いつも同じ。悪魔は私に向かってシネと言う。
あなたにとって私は邪魔な存在。安心して。私もあなたなんかいらないから……。
そこで目を覚ます。飛び起きた私の全身は、汗でぐっしょり濡れていた。息も乱れる。全身を流れる血が、まるで沸騰しているかのように身体中が熱かった。
「怖い……」
真っ暗な部屋で私は震えた。恐怖で動けない。布団に身を隠し、あの悪夢から逃れようとした。だけど何度も何度も同じ夢を見ると、頭の中から恐怖の映像が離れなくなるの。
そのときに、ふと思い出すのが彼の顔。
震えながらも、枕元に置いてあった携帯電話に手を伸ばす。時刻は深夜の二時過ぎ。
──寝てる、よね……?
いくらなんでもこんな時間に電話したって、彼が出てくれるはずはない。だけど、とにかく声だけでも聞いてこの恐怖から逃れたかった。
『俺に遠慮なんてするなよ』
彼が言ってくれた優しさを思い出す。
こんな夜遅くだけど……ごめんね。遠慮、しない……。
彼の番号を探し、コールしてみる。携帯電話からは無機質な呼び出し音が虚しく響くだけだ。
ドキドキしながら待ってみたけど、十回ほどコールしたところで留守電に繋がってしまう。
「そうだよね。寝てるに決まってるよ……」
出てくれるかもしれないという期待が、ここで打ち砕かれてしまった。
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