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第八章 それぞれの想い
133,光のような存在
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思えば、レイと出会ってから十四年の月日が経つ。
当時三歳だった孤児の彼女が、グリマルディ家の一員としてやってきた時、俺はただただ戸惑うばかりだった。最初はどうでもいい存在だったのに、彼女がダンスを始めたことをきっかけに俺たちの関係は深いものになっていった。
レイのダンスは見ている人の心を魅了する魔法のような力がある。もちろん俺も惹き付けられたうちの一人。どんなに落ち込んでいたって、レイが楽しそうに美しく舞う姿を見るだけで俺の心は嘘みたいに晴れるんだ。
それに、彼女の良いところはダンスだけじゃない。
レイがいるだけで、その場が明るくなる。家族四人で過ごした忘れられないあの日々も、レイがいたからこそ楽しい思い出として残っている。
彼女が来る前、父と母は悲しみに暮れているばかりで、いつも暗い顔をしていたんだ。当時の俺は、事情なんて何も知らなかった。だけど幼いながらに、両親のことをとても心配していた記憶がある。
両親が笑顔を取し戻せたのは、間違いなくレイのおかげだ。
幼い頃の俺は、そんな彼女に少なからず嫉妬していたけれど──グリマルディ家を闇から救い出してくれたのは、レイという光のような存在のお陰だ。
時が経つにつれ、彼女の存在が俺の中でどんどん大きくなり、どうにも止まらなくなっていく。レイはいつだって俺の心の支えになってくれる。そばにいるだけで安らぎや癒しをもらえる。レイのなにげない言動にいつもドキドキさせられている。
そんなレイが隣にいると、俺はこの上ない幸福を感じられるんだ。
だから──どうか愛する彼女に尊い幸せを。
◆
繁華街を歩き回りながら、俺は何度もレイにコールをしてみる。しかし完全に無視されていた。
『レイ、今どこにいる?』
『さっきは悪かったよ』
『お願いだから返事をしてくれ』
『心配している』
俺がメッセージを絶え間なく送り続けても全くの無反応。
レイは一体何を考えているんだ。これでは、三年前に家出した反抗期娘に逆戻りではないか。
苛々と共に、またレイの身に何かあったらどうしよう、という不安が俺の心を蝕んでいく。
時計を確認すると、夜の八時を過ぎたところだ。この辺りは深夜になると危ない奴らがうろつき始めるので、それまでにはなんとしてでもレイを見つけ出したい。
繁華街はたくさんの人が行き交っていて、人々と肩をぶつけ合いながら歩くしかないほど密度が高い。こんな場所から一人の華奢な女の子を捜し出すなんて、どう考えても無理がある。
気持ちが落ち着いたら、レイは返事をしてくれるだろうか。そうでないと困るよ。どうしようもないんだぞ。
街中に立ち並ぶ飲食店やパブから、いい匂いが漂ってきた。
腹減ったな……。
レイと喧嘩なんかしなければ、今頃彼女が作ってくれたハンバーグステーキを二人で食べていただろう。
どうしてこうなってしまったのか。レイは俺のことを鈍感でイライラすると言っていたが──いくらこの俺でも、レイの気持ちには薄々気づいているんだよ。あんなに怒らなくてもいいだろ……。
どうしようもなく、俺は力なく歩き続ける。
胸の中で輝きを放つネックレスが、なぜかその時だけはくすんで見えたんだ。
「──あれ、お兄さん?」
俺が意気消沈していると、煩わしい甲高い声が聞こえてきた。反射的に声の方を振り返ると、
「やっぱり。さっきのイケメン君だ!」
「……またあんたかよ」
先程のストリートガールが、まだ客を探し回ってウロウロしているようだ。
面倒臭いな。
俺はそそくさとその場を立ち去ろうとしたが、女は不適な笑みを浮かべて俺の前に立ちはだかる。
「なになに? 泣きそうな顔してる! ひょっとして、レイちゃんと仲直り出来なかったの?」
「関係ないだろ」
「ふぅん。それでレイちゃん、どっか行っちゃったんだ? だからそんな悲しそうな顔してるんだね」
「……それは」
図星で何も言えない。変な汗が滲み出てくる。
この分かりやすい性格とやらを本当にどうにかしたかった。全くの赤の他人にすら、心の内を読まれてしまうなんて。
女は俺の顔をぐっと覗き込んできた。
「レイちゃんってどんな子なの?」
「どうしてあんたに教えないといけないんだ」
「ちょっと気になることがあって」
「気になること?」
突然女は声を暗くして、妙なほど真面目な態度で話し始めた。
「……さっきね、路地裏で若い女の子が変な男たちに絡まれているのを見かけちゃったからさ。ナンパだと思うけど、その女の子すごく嫌そうにしてたのよね。それがレイちゃんとは限らないけど」
神妙な面持ちで話す女を見て、俺は固唾を飲む。
「ほら。ここから数分の場所にある、あそこの路地裏」
女はそう言いながら、繁華街の西側の方を指差した。
「あそこって、夜になるとちょっと悪い人たちが活動し始める場所でしょ? あたしだってあそこに行くの躊躇うよ。お客が捕まらない時にちょこっと行くくらいでさ。まさか、さっきの女の子……レイちゃんだったなんて言うオチはないよね」
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