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第九章
77,勇ましき戦士たち
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剣を向けるシュウの立ち姿は、普通の民とは思えないほどの威圧感がある。
しかし残された兵士たちは引くこともせず、むしろに不敵に笑い始めるだ。
「甘いな。まだ我らには大将がいるのだ」
「更には五千の軍が控えている。お前たちもやがて殺されるだろう」
面白そうにそう話す兵士たち。と同時に、北の方角で爆撃音が響いてきた。そう遠くはない。
赤い炎が夜空を光らせているのを見て、ヤエは息が苦しくなる。
──ふざけるな!
幻聴か。誰かが兵士に向かって怒りを飛ばす声が聞こえた気がした。ヤエが戸惑っていると、ハクが低い唸り声を漏らしながら兵士たちに飛び掛かっていった。
「ぐぁぁ……!」
ハクの動きは目にも留まらぬ速さであった。瞬く間にその場にいた数十人の兵士たちを切り裂いたのだ。
「その辺にしておけ、ハク」
「ウゥゥ……」
「程なくここにも他の兵士たちが来るだろう。五千もいてはさすがに太刀打ちできない」
剣を握るシュウの手先が震えていた。彼の額から滲み出る汗を見て、本当はシュウが動揺しているのだとヤエは気づいてしまった。
「兄様、それはつまり」
「……この村は今夜壊滅する」
シュウの言葉に、ヤエは息を呑んだ。身体が勝手に震え、足元から崩れてしまいそうになる。
目の前では母が父に寄り添いながら息を引き取っている姿。心が乱れそうだ。
「ヤエ、今は悲しみに暮れている場合ではない。村の南側に広大な竹林があるだろう。あそこまで駆けていき、軍が退却するまで身を潜めるのだ」
「ですが、父様と母様は……」
「今は辛いが、事が済んだら必ず埋葬しよう。兎に角逃げるしかない。生きるのだ、ヤエ」
息絶える二人の前でひざまつき、大きく礼をするシュウ。
「父上、母上、ヤエは必ず守り通します」
兄と共に、ヤエも隣で父と母に深く頭を下げた。
時間がない。
ヤエがシュウの後ろについて歩き出そうとすると、ハクが隣に寄り添った。兵士たちに噛みついたことで、真っ赤な血が白い毛にところどころ付着してしまっている。
ハクの目は、先ほどと打って変わって落ち着いていた。黒の目の中にほんのりと赤い瞳が映し出され、その眼差しから優しさが伝わってくる。
「ハク……」
まるで「撫でてくれ」と言わんばかりに、ハクはヤエの腕に顔をすり寄せてくる。頭をひと撫ですると、ハクは再び喉を鳴らした。
──生きなければ。
兄と大切な友は生き残っている。諦めてはいけない。
途中北軍の兵士に遭遇し、何度も襲われた。だがその都度、シュウは弓矢で兵たちを仕留め、ハクは馬に飛び掛かって騎兵を次々に落馬させていった。
逃げる途中、家畜たちが血を流して倒れているのを目撃した。村人たちも数名、殺されている。その中には──村長の姿も。
老若男女問わず生命を奪われている。軍は本気でこの村を滅ぼすつもりだ。理に適ったやり方ではない。
まだ十歳のヤエには衝撃が大き過ぎた。
悲しくて苦しくて怖くて。息が乱れていく。
だが、どんなに足が震えてもヤエは止まらなかった。竹林がすぐそこの距離まで行く着いたところで、ヤエは心が軽くなる。
あそこに身を隠せば助かるだろう。
そう思った矢先。
「逃がさぬぞ!」
背後から、数人の兵たちの声が聞こえてきた。
「追っ手か」
シュウは舌打ちをする。ハクの背中に飛び乗ると、ヤエを見下ろしてこう言った。
「ヤエ、お前は先に竹林の中へ身を潜ませるのだ」
「えっ、そんな……! 兄様たちは?」
「あの者たちを倒す。安心しろ、すぐに片付ける。早く行け」
自分がここにいても足手まといになることくらい、理解していた。それでも、シュウやハクと離れるのが不安だった。
「早くしろ、ヤエ! 終わったらすぐにわたしたちも行く!」
兵たちは目前まで迫ってきていた。皆、剣や槍を振り回し、狂気に満ち溢れているように見える。
「兄様、ハク。どうかご無事で……!」
「いい子だ」
よろけながらもヤエは竹林に向かって再び走り出した。
「行くぞ、ハク!」
一度彼らの方を振り返ると──そこには、なんとも勇ましい戦士たちの姿があった。
しかし残された兵士たちは引くこともせず、むしろに不敵に笑い始めるだ。
「甘いな。まだ我らには大将がいるのだ」
「更には五千の軍が控えている。お前たちもやがて殺されるだろう」
面白そうにそう話す兵士たち。と同時に、北の方角で爆撃音が響いてきた。そう遠くはない。
赤い炎が夜空を光らせているのを見て、ヤエは息が苦しくなる。
──ふざけるな!
幻聴か。誰かが兵士に向かって怒りを飛ばす声が聞こえた気がした。ヤエが戸惑っていると、ハクが低い唸り声を漏らしながら兵士たちに飛び掛かっていった。
「ぐぁぁ……!」
ハクの動きは目にも留まらぬ速さであった。瞬く間にその場にいた数十人の兵士たちを切り裂いたのだ。
「その辺にしておけ、ハク」
「ウゥゥ……」
「程なくここにも他の兵士たちが来るだろう。五千もいてはさすがに太刀打ちできない」
剣を握るシュウの手先が震えていた。彼の額から滲み出る汗を見て、本当はシュウが動揺しているのだとヤエは気づいてしまった。
「兄様、それはつまり」
「……この村は今夜壊滅する」
シュウの言葉に、ヤエは息を呑んだ。身体が勝手に震え、足元から崩れてしまいそうになる。
目の前では母が父に寄り添いながら息を引き取っている姿。心が乱れそうだ。
「ヤエ、今は悲しみに暮れている場合ではない。村の南側に広大な竹林があるだろう。あそこまで駆けていき、軍が退却するまで身を潜めるのだ」
「ですが、父様と母様は……」
「今は辛いが、事が済んだら必ず埋葬しよう。兎に角逃げるしかない。生きるのだ、ヤエ」
息絶える二人の前でひざまつき、大きく礼をするシュウ。
「父上、母上、ヤエは必ず守り通します」
兄と共に、ヤエも隣で父と母に深く頭を下げた。
時間がない。
ヤエがシュウの後ろについて歩き出そうとすると、ハクが隣に寄り添った。兵士たちに噛みついたことで、真っ赤な血が白い毛にところどころ付着してしまっている。
ハクの目は、先ほどと打って変わって落ち着いていた。黒の目の中にほんのりと赤い瞳が映し出され、その眼差しから優しさが伝わってくる。
「ハク……」
まるで「撫でてくれ」と言わんばかりに、ハクはヤエの腕に顔をすり寄せてくる。頭をひと撫ですると、ハクは再び喉を鳴らした。
──生きなければ。
兄と大切な友は生き残っている。諦めてはいけない。
途中北軍の兵士に遭遇し、何度も襲われた。だがその都度、シュウは弓矢で兵たちを仕留め、ハクは馬に飛び掛かって騎兵を次々に落馬させていった。
逃げる途中、家畜たちが血を流して倒れているのを目撃した。村人たちも数名、殺されている。その中には──村長の姿も。
老若男女問わず生命を奪われている。軍は本気でこの村を滅ぼすつもりだ。理に適ったやり方ではない。
まだ十歳のヤエには衝撃が大き過ぎた。
悲しくて苦しくて怖くて。息が乱れていく。
だが、どんなに足が震えてもヤエは止まらなかった。竹林がすぐそこの距離まで行く着いたところで、ヤエは心が軽くなる。
あそこに身を隠せば助かるだろう。
そう思った矢先。
「逃がさぬぞ!」
背後から、数人の兵たちの声が聞こえてきた。
「追っ手か」
シュウは舌打ちをする。ハクの背中に飛び乗ると、ヤエを見下ろしてこう言った。
「ヤエ、お前は先に竹林の中へ身を潜ませるのだ」
「えっ、そんな……! 兄様たちは?」
「あの者たちを倒す。安心しろ、すぐに片付ける。早く行け」
自分がここにいても足手まといになることくらい、理解していた。それでも、シュウやハクと離れるのが不安だった。
「早くしろ、ヤエ! 終わったらすぐにわたしたちも行く!」
兵たちは目前まで迫ってきていた。皆、剣や槍を振り回し、狂気に満ち溢れているように見える。
「兄様、ハク。どうかご無事で……!」
「いい子だ」
よろけながらもヤエは竹林に向かって再び走り出した。
「行くぞ、ハク!」
一度彼らの方を振り返ると──そこには、なんとも勇ましい戦士たちの姿があった。
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