アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
5 / 150
第一部

第4話 ざまぁ王子登場!☆

しおりを挟む
『婚約破棄させてもらうぞっ!』
『王太子殿下ぁ。それはっ……』
『公爵令嬢びぃくとりあ!お前の今までの非道ぶり。愛想がつきたわ。この男爵令嬢こそが我が妃に相応しい!
 最低でも国外追放、そなたの罪状によっては極刑も覚悟しろ!』
『そんなぁ……婚約破棄されるなんて~!今日からあたくし、人生真っ暗闇ぃ~!!』

テーケテケテケ、テーケテケテケ、テンテンテケテケテン♪

『こんな、もしもの時に備えて。ノーザン商会に行きましょう♪
 ノーザン♪ノーザン♪ざまぁ保険は、ノぉおーザン』


 私は呆然と流れる動画を見つめた。

 いや~!!何よこれ。

 酷すぎるでしょ。

 まず、なんといっても声が許せない。イケボから程遠い、女性のような軽い高いトーンの王子の早口な喋り!
 次に大根役者によるクサい大袈裟な演技、妙に耳につく場面に合わないコミカルな音楽。
 後半から予算がなくなったと分かる、粗い作りのアニメーション。
 
 身体の部分は落書きのような、2頭身の王子と悪役令嬢が真っ白な画面で「ノーザン♪ノーザン♪ざまぁ保険はノーザン♪」と繰り返しカクカク踊って、この酷い動画は終了したのだった。


  動画の王子役の顔は金髪イケメン、ヴィンセント様の顔がハッキリ合成と分かるクオリティで嵌め込めれていた。

 首から下、繋ぎ目見えるし。ありえない方向に手足、曲がってるし……。


 ねぇねぇ……。
 
 これ、こんなもの公衆の面前で流しちゃっていいモノなの?この国、肖像権とか大丈夫?

 絶対、本人の同意とってないよね……?

 そもそも蛇姫も「違法合成」って言ってたし。
 わかってて野放しかい?

  
「それにしても、ざまぁ保険って……誰が入るの?」
 ちょっとキャッチーなフレーズで思わず口に出して呟いてしまった。


「あの動画、そんなに面白いですか?」
「まぁ、ヴィンセント様っ」
 蛇姫が年相応な、でもネッチョリとした嬉しそうな声をあげる。


 いつの間にか、私達のテーブルの近くに金髪の美青年が立っていた。


 本物だぁ……本物の金の公子だぁぁ……。

 キラキラのオーラを纏っているかのように、全てが眩しい。
 さっきの合成ざまぁ王子とは比べ物にならない神々しさ。腰砕けになるほど色気のあるガンガン脳内に響き渡るイケボ……。

 
 それにめっちゃいい匂いがするよぉぉぉ!

 思わず、私は周りの空気をフガフガ吸ってしまった。

「どうしたの?マルサネ……」
「へ?」
  いけないっ。
 つい、私ったら。失礼なことをやらかしちゃった ……猿顔で鼻を全開にフガフガするなんて公害よねっ。
 

「いつもだったら、恥も外聞もなく『既成事実~!』とか意味不明なことを叫んで、ヴィンセント様を押し倒そうと飛びかかるところじゃなくて?」
 蛇姫がビックリしたように言った。 

 ヴィンセント様は無表情だけど、こちらの動きを警戒して身構えているのがなんとなく判る。

「つまらないですわ。ヴィンセント様に手酷く、即座に返り討ちにあうのがいつもの貴女のお約束パターンでしょうに」 

 マルサネったら、いつもヴィンセント様に襲いかかってたの?

 どんだけイタい娘なのよ、マルサネっ……。
 そんなの野生の猿以下じゃんか。


 私はガックリ項垂れた。
 そりゃまぁ、猿姫って皆に言われるわけだよ。

 思わずさっき鼻を鳴らした私もイタいけどさ。

 マルサネの「猿姫」の名前の由来は、昨日ルーチェから聞いたのよ。

 ハゲ狸お気に入りの玄関に飾ってある三匹の猿(見ざる聞かざる言わざる)が、なぜかゲンメのご当地マスコットにマルサネが生まれた頃に採用されたんだってさ。
 それでちっちゃい頃から、販促用も兼ねてマルサネは常に全身猿柄の服を着せられていたそうよ。

 一人娘にそんな格好させる、あのハゲ狸もどうかと思わない?

 それで母親を亡くして我が儘いっぱい、癇癪をおこしてキーキー喚く様が、猿が歯を剥き出しにして威嚇する姿にそっくりだったから、ちっちゃい時から猿姫と呼ばれてるんだって。
 ちょっと可哀想な話じゃないこと?

  最近は性的欲求に対して、盛りのついた猿のようだというのもあるみたい。一応使用人の立場だから、そこまでルーチェは言わなかったけどね。

  私、この話を聞いてから思ったの。
 マルサネにはモン◯ッチ路線を歩まそうって。

 だって、このビジュアルだとそのまま、ご当地ゆるキャラになった方がこの娘も楽に生きていけそうじゃない?ついでにグッズとかまた売ったら儲かるかもよ。
 
 ハハハ……我ながらナイスアイディア……!


 「自分がいつもヴィンセント様に襲いかかってる痴女だった」という衝撃に固まり、今後の人生設計について思い巡らせていた間に、蛇姫の方も金の公子にしなだれかかろうとしていた。

 何よ、蛇姫だってこの娘と変わらないじゃんか。

「それにしても珍しいことですね。ヴィンセント様から私の方へお立ち寄りくださるなんて」
 あっさり身体ごと素早くかわされ、たたらを踏む蛇姫。

「貴女には私が訪れる心当たりがあるのでは?カルドンヌ姫」
「何のことでしょう?」
「そうですか。では質問を変えます。私の相棒が何処にいるか教えてもらえませんか?」
 ヴィンセント様のうっとりとするようなバリトンボイスが響く。視線は冷凍ビームのように冷たく蛇姫に向けられているんだけど、何事?!

「さぁ?なんのことやら。オホホホ……そんなに私をお睨みになっても、わからないものは教えて差し上げられませんわ。
 そんなに御執心なら、御側からお離しにならなければよかったのではなくて?ウフフフ……」
 鋭い視線に動じることなく、両手を組んで不敵な笑みを浮かべる蛇姫カルドンヌ。

 なんか、絶対良からぬことを企んでるよ。この蛇女!
 だってこの笑い方!絶対コイツが悪役だ。

 と確信するけど、私にはさっぱり何が起こってるのかわからない。とりあえず、黙って二人を見つめるだけ。

「貴女はご存知ではない、と」
 更に冷凍度の増した、ヴィンセント様の冷たい視線が蛇姫に突き刺さる。

「存じ上げませんわ。私たちも貴方の愛しい方の姿を今日はお見かけしないと先程、話していたところですのよ、ねぇマルサネ?」
 同意を求めるように私に妖しく微笑むカルドンヌ。
 
 こらぁ、こんなところでコッチを巻き込むな!蛇女!

「あっ、えっとぉ…。カルドンヌ姫以外、私は誰にもお会いしてません」
 巻き添え事故にしどろもどろに答える私を、おやっと一瞥する金の公子。

 その辺の山で見かける野生動物か珍獣を見るような、そんな感じ?
 やっと今日の私の服装がいつものピンクコスチュームじゃないことに気がついたのかしら。

 どちらにしろ、己の婚約者候補の公女に向ける眼差しではないわね……。

「それより明日は大事な四公会議ではないのですか?明日の主役がこのようなところで油を売っていても大丈夫ですの?」
 私に視線が向いたのが面白くない蛇姫は、ヴィンセント様の視界にずいっと割り込む。


 え?明日、何か会議があるの?
 出かける前にはハゲ狸、そんな事一言も言ってなかったけど。それって確かガイドブックにあった注意事項の緊急会議のことよね?

「…なぜ、貴女がそれを?まだ大公から四公には、正式に通達をしていない筈ですが」
「ヴィンセント様、我が家の情報網を舐めないで頂きたいですわ。ところでカルゾ公はお元気ですの?」
  蛇姫の言葉に金の公子の冷静な表情にさらに殺気のような凄みが増す。

 怖い、怖すぎて凍死する……。

「……母をお気遣い頂き、ありがとうございます。貴女の掴んでみえる情報網の通りですよ。   
 では、かの者のことを知らない、と私におっしゃられたことをくれぐれも後悔なさらぬように」
 クッと形の良い唇に酷薄な薄笑いを浮かべると、ヴィンセント様は現れた時と同じようにあっという間にどこかへ去っていった。


 何?なに?
 どーゆーこと?

 蛇姫は何を知っているの?

 愛しい方ってやっぱりいるの?それってヒロイン??


 蛇姫に聞きたくても、お花摘みに、とか言ってトイレに行っちゃったわ。
 あれだけワインをガブガブ飲めば、まぁ当然の結果よね。


 しっかし、実物のヴィンセント様。
 雑誌通り壮絶イケメンだったけど何かメチャメチャ怖かった~。蛇姫との間にブリザードが吹き荒れてたもん。

 マルサネか蛇姫、どちらかと正式に婚約して次期大公妃に、って言われたらハゲ狸が騒いでも私、喜んで辞退して蛇姫に譲るわ。

 だってヴィンセント様は男にしては綺麗すぎるもん。
 良い男っていうのは見てるだけが一番幸せなんだって。
 大体、ああいうイケメンでモテる男が突然豹変したり、中身がかなり危なかったりするものなのよ?

 律っちゃん的にはね~、顔はソコソコの男の方が女は幸せになれると思うの。


 はっ、すっかり律子になってたわ!
 このPTAスーツを着てるせいね、きっと。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...