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第一部
第23話 君の名は?
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「え…?」
低音のうっとりするようなバリトンボイスが耳に響く。
「君がリエージュだね?先だってカフェで会った元気な君の忠実なメイドが、わざわざミスターユッカのページを折り曲げたユッカナウを廊下で沢山配っていたよ」
声の主の方に視線を向けると…、
そこに立っていたのは、サングリア・エスト。
ユッカ大公その人だった。
「あ、ああ…のっ」
私は酸欠の金魚のように口を無様にパクパクさせた。
「本当に男どもときたら…。サラックも急に声をかけないの。マルサネがびっくりしてるじゃないの」
ソーヴェ様が私の肩を安心させるように抱いてくれた。
じんわりと触れられた肩が温かい…。
思わず、もう亡くなってしまった私の実母を思い出して泣きそうになる。
「大丈夫?マルサネ」
「大丈夫です。すみません」
私は、目尻を拭ってソーヴェ様に微笑みかけた。
「あら、笑顔がめちゃくちゃ可愛いじゃない。ねぇ、サラック」
「あ、う、うん」
慌てた様子で返事をするエスト大公。
そういえばさっきから、ソーヴェ様はエスト大公のこと、サラックって…。
やっぱり?やっぱり!!
「ミスターユッカって…もしかして?」
「騙すつもりはなかったんだが…」
ゴニョゴニョと答えるエスト大公。
何だかその様子が可愛らしくてつい、私は笑ってしまった。
「笑われてるわよ、サラック。貴方、あえて言わなかったんでしょ。若い子と関われておじさんは喜んでました、って言えないから」
「勘弁してくれよ、ソーヴェ」
ソーヴェ様のセリフにエスト大公の大きな身体が小さく縮こまったように見えた。
「ハイハイ、じゃあ邪魔者は消えますからね。ごゆっくり。あら、ヴィンったら、いつの間にか居なくなってる…」
ソーヴェ様は私に向かって軽くウィンクをすると、小部屋を出ていった。
「……」
「あのぉ…」
気まずい。
だって、だってぇぇぇ…!!
マルサネがリエージュだとバレてしまった。
ミスターユッカがエスト大公だってことも私的にはショックだったけど、それ以上に猿姫の分際であの文章、って、思われてるかと思うと泣きたくなるぐらい恥ずかしい。
そうだ。また、あれだ。謝っとこ。
土下座とかしたらいいのかな?
「すまなかった。本当に嘘をついたりするつもりはなかったんだ…」
私が土下座する前に先にエスト大公が口を開いた。
「はぁ…」
「ソーヴェの言うとおりだと思う。私はミスターユッカとして、君とやり取りをして楽しかった。毎週、楽しみで仕方なかった。大公ではなく、一人の人間として君にあの、カフェで会った時から惹かれていたんだ」
「それは…、私も同じです。大公さま。私にとっても、とても楽しく、そしてとても苦しい日々でした」
「私はサングリア・サラック・エスト、君の名前を教えて貰えないだろうか」
「え…?どういう意味でしょうか?」
「それを君は私に言わせる気か?」
痛いほど真剣な眼差しが私を射抜く。
マルサネ・ゲンメ、って、答えを期待してる訳じゃなさそうよね…。
と、いうことは?!
名前って…?
私の名前、私の名前は…!
もうこの人には、バレても仕方ないんじゃないだろうか。
むしろ、私の中に私でありたいっていう気持ちがある気がする。
それをぶつけてみよう。
受け止めて貰えかったらそれはその時だわ。
「私はリツコ…。サワイ、リツコです」
低音のうっとりするようなバリトンボイスが耳に響く。
「君がリエージュだね?先だってカフェで会った元気な君の忠実なメイドが、わざわざミスターユッカのページを折り曲げたユッカナウを廊下で沢山配っていたよ」
声の主の方に視線を向けると…、
そこに立っていたのは、サングリア・エスト。
ユッカ大公その人だった。
「あ、ああ…のっ」
私は酸欠の金魚のように口を無様にパクパクさせた。
「本当に男どもときたら…。サラックも急に声をかけないの。マルサネがびっくりしてるじゃないの」
ソーヴェ様が私の肩を安心させるように抱いてくれた。
じんわりと触れられた肩が温かい…。
思わず、もう亡くなってしまった私の実母を思い出して泣きそうになる。
「大丈夫?マルサネ」
「大丈夫です。すみません」
私は、目尻を拭ってソーヴェ様に微笑みかけた。
「あら、笑顔がめちゃくちゃ可愛いじゃない。ねぇ、サラック」
「あ、う、うん」
慌てた様子で返事をするエスト大公。
そういえばさっきから、ソーヴェ様はエスト大公のこと、サラックって…。
やっぱり?やっぱり!!
「ミスターユッカって…もしかして?」
「騙すつもりはなかったんだが…」
ゴニョゴニョと答えるエスト大公。
何だかその様子が可愛らしくてつい、私は笑ってしまった。
「笑われてるわよ、サラック。貴方、あえて言わなかったんでしょ。若い子と関われておじさんは喜んでました、って言えないから」
「勘弁してくれよ、ソーヴェ」
ソーヴェ様のセリフにエスト大公の大きな身体が小さく縮こまったように見えた。
「ハイハイ、じゃあ邪魔者は消えますからね。ごゆっくり。あら、ヴィンったら、いつの間にか居なくなってる…」
ソーヴェ様は私に向かって軽くウィンクをすると、小部屋を出ていった。
「……」
「あのぉ…」
気まずい。
だって、だってぇぇぇ…!!
マルサネがリエージュだとバレてしまった。
ミスターユッカがエスト大公だってことも私的にはショックだったけど、それ以上に猿姫の分際であの文章、って、思われてるかと思うと泣きたくなるぐらい恥ずかしい。
そうだ。また、あれだ。謝っとこ。
土下座とかしたらいいのかな?
「すまなかった。本当に嘘をついたりするつもりはなかったんだ…」
私が土下座する前に先にエスト大公が口を開いた。
「はぁ…」
「ソーヴェの言うとおりだと思う。私はミスターユッカとして、君とやり取りをして楽しかった。毎週、楽しみで仕方なかった。大公ではなく、一人の人間として君にあの、カフェで会った時から惹かれていたんだ」
「それは…、私も同じです。大公さま。私にとっても、とても楽しく、そしてとても苦しい日々でした」
「私はサングリア・サラック・エスト、君の名前を教えて貰えないだろうか」
「え…?どういう意味でしょうか?」
「それを君は私に言わせる気か?」
痛いほど真剣な眼差しが私を射抜く。
マルサネ・ゲンメ、って、答えを期待してる訳じゃなさそうよね…。
と、いうことは?!
名前って…?
私の名前、私の名前は…!
もうこの人には、バレても仕方ないんじゃないだろうか。
むしろ、私の中に私でありたいっていう気持ちがある気がする。
それをぶつけてみよう。
受け止めて貰えかったらそれはその時だわ。
「私はリツコ…。サワイ、リツコです」
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