アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
73 / 150
番外編 〈第25.5話~〉

カルゾメイドの溜息!〈sideナルド〉part6

しおりを挟む
「ぅ……つっ……痛って……」

 痛み止めが切れてきたようで、息をすると響くようになってきました。

「大丈夫ですか?ナルドさん……」
 心配そうに駆けつけてきたのは部下のマリン。

「やっぱり、今日はもうお休みされた方が。肋骨折れてるんですから」 
 近くのソファーに座るように促され、私は倒れるように沈みこみました。あまりの痛みに脂汗がじっとりと浮かんでくるのが自分でもわかります。 

「はい、どうぞ」
 タイミングよく、水の入ったコップと痛み止めの錠剤が私の目の前に差し出されました。
「すまない、マリン」
 遠慮なく受け取って性急に身体に痛み止めを流し込みました。

「は……ぁ……」
 これが効いてきたら動けるようになるでしょう。もう、すこしの辛抱です。

「効くといいですね?」

 近頃は露骨に若い女の子に避けられていたのに、マリンは平気なようです。
 先日もソーヴェ様の命令とはいえ、私を支えて医務室まで運んでくれたのは彼女でした。

 しかし、マリンってこんな、甲斐甲斐しく人の世話を焼くタイプだったんですねぇ。

 あんまり人の世話とか興味のない、ドライなタイプかと思ってたんですが……。

 こないだ、裏庭で例の箱の処分をしているところを見られてから、やたらと私に構ってくるような気もします。

 あの時は隠し通せたと思いますが、結局机に置かれたモノを見られちゃってますから……。

 若い子にありがちな興味本位でしょうか。
 あの箱の中身が気になるとしたら、あんまりいい趣味とは言えませんね。

 ……おや?
 
 なぜか今も私をガン見してますけど、どうしたのでしょう。


「マリン、何か私の顔についてます?」
 私の言葉にさっと顔を赤らめるマリン。
「?」

「あの~、ナルドさん……」
「……はい?」
「最近、無くしたものとかありませんか?」
「無くしたものですか?」
  財布とかを想定して聞かれているのでしょうか?
  鞄も鍵も……特に思い当たるものは、ありません。

「いや、特に」
  暫く考えてから返答をしました。

「大事なモノ、とか。人に見られたくないものとか?」
「人に見られたくないもの、ですか……」
 そう言われると、ついあの箱を思い浮かべてしまいますが、アレは見られたくなくても見られちゃってますからねぇ……。

「実は私、お渡したいものが……」
「マリン!交代の時間!」
 マリンの同僚のパロマがバタバタとかけ込んできました。
「あら、お邪魔だったかしら?」
 パロマは私とマリンの顔を交互に見て、ニヤニヤしています。

「別に邪魔なんかじゃないわよ……!」
 マリンは慌てて事務室を出ていきました。

 
「どうしちゃったんでしょうか。マリン……」
「執事長、気づきません?」
 からかうような口調でパロマが近寄ってきました。
「は?何がですか?」
「恋する乙女の視線ですよ」
「はぁ?全くそんな感じは私は思い当たりませんが……」
「じゃあ、最近やたらとモジモジ、マリンに話しかけられてませんでした?執事長はあからさまに逃げておいでだったから、わかってたんじゃないかと思ってましたけど?」
 いや、それは……。
 あの箱の中身を知られた後に、裏庭で何をしてたのか?と追及されると嫌だったからですが……。

 全く、メイドの若い子たちはコイバナばっかりですね。

 こないだまで、筋トレメニューが一番の話題だったカルゾ邸が、最近はヴィンセント様もソーヴェ様もそんなことばかりに振り回されてる気がします。

「そんなに私、あからさまに逃げてました?」
「それは分かりやすく」
「……」
「そんなんだから、執事長はヴィンセント様にも遊ばれてしまうんですよ」
「は?」
「大体、あの箱の中身も執事長のものじゃないですよね?」
「えっ!?」
 さすが、頭脳戦が得意なカルゾが誇る天才娘パロマというべきか。気づいていたなら、止めてくれ~!

「パロマ。気づいていたなら何故……?」
 結構、私を監禁変態執事呼ばわりして喜んでましたよね?

「すみません、面白くてつい」
 パロマがペロッと舌を出す。
「私は何一つ面白くありませんよっ、……痛っ……」
 興奮して大声を出したら、胸に響いてしまいました。

「大丈夫ですか?」
「ご心配なく。痛み止めが大分効いてきましたから……」
「今回のケガといい、案外執事長って無茶されますよねぇ」
「ケガとは?」
「その傷ですよ。それ、わざと正面から受けたものですね?何故です?
 執事長なら、ソーヴェ様の拳も蹴りもギリギリ避けられたんじゃないですか?少なくとも逃げることはできたと思いますけど」
「……天才パロマにはかないませんね……」

 小娘パロマに見抜かれてしまいました。
 私がつまらない、ヴィンセント様への対抗心?もしくは武術家としてのプライドで、自分でもソーヴェ様の攻撃を真正面から受け止めきれるのではないか、と判断を誤ったことを。
 
 結果、まだまだ鍛錬も足りず、判断も甘かったことを露呈しただけ、というあまり部下には知られたくない結果になってしまったのですが……。

「あまり、弱い上司をいたぶらないで貰えます?」
「弱いなんてとんでもない。今の手負いの状態でも、この邸でソーヴェ様とヴィンセント様以外に勝てる者はいないと思いますよ」
「買い被りじゃないといいですが」
 自嘲する私。
「私の分析力を疑います?」
「いや、信頼していますよ。貴女の分析力はこの国で一番だと思っています」

 パロマは本人の希望でメイド兼務になっていますが、軍師としてだけでカルゾ軍に就職しても充分通用するでしょう。
 カルゾ邸の事務室でコマゴマとした庶務的なことをさせるのは勿体ない人材です。

 疲れていた私は乱れた髪をかきあげつつ、ソファーから身体を起こし、ストレートに思ったまま彼女に言葉にして伝えました。
 
 こうやって起き上がってみると、だいぶ今日一日、身体はムリをしたようですね。う~ん、眼も潤んできました。微熱でしょうか……。



(「はぁ~。マリンが落ちた正体はこれかぁ……」)
 何故かマリン同様、パロマは私を見つめて顔を少し赤らめて何かを呟きました。

「執事長、本当にだいぶお疲れみたいですよ……?とりあえず、あとの処理はは引き受けましたので早くお帰り下さい」

 パロマは溜め息を一つ、ついたかと思うと私から日報を取り上げ、グイグイと事務室から追い出してきました。


 一体、カルゾのメイドたちに何が起こっているのでしょうか。

 私は痛む肋骨を擦りつつ、明日の舞踏会のお供に備えて早々にベットで休むことにいたしました。朝にはヴィンセント様が領地カルゾからお戻りになられるハズです。

 久しぶりに明朝まで、ゆっくりさせていただきます。

 それでは、おやすみなさい。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...