アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
34 / 150
第一部

第31話 標的は私?

しおりを挟む
「……!」
 カン!カツン!カンカン!!

 何かを弾くような鋭い音がして、思わず反射的に私は両手で頭を庇い、しゃがみこむ。

「大丈夫か?」 
 気がつくと、広くて温かい胸に私はしっかりと抱きしめられていた。

「え……!」

 サラック様の温かい腕の中で、どうしようもない私は大好きな低音と男らしい良い匂いにうっとりする。

 あぁ、もう死んでもいいかも……。

 夢みたい……てか、夢じゃないのかな?これ。
 

 ギュッと瞑っていた目をうっすらと開けると、ヴィンセント様とソーヴェ様、さっきのカルゾの執事が私達の周りを囲って懐剣を手に立ち塞がっていた。

 夢じゃなさそう。一体何が起こったの?

 
 シュッシャッ! シュシャシャッ!!


 また何かを切り裂くような音がして、斜め上の天井から雨のように飛来してくる黒いモノが見えた。

「まだ来るわよ!マルサネを狙ってる!」
「お任せを」

 瞬時に懐剣でヴィンセント様と黒服のカルゾの執事が舞うような優美な動きで、大量に飛んできた何かを凪ぎ払うように床に叩き落とす。

カン!ガラン!カカッ!


「キャァァ~!!」
「クセ者だ~!?」
「大公様達が狙われてるぞ!」

 主達が襲撃されたことに気づき、楽団の陽気な音楽が止まる。
 騒ぎに気づいた群衆がパニック状態になって、入り口の方へ殺到しはじめた。


 パニックになった群衆にソーヴェ様の気迫に満ちた声が響き渡る。
「動くな!今動いたものは賊と見なして即、討つ」   
 ソーヴェ様は大公の椅子の下から取り出した大剣を振りかざして、群衆を睨みつけ、仁王立ちした。
 迫力満点のその姿に群衆はあれほどパニック状態だったのが、嘘のように凍りついて止まる。

 彼女ソーヴェなら、容赦なく本当に動いたら切りかかってくるだろう、とこの国の住民なら誰もが認識している所以だ。
  

 ヒュヒュヒュッ!

 空気をつんざくような音がして、まだ矢尻のようなモノが飛来してくる。

「しつっこいわね。さすがイスキア海蛇!」
 まるで剣舞のような艶やかさで、大剣を振り回し、全て一人で跳ね返すソーヴェ様。


 ドガガガッ……!!

「力み過ぎです。こちらに飛ばさないで下さい。人に当たりますよ」
 ヴィンセント様が、流れ弾をガードする。
「それぐらいカバーしてよ!」

 矢尻状のもの以外に、床には鋭いトゲが仕込まれた手投剣が散乱していた。どうやら、小さな手裏剣なども大量に飛んできたようだ。

「マルサネ、それに絶対に触っちゃダメ!」
ソーヴェ様の鋭い声が飛ぶ。

「猛毒が仕込まれているおそれがあります。大公様もお下がり下さい」
 カルゾの執事が私達を背に庇うようにしながら、頑丈な衝立の隅に誘導する。


「曲者は庭に逃げた!衛兵、取り押さえよ。行け!」
 ソーヴェ様のよく通る声で、公宮の警備兵が大広間の外へ走っていく。

「タウラージ!」
 今度はソーヴェ様がハゲ狸を振り返る。

「わかってる、お前ら一人も逃がすな!可能なら捕縛して吐かせろ。無理なら仕留めて構わん」
 別人のような低い声でゲンメ公が、自分の背後の窓の外…暗闇に向かって鋭く命じた。


「やれやれ、娘の婚約をダシにイスキアの私兵狩りに儂の手足を使われるとは……これはソーヴェにやられたな」
「チマチマ追うより効率良いもの。おかげで、これでやっと片付くわ」
「まぁ、イスキアの海蛇達にエストの衛兵では追いつくまい。我が手足も多少はヤられるだろう。ゲンメとイスキアの共倒れ効果も狙ったか?ソーヴェ」
「まぁ、物騒なものは少しでも減っていただかないと。煩くてゆっくり眠れないと肌が荒れるのよ」
「ふん、眠ったら滅多なことでは起きないクセによく言う……」


「この金属を腐食させる海蛇の毒。浅慮なチョイスはカルドンヌね。まだまだ若いから詰めの本当に甘いこと。ずっと張りついてこちらを伺ってたのに、今回の婚約破棄は彼らにも想定外だったのか惑って固まってたわ。挙げ句、私と視線があったら焦って襲ってくるなんて。折角捕まえても、使い捨てレベルの駒かもよ?」

 ソーヴェ様は手にした大剣を黒ずんでいる刃の向きに注意を払いながら鞘におさめる。

 その間、ヴィンセント様が会場の人々を落ち着かせ、襲撃された現場から人々を隣の広間に誘導を指示していた。毒剣の散らばる大公席の周囲は会場の使用人に指示を出し、素早くカルゾの執事が封鎖する。

「最初から海蛇達に気づいていたのに、放置したのか。相変わらず、大した自信だな。
 カルドンヌは今回も前回も襲撃計画は穴だらけだ。まぁ、イスキアの裏についてる奴が荒いのかもしれんが……」
「裏について、何処までご存知?」
「ゲンメは婚約破棄されたからな。教えたくても教えられなくなったぞ」
「あら、それは残念」
 ちっとも残念そうではない口振りで、ソーヴェ様が肩をすくめた。

「で、どうする?当の本人はもうイスキアに逃げてると思うが?」
「そこまで追う気はないわ。とりあえず、実行犯を根絶やしに出来たら目標達成ね」
「ふん、甘いのはどっちだ」
「さぁね。舞踏会にいつもの倍、闇の者たちをゾロゾロ連れてきてた誰かさんには言われたくないわ」
「裏があるとは思ってたからな。何事も用心に越したことはない」
「さすがタウラージ。それはさておき、サラック。貴方、いつまでそうやってるつもり?」

 私を未だ抱きしめているサラック様に呆れたように声をかけるソーヴェ様。

「え、いや……これは……」
「身体は正直ねぇ、サラック。つい、動いちゃったのよね~」
 ソーヴェ様の追及にモゴモゴ言いながらも、腕の中から私を解放しないまま、立ち尽くすサラック様。


「驚いたな。サングリア、お前本気か?」
 ドングリ眼を見開いて、狸オヤジがサラック様を見た。
「本気だと言ったらどうする?」
「儂より若いのに呆けたのか」
「何とでも言え。私は何も言える立場ではない」
「カフェで余程変なもの食ったんだな。お前、ゲテモノ食いだったか?」

 娘に対して、このハゲ狸。なんという言い草……。
 変なものって何よ!仮にも娘でしょうよ……大体食われてないし!

「カフェで会ったのは間違いないが……食事をしただけだ。彼女には、神に誓って何もやましいことはしていない」

(「キャー!!」
 「なぜ大公様が?」
 「どういう展開?!」)
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...