アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

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第二部

第11話 ここはドコ? 〈side:マルサネ〉

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 くすんだ空から大量の雨粒が落ちてきた。

 ユッカのカラっと晴れた空を見慣れているあたしには、この何だかジメジメまとわりつくような、ねっとりとした湿った空気が気持ち悪い。

「ふわぁぁぁ……」
 我ながらよく寝た。身体中がバキバキだ。
 これでは今夜はろくに眠れまい。

 奏大から傘、という棒状のモノでつつかれて起こされたあたし。
 そのまま傘とやらを手渡され、下駄箱から出た。周囲の生徒の見よう見まねで束ねてあるスナップを外し、手元のボタンを押す。


 バッ!!

 バネを軋ませ、大輪の花が咲くように勢いよく透明な布状のものが開く。
 
 その勢いに思わずビクッとするあたし。


 何だ、コレ。
 何かのカラクリが入っている?

 こわごわ傘をつまむように持つあたしを見て、大笑いする佳彦。そして、哀れな動物を見るような視線をあたしに注ぐ奏大。

 ……全く失礼な奴らだ。

 優姫は「こうやって持つといいわよ」と傘を盾のようにかざし、ほぼ雨が直撃していたあたしに、持ち方を親切に教えてくれた。

 ふぅむ。

 片手は塞がるが、布のような部分が透明になっているから周囲が見通せる。持ち手も慣れれば持ちやすい。なかなか便利な道具だ。

 あたしは傘をクルクルと回した。

「うわっ!」
 奏大が迷惑そうな声をあげる。

 あぁ、回した遠心力で水滴が飛んだのか。
 少し濡れたぐらいで、大袈裟な。

 あたしは懲りずにクルクルと勢いよく再び傘を回した。

「こらぁ! ヤメロっ!」
 なんか、奏大が怒っていたが無視。
  
 へぇぇ。
 これ、面白いなぁ……。
 
 
 ユッカでは、雨の時、雨を弾く素材のフードやコート、雨よけの帽子を被るのが一般的だ。この「傘」のようなものは初めて見た。

 本当に、このリツコの世界はよくわからないものが多い。

 わからないと言えば、先ほどの授業などはその最たるもの……まるで全教科があたしにとってはチンプンカンプンだ。

 あたしは特に算術が嫌いで、殆どユッカの学園でも点はとれなかった。だから同じ数式を使用していたとしても、そもそもがさっぱりわからなかったりする……。
 
 さっぱりわからない、といえば今乗っているこのバス、とやらの仕組みも不明だ。

 このバスという大きな箱形の機械、常に変な振動がしていて何だか気分が悪い。
 今朝、和奏に車というもので学校まで送ってもらったが、あれはこのバス程は揺れなかった。

 バスの座席に座り、雨粒がガラス窓に張りついては玉のようになって後方へ消しとんでいく風景を、あたしはあんぐりと口を開けて見つめる。

 絶対、これ。馬車より速い。
 早駆けの馬ぐらいのスピードだろうか……?
 どういうカラクリだ?

「もうすぐ駅につくぞ」 
 奏大がポカンと窓を眺めていた、あたしの肩をたたいた。

「……?」
 駅、とな?

 馬車の集まる駅ならわかるが。
 このバスとやらも、馬のように一ヶ所の小屋に集められるのだろうか。

 あたしがそんなことを考えているうちに、「バス」は大きな建物の中にある薄暗いトンネルのような場所へ入っていく。
 そこは大きな建物がタワー状に連なり、その間を巨大な傘のような天井が塞いでいた。

「うわぁ……何だ、この宮殿は?」
 思わずあたしは、空に届きそうな建物たちを見上げて口をあんぐりと開けてしまった。

「宮殿? まさか。ここは単なるバスターミナルと駅に連結されたショッピングモールだ」
 奏大がぶっきらぼうに言った。
 何だかんだといいながら、あたしの質問に結局は真面目に答えてくれる奏大。根は良い奴なのだと思う。

「……マルサネちゃんの国ってショッピングモールとかはないの?」
 優姫が目を輝かせて尋ねてきた。

「あぁ、カフェや商店街はあるな。だが、こんなデカい建物はない」
 あたしは懐かしいユッカの街並みを思い出して答える。

「へぇ。じゃ、買い物かお茶でもしていく?」
「おい、優姫!」
 優姫の言葉に顔を赤くしながら慌てた様子の奏大。
 
 ……分かりやすい奴。優姫と居たいのがまるわかりだ。
 
「電子マネー当たったんだ。マ○クぐらいなら奢るよ~」
 佳彦がカード状のものを出して言った。

 ん? あれは何だ? この世界の金か?

「えー! ス○バのケーキが良いな~」 
「ハイハイ。あそこって電子マネー使えたっけ?」
 マ○ク? ス○バ??

 あたしのわからない言葉が目の前で飛び交う。

 何だかわからないが、ケーキというからには食い物屋だろうか……。

 あたしは勝手に動き出すカラクリ仕立ての階段に乗せられて、奏大、佳彦、優姫の四人でショッピングモールとやらの中に入ることになった。

 ショッピングモールとやらの中はやたらと眩しく照明が当てられており、雑貨やレストラン、カフェ、服や靴などをところ狭しと並べた店などなひしめいていた。

「おい、優姫。今日は祭りか?」
 あたしはキョロキョロと四方八方を見回して隣を歩く優姫に尋ねた。

 動く階段の上やフロア、どこもかしこも人で溢れかえっている。

「んん? なんで?」
 あたしの質問に優姫は可愛らしく首をかしげた。

「やたらと人が多いような気がする」
「あぁ、今日は感謝デーなのよ。うーんと。バーゲンセール、ってわかるかしら?」

「バーゲン……?」
「安売り。割引とか、わかる?」
 佳彦が面白そうに口を挟んできた。

「あー。何となく」
「おい! ボサってしてるとはぐれるぞ」
 冷たい言葉が奏大から飛んできた。
  
 なんか、ピリピリしてる?
 あぁ、佳彦と優姫が並んで歩いているからか。

「男の嫉妬は醜いぞ、奏大」
 思わず出たあたしの言葉に、奏大は凄い顔をして睨みつけてきた。 
 
「ハハハ……」
 図星か。不幸な奴。

 それにしても、ここは凄い人混みだ。
 エスト城下町の祭りでもこれほどひしめくことはない。
 向かい側から歩いている客はどいつもこいつもせかせかとしていて、すれ違い様にあたしに鞄や肩をやたらとぶつけてくる。

「おい、お前! ちゃんと端を歩けよな!」
 あまりに正面からぶつかってくるので、今度はあたしが撥ね飛ばしてやろうかと構えた時、ぐい、っと奏大に力強く背中を押された。

 あぁ、なるほど。あたしが真ん中を歩くからドンドンぶつかってきたのか。

 今度は逆にすいすいと人と人との間を縫って歩いてやった。

 ふむふむ。面白い。
 何だか、昔やった野生動物の群れを避けて進む修行を思い出すわ。
 
「……あれ? あいつらは?」
 気がつくとあたしは人波に埋もれ、奏大たちとすっかりはぐれてしまっていたのだった。
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