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残酷な日々
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あの日から私の生活は一変した。
魔力を持たざる者は王国民ではない……
まさにそれを肌で感じる日常になってしまった。
公爵令嬢ということもありお父様は建前上、私を貴族魔法学園に通わせてくれる事になった。
そして朝、目が覚めると一人の従者が立っていた。
「ク、クリス様……は、はじめまして、お、お着替えの準備をしましゅ」
見たことが無い小さな男の子であった。
たどたどしく私の着替えを準備する。
「あなた名前は?」
私は渡されたドレスに着替え始めた。
――なんだか質が悪いドレスね。
ところどころほつれているドレスは明らかにお母様のお古であった。
「ひゃい! ぼ、僕はテッドと言います。きょ、今日からクリス様の従者として頑張りましゅ!」
「あらそう……」
ボサボサの髪に執事服に着られているテッド。
明らかに屋敷の執事としては異質な存在であった。
――多分お父様が魔力の無い私に、使えない執事をあてがったのね。
私は少し意地悪な質問をしてみた。
「ねえ、あなたの魔力適正は何?」
テッドの顔は沈んでしまった。
「……ぼ、僕は……魔力がゼロです。……ご主人様から内緒にしろって言われてましたけど……いきなりスラムから拾い上げられましゅた」
――なるほどね。魔力がない私にお似合いな従者ね。
私の心が荒んでいくのがわかる。
悲しみ? いえ、この感情はわからない……
だって公爵令嬢の娘に魔力ゼロの従者をつけるのよ? この仕打ちはいらない娘って言っている様なものよ……
「……そう。構わないわ」
「え!? は、はい!」
魔力ゼロなのにテッドは可愛らしい笑顔を私に向けた。
そんなテッドの笑顔を見て、私は胸の奥がムカムカしてきた。
従者のテッドと共に学園に通う日々が始まった。
始めの頃はみんな公爵令嬢という肩書のおかげでおとなしくしてくれた。
妹のプリムが私をバカにし始めてから状況が変わった。
プリムと私は一歳しか違わない。あの場でプリムが検査を受けてしまったため、プリムは特例として一年早く学園に通う事になった。
そして聖女というジョブを活かして、自分の派閥を徐々に作り始めた。
気がつけば……
「あ、無能令嬢のお出ましよ」
「しぃー! 駄目よ。魔力が使えなくなっちゃうわ!」
「全く、戦争になったら戦えない役立たずね」
「ほんと、妹のプリム様は神々しいのに」
「ねぇ~、まさに聖女様って感じ!」
学園には私の居場所が無くなってしまった。
この国は貴族と平民の戦闘能力の差が凄まじいものであった。
魔力をうまく使える。それが貴族が貴族たる所以である。
平民の魔力を五としたら貴族は千になるだろう。
そんな私は平民以下の存在に成り下がってしまった。
とある日、学園の生徒会長を努めているレオン王子が私のクラスに突然やってきた。
私のクラスはプリムもいる。
あの日のレオン王子の無表情が忘れられない。
――私はあの方に捨てられた。
プリムが嬉しそうにレオン王子の所へ行くのを見ると婚約破棄の実感が湧いた。
レオン様はプリムと話しながら誰かを捜しているようだった。
そして私と目が合った。
「……そんなドレスを……俺にもっと力が……クリス……」
「レオン様! このドレス見てください! 今度の聖女祭は楽しみですね!」
プリムは王子を私から隠すように王子と話し始めた。
私の心がひび割れる。
******
「テッド! グズグズしないの。早く帰るわよ」
「は、はい! ま、待ってくだしゃい……」
テッドは私の荷物を持ちながらフラフラと歩く。
そんなテッドを見ると私はイライラする。
テッドは私がきつく当たっても笑っているだけ。
どうせテッドも心の奥で私の事を笑っていると思う。
――私は貴族。魔力ゼロの意味がスラム上がりの人間と全然違うわ。
「テッド、あなたスラムに戻れば?」
「ふぇ!? お、お願いでしゅ! ク、クリス様のお側にいさせてくだしゃい……」
言葉をうまく喋れないテッド。
スラムにいた時、殴られすぎたのが原因らしい。
……本当に私にお似合いの従者ね。
そして毎日の恒例の地獄の下校が始まった。
王国通りを歩けば罵声とともに石が飛んで来る。
「無能貴族は出ていけ!! 税金の無駄だ!!」
私の身体に石が当たる。
身体には痣ができるほどに痛み。
だけど私の心の痛みはそれの比ではなかった。
「や、止めてくだしゃい! こ、公爵令嬢でしゅよ! こ、こんな事が公爵しゃまに知れたら打首でしゅよ!」
私を庇うように仁王立ちをするテッド。
無慈悲にも石は飛び続けた。
石を喰らい続けてもテッドは倒れなかった。
その目には涙が浮かんでいた。
――ダイジョウブ。私が無能だから悪いの。
「テッド、邪魔よ。早く家に帰るわよ」
「ぐしゅ……は、はい、クリス様」
私の心が壊れていく。
魔力を持たざる者は王国民ではない……
まさにそれを肌で感じる日常になってしまった。
公爵令嬢ということもありお父様は建前上、私を貴族魔法学園に通わせてくれる事になった。
そして朝、目が覚めると一人の従者が立っていた。
「ク、クリス様……は、はじめまして、お、お着替えの準備をしましゅ」
見たことが無い小さな男の子であった。
たどたどしく私の着替えを準備する。
「あなた名前は?」
私は渡されたドレスに着替え始めた。
――なんだか質が悪いドレスね。
ところどころほつれているドレスは明らかにお母様のお古であった。
「ひゃい! ぼ、僕はテッドと言います。きょ、今日からクリス様の従者として頑張りましゅ!」
「あらそう……」
ボサボサの髪に執事服に着られているテッド。
明らかに屋敷の執事としては異質な存在であった。
――多分お父様が魔力の無い私に、使えない執事をあてがったのね。
私は少し意地悪な質問をしてみた。
「ねえ、あなたの魔力適正は何?」
テッドの顔は沈んでしまった。
「……ぼ、僕は……魔力がゼロです。……ご主人様から内緒にしろって言われてましたけど……いきなりスラムから拾い上げられましゅた」
――なるほどね。魔力がない私にお似合いな従者ね。
私の心が荒んでいくのがわかる。
悲しみ? いえ、この感情はわからない……
だって公爵令嬢の娘に魔力ゼロの従者をつけるのよ? この仕打ちはいらない娘って言っている様なものよ……
「……そう。構わないわ」
「え!? は、はい!」
魔力ゼロなのにテッドは可愛らしい笑顔を私に向けた。
そんなテッドの笑顔を見て、私は胸の奥がムカムカしてきた。
従者のテッドと共に学園に通う日々が始まった。
始めの頃はみんな公爵令嬢という肩書のおかげでおとなしくしてくれた。
妹のプリムが私をバカにし始めてから状況が変わった。
プリムと私は一歳しか違わない。あの場でプリムが検査を受けてしまったため、プリムは特例として一年早く学園に通う事になった。
そして聖女というジョブを活かして、自分の派閥を徐々に作り始めた。
気がつけば……
「あ、無能令嬢のお出ましよ」
「しぃー! 駄目よ。魔力が使えなくなっちゃうわ!」
「全く、戦争になったら戦えない役立たずね」
「ほんと、妹のプリム様は神々しいのに」
「ねぇ~、まさに聖女様って感じ!」
学園には私の居場所が無くなってしまった。
この国は貴族と平民の戦闘能力の差が凄まじいものであった。
魔力をうまく使える。それが貴族が貴族たる所以である。
平民の魔力を五としたら貴族は千になるだろう。
そんな私は平民以下の存在に成り下がってしまった。
とある日、学園の生徒会長を努めているレオン王子が私のクラスに突然やってきた。
私のクラスはプリムもいる。
あの日のレオン王子の無表情が忘れられない。
――私はあの方に捨てられた。
プリムが嬉しそうにレオン王子の所へ行くのを見ると婚約破棄の実感が湧いた。
レオン様はプリムと話しながら誰かを捜しているようだった。
そして私と目が合った。
「……そんなドレスを……俺にもっと力が……クリス……」
「レオン様! このドレス見てください! 今度の聖女祭は楽しみですね!」
プリムは王子を私から隠すように王子と話し始めた。
私の心がひび割れる。
******
「テッド! グズグズしないの。早く帰るわよ」
「は、はい! ま、待ってくだしゃい……」
テッドは私の荷物を持ちながらフラフラと歩く。
そんなテッドを見ると私はイライラする。
テッドは私がきつく当たっても笑っているだけ。
どうせテッドも心の奥で私の事を笑っていると思う。
――私は貴族。魔力ゼロの意味がスラム上がりの人間と全然違うわ。
「テッド、あなたスラムに戻れば?」
「ふぇ!? お、お願いでしゅ! ク、クリス様のお側にいさせてくだしゃい……」
言葉をうまく喋れないテッド。
スラムにいた時、殴られすぎたのが原因らしい。
……本当に私にお似合いの従者ね。
そして毎日の恒例の地獄の下校が始まった。
王国通りを歩けば罵声とともに石が飛んで来る。
「無能貴族は出ていけ!! 税金の無駄だ!!」
私の身体に石が当たる。
身体には痣ができるほどに痛み。
だけど私の心の痛みはそれの比ではなかった。
「や、止めてくだしゃい! こ、公爵令嬢でしゅよ! こ、こんな事が公爵しゃまに知れたら打首でしゅよ!」
私を庇うように仁王立ちをするテッド。
無慈悲にも石は飛び続けた。
石を喰らい続けてもテッドは倒れなかった。
その目には涙が浮かんでいた。
――ダイジョウブ。私が無能だから悪いの。
「テッド、邪魔よ。早く家に帰るわよ」
「ぐしゅ……は、はい、クリス様」
私の心が壊れていく。
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