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テッドの決意
しおりを挟む僕はテッド。世界で一番幸運な男です。
だってすっごく素敵なクリス様の従者になれたんだから。
クリス様が賢者様の魔法省に通いだして一週間が過ぎました。
朝から夕刻まで、異国の戦士? のギルバードさんと一緒に鍛錬をしています。
僕はずっとお側で見守っています。
その鍛錬は想像を絶する程の厳しさでした。
「おい、女! 特別な力に頼る前に自分の身体を鍛えろ!」
「くっ!? まだまだです!!」
「……ふん」
ギルバートさんが今日も木剣を激しくクリス様にふるいます……
クリス様は捌ききれなくて身体に木剣が当たります……
僕はクリス様の身体が心配です。いつもハラハラしながら見ています。
「こんにちは! テッド君、今日も可愛いね! 横いいかな?」
そんな時、ギルバードさんの友達のカインさんがやってきた。
ギルバードさんもカインさんも素性がわかりません。
だけど、わかる事があります。
――凄く優しいです。
こんな僕に普通に接してきてくれます……クリス様と同じ匂いを感じます。
「ひゃい! も、もちろんでしゅ! ど、どうぞ……」
カインさんはちょっとおちゃらけた人だけど、凄くカッコいいから緊張しちゃいます……
カインさんはクリス様とギルバードさんの打ち合いを見ていました。
「……やっぱ、女の子が打たれているのは気になるよね?」
「は、はい……クリス様が心配でしゅ……」
カインさんは軽薄そうなのに爽やかな笑顔を僕にくれました。
王国の令嬢でしたらイチコロでしょう。
「ギルはね……、本当は凄く優しい男なんだよ。あれだって、当たったように見えて、当たる瞬間に剣を引いてるんだよ? 全然痛くないはずだね。……ふふ、ギルは可愛いね」
「ふぇ!? ほ、本当でしゅか?」
カインさんがギルバードさんを指差した。
「ほら顔を見てみて。……口角が少しだけ上がっているでしょ? あれはギルが凄く嬉しい証拠なんだよ。ははっ、ギルは顔にすぐ出るからね~、あ、恥ずかしい時は片耳だけ真っ赤になるよ」
僕はギルバードさんを目を凝らして見ました。
「あ! 本当でしゅ!! ちょっと不機嫌そうに見えるけど口角が上がってましゅ!!」
「そう、だから安心してね。……ギルは嬉しいんだよ」
「どうしてでしゅか?」
「自分を超えるかもしれない程の才能の塊に出会えてさ! あとは……クリスちゃんがタイプなんじゃない? はは、全然態度に出してないけどね! 内緒だよ?」
僕は考え込んでしまいました。
僕は何ができる? ただの従者? クリス様に甘えてばっかり……
もしクリス様に身の危険が起きたら?
僕は……僕は……。
僕はカインさんの手を取りました。
「カインさん! ぼ、僕にも魔力なしでも戦える方法を教えてくだしゃい!! なんでもやりましゅ!!」
カインさんは僕の頭を撫でてくれました……
「ははっ! 君らは素直で本当にいい子だね……。よし、じゃあギル達に負けないように頑張ろうか! 僕らはあと三週間しか王国にいないしね!」
「はい!!」
クリス様が変わるように、僕も変わります!!
テッド頑張ります!!
*********
私は聖女プリムよ。
目の前にいるクソ男達を殴ってやりたいのを必死に我慢していた。
「あの~、プリム様。クリス様はいつ学園に来られますか?」
「婚約破棄ということはクリス様はフリーっすよね? 俺を婚約者候補に推薦してくれます?」
「バカ野郎! イジメられていたクリス様を癒やすのは俺の役目だ!!」
聖女の私にふざけた事を言う貴族の坊っちゃんは睨みを効かせて黙らせた。
お前ら事なかれ主義で見ていただけだろう!!
――全くどういう事よ。なんで魔力ゼロのお姉さまに近づきたいのよ?
はぁぁぁぁぁぁ……ええ、本当は分かってるわ。
私は子供の頃からお姉さまが大嫌いだった。
だって優秀なお姉さまにいつも比較される。
王族から婚約を申し込まれるくらい綺麗で、学業、軍事訓練も常にトップの成績を収めていたわ。
それでいて、嫌味がなくカリスマ性があり、向かうところ敵なしだった。
でも、それは過去の話。今のお姉さまは魔力ゼロ。
みんなからバカにされる存在……のはず。精神力を断ち切ったはずだわ。
おバカな両親は私の言いなり。学園は盤石。
お姉さまの目が死んでるのを何度も確認したわ。
いつ自殺してもおかしくない状態だったはず。
……それが何故かここ最近、目を輝かせている。
お姉さまが学園に来なくなってから、お姉さまは変わってしまった……いや、昔のお姉さまに戻ってしまった!?
私の胸の奥から生まれる感情は何?
お姉様に対しての恐怖?
むきっ!!
私はそれが許せない。
お姉さまはこの王国に必要ない。
いや、この世界から消えてなくなればいい。
私は最高のジョブ『聖女』様よ。
私が一番愛される存在なのよ!!
「――聖魔法テンプテーション!!」
バカな男達は私の魅力の虜になった。
そして私はお姉さまに対しての憎しみを燃やしていた。
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