婚約破棄の無能令嬢 魔力至上主義の王国を追い出されて……

うさこ

文字の大きさ
15 / 41

カイン

しおりを挟む

「おーい、待ってよ!? 俺食われちゃうよ!」

 私達はパーティーで街の近隣にある山に出没したドラゴン退治の依頼を受けていた。

「ふ、ふふ……私の……精霊が回復してくれるわ……カインは……囮……」

 この中で冒険者としての経験が一番豊富なミザリーさんを中心に動く。

「ましゅ! ……『力貯め』充分でしゅ!」

 鋭い穂先の槍を構えたテッドがギルバードの後ろで槍を構える。
 ギルバードは大剣で身を守り、ドラゴンのブレスからテッドを守っていた。

「――ヒール! エリアヒール! マジックバリア! はぁはぁ……カイン頑張んなさい! もうすぐテッドの必殺技が炸裂するわよ!」

 カインは空中を飛び跳ねながらドラゴンを翻弄していた。
 無駄口とは裏腹で、その動きは優雅で鋭く、歴戦の戦士の動きであった。



 ――そう言えばカインって何者なの?

 槍が得意なおちゃらけた男の子。
 ギルバードの大切な友達。
 テッドの師匠。
 おバカだけど、クラスのみんなから愛されているカイン。

 ……今度聞いてみるかな?


「クリス! 援護しろ!」

 ギルバードの視線が私を射抜く。
 私は頷いた。

「うん! ドラゴンさんごめんね! はぁ!!!」

 私は手に持っていた短剣をドラゴンに向けて投げ放った。
 精霊の力が乗ったその短剣は光り輝いていた。

 ドラゴンの強固な鱗を軽々と突き破り、羽に穴が空いた。

「ギャギャ!?」

 テッドの雄叫びが上がった。

「ましゅゅゅぅぅぅ!!! ――穿くでしゅ!!」

 稲妻のような速度で槍がドラゴンの胸を捉える。

 ドラゴンの胸に槍が突き刺さった。
 もがき苦しむドラゴンの頭の上をカインが槍を構え落ちてくる。

 ドラゴンの頭が完全に消失してしまった。











 冒険者としての仕事を終えた後は、城下町にあるいつものカフェで食事をすることにしている。
 帝国の貴族たちは庶民の店を好んで通う。

 だって美味しんだもん。

 このカフェはケーキも美味しいけど、料理も絶品であった。

 今日は私はハンバーグという物を食べている。
 噛みしめるたびに肉汁が口の中で溢れ出てくる。
 ――うん、幸せ……。

 この時ばかりは胸の痛みを思い出さずにいられた。

 ――さっきのドラゴンだって、本当は……、短剣だけで消し炭にできたと思う……。




 ギルバードが私にサラダをわたしてくれた。

「ふん、野菜も食え。……このパスタもうまいぞ」

 あの日からギルバードは私にもっと優しくなった。
 優しいというよりも……ちょっと甘すぎじゃない!? っていうくらい変わってしまった。

 必ずいつも一緒にいてくれる。
 私の事を気にかけてくれる。

 ギルバードと一緒にいると、私も嬉しくなってくる。
 心が安らぐ。たまに胸がドキドキしてしまう……

 いつの間にかこんなにも私の心を埋めてしまっていたのね?

 ギルバードは首をかしげながら私に聞いてきた。

「どうした? 美味しくなかったのか? どこか具合が悪いのか?」

 私は笑顔になった。

「ふふ……幸せだなって思っただけよ。……私はギルバードに出会えて良かったわ」

 ギルバードは真っ赤になってしまった。
 私の手を無言で握る。

「…………大丈夫だ」

 ――そう、大丈夫。私は大丈夫。このまま幸せを築けるわ。



「くしゅ、くしゅ……僕は嬉しいでしゅ。クリス様が幸せになれたでしゅ……。わわわ!? ぶほっ!?」

 泣いてしまったテッドを胸に抱き寄せるミザリー。
 案外お似合いな二人。


 アリッサはカインに愚痴を言っていた。

「ねえ、私にもギル並に素敵な彼を紹介してよ~」

「ふふ、それは僕の事? ――いたっ!? ちょ、殴らないで!?」

 二人は相変わらずね。






 私は思い出したかのように、カインに質問をしてみた。

「ねえ、カインっていつからギルバードと知り合いだったの? どこの貴族なの?」




 空気が止まった。



 ギルバードが考え込んでしまった。
 アリッサも頭を抱えていた。
 ミザリーが目を閉じる。
 テッドはキョトンとしていた。






 カインは……。
 カインは……。





 どこかで見たことがある笑いをしていた。胸が痛む……





「……はぁ、認識阻害術式かけていたのね~。クリスちゃんはすごいよね? ははっ! まだ行けるかな? うーん、もう限界かな? ……終わりたくないよね」




 笑っているカインは全く笑っているように見えなかった。




 ギルバードは呆然とつぶやいた。


「……カイン。……貴様は誰だ?」



 私の背筋が凍りついた。






しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...