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カイン

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「おーい、待ってよ!? 俺食われちゃうよ!」

 私達はパーティーで街の近隣にある山に出没したドラゴン退治の依頼を受けていた。

「ふ、ふふ……私の……精霊が回復してくれるわ……カインは……囮……」

 この中で冒険者としての経験が一番豊富なミザリーさんを中心に動く。

「ましゅ! ……『力貯め』充分でしゅ!」

 鋭い穂先の槍を構えたテッドがギルバードの後ろで槍を構える。
 ギルバードは大剣で身を守り、ドラゴンのブレスからテッドを守っていた。

「――ヒール! エリアヒール! マジックバリア! はぁはぁ……カイン頑張んなさい! もうすぐテッドの必殺技が炸裂するわよ!」

 カインは空中を飛び跳ねながらドラゴンを翻弄していた。
 無駄口とは裏腹で、その動きは優雅で鋭く、歴戦の戦士の動きであった。



 ――そう言えばカインって何者なの?

 槍が得意なおちゃらけた男の子。
 ギルバードの大切な友達。
 テッドの師匠。
 おバカだけど、クラスのみんなから愛されているカイン。

 ……今度聞いてみるかな?


「クリス! 援護しろ!」

 ギルバードの視線が私を射抜く。
 私は頷いた。

「うん! ドラゴンさんごめんね! はぁ!!!」

 私は手に持っていた短剣をドラゴンに向けて投げ放った。
 精霊の力が乗ったその短剣は光り輝いていた。

 ドラゴンの強固な鱗を軽々と突き破り、羽に穴が空いた。

「ギャギャ!?」

 テッドの雄叫びが上がった。

「ましゅゅゅぅぅぅ!!! ――穿くでしゅ!!」

 稲妻のような速度で槍がドラゴンの胸を捉える。

 ドラゴンの胸に槍が突き刺さった。
 もがき苦しむドラゴンの頭の上をカインが槍を構え落ちてくる。

 ドラゴンの頭が完全に消失してしまった。











 冒険者としての仕事を終えた後は、城下町にあるいつものカフェで食事をすることにしている。
 帝国の貴族たちは庶民の店を好んで通う。

 だって美味しんだもん。

 このカフェはケーキも美味しいけど、料理も絶品であった。

 今日は私はハンバーグという物を食べている。
 噛みしめるたびに肉汁が口の中で溢れ出てくる。
 ――うん、幸せ……。

 この時ばかりは胸の痛みを思い出さずにいられた。

 ――さっきのドラゴンだって、本当は……、短剣だけで消し炭にできたと思う……。




 ギルバードが私にサラダをわたしてくれた。

「ふん、野菜も食え。……このパスタもうまいぞ」

 あの日からギルバードは私にもっと優しくなった。
 優しいというよりも……ちょっと甘すぎじゃない!? っていうくらい変わってしまった。

 必ずいつも一緒にいてくれる。
 私の事を気にかけてくれる。

 ギルバードと一緒にいると、私も嬉しくなってくる。
 心が安らぐ。たまに胸がドキドキしてしまう……

 いつの間にかこんなにも私の心を埋めてしまっていたのね?

 ギルバードは首をかしげながら私に聞いてきた。

「どうした? 美味しくなかったのか? どこか具合が悪いのか?」

 私は笑顔になった。

「ふふ……幸せだなって思っただけよ。……私はギルバードに出会えて良かったわ」

 ギルバードは真っ赤になってしまった。
 私の手を無言で握る。

「…………大丈夫だ」

 ――そう、大丈夫。私は大丈夫。このまま幸せを築けるわ。



「くしゅ、くしゅ……僕は嬉しいでしゅ。クリス様が幸せになれたでしゅ……。わわわ!? ぶほっ!?」

 泣いてしまったテッドを胸に抱き寄せるミザリー。
 案外お似合いな二人。


 アリッサはカインに愚痴を言っていた。

「ねえ、私にもギル並に素敵な彼を紹介してよ~」

「ふふ、それは僕の事? ――いたっ!? ちょ、殴らないで!?」

 二人は相変わらずね。






 私は思い出したかのように、カインに質問をしてみた。

「ねえ、カインっていつからギルバードと知り合いだったの? どこの貴族なの?」




 空気が止まった。



 ギルバードが考え込んでしまった。
 アリッサも頭を抱えていた。
 ミザリーが目を閉じる。
 テッドはキョトンとしていた。






 カインは……。
 カインは……。





 どこかで見たことがある笑いをしていた。胸が痛む……





「……はぁ、認識阻害術式かけていたのね~。クリスちゃんはすごいよね? ははっ! まだ行けるかな? うーん、もう限界かな? ……終わりたくないよね」




 笑っているカインは全く笑っているように見えなかった。




 ギルバードは呆然とつぶやいた。


「……カイン。……貴様は誰だ?」



 私の背筋が凍りついた。






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