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恋するギルバード!
しおりを挟む俺たちは街を駆け抜け、帝国城まで急いだ。
――この広場を抜けたら後少しで……なんだ? 大気の振動が!?
空に浮かぶ攻撃魔法陣が妖しく光り、数多の攻撃魔法を帝国に向けて撃ち放った!
激しい轟音と共に、破壊の雨が帝国に襲いかかろうとしていた。
「攻撃でしゅ!? あわわわ……」
「テッド!」
クリスがテッドを庇うように身体を伏せた。クリスの身体の包まれたテッドはもがきながら立ち上がろうとしている。
「ぼ、僕がクリス様の盾になるでしゅ!! ク、クリス様……」
俺は無言で、二人の身体に覆いかぶさった。
「ギル!?」
「ギルバードさん……」
テッドの頭を撫でる。
クリスの身体を優しく抱きしめる。
俺は無愛想に聞こえる自分の声を、出来る限り優しい口調で二人に伝えた。
「――大丈夫だ。ほら空を見ろ……」
王国が放った攻撃魔法は帝国のクリスタル状のバリアに直撃していた。
バリアは僅かな魔法も通さず、全ての魔法を打ち消してしまった。
――ふん、帝国の技術力をなめるなよ? 魔法使いによる迫害され続けてきた歴史……。
俺はクリスの手を取って立ち上がらせた。
――手を握るだけで胸が高鳴る……くっ、今はこんな事を考えている場合じゃないのに……。
クリスは花火のように、魔法の火花を散らす空を見て呟いた。
「すごい……綺麗……」
クリスタルのバリアが当たった魔法が虹色になって消えていく。
帝国の空が虹で埋め尽くされていった。
俺は空を眺めているクリスを見つめて思わず声を漏らしてしまった。
「綺麗だ……」
「ふぇ!? ギ、ギル? は、恥ずかしいって!」
「はっ!? ち、違う。い、いや、違わないが、違う!」
「もう……ふふ、ギルだって素敵だよ……」
「……ふん」
俺に向ける笑顔は心を溶かしてしまいそうであった。
――いつからだ? 初めて会った時からだ。俺はクリスを見た瞬間、体中に電撃が走った。
どうやって話しかけていいかわからず、ぶっきらぼうな口調でしか話せなかった。この感情を制御することなんて不可能であった。
この感情の正体がわからなかった。いつしか俺はクリスの事を思うと胸が苦しくなってしまった。
王国がクリスに対してひどい行為をしていた事を知った時、俺は怒り狂った。……いても立ってもいられず、気づいたら自分の婚約者にして学園に乗り込んでしまった。
クリスが俺の事をどう思っているのか?
どうすればクリスは笑ってくれるのか?
クリスの好きなものは何か?
クリスと会うためにはどうすればいいか?
頭の中はクリスで埋まってしまった……
そんな状態になって、初めて自分がクリスに恋をしている事に気がついた……
空を見上げるクリスの瞳はキラキラと輝いている。
普通の令嬢には無い、心の強さを感じられる。
顔の綺麗さなんて関係ない。クリスがクリスだから俺はクリスを好きになったんだ……。
婚約者になった今でも俺は不安に思う……
クリスは俺の事が好きなのか? 本当に俺で良かったのか?
……
……
そんな事を考えていると頭に衝撃が来た!
「ちょっと、のろけてないで早く帝国城へ行くわよ!! 周りの冒険者だって城へ急いでるよ!」
アリッサが頬を膨らませて怒っていた。
確かに広場の周りには大勢の冒険者が帝国城を目指している。
――強制クエストの発動か……
冒険者は国から手厚い待遇を受けている。その見返りとして、帝国の危機の際は緊急クエストとして、帝国の傭兵隊に組み込まれる。
そしてアリッサが珍しくまともな事を言い出した。
「ねえ、帝国城下町の空に攻撃魔法陣を展開出来るのっておかしいよね?」
そのとおりだ。
ここは帝国の中心地である、帝国城下町だ。ここに攻め込むためにはいくつもの街と砦を超えなければならない。
「それを親父に確認するために城へ急ぐぞ……どうした?」
アリッサは立ち止まって、俺たちが走ってきた広場入り口の噴水を真面目な顔で見ていた。
「なにこの魔力……流れが……ちょ、ヤバいって!? ここだけじゃない……他にも変な魔力を感じるよ!! ギル!! みんなを早く帝国城へ!!!」
広場の噴水がまるで一枚の絵画のように切り取られた違和感を感じる。
その違和感が徐々に大きくなり、やがて違和感があった場所が四角く、真っ黒な闇に覆われてしまった。
――これは……転移か!?
俺はスマート水晶で親父との回線に繋いだ。
秒で俺のコールに出る親父。
『おう、どうした! 早く来い、婚約者もやっと連れてくるんだろ! がはははっ! 楽しみにしてるぞ!! ……なんだ、ヤバい事態か?』
『ああ、王国が直接転移で来るぞ。俺は街に被害が出る前に叩く』
『あん!? ……転移は禁忌だぞ!! ――おい、アルベルト、調べろ!! ……どうだ? …………くっ、マジじゃねえかよ。もうすぐ編成が終わる、俺達もすぐにでるから無理すんな』
俺はスマート水晶を切った。
親父を頼むぞ、アルベルト兄貴。
話している間にも黒い闇が大きくなって、帝国の広場を侵食していく。
その闇から一人の男が出てきた。豪華な魔法衣を着込んで、宝石を埋め込んだ杖を携え、たるんだ身体を振るわせていた。
――王国貴族兵!!
次々と貴族兵が闇の中から出てくる。
なにやら気持ち悪い笑みで談笑をしている?
その声はここまで届かない距離。だが、唇の動きでそれは理解できる。
『――ひひ、蛮族など虫けらだ!!』
『蛮族の女は奴隷にするぞ。殺すなよ? 家族の前で辱めてやるぞ!!』
『どうせ弱小国家でしょ? 聖女様のために皆殺しよ』
『反逆者クリスは生け捕りでいいのか?』
『ああ、死んでなければ四肢がなくても構わないそうだ』
『私あの女嫌いだったのよ。八つ裂きにしてうやるわ!!』
『とりあえず、ぶち壊すぞ!!』
『『おおぉぉーー!!』』
――貴様ら……クリスを……、帝国を……
繋いでいたクリスの手が震えているのが伝わる。
広場にいた冒険者たちの動揺が伝わる。
突然の奇襲に驚き戸惑っていた。
俺はクリスと手を繋いだまま腹の底から叫んだ!!
「俺はギルバード・ギュスターブ皇子だ!! 貴様らうろたえるな!! ――俺の仲間を見ろ!!」
テッドが槍を構えクリスの前に立つ。
アリッサとミザリーが強化魔法と強化精霊術を周辺一帯にかけまくっている。
クリスは自分の中のなにかと戦っているのか、静かに目を閉じていた。
――クリス……
俺はクリスの肩を抱き寄せる。
「――あっ」
「貴様らが知っての通り、俺には大切な婚約者がいる……。王国の非道な行いで傷ついた少女であった……」
周りにいた冒険者達がざわめく。
「皇子だ!!」
「S級冒険者のギルじゃねえかよ!! え!? あいつ皇子なの?」
「クリスちゃーん!!」
「俺、カインから聞いたよ? クリスちゃんが辛い目にあったこと……」
俺は告げた。
「王国は帝国を蹂躙しようとしている。貴様ら帝国冒険者ならしっかりしろ!! 奇襲など喰らい尽くしてやれ!! ――俺は誰だ? 最強の王の息子であるギルバードだぞ? ――うろたえるな!! 武器を取れ!! スマート水晶をオートモードにしろ!!」
バラバラにうろたえていた冒険者達の目の色が変わる。
足並みを揃えて、俺の後ろに隊列を組んだ。
――空気が変わる。
闇から出現した貴族兵のリーダー格が俺たちに気がついて凄まじい勢いで迫ってきた。
『おいおい、目の前に敵がいるのに棒立ちだぜ!』
『殺っちまえ!! 女もいるぞ!!』
『――魔法詠唱……』
――クズは黙れ!!!
『あば!?』
『た、隊長!!!』
『ひえ!? 防御魔法と貫くだと!?』
貴族兵のリーダーの身体が、俺が投げつけた巨大な精霊剣により真っ二つになった。
そのまま後ろにいた数十人の貴族兵が切り裂かれていった。
「――俺の怒りを受けてみろ……行くぞ貴様ら!!!」
「「「おおぉぉぉぉぉ!!!」」」
クリス……君は俺が守る……
帝国最高の冒険者達が王国貴族兵を喰らい尽くしていった。
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