21 / 41
嫉妬
しおりを挟む「せ、聖女様! 転移した貴族兵たちの反応が次々と消えております!!」
「聖女……転移七箇所のうち、三箇所の転移装置が消失……」
王国の魔法省の実験場の端にふかふかな椅子を用意させ、そこで私は成り行きを見守っていた。
両脇にいる新しい賢者のピッグスと、王国貴族兵の最高クラスのジョブ剣聖であるウェッヂが慌てふためいていた。
あのくそったれジジイ賢者が残した遺産を新たな賢者ピッグスに改良させて、数々の新魔法を開発した魔法省。
この転移魔法の力と聖女の魅力で共和国は三日で滅ぼせたわ……
私は手に持っていたワイングラスをウェッヂに投げつけた!
「あうち!?」
「なんでなのよ! 帝国は蛮族の国でしょ!? 手づかみで食事したり、剣と槍を突いてくるだけでしょ!!」
陰気で根暗な賢者がボソボソ呟いた。
「……帝国は偽装してました。国力が弱いと見せかけていました。……マジ、ヤバっす」
腹の底からむかつきが止まらない。
だってあの国にはクリスがいるんでしょ!!
なんで王国からいなくなってるのよ!! あんたは私のおもちゃでしょ!!
私が学食で優雅にお茶をしてるときに逃げやがって! ……次は絶対私の目の前で弄んでやる……
「ピッグス! まだまだ捨てゴマ(学生)は沢山いるわね?」
賢者ピッグスはメガネをクイッと上げた。
その動作がしゃくに触る
「……王国全土から取り寄せてます」
「ご褒美よ!」
私はピッグスの顔を平手打ちで打った!
「がはっ……はぁはぁ……あ、ありがたき幸せ……」
私は椅子から立ち上がった。
「ウェッヂ! 剣聖部隊の準備は?」
「はい!! 喜んで!!」
意味がわからない返事をするウェッヂの頭をグーで殴った。
「質問にはちゃんと答えを言いなさい!! この脳筋剣聖!!」
本当にこの二人は実力と顔だけはいいけど、頭のねじが外れているから困るわ。
私みたいに常識ってもんを知らなきゃ!!
ウェッヂは顔を赤らめながら痛みを我慢している。
「もう我慢できないわ!! あ、レオン……あなたも来るのよ?」
私達から少し離れた所にいたレオンに声をかけた。
レオンは素敵な横顔で転移していく王国兵を見守っていた。
――うーん、素敵なご尊顔ね……でも、少し飽きたかもね……そろそろ捨てちゃうかな? 最近術のかかりが悪そうだし……
私の声に答えるレオン。
「……はい。すぐに準備します」
「あんたまだ準備してなかったの!! これは戦争よ!! あなたがこの世界の王になるために必要な事よ!!」
「すみません……すぐに……」
レオンはトボトボと武器庫へと向かっていった。
その姿を見ると無性にムカムカして来る。
――クリスの婚約者の時はキラキラしてたのに、手に入ると色褪せるわね……
うん、気を取り直して行くわ!!
「聖女のこの私が出るわよ!! 一気に壊滅させるわ!!! ついてきなさい!!」
私の出陣で歓声が実験場にあふれかえる。
歓喜の涙を流す王国民たち。
その中には父様や母様、レオンのお父様もいるわ。
――王国なんてどうだっていいの。……私は……クリスを……あんたを殺したいだけなのよ!!!
私は転移装置の闇に一歩足を踏み入れた。
一瞬だけ脳が揺れる感覚が起こる。
すぐに正常に戻ると、私はあたりを見渡した。
――ここが帝国……意外と文化的な街ね……略奪するのには悪くないわ!!
街の入り口だろうか? 貴族兵達が街を破壊しながら帝国兵と戦っている。
そして帝国兵は貴族兵たちの物量に押されていた。
「おーほほほっ!! 戦は数よ!! ほらみんな! 私が来たからもう大丈夫よ!! 一気に攻め落とすわ!!」
貴族兵は手を止めてしまった。
帝国兵に殺されながらも歓喜の涙を流していた。
「――おお!! 聖女様だーー!!」
「我らの勝利が決まったぞ!!!」
「ばんばーい!! ぐはっ!?」
「聖女様のために道を開けろ!!」
――そうよ、私は一番なのよ!! クリスなんて目じゃない。聖女なのよ!!
「踊りなさい!! ――聖女ブースト!!」
貴族兵達の能力値が大幅に上昇した!!
あいてが魔法が効きづらいなら、威力を上げればいいだけよ!!
「――さあ行きなさい!! って――え!?」
カッ!!!
一本の短剣が私の足元に刺さっていた。
――なによこの短剣!? 嫌な力を感じるわ? ――え、ちょっと!?
風切り音に気がついて上を見上げたら、空が黒い何かで埋まっていた!?
――落ちてこない?
そして、貴族兵達が慌てて逃げ惑っていた!
――はぁ!? 戦えよ、無能が!!!
貴族兵達を喰らい尽くすように、突然大きな剣が飛び交った。
稲妻のような槍が四方から飛んで来る!?
切り刻まれ串刺しになる貴族兵。
「あーもう、仕方ないわね!! ―聖女バリア!!」
大きな剣と槍は私のバリアで弾き返した。
「ウェッヂ! ピッグス! 進軍して!! 空の攻撃は私が守るわ!!」
「「はい!!」」
私たちが新軍しようとした時、空を埋めていた何かが降ってきた。
カッ!
カカッ!!
ドカカカカッ!!!
さっきと同じ短剣が頭の上から降り注ぐ!?
「大丈夫よ! 私のバリアで!? 痛!? え!? なんで!?」
「せ、聖女様!! 熱い……熱いぞ!!」
「痛い痛い痛い!? し、死ぬ!!」
「ぐほっ……」
短剣は私のバリアを無視して襲いかかってきた。
その威力は尋常じゃない……
私の身体中に短剣が突き刺さる……激痛が私の身体を支配する……
やまない短剣の雨……
ウェッヂとピッグスが私の横で血を流しながら倒れている。
貴族兵で立っているものは誰もいない……
そして私の意識が遠くなる……
これが……死?
こんな所で私は死ぬの?
わかるわ。これはあの糞女の力ね。
いつも私の上を行く。
いつも私に優しい。
いつも私の欲しい物を奪っていく。
いつも幸せそうな顔をしている。
その笑顔を奪いたかった。
その肉体を汚したかった。
その心を壊したかった。
あの日私は聖女となってあの女の上に立った。
――聖女? そうよ。聖女だから奇跡を起こせばいいのよ……
跡形もなくなったはずの私の胸が高鳴った。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる