26 / 41
クリスの怒り
しおりを挟む王国の大通りを歩くと、王国民は何事か? と私達を見る。
私の姿を見ると、ぎょっとした表情になった。
先頭には、剣が刺さっていて簀巻きになっている聖女プリムと、足を引きずりながら歩くクソジジイと、呆けた顔のクズ王がトボトボ歩いていた。
ざわめきが街を伝わる。
「せ、聖女様!?」
「王様!! 公爵様まで!!」
「あれは反逆者クリスよ!! 王国に帰って来たのね!?」
「ぶち殺せ!! 石を投げろ!!」
「いや、待ってよ……聖女様と王様が捉えられているじゃん? もしかして……」
「負けたの?」
「そんなの関係ない! あんだけしか人数がいねえよ! 殺っちまえ!!」
ここで王国民の罵声を聞くと、学園の帰り道に石を罵声と共に投げつけられた思い出が蘇るわ……
変装して市場に忍びこんだときは、何も無かったのにね……
聖女がうめいていた。
「ぐむむむ……あんた達……やめなさい……絶対逆らわないで……」
聖女の声を無視して、民衆が石を投げ出した。
血気盛んな若者は魔法を唱え始めた。
「うざいでしゅ!!」
テッドの槍が石を弾き返す。
その石が砕け、民衆に散弾のようにぶち当たる。
「目、目がーー!」
「いてっ!? あ、足が……」
「くっそ、無能の分際で!!」
「――魔力足りてる? ちょっと弱すぎじゃない?」
怒りを震わせる声でアリッサが魔法を解き放った。
王国民の魔法を覆い尽くすようにアリッサの強大な魔法が岩石を作り出し、王国民を押し潰して行った。
ギルはそんな光景を見て、私の心の心配をしているのか、手を強く握ってくれた。
「ふん、俺の出番はなさそうだな。……クリス、疲れたら言ってくれ。俺が支えてやる」
「ギル……。ありがとう、でも大丈夫よ。ギルは私の横で見ていて。これは私のけじめ。無能令嬢と呼ばれたクリスを捨てる儀式よ」
私は王国民を見渡した。
その顔には混乱と怒りに満ちあふれていた。
――私は覚えているわ。私に暴言を吐いた奴を、石を投げつけた奴を……
でもね、あなた達は聖女の呪いが解けているはずよ?
それなのに心が汚い……。
私達は王国中央にある広場まで歩いた。
その間も、罵声が止まらない。私達に近づくと殺されるとわかってからは、遠くから石を投げるだけであった。
広場の中央に王と公爵と聖女を立たせた。
――自分の罪を知ってもらわなきゃね。
王国民は私達を遠巻きに見ているだけであった。
そこには王国兵も混じっていたが、彼らはどうしていいかわからないで立ちすくんでいるだけだった。
そして、王国民はこんな状況なのに私たちに罵声を浴びせる。
「聖女様なにやってるんだよ!? 負けんじゃねえよ!!」
「私達は高貴な王国民よ!! 無能令嬢ごときに屈しないわ!!」
「そうだそうだ!」
「おい、お前兵士だろ? 魔法で焼いちまえよ!」
「王様やめちまえ!!」
「あれはレオン様じゃねえか!! 無事だぞ!! 無能令嬢をぶち殺してくれ!!」
最後尾でうつむいていたレオンが鋭い目で王国民を見た。
「……ここまで腐っていたのか……」
レオンは父であるクズ王の元へ近づいた。
「――おお、我が息子よ……は、早く私を助けるんだ……へ、兵士達はなぜ動かない……私は何も悪いことをしてない!? この無能令嬢を早く始末するんだ……」
レオンにすがりつくクズ王。レオンの顔は苦虫をかみ潰したような顔をしていた。
「……父上。もう終わりです。俺たちは王国民の誇りを失っていました……俺は化け物が支配する国はもうごめんです!!」
レオンは手に持っていた剣でクズ王の右腕を切った。
「――あわ、あわ、あわ!? ――ヒール!? ――ヒール!? な、なぜ魔法が使えん!! い、痛いぞ!? ぎゃぁーー!!!」
レオンはうるさいクズ王を無視して私の前で土下座を始めた。その土下座はすっかり板に付いていた。
王国民がざわつく。
「おい、土下座だと!?」
「王族が無能に土下座? やばくね」
「ていうか親父の事切りやがったぞ!? 乱心か?」
レオンは立ち上がって王国民に向かって叫んだ!!
「貴様ら目を覚ませ!! ――なぜ最高の令嬢のクリスが無能と呼ばれなきゃいけなかったんだ!! 魔力がゼロ? お前らクリスの優秀さを知っているだろ!! クリスの優しさを知っているだろ! よく考えろ……自分の思考のおかしさについて……。そして、それがわからない奴は消えてなくなれ!!!」
「あいつ何言ってんだ?」
「バカじゃね? 無能は無能だよ」
「聖女様、早く本気だしてよ。その拘束だってすぐ解けるんでしょ?」
「死ね死ね死ね!! 無能王子も死ね!!」
レオンは顔を手で覆い尽くして嘆いていた。
「ああ……クリス様……申し訳ございません……もう……王国は……」
いいの。私は王国を捨てた女。
私の居場所は帝国だけ。
だから……ここは聖女を封印する地にするわ。
聖女と同じ人間の心を無くした王国民を使って……
私が力を使おうとしたとき、クソジジイが私に向かって懇願を始めた。
「ク、クリス……よくやった……私の思った通りの結末だ。……試練を与え、クリスが成長するために……私は心を鬼にして……。だから、私だけは助けろ!! 妻はどうでもいい!!! 私は公爵だぞ!! 偉いんだぞ!! いずれは王を暗殺して私が王国を支配する予定だったんだぞ!!! ――クリスはもちろんお姫様になれるぞ? さ、さあ、私を助けろ!!!」
「はっ!?」
アリッサが思わず声を上げていた。
「……」
「信じられないでしゅ」
「――クズだな」
「――バイバイ」
私は心を無にして短剣で父親だったナイツ公爵家の当主の首を跳ね上げた。
王国民がやっと状況に気がついたのか、広場に悲鳴が響き渡る。
「ね、ねえやばくない?」
「だ、大丈夫だろ……聖女様もいるし……」
「でも剣刺さってるよね……」
「――俺はクリス派だったんですよ!」
「バカ! お前一人だけ逃げるつもりか!! 俺も土下座……」
「ていうか王様と公爵死んでも、あいつら数人しかいないじゃん! だれか肉壁になってあいつら殺してよ!!」
私は王国民に告げた。
「――もう遅いのよ。あなた達のしたことは私は忘れない。無能令嬢とバカにされ、一度は自死を決意したわ……。それでも私は大切な仲間……テッドのおかげで生きる決意をしたの。帝国で出合ったみんなのおかげで今この場にいるの! ……聖女に操られていた? ううん、数刻前から聖女の力は消えているはずよ? それがあなた達の本性なのよ」
王国民は怒りの感情から、恐怖へと変わっていくのが目に見えてわかった。
私の声の力が王国民に伝わっているのだろう。
「――あなた達は聖女という名の悪魔を封印する簡単な仕事を与えるわ。一生かけて悔い改めなさい!!!」
私は力を徐々に強くしていく。
恐怖が絶望の表情へと変わっていった。
「そして地獄へおちなさい」
首が無い公爵の胸に大穴が開いた。
私は聖女の首根っこを掴んだ。
「お、お姉さま!? わ、私は可愛い妹ですよ!! ちょっと、力が手に入ったから調子乗っちゃっただけですわ! ね、ねえ、過ちってことで許してくれないかしら!?」
「――駄目よ。あなたは妹じゃないわ。臭いでわかるわ」
「そ、そんな!? ――なんで主様と連絡が付かないのよ!! 私は見捨てられての!? ねえ、お姉さま!! 助けてよ!!!」
公爵の腹にプリムを近づけると、大穴からいくつもの手が這い出てきた。
「ひぃーー!?」
「あそこには、あなたのせいで死んだ亡者がいる……と思うわ。うん、多分ね。大丈夫。一人じゃないわ。ここにいる王国民と一緒だからね」
私はプリムを公爵の腹に出来た大穴に、足から無理やり押し込んだ。
プリムは必死にもがいて穴から逃げ出そうとするが、亡者の手が逃さない。
プリムに顔に亡者の手が絡みつく。
「ああ……こんなところで……私の計画が……主様……カ……様……」
プリムは闇に飲まれて完全に消えてしまった。
封印はまだ終わっていない。
でも……プリムが消えた事により、心に平穏が訪れた……
まだ気を抜いちゃ駄目……しっかり封印するのよ!
――心が聖女と同じ者を感じ取るのよ!
私は力を開放した。
走って逃げていた王国民の頭上では雨が降り注いだ。
雨に触れると、黒い煙を出して苦しむ王国民……
「さよなら」
煙を出した王国民たちは、不思議な強制力で次々と公爵の大穴に飛ばされていった。
私達はその作業を粛々と見ているだけであった。
最後の王国民が大穴の中へと消えると、この場には王国民がほとんどいなくなってしまった……
公爵の身体が徐々に鈍色になり、石化していった。
ギルが石化した公爵に精霊剣を突き刺した。
「……ふん、これで俺の力も合わさって、俺とクリス、二人がいないと封印が解けることはない。……クリス」
ギルが私の頭を優しく撫でてくれた。
私の高ぶった感情が落ち着いていく。
「ギルーー!!!」
全て終わった……これでこの国は本当におしまい。
私達が抱き合っていると、空の上では帝国竜騎士団の竜の咆哮が聞こえてきた……
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる