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ギルとお父さん

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 ――あと一ヶ月で結婚式か……。

 クリスと出会ってから、時が過ぎるのがあっという間だったな。
 俺は少しは変われたのか?

「おい! クリスちゃんとの新婚生活を想像して呆けているのか!?」

「む、うるさいぞ、親父」

「がはははっ! 照れるな照れるな! ……しかし、ぶきっちょのお前がついに結婚とはな……感慨深いぜ……」

「……親父に似たんだ」

「はん!」

 帝国城の親父の執務室で俺たちはお茶を飲みながら、クリスとの結婚式について打ち合わせをしていた。
 ささやかな結婚式を……と思っているが、俺は皇子だ。そういうわけには行かない。
 ……クリスのドレス姿は綺麗だろうな。

 あと一ヶ月。
 俺たちはついに結婚出来る。……カインにも俺たちの晴れ姿を見せたかったな。
 あいつはどこにいるんだ……。

 執務室の扉が突然開いた。
 こんな事を出来るのは限られている人間だけだ。
 兄のアルベルトか……帝国に大きく貢献している賢者様だけであった。

「ふぉふぉふぉ! 久しぶりじゃのう! 元気じゃったか?」

「おお、賢者殿! いつの間に帝国にいらしたのですか? ささ、一杯いかがですか?」

「お久しぶりです。……クリスに住居を貸し与えていただきありがとうございました」

「ふぉふぉ、よいのじゃ。……聞いたぞ? クリス殿と結婚するんじゃな? 儂ももうちょっと若ければのう~、誰かと結婚してみたかったのう」

 賢者様は執務室の椅子に腰をかけた。
 親父が得意げに賢者様に語りだした。

「賢者殿がいない時、王国に攻められて大変だったんですよ。……うちのギルとアルベルトが張り切ってくれたおかげでどうにかなりましたよ」

「ふぉふぉ、ちゃんと見ていたのじゃ。……クリス殿もすっかり元気を取り戻して、本当に良かったのじゃ……」

「はい、本当に良かったです……」

 そもそも賢者様が俺とクリスを引き合わせてくれなかったら俺はクリスと出会えなかった。
 本当に、

「……感謝しています」

「お、珍しいな! お前が頭を下げるなんてよ! 明日は槍でも降るんじゃねーか!」

「……うるさい」

 賢者様はカップのお茶を飲み干して席を立った。

「ふぉふぉ、儂は行く所があるので、退散するのじゃ。……儂も結婚式には出るからよろしくなのじゃ! あでゅ!!」



 執務室を出ていった賢者様を見送って、俺と親父は結婚式の打ち合わせに戻った。

「そろそろアルベルトと宰相もくるだろ? 本格的な打ち合わせはあいつらと一緒がいいだろ?」

「む、それはそうだが……」

「がははっ! たまには親子水入らずで昔ばなしでもしようぜ! あれはお前が小さかったころ……」


 そうだな。久しぶりに親父とのんびり過ごすのもいいかもしれない……。
 いつも政務で忙しくしている親父がこう言っているんだ。


「……ああ、悪くないな」


 家族の愛情……こんなバーバリアンな親父に面と向かって言えないが、親父には感謝をしている。
 俺に愛情を注いで育ててくれて……

 結婚式では俺の晴れ姿を見せてやる……。




 そんな事を考えていると、俺のスマート水晶がブルブルと震えた。

「……テッドからか? ……クリスが来れない。……様子がおかしかった?」

 俺に上機嫌で喋っていた親父は真剣な顔になった。

「おい、てめえの大切な婚約者だ。心配なら行け。どうせ結婚式の段取りは宰相が決めちまう。……無愛想なお前がそんな顔になるんだ。クリスちゃんはすげーな!」

 俺はその言葉に甘えて席を立った。

「ふん……すまん」

 俺は扉に手をかけながら足を止めてしまった。
 親父に背を向けながら呟いた。




「……俺を育ててくれてありがとう」




 言葉が自然に出ていた。
 俺は親父の反応を見るのが恥ずかしくて、そそくさと執務室をでた。




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