じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
14 / 860
1章 月の平原

3-3

しおりを挟む
3-3

ズズーン!ゴロゴロゴロ、バキバキバキ!
土煙を上げて転がっていった岩が、細木にぶつかり、なぎ倒す。バリバリと木の折れる、雷鳴のような音が辺りに響く。ギャアギャアと騒々しい声を上げて、黒い鳥がいっせいに飛び立った。

「これだけやれば、絶対目立つよな」

俺はゴーレムが、ボウリングよろしく放り投げた岩の成果を見て、うんうんうなずいた。俺たちは森を背にして陣取ると、ゴーレムに四方八方へ岩をぶん投げさせた。森に投げれば木がバキバキと折れ、荒れ地の崖に投げれば、騒々しい音と土煙をあげながら転がっていく。これだけやれば、奴が例え森のどこにいようと、確実に耳に入るはずだ。

『この騒音、まず間違いなく、普通の獣なら逃げていくでしょうね。もしこの騒ぎによって、こちらへやって来る獣がいたとしたら……!』

アニはそこで、何かに気がついたようにはっと言葉を区切った。

「……そいつは、確実にまともな獣じゃないな」

今度は俺にもわかった。どくんと、心臓がわななく。間違いない、強い力を持った何かが、こちらへ向かってくる……!

『背後の森からです!二時の方向……速い……なっ、もうすぐそこ!?敵影捕捉まで、三、二、いちっ!』

バサァー!茂みを切り裂くように、恐ろしい鉤爪がにゅっと姿を現す。次の瞬間、森の暗がりの中から、あの鬼が飛び出して来た!

「ガアアァァ!」

「来たな!狙い通りだ!」

『作戦通りにいきましょう!まずは動きを封じるのです!』

俺は鬼から目を離さないようにしつつも、急いで後ろに下がった。普通に戦っては、勝ち目は薄い。だからこそのこいつだ!

「頼んだぞ!トゥーム・ストーン・ゴーレム!」

ズズズッと石臼のような音を立てて、ゴーレムが動き出す。石でできた体はあまり早くは動かせないから、ゆっくり、慎重にだ。だけど、その弱点を相手に気取られてはいけない。俺はあえて余裕たっぷりの表情で、自信ありげに腕を組んでみた。

「ふははは!俺と戦いたくば、まずはこいつを倒していくんだな!」

『バカなこと言ってないでください。早く屈まないと、首が吹っ飛びますよ!』

え?うわ!ゴーレムの柱のような腕が迫ってきている!

「おわっとお!」

みっともなく地面に転がると、頭上をゴーレムの腕が唸りをあげて通り過ぎていった。その直後に、ズガン!と物がぶつかる衝突音。そちらを振り向くと、鬼の鉤爪と、ゴーレムの腕とがぶつかり合っていた。あの鬼、ゴーレムのパンチでも吹っ飛ばないなんて……やはりとんでもない怪力の持ち主だ。

「ギギギギッ!」

鬼は唸ると、鉤爪をゴーレムに突き立てる。すると岩でできたゴーレムの腕がシュウシュウと煙を放ち、鉤爪がずぶずぶと突き刺さっていく。岩すら溶かすとは、なんて強い腐食毒なんだ!

「ヤツを振り払え!まともに組み合ったら部が悪いぞ!」

俺が叫ぶと、ゴーレムは腕をブンと振って、鬼を吹っ飛ばした。しかしヤツはくるりと宙返りすると、華麗な身のこなしで着地した。これくらいのことでは全くノーダメージらしい。一方ゴーレムの腕からは煙がブスブスと上がっているが、まだ崩れる様子はない。

「よし、まだまだいけるな!?」

『いえ、今のでこちらはかなりのダメージを負うことがわかりました。短期決戦に持ち込まないと、ボディが保ちませんよ!』

それもそうだ。どの道、あまり長引かせるつもりはない!

「ヤツを捕まえろ!爪に触れないよう、腕ごとねじ伏せるんだ!」

ズゴゴゴ!ゴーレムが腕を振り上げ、猛然と突進して行く。だが。

「あっ!しまった!」

なんてことはない。ゴーレムが、こけた。重い岩同士が組み合わさっただけのゴーレムは、機敏な動きには対応できないのだ。ゴーレムが危うげにぐらつく。

「グガアアァァ!」

その隙を、鬼は見逃さなかった。すぐさまゴーレムの懐に飛び込むと、両爪を深くゴーレムの体に突き刺し、そのまま斜めに爪を振り下ろす。ゴーレムのボディに、Xの文字が刻まれた。ゴーレムは黒い煙を噴き上げながら、こと切れたように崩れ落ちていく。ズゴゴゴ……。

「ゴーレムが、やられた!」

『敵、来ますよ!迎え撃つ準備を!』

迎え撃つったって、ゴーレムがいなければ他に戦闘能力は無い。そのゴーレムが倒れた今、もう戦う術は残っていないってことだ。

「く……」

冷汗が頬を伝う。鬼は今倒したゴーレムを足蹴にし、その上をひたひたと歩み寄ってくる。その深紅の両目はギラギラと輝き、俺を真っすぐに射抜いていた。思わずごくりとつばを飲み込む。

「ガエゼ……」

鬼は牙をむき出しにして唸る。

「ソレヲ、カエセェェェーー!」

鬼の咆哮。うぅ、背中に震えが走るぜ。けど、ここからが俺たちの作戦の真骨頂だ。俺はドクドクと脈打つ心臓を必死になだめながら、その時を待つ……今だ!

「……ッ!?」

鬼の動きが止まった。なぜなら、その両足に太いつる草がぎっちり巻き付いているからだ。

「かかったなぁ!」

あのゴーレムは、実はおとりだ。倒されることも想定して、俺たちの作戦は組まれている。そもそもあの小さな鬼を捕らえるのに、あんなバカでかい図体は必要ないからな。その足さえ取ってしまえば、動きは止められるのだから。

「ゴーレムの中に、パーツとは別のレイスたちを仕込んでいたのさ!お前が隙を見せた時に、捕獲するための罠としてな!」

なんてことはない。森からつる草を引っ張ってきて、そこに別のレイスを憑依させておいただけだ。アニいわく、実体のないレイスでも、実体いれものを与えてやれさえすれば、使い道は無限にある。

『気持ちよく演説してるところ悪いですが、全然聞いてませんよ。それより早くしないと、あの拘束も長くはもちません!』

「おっと、そうだった。まだ仕上げが残ってる!」

そう。まだ“本命”である、俺の仕事が残っている。所詮はつる草、怪力の鬼を抑えておけるのは一瞬だろう。だけど、それで十分だ!俺はこの作戦を打ち合わせた時の、アニの推測を思い出した。



『思うに、あの鬼は少女が死亡した後、この森の異常に濃い精気によって魔物化したものではないでしょうか』

「死んだあと?」

『ええ。生きたまま魔物になったにしては、体躯が当時のまま、変わっていません。生物であるなら、成長なりの代謝で体が変化しているはず。それが無いということは、一度死亡し、魔物になることで蘇生したから、と考えます』

「蘇生……ってことは」

『いわゆる、ゾンビ……あなたの能力の、適応範囲内です』

「ゾンビ……それなら、能力でいうことを聞かせられるな」

『ただ、まだ確実とは言い切れません。もしかしたら、なんらかの要因で姿かたちが変わっていないだけかも。死を経ていない相手に対しては、貴方の能力は何の意味も成さなくなります。最後の最後は、ギャンブルになってしまいますね』

「……上等だ。もしハズレたら、そん時はそん時でどうにかしよう。俺が望んだことなんだから、どっちに転んだって後悔しないさ」

『……わかりました。せいぜい、幸運を祈りましょう』



俺は短い回想を終え、現実に戻ってきた。目の前には、拘束をほどこうともがく鬼がいる。けど、目の前にしてはっきりわかった。コイツに対して、俺の“魂”が震えている。うまく言葉にできないけど……けど、わかるのだ。

「いくぜ!」

俺は高く足を振り上げると、倒れたゴーレムの上に飛び乗った。ごつごつした体の上は走りずらいけど、それでも俺は全力で駆けていく。

「ギギッ!」

鬼が俺に気づいて、ぎょっとしたように身構えた。目の前に迫る俺に対して、鉤爪を突き出してくる。

『あぶない!』

「っとお!」

すんでのところで顔だけそむける。けど、かすった。頬が焼けるように痛む。

「くぁ……っ!」

顔を真っ赤に燃えるナイフで切り付けられたみたいだ。俺は痛みににじむ涙をやせ我慢しながら、不敵にニヤリと笑って見せた。

「やってくれるぜ、じゃじゃ馬め!だけど、ここまでだ!」

俺は右手を高く掲げる。

「我が手に掲げしは、魂の灯火カロン!」

右手が、陽炎のように輪郭を失っていく。俺はその手を、鬼へと突き出す。

「汝の悔恨を我が命運に託せ。対価は我が魂……!」

鬼は俺の手を見て、まるで刀でも突き付けられたように、びくりとのけぞる。俺はそのまま手を伸ばすと、鬼の胸の真ん中――魂の位置に、右手を重ねた。

「響け!ディストーション・ハンド!」

ブワー!
俺の右手が、いや魂までもが震え、鬼の魂と共鳴していく。憎悪に汚濁された精神の歯車が、少しずつ人の心を取り戻すように調整|《チューン》されていくのが分かった。

パリーン!
突然、ガラスが割れるような音がして、鬼を覆っていた紫のうろこが飛び散った。そしてその中からは、年相応にかわいらしい顔をした、一人の少女が現れた。



「お……」

少女は真っ白な髪と、同じく生気の感じられない、紙色の肌をしていた。ゾンビなんだから、当然か。けどいわゆるゾンビのように、顔が腐さってたり、目がポロリとこぼれてたりはしない。よかった……ただ、体のあちこちにはやけどのような傷跡があった。

「ん?」

そして、そのとき気づいたわけで、完全に意図してなかったんだけど。胸に重ねた右手が、むにむにとやわらかいのだ。そうか、うろこがなくなったから……

「っ!」

少女が、我に返ったように目を見開く。

「あ、ごめんぐべっ」

気づいたら俺は、グーで殴り飛ばされていた。



つづく
====================

Twitterでは、次話の投稿予定や、作中に登場するモンスターなどの設定を公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma

読了ありがとうございました。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...