20 / 860
1章 月の平原
5-1 村人の襲撃
しおりを挟む
5-1 村人の襲撃
ジェスから明かされた真実は、俺の想像以上に重苦しい内容だった。胸のあたりがずっしりと重たく感じる。
「後は、あなたも知っている通りよ。あの子は森で死んだことになった。ある村人が見つけたの。あの子が魔物に襲われた現場、とやらをね。そこには、あの子の靴だけが残されていたらしいわ」
あ……それが、ばあちゃんに渡されたあの靴か。
「もちろん、それもお父様が手配した役者でしょうけど。お父様は方々にお金をばらまいて、あの日の事件をきれいに隠してしまったわ。後には、偽物の真相だけが残った。あの子の死は不幸な事故、礼拝堂は出火元不明……私が全ての原因だったのに、そのすべてから私の存在はぬぐい隠された。そして私はそれらを汚れた足で踏みにじって、いままでのうのうと生きてきたのよ」
「そんなことが……あったのか。だからフランは……」
「恨んで当然でしょうね。私だってぎょっとしたわ。恰好は少し変わっていたけれど、顔はあの日、私が見捨てたままなんだもの。きっと……」
復讐に来たのね。と、ジェスはつぶやく。でもそれは間違いだ。フランセスを連れてきたのは俺であって、フランセスの意志ではない。恨んでいないとは言えないだろうけど……
「なぁ、もう一度フランセスとよく話してみないか?」
「え?でも、私なんかが……」
「あんただって、フランセスを助けようとはしてたんだろ?フランセスもそれを誤解してるのかもしれない。それを正さないと、きっとお互い相手のことを間違ったままになっちゃうぜ」
「けど……」
「な?今度は俺がちゃんとフランセスを押さえておくから。話してみようよ」
ジェスはなおも、ぐずぐず渋っている。その時不意に、アニがリインと鳴った。
『主様。なにやら人影が近づいてきます。それも大勢』
「え?」
慌てて周囲を見回す。すると村の方から、たいまつの明かりがゆらゆらと、列をなしてこちらへ向かってくるのが見えた。
「なんだ……?」
『嫌な予感がしますね』
やがて、ざっざという大勢の足音と、金属がかちゃかちゃとこすれる音が聞こえてきた。ジェスも異変に気づき、音のほうへ振り返る。するとジェスは、か細い声でこう言った。
「お、父様……?」
人影はどんどん近づき、たいまつに照らされた顔が見えるくらいの距離になった。そこにいたのは、フランク村長と、剣や槍で武装した男たちだった。
「お父様、どうしてここに?それに、その方たちは……?」
ジェスは困惑した様子でたずねる。フランク村長はジェスの姿を見ると、大きく目を見開いた。
「ジェス、おお……なんとむごい姿に!」
その時はじめて、ジェスは自分の格好に気づいたようだ。慌てて、フランセスにもみくちゃにされた衣服を整える。フランク村長はそんなジェスに駆け寄ると、改めて愛娘の姿を確認する。そして次に、俺を憎悪のまなざしで睨み付けた。
「貴様……わが娘に手を出したな!」
「え?」
「えぇ?」
俺とジェスが同時に声を上げる。なんだって?俺がジェスに?けど冷静に考えれば、ジェスの服は乱暴されたようにボロボロだ、顔は涙の跡でぐしゃぐしゃだし。状況だけ見れば、俺がすごい悪い男みたいだな?
「ご、誤解だ」
「誤解よ!お父様、私なにもされていないわ!」
俺よりも早く、ジェスが反論してくれた。しかしフランク村長は、優しくジェスの肩に手を置きかぶりを振る。
「あぁジェス……みなの前では辛いだろう。何も言うな、あの男の正体もわかっている。あとは私に任せなさい」
「けど、お父様……」
「おい!お前たち、ジェスを安全な所へ!」
「お父様、聞いて!ちょっと、はなして!」
フランク村長が呼びつけると、屈強な男が二人やってきて、ジェスを囲んで連れて行ってしまった。
「あーっと、村長さん。誤解されてるみたいだから、ちょっと聞いてくれないか?」
「黙れ!薄汚い暴漢め。よくもわが娘を!貴様の正体はわかっているぞ。よくも騙してくれたな……呪われた勇者が!」
「っ!どうしてそれを……」
まずいな、勇者だってばれた。今ここでばれるのは、二重の意味でまずい。この村にとって、勇者は災悪の象徴であること、そしてそれを隠してたってことだ。
「やはりな。自分の正体を隠して、こそこそ嗅ぎ回るようなマネをしおって!お前の企みはなんだ!」
「話を聞いてくれよ。確かに俺は勇者だが、別に悪さはしてないし、これからするつもりもないぞ」
「ふん!猿芝居も大概にしたまえ。すでに証拠も上がっているのだ」
証拠だって?フランク村長が何か合図をすると、一人の男が老婆を引っ掴んで前に連れてきた。俺はその老婆に見覚えがあった。
「ばあちゃん!」
後ろ手に手を掴まれて、ばあちゃんは大柄な男に引きずってこられた。その表情は虚ろで、感情は読み取れない。
「おい!ばあちゃんになにしてるんだ!」
「貴様と共謀している可能性があったのでな。同行してもらったのだ」
「共謀ぅ?」
「きみの行動を我々が把握してないとでも思っているのかね?貴様が村に帰ってきた時から、ずっと監視させてもらった。ヴォルドゥール家に立ち寄ったことも把握済みだ」
俺はフランク村長の言葉を噛み砕く。俺が真っ先にばあちゃんちに寄ったことを知って、ばあちゃんも俺の仲間だと思ったってことだな。俺が勇者というのも、恐らくそこで知ったんだろう。けれど、俺はそもそも悪だくみはしてないし、無関係のばあちゃんを巻き込むのは許せない!
「ばあちゃんは関係ない!早く解放しろ、話なら俺がいくらでも聞いてやる!」
「黙れ!質問するのは我々だ。勇者の命令など、二度と聞くものか!」
ダメだ、話が平行線だ。フランク村長は憎悪に濁りきった目をしているし、それは後ろの男たちもみな同じだった。一方的な会話に、俺もだんだんイラついてくる。
「ヴォルドゥールさんからすべて聞いた。貴様が勇者であり、死霊術などという邪悪な能力を持っているということ、そして王国から手配された、重罪人だと言うこともな!」
「ちっ、みんなおんなじことを言うんだな。おい、なんでネクロマンサーってだけで罪人扱いなんだよ!そりゃ、イメージが悪いのは否定しないけど、印象だけで罪が成立するって言うのか!」
「屁理屈を!印象だけだと?どの口が言う!現に貴様は、その能力を悪用して、この村を支配しようとしたではないか!」
「はぁ?」
俺は怒りを通り越して、ぽかんと口を開けてしまった。何だって?誰が、村を支配するって?
「とぼけるのも大概にしたまえ!貴様はあの呪われた森に行き、ヴォルドゥール家の孫娘を蘇らせたのだろう。そしてそれをネタに私を恐喝し、村長の座を奪おうと画策した!そこにいるゾンビが、何よりの証拠だ!」
フランク村長はビシッとフランセスを指さした。フランセスはまだ俺の言いつけを守り、きちんと座っている。よかった、それがなかったら今すぐ村長に飛びかかっていたかもしれない。俺だってこんないちゃもんを付けられて、沸騰寸前だ。
「あのなぁ、村長。それ、被害妄想ってやつだぜ。なんで俺がこの村を欲しがるんだ?俺、今日初めてここに来たんだぜ?」
「ふん。貴様ら勇者の薄汚い考えなど、理解したくもないわ。どうせ醜悪なことを企んでいるのだろう」
よくわからないけど、どうせ悪い事だろう、ときたか……この人は本当に、昼ま理性的な話をしていた村長と同一人物なのだろうか?アニも無茶苦茶な話に呆れたのか、心なしか力の抜けた音でリインと鳴った。
『彼の荒唐無稽な邪推はともかくとして、恐らく彼らとしては、過去にあった勇者の悪行を根に持っているんだと思われます』
「ああ、だよなぁ……だから勇者イコール悪って、てこでも動かないんだ」
『村全体の共通認識なんでしょうね。なのであんな暴論でも、みな疑おうとしないのでしょう』
「じゃあ俺は、村の人たちから性犯罪者予備軍として見られてるってことか……ん、ちょっと待てよ。だったらジェスに乱暴したって誤解は、かなりまずいんじゃないか?」
とすると俺は、事実無根にせよ、村人たちには現行犯として映っていることになる。実際、目を血走らせた男たちからは、時おり口汚い野次が飛んできた。
「この、強姦魔め!」
「性欲まみれの野獣が!また村の娘を襲ったのか!」
まずいな、みんな頭に血が昇っている。これではいくら説明しても、信じてもらえそうにないぞ。憤った男たちをあおるように、フランク村長が続ける。
「この勇者は、私たちの村を我が物にしようとよからぬ計画を企てた!死者を邪悪な術で蘇らせ、あまつさえ自分の謀略に利用しようとしたのだ!」
「ちょ、ちょっと待てよ。なんでフランセスを蘇らせると、あんたの弱みになるんだよ?あんたにとって、フランセスの存在が不都合なことでもあるっていうのか?」
俺はあえて、三年前の出来事には直接言及せず、遠回しな表現をした。なにも村長のためではない。他の村人たちがいる手前、洗いざらいぶちまけたらジェスが辛いだろうと思ったからだ。それにフランセスの死についても、彼女の目の前で話すのは……だがフランク村長は、それをどう受け取ったのか、びくりと震えるとしきりに目を泳がせ、やがて合点が行ったようににやぁっと笑みを浮かべた。
「なるほど……そういうことか」
「あん?」
「貴様は、ヴォルドゥール老に吹き込まれたことを鵜呑みにでもしたんだろう。おおかた、あの娘の死は事故ではないだとか、そんなところか。それで私を揺すれると思った、違うかね?いや、もしくはあの老婆と共謀していたか。彼女は以前から妄言を吐くきらいがあったからな」
「だから、ばあちゃんは関係ないって言ってるだろ!それに、ばあちゃんの言ってることも嘘じゃない!」
「はははは、言うにことかいて世迷言を!ジェスに目を付けたのも、私に関する情報を引き出そうとしたからだろう!きっとそうに違いない!」
フランク村長は大声でまくしたてると、後ろの男たちを振り返った。
「さあみんな!あの薄汚い勇者に裁きを与えよう!あいつの能力は貧弱なネクロマンシーのみだ。一人にゾンビが一匹、勇者と言えど恐れることはない!」
「おおおー!勇者を殺せー!」
「今度こそ奴をぶっころしてやる!大罪人に正義の鉄槌を!」
「かかれぇー!」
つづく
====================
Twitterでは、次話の投稿予定や、作中に登場するモンスターなどの設定を公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
読了ありがとうございました。
ジェスから明かされた真実は、俺の想像以上に重苦しい内容だった。胸のあたりがずっしりと重たく感じる。
「後は、あなたも知っている通りよ。あの子は森で死んだことになった。ある村人が見つけたの。あの子が魔物に襲われた現場、とやらをね。そこには、あの子の靴だけが残されていたらしいわ」
あ……それが、ばあちゃんに渡されたあの靴か。
「もちろん、それもお父様が手配した役者でしょうけど。お父様は方々にお金をばらまいて、あの日の事件をきれいに隠してしまったわ。後には、偽物の真相だけが残った。あの子の死は不幸な事故、礼拝堂は出火元不明……私が全ての原因だったのに、そのすべてから私の存在はぬぐい隠された。そして私はそれらを汚れた足で踏みにじって、いままでのうのうと生きてきたのよ」
「そんなことが……あったのか。だからフランは……」
「恨んで当然でしょうね。私だってぎょっとしたわ。恰好は少し変わっていたけれど、顔はあの日、私が見捨てたままなんだもの。きっと……」
復讐に来たのね。と、ジェスはつぶやく。でもそれは間違いだ。フランセスを連れてきたのは俺であって、フランセスの意志ではない。恨んでいないとは言えないだろうけど……
「なぁ、もう一度フランセスとよく話してみないか?」
「え?でも、私なんかが……」
「あんただって、フランセスを助けようとはしてたんだろ?フランセスもそれを誤解してるのかもしれない。それを正さないと、きっとお互い相手のことを間違ったままになっちゃうぜ」
「けど……」
「な?今度は俺がちゃんとフランセスを押さえておくから。話してみようよ」
ジェスはなおも、ぐずぐず渋っている。その時不意に、アニがリインと鳴った。
『主様。なにやら人影が近づいてきます。それも大勢』
「え?」
慌てて周囲を見回す。すると村の方から、たいまつの明かりがゆらゆらと、列をなしてこちらへ向かってくるのが見えた。
「なんだ……?」
『嫌な予感がしますね』
やがて、ざっざという大勢の足音と、金属がかちゃかちゃとこすれる音が聞こえてきた。ジェスも異変に気づき、音のほうへ振り返る。するとジェスは、か細い声でこう言った。
「お、父様……?」
人影はどんどん近づき、たいまつに照らされた顔が見えるくらいの距離になった。そこにいたのは、フランク村長と、剣や槍で武装した男たちだった。
「お父様、どうしてここに?それに、その方たちは……?」
ジェスは困惑した様子でたずねる。フランク村長はジェスの姿を見ると、大きく目を見開いた。
「ジェス、おお……なんとむごい姿に!」
その時はじめて、ジェスは自分の格好に気づいたようだ。慌てて、フランセスにもみくちゃにされた衣服を整える。フランク村長はそんなジェスに駆け寄ると、改めて愛娘の姿を確認する。そして次に、俺を憎悪のまなざしで睨み付けた。
「貴様……わが娘に手を出したな!」
「え?」
「えぇ?」
俺とジェスが同時に声を上げる。なんだって?俺がジェスに?けど冷静に考えれば、ジェスの服は乱暴されたようにボロボロだ、顔は涙の跡でぐしゃぐしゃだし。状況だけ見れば、俺がすごい悪い男みたいだな?
「ご、誤解だ」
「誤解よ!お父様、私なにもされていないわ!」
俺よりも早く、ジェスが反論してくれた。しかしフランク村長は、優しくジェスの肩に手を置きかぶりを振る。
「あぁジェス……みなの前では辛いだろう。何も言うな、あの男の正体もわかっている。あとは私に任せなさい」
「けど、お父様……」
「おい!お前たち、ジェスを安全な所へ!」
「お父様、聞いて!ちょっと、はなして!」
フランク村長が呼びつけると、屈強な男が二人やってきて、ジェスを囲んで連れて行ってしまった。
「あーっと、村長さん。誤解されてるみたいだから、ちょっと聞いてくれないか?」
「黙れ!薄汚い暴漢め。よくもわが娘を!貴様の正体はわかっているぞ。よくも騙してくれたな……呪われた勇者が!」
「っ!どうしてそれを……」
まずいな、勇者だってばれた。今ここでばれるのは、二重の意味でまずい。この村にとって、勇者は災悪の象徴であること、そしてそれを隠してたってことだ。
「やはりな。自分の正体を隠して、こそこそ嗅ぎ回るようなマネをしおって!お前の企みはなんだ!」
「話を聞いてくれよ。確かに俺は勇者だが、別に悪さはしてないし、これからするつもりもないぞ」
「ふん!猿芝居も大概にしたまえ。すでに証拠も上がっているのだ」
証拠だって?フランク村長が何か合図をすると、一人の男が老婆を引っ掴んで前に連れてきた。俺はその老婆に見覚えがあった。
「ばあちゃん!」
後ろ手に手を掴まれて、ばあちゃんは大柄な男に引きずってこられた。その表情は虚ろで、感情は読み取れない。
「おい!ばあちゃんになにしてるんだ!」
「貴様と共謀している可能性があったのでな。同行してもらったのだ」
「共謀ぅ?」
「きみの行動を我々が把握してないとでも思っているのかね?貴様が村に帰ってきた時から、ずっと監視させてもらった。ヴォルドゥール家に立ち寄ったことも把握済みだ」
俺はフランク村長の言葉を噛み砕く。俺が真っ先にばあちゃんちに寄ったことを知って、ばあちゃんも俺の仲間だと思ったってことだな。俺が勇者というのも、恐らくそこで知ったんだろう。けれど、俺はそもそも悪だくみはしてないし、無関係のばあちゃんを巻き込むのは許せない!
「ばあちゃんは関係ない!早く解放しろ、話なら俺がいくらでも聞いてやる!」
「黙れ!質問するのは我々だ。勇者の命令など、二度と聞くものか!」
ダメだ、話が平行線だ。フランク村長は憎悪に濁りきった目をしているし、それは後ろの男たちもみな同じだった。一方的な会話に、俺もだんだんイラついてくる。
「ヴォルドゥールさんからすべて聞いた。貴様が勇者であり、死霊術などという邪悪な能力を持っているということ、そして王国から手配された、重罪人だと言うこともな!」
「ちっ、みんなおんなじことを言うんだな。おい、なんでネクロマンサーってだけで罪人扱いなんだよ!そりゃ、イメージが悪いのは否定しないけど、印象だけで罪が成立するって言うのか!」
「屁理屈を!印象だけだと?どの口が言う!現に貴様は、その能力を悪用して、この村を支配しようとしたではないか!」
「はぁ?」
俺は怒りを通り越して、ぽかんと口を開けてしまった。何だって?誰が、村を支配するって?
「とぼけるのも大概にしたまえ!貴様はあの呪われた森に行き、ヴォルドゥール家の孫娘を蘇らせたのだろう。そしてそれをネタに私を恐喝し、村長の座を奪おうと画策した!そこにいるゾンビが、何よりの証拠だ!」
フランク村長はビシッとフランセスを指さした。フランセスはまだ俺の言いつけを守り、きちんと座っている。よかった、それがなかったら今すぐ村長に飛びかかっていたかもしれない。俺だってこんないちゃもんを付けられて、沸騰寸前だ。
「あのなぁ、村長。それ、被害妄想ってやつだぜ。なんで俺がこの村を欲しがるんだ?俺、今日初めてここに来たんだぜ?」
「ふん。貴様ら勇者の薄汚い考えなど、理解したくもないわ。どうせ醜悪なことを企んでいるのだろう」
よくわからないけど、どうせ悪い事だろう、ときたか……この人は本当に、昼ま理性的な話をしていた村長と同一人物なのだろうか?アニも無茶苦茶な話に呆れたのか、心なしか力の抜けた音でリインと鳴った。
『彼の荒唐無稽な邪推はともかくとして、恐らく彼らとしては、過去にあった勇者の悪行を根に持っているんだと思われます』
「ああ、だよなぁ……だから勇者イコール悪って、てこでも動かないんだ」
『村全体の共通認識なんでしょうね。なのであんな暴論でも、みな疑おうとしないのでしょう』
「じゃあ俺は、村の人たちから性犯罪者予備軍として見られてるってことか……ん、ちょっと待てよ。だったらジェスに乱暴したって誤解は、かなりまずいんじゃないか?」
とすると俺は、事実無根にせよ、村人たちには現行犯として映っていることになる。実際、目を血走らせた男たちからは、時おり口汚い野次が飛んできた。
「この、強姦魔め!」
「性欲まみれの野獣が!また村の娘を襲ったのか!」
まずいな、みんな頭に血が昇っている。これではいくら説明しても、信じてもらえそうにないぞ。憤った男たちをあおるように、フランク村長が続ける。
「この勇者は、私たちの村を我が物にしようとよからぬ計画を企てた!死者を邪悪な術で蘇らせ、あまつさえ自分の謀略に利用しようとしたのだ!」
「ちょ、ちょっと待てよ。なんでフランセスを蘇らせると、あんたの弱みになるんだよ?あんたにとって、フランセスの存在が不都合なことでもあるっていうのか?」
俺はあえて、三年前の出来事には直接言及せず、遠回しな表現をした。なにも村長のためではない。他の村人たちがいる手前、洗いざらいぶちまけたらジェスが辛いだろうと思ったからだ。それにフランセスの死についても、彼女の目の前で話すのは……だがフランク村長は、それをどう受け取ったのか、びくりと震えるとしきりに目を泳がせ、やがて合点が行ったようににやぁっと笑みを浮かべた。
「なるほど……そういうことか」
「あん?」
「貴様は、ヴォルドゥール老に吹き込まれたことを鵜呑みにでもしたんだろう。おおかた、あの娘の死は事故ではないだとか、そんなところか。それで私を揺すれると思った、違うかね?いや、もしくはあの老婆と共謀していたか。彼女は以前から妄言を吐くきらいがあったからな」
「だから、ばあちゃんは関係ないって言ってるだろ!それに、ばあちゃんの言ってることも嘘じゃない!」
「はははは、言うにことかいて世迷言を!ジェスに目を付けたのも、私に関する情報を引き出そうとしたからだろう!きっとそうに違いない!」
フランク村長は大声でまくしたてると、後ろの男たちを振り返った。
「さあみんな!あの薄汚い勇者に裁きを与えよう!あいつの能力は貧弱なネクロマンシーのみだ。一人にゾンビが一匹、勇者と言えど恐れることはない!」
「おおおー!勇者を殺せー!」
「今度こそ奴をぶっころしてやる!大罪人に正義の鉄槌を!」
「かかれぇー!」
つづく
====================
Twitterでは、次話の投稿予定や、作中に登場するモンスターなどの設定を公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
読了ありがとうございました。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
111
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる