じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
106 / 860
4章 それぞれの明日

4-2

しおりを挟む
4-2

同刻。ここは、ラクーンの関所。夜の闇夜にぽつんと浮かんだ松明の下に、まるで明かりに群がる虫の一匹が口にでも入ったかのような、しかめ面をした衛兵がいた。

「くそ!また負けた!」

衛兵はテーブルにカードの束をたたきつけた。

「くくくっ。おまえ、今日はツキがねぇなぁ。いただきだぜ」

別の衛兵がにこにこしながら、テーブルの上に置かれたコインをかき集めた。

「ちっ、眠気覚ましに一勝負ひっかけたのが間違いだった。ちくしょう、やめだやめだ」

衛兵はドスンと椅子に腰かけると、テーブルに散らばったカードをかき集めた。

「なんだ、もうやめちまうのか?次は勝てるかもしれないぜ?」

「ふん、そんな手に乗るか。今日だけで五枚も銀貨を巻き上げられてるんだぞ」

「ま、確かに今夜は、俺に幸運の風が吹いてるみたいだけどな。なあ、お前もそう思うだろ?」

話しかけられたのは、三人目の衛兵だ。その衛兵は眠たげな瞼をピクリと持ち上げると、おもむろにカードの束を、負け続きの衛兵の手から引き抜いた。

「あ、おい。何するんだ?もう勝負はやらないぜ」

「いや……すこし、占ってみようと思ってな。こういう時は、空の星が動いていることが多い」

「え……どういうことだよ?」

「さあ……破滅、成功、崩壊、勝利。星が動くと、決まってそういうものが後からやってくるものだ」

その言葉に、負け続きの衛兵の顔はさーっと青ざめた。

「さて……」

カードの束を切っていた眠たげな衛兵は、その中から一枚を引き抜き、はて、と首を傾げた。

「お、おい。何が起こるっていうんだよ!」

衛兵は、こらえきれずにせっついた。

「うむ。このカードは……」

衛兵が口を開きかけたその時。遠くから、地鳴りのような音が聞こえてきた。

「なんだ?」

ズドドドド……

「馬のひづめのようだが……数が多いな」

「こんな夜遅くに、キャラバンの移動?ばかな、どこの町もとっくに門を閉めているだろう。ということは……」

「それを知らないバカ。あるいは……それを承知で突っ込んでくる・・・・・・・・・・・・・やつらだ」

衛兵たちはさっと目を合わせると、すぐに斧槍ハルバードを手に取り、門にあけられたのぞき窓に張り付いた。

「見えるか?」

「……松明だ。向こうも明かりをつけている」

「ふむ……これだけ賑やかな音を立てているんだ、夜襲をしようという気じゃないのか?」

「まだ油断はできないぞ。ばれても構わないと開き直っているのかも」

謎の集団はスピードを緩めることなく近づき、やがて一人一人の顔が見分けられるくらいまでの距離に迫ってきた。我慢できなくなった衛兵の一人が、のぞき窓ごしに叫ぶ。

「おい、止まれ!どこの誰だか知らないが、こんな夜中に何の用だ!」

衛兵の声を受け、謎の集団は手綱を引き、スピードを緩めた。門から少し離れたところに馬を止めた一人が、衛兵たちの方へと近づいてきた。

「おい!聞いているのか、お前は誰だと聞いている!」

「夜分遅くに申し訳ない。しかし、そうカッカせず聞いてほしいのだ。こちらにも相応の事情があって、このような無礼を働いているのだから」

その丁寧な物言いに、門の内の衛兵たちは顔を見合わせた。よく見れば、そいつは自分たちと同じ、鎧を着込んだ兵士だ。だが鎧兜は衛兵たちと違って、派手に装飾されたりっぱなシロモノだった。そのへんのゴロツキにしては恰好が上等すぎる。もしや、しっかりした身分の人間なのか?衛兵たちは、慎重に声を返した。

「……そちらにどのような事情があるのかはしりませんが、この時間は国王陛下の命令でもない限り、おいそれと門を開けることはできない決まりになっています。朝になるのを待ってくださいとしか……」

「ほお、それは好都合。では、門を開けてもらおうか」

「は?あの、話しを聞いて……」

「聞いていた。国王の命令ならば開けてくれるのだろう?ほら、これが証文だ」

立派な鎧の兵士は、馬に積んだ荷物の中から、一枚の羊皮紙を取り出した。そして仲間から松明を受け取ると、それらを掲げてこちらに向き直った。

「ちと暗いが、それでも王家の印くらいは見えるであろう?」

兵士がもつ羊皮紙には、藤色のインクで綴られた流れるような文字とともに、五本の弓矢を組み合わせた紋章が押されていた。

「そ、それは!五つの矢尻の印……!」

「ご理解いただけたかな。我らは王城直下の近衛兵団だ。このような夜分に訪れたのも、女王陛下の密命を受けてのことだ」

「そ、そうでありましたか……あ!す、すぐに門をお開けいたします!」

衛兵たちは先ほどまでと打って変わって、尻に火が付いたかのように走りまわると、大慌てで門を開けた。ギギギィー!
その近衛兵団たちは、全員重厚な鎧に身を包み、それを乗せる馬も雄牛と見まごうほどに立派な体躯をしていた。そんな恰好の騎兵たちがぞろぞろと、ざっと百騎は入門してくるのだ。衛兵たちは震えあがってしまった。

「はぁー、やれやれ。どうにか辿り着いたわい。昼夜問わず走り続けたせいだな、まだ体が揺れているようだ」

「あ、あの。近衛兵団さまが、どうしてこの町においでに……?」

「うむ。女王陛下の命というのは先ほど話したが、ちと複雑でな。詳細はあくる朝、町長殿から諸君らに伝えられるだろう。くれぐれも、それまで我らのことは他言無用にな」

「か、かしこまりました。私たちにお手伝いできることはありますでしょうか?」

「うむ、では営舎に案内してくれぬか。馬も兵も、夜通し走って疲れ切っておる」

「かしこまりました。では、こちらに……」

「あ、それとちと聞きたいのだが」

立派な鎧の兵士は、突然顔をこわばらせて、ずいっと衛兵に顔を近づけた。

「は、はい?な、なんでしょうか……」

「このラクーンの町に、勇者が訪れたというしらせはないであろうな?」

「ゆ、勇者様ですか?いえ、ここしばらくはそんな話は聞きませんが……」

衛兵は予期せぬ質問にきょとんとした。その返事を聞いて、鎧の兵士はどっと息をつき、疲れた様に首をポキポキ曲げた。

「なんとか先回りはできたようだな……いや、こちらの話だ。では、案内を頼む」

「は、はい……?」

三人の衛兵のうちの一人が、兵士たちを先導して夜の街を歩いて行った。残された二人は、ぽかんと口を開けてその場に残された。

「な、なんだったんだ?夢でも見てるんじゃ……」

衛兵はそう言って、自分の頬をぎゅっとつねった。頬は、赤く腫れた。

「転機、破綻、嵐の訪れ、か……」

「あん?なんて言った?」

「いや、なんでもない」

衛兵はそう言って、いつの間にか地面に散らばってしまっていたカードを拾い集めた。ふと、衛兵は一枚のカードを拾い上げ、憂いを秘めた目でそのカードを見つめた。
そこには、雷をうけて崩れ落ちる、塔の絵が描かれていた……



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...