じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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4章 それぞれの明日

7-3

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7-3

「ぬうりゃ!」

ガガーン!鉄と鉄がぶつかるけたたましい音が響き渡る。
ここはラクーンの町、東部の広場前。いつもは旅人に商人にとにぎわうストリートであるのだが、今は物々しい雰囲気の兵士たちと、一人の鎧の騎士のせいで、普段の賑わいなどかけらもなかった。

「うおおおぉ!」

「甘い!吾輩の剣はその程度では防げぬぞ!」

グワシャーン!聞こえる音と言ったら、男たちの怒声と激しい金属音くらいだ。

「どうした!王国兵ともあろうものたちが、この程度か?ふん、なればすぐにでも、門を開け放ってくれようぞ!」

そう豪語するのは、鎧の亡霊騎士、エラゼムだった。彼はいま、東門の前に集結した兵士たちの大軍と、たった一人で渡り合っている。無論、国王直属の兵団である彼らが弱いわけではない。エラゼムが規格外すぎるのだ。強固な鎧、鉄壁ともなる大剣、疲れを知らぬ体、百年間の間奮い続けた剣技。生身の人間が相手をするには、どう頑張っても分が悪かった。

「くそ……化け物が」

「どうなってやがる……術者の姿が見えないのに、なぜああも機敏に動けるんだ。死霊なんて、術者に操られなきゃただの木偶人形なんじゃないのか?」

兵士たちは、疲労の色を顔ににじませながら唇をかんだ。

(このままでは、門まで突破されるのは時間の問題だ。あれだけの怪物を相手にするには、今の三倍の人数は欲しい……)

しかし、援軍を要請しようにも、この街にいる兵たちは大半が門の警備に回されてしまっている。もともと先遣隊のつもりで、武装も身軽なものがほとんどだ。まさかここまで激しい戦闘になるとは、誰もが予想していなかった。

(だが、それにしては妙なところもある……それだけの無双の武人であれば、もうとっくに門を攻略できるのでは……?)

だが現実には、門はまだ閉じられたままだ。あの死霊、実は弱っているのか?いや、あの暴れようはそうは見えない。ならば、門を開けられない事情があるのか……?

「おい!前!」

「っ!」

兵士は、戦場のさなかで考え事にふけった自分の軽率さを呪った。目の前に鎧の亡霊の大剣が迫っている。あれで首を一突きされれば、どうやっても命は助からないだろう。兵士は恐ろしくなって、思わずぎゅっと目をつぶった。

ガキィン!

「目を開けぬか、馬鹿者!訓練兵からやり直したいのか!」

「え……?」

兵士の目の前には、立派な鎧を身に着けたエドガーが仁王立ちし、大剣をギリギリと防いでいた。

「え、エドガー隊長!どうしてここに……!」

「ふがいないお前らを見かねて、化け物退治に加勢しにきてやったのだ。腑抜けたのであれば、そこでいつまでも這いつくばっていろ!」

エドガーはえいやっと気合を入れると、大剣をはじき返した。兵士はその姿を見て、ぐっと奥歯をかんで立ち上がった。

「いえ!逃げ出しては、王都でお待ちのロア王女に申し訳が立ちません。自分も戦います!」

「ふん、よく言った。その言葉、真にして見せよ!はいやあぁぁぁ!」

エドガーはロングソードを振りかぶると、鎧の騎士へ果敢に攻めかかっていった。
ガキン!キィン!ガイン!

「どうした、鎧の亡霊よ!貴様の腕はその程度か!」

「ほお。減らず口を叩けるだけ、ほかの連中よりはましな様だ」

「ほざけ!」

シュビィーン!エドガーの剣がひるがえり、エラゼムの首元に突き刺さった。エドガーはそのまま剣をひねり、エラゼムの兜を弾き飛ばした。ガランガラーン!

「む……やりおる。先ほどの言葉、訂正しよう。なかなか骨のある相手のようだ」

「……化け物が。首をはねても動くとは」

エラゼムの首からは、本来あるはずの頭の代わりに、どす黒い瘴気がふき出していた。エラゼムにとって、兜はただのカモフラージュでしかない。

「少々なめてかかっていた。非礼を詫びよう。ここからは、吾輩も本気で行かせてもらう」

首なしの騎士は、頭上で大剣をぐるりと回すと、ピシッと腰の高さで構えた。それを見てエドガーはにやりと笑った。

(さっき切りあった時の感覚……あの大剣、尋常でない重さがあるはずだ。それをいとも軽々と……)

エドガーは笑みとともに、冷や汗が頬を伝うのも感じた。しかし、彼の頭の中に退却の二文字は存在しなかった。

「……いくぞ!化け物オォォ!」

「こい!人間っ!」



再びところ変わって、ラクーンの町中。屋根の上を、まるで猫のように飛び回る人影があった。
ひゅーん……ストッ!

「到着。ここでいいんでしょ?」

「はい。ここに、全ての指揮を出している司令塔がいるはずです」

「よっしゃ。ここまでは、順調にこれたな」

俺、ウィル、フランの三人は、とある一つの建物の前にやって来ていた。ウィルが手ぶりも交えて説明する。

「ここは、兵士の方たちが営舎として使用している建物です。構造は、四角形の回廊のような営舎棟と、中庭を挟んで中央に立つ司令部棟の二層になっています。ターゲットはこの中央の棟にいます」

「なるほど……厄介な形だな、必ず中庭を通らないといけなくなってる。絶対目につくな」

「ええ。実際、かなりの人通りがありました。歩いていたら・・・・・・、確実に見つかってしまうでしょうね」

「ああ……」

まったく……俺とウィルは、顔を見合わせると、ニヤッと笑った。

「くくく、想定した通りだな。ウィル、手筈通りに頼むぜ」

「わかりました。お二人も気を付けて」

ウィルは空高く浮かぶと、営舎の高い瓦屋根を超えて見えなくなった。しばらくすると、建物の奥のほうからパーンと、何かが弾ける音が聞こえてきた。続いて、かすかな怒鳴り声と足音。ウィルからの合図だ。

「ウィルがうまいことやってくれたみたいだな。俺たちも行こう」

「ん」

俺は再びフランの背中にしがみついた。

「いくよ」

ドン!フランは地面を蹴ると、まずは二階の窓枠に足をかけ、そこを足場に一気に屋根まで飛び上がった。ストッ!着地も軽やかで、見事なもんだ。十点だな。
俺はフランの背中の上から、中庭を見下ろした。この建物は、字でいうと“回”の字みたいな形をしている。俺たちが目指すのは中央の、司令部があるという、背の高い塔みたいな建物だ。

「おー、走ってる走ってる。ウィルの陽動に食いついてくれたな」

中庭では、兵士たちがあわただしく走り回っていた。中にはバケツを両手にぶら下げて走っている奴もいる。ウィルのやつ、火でもつけたのかな?

「さて、どうだフラン。真ん中の建物まで跳べそうか?」

「ん……助走をつければ、行けると思う」

中庭はハチの巣をつついたような大騒ぎだ。その状況の中で、自分の頭の上まで注意の向く奴はいないだろう……という想定だ。俺たちは中庭をひとっ飛びして、下に降りずに司令部に侵入する腹積もりだった。

「……見つけた、進入口。あそこから行こう」

フランは塔の中ほどを指さす。そこには一つだけ開け放たれた窓があった。窓は地上から二十メートルくらいの高さにある。大体五階くらいか?あの高さだ、まさか侵入者が利用するとは夢にも思っていないんだろう。
フランは俺を乗せたまま、傾斜のついた屋根瓦のてっぺんまで歩いていき、目いっぱい助走距離をとった。いよいよジャンプだ……ごくり。

「フラン、今更だけどさ。俺って重くないよな……?」

「重いに決まってるでしょ。あなたと荷物で、体重が三倍以上になってるんだから」

「そこはウソでも重くないって言ってくれよぉ」

「いいから、いくよ!」

おわ!フランが急に走り出し、俺はフランの肩にかじりついた。
ダダダダダッ!
ガチャガチャガチャ!
屋根を駆け下りるたびに、瓦も揺れる。屋根の端っこが迫ってきた。え、まだ飛ばないのか?もうすぐそこがフチだぞ。もう飛ぶよな?まだなの?うわぁ、落っこちる!

「ふっ!」

ダァン!
フランはギリギリ、いちばん端っこの瓦を蹴ってビューンと宙に飛び出した。ふわりとした跳躍感。だがそれも一瞬で、ぐんぐん塔の窓が迫ってくる。あれ、ちょっと下過ぎないか?これじゃ窓じゃなくて、壁にぶつかっちまう!



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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