じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
136 / 860
5章 幸せの形

3-2

しおりを挟む
3-2

俺が息を止めながら料理に食らいついている間に、酒場はもとの楽し気な雰囲気に戻っていった。どこからか下手くそなヴァイオリンの音が聞こえ、歌が始まる。客たちはほとんどがいい年の男たちだ。陽気そうだが、真っ昼間からこんなところにいていいのかな?
食事中、ヴォール村長は俺たちのことをいろいろ聞きたがった。旅の目的、次の行き先、俺たちの身分などなど……正直に答えられそうな質問は何一つなかったので、俺は四苦八苦して受け答えた。その間、まったく口を開かないフランとエラゼムに、村長は不思議そうな顔をしていたが、かってに「寡黙な方たちですね」と納得していた。

「ところで、お仲間さんたちは食べないので?」

「あー、彼らは決まったメニューしか食べないんだ……菜食主義者ってやつで」

ヴォール村長は目を丸くし、フランはウンザリだという顔をした。
苦心しながら料理を完食すると、俺は早々にこの場を後にすることにした。ここの空気は、消化に悪い。

「うっぷ……あの、ごちそうさまでした、村長さん」

「何、この程度。お気に召していただけて何よりです」

「いったいどこを見て判断してるんでしょうね?」とウィルがつぶやく。

「あの、それじゃ村長さん。宿の場所を教えてくれないか?悪いけど、少し休みたくて」

とにかく、この酒場から早く抜け出したかった。やっぱり周りの連中の様子が気になるし、村長に根掘り葉掘り聞かれるのも疲れる。

「もう行かれますかな?いやはや残念ですが、引き留めてもいけませんな。わが村唯一の宿は、この店を出て左手にずっと行った突き当りにあります。看板が出ていますので、それを目印にしてくだされ。店の名前は、『ウィング・グロウ・スネイク』です」

「左手だな。ありがとう、村長さん。それじゃ、俺たちはこのへんで」

俺はヴォール村長に軽く頭を下げると、席を立ち、そそくさと店の出口を目指した。俺たちが近づくと、ほかの客たちはそっと場所をあける。俺たちにまるで興味ないみたいなふりだけど、そいつらの前を通り過ぎると、首筋に視線がちくちく刺さる気がした。
店を出て、すぐさま後ろ手にばたんと戸を閉める。湿っぽい外の空気を深く吸うと、生き返った気分だった。こんなところ、とっとと離れよう。

「ったく、ずいぶんな店だ。今更だけど、すごいとこに来ちまったぜ」

「私は、あの村長さんが苦手です。なんだか、一枚も二枚も皮をかぶってそう……」

ウィルが顔をしかめる。俺も同意見だった。

「吾輩は、あの酒場の人間たちが気にかかりました」

エラゼムが後ろを振り返りながら言った。

「彼らに仕事はないのでしょうか?ここは炭鉱だとハク嬢は言っていましたが。雨天だと採掘ができないのですかな?」

「うーん……すこし、用心したほうがいいかもな。ハクのやつ、嘘は言ってないと思うけど、意図的に隠してることならありそうだぞ」

こんなすごい村だってことは、あいつから聞いてなかったからな。それに、ここは南部の村だ。前にラクーンの女商人・クレアから聞いた話を思い出す。

(……安全安心な正規品を装って、妙なまがい物を売りつける悪徳業者も増えてる……ここみたいに大きな町はともかく、南部の小さな村の闇市なんかは気を付けて……)

闇市。この村にこれほどぴったりな言葉はない気がするぜ。俺はとりあえず、この村に滞在中は財布を入れたカバンを肌身離さず持っていようと決めた。

「……あ、見えたな。あそこだろ、村長が言ってたの」

目の前にオンボロの宿屋が見えてきた。入口の上には、はげかけた文字で『ウィング・グロウ・スネイク』の看板が出ている。さっきの酒場でのことがあるからな、俺は宿の扉を少しだけ開けて、先に中の様子をうかがった。
中は宿と言うより、集会所のような作りになっていた。広い受付と、大きな掲示板のようなものが見える。人の姿はまばらだ。

「変わった宿だな?」

俺は隣のフランに肩をすくめて見せてから、扉を開けた。中は薄暗く、ランプの火が焚かれていた。さっきのにぎやかすぎる酒場と比べたら物静かだけど、俺はこっちのほうが落ち着くな。受付のカウンターでは白髪交じりのおばちゃんが一人、客の男と話し込んでいた。

「ミシェル、いくらなんでもこりゃ少なすぎるだろ……」

「あんなボタばっかりじゃ、いくらにもならないに決まってるだろう。文句があるなら返しとくれ」

「ああ、よせよ。わかったよ」

話が終わったのか、男はとぼとぼとカウンターを離れ、俺たちの脇をすり抜けて出て行った。受付のおばちゃんが、新たに店に入ってきた俺たちにするどい目を向けた。

「おや、見慣れない顔だね。新入りかい?」

「へ?いや、俺たちここの宿に泊まりに来たんだけど」

「は?旅人ってこと?こりゃまた、珍しいのが来たもんだ」

旅人が珍しいって……ここ、宿屋であってるよな?おばちゃんがこっちにこいと手招きするので、俺はカウンターの前に行った。

「ごつい鎧の大人一人に、子ども二人?変わったメンツだこと。夜逃げか何かかい?」

「ははは……まあ、いろいろとあって」

「ま、このへんじゃ珍しくもないことだよ。生まれた郷を追われたやつ、誰かしらにタマを狙われてるやつ。あんたら、一晩でいいね?食事はでないから向こうの酒場にでも行っとくれ。一部屋で銀貨五枚だよ」

さらっと物騒なことを言ったことがひっかかりつつも、俺はコインをおばちゃんの手に渡した。

「あ、それとおばちゃん」

「ミシェルだよ。何か用かい?」

「あ、えっと、ミシェルさん。俺たち、ちょっと探し物をしたいんだけど。ミシェルさんは詳しいかな?」

「探し物?」

ミシェルは猛禽のような鋭い目をぱちくりさせた。

「ものにもよるだろうが……何を探してるんだい?」

「人だよ。赤い髪で、俺と近い歳の女の子」

「女の子ねぇ。あんたのコレかい?」

ミシェルが小指を立てる。

「いや、そういうわけじゃ……知り合いなんだ」

「さてね……悪いこた言わないけど、この村じゃ物より人の失せもののほうが出てこないよ。諦めた方がいい」

「え……けど」

「別に探すなとは言わないがね。無駄だと思うだけさ。いずれにしても、あたしは知らない。他を当たっとくれ」

「そっか……」

俺が露骨に肩を落とすと、ミシェルもさすがに少しばつが悪そうな顔をした。

「……まぁ、行くあてがないなら、村はずれの“旧市街”に行きな。酒場の連中は酔っぱらって話なんか聞きゃしないだろうが、そっちの奴らなら少しは話がわかるから」

「……ん、わかった。ありがとな」

ミシェルはふんと鼻を鳴すだけだ。話を切り上げようとした時、俺の目にふと、入り口で見たでっかい掲示板が映りこんだ。

「なぁミシェルさん。そこのボードはなんなんだ?」

掲示板には、何枚かの用紙が画鋲で止められている。目的と、報酬、という文字がチラッと見えた。

「うん?ああ、そりゃクエストボードだよ」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...