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5章 幸せの形

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「ふ、フラーーーン!」

フランは標本にされた蝶のように、ゴーレムの棘だらけの体に宙づりにされていた。

「くっそ、よくもやったな!」

「だい……丈夫!れくらい、自分で……」

フランは針の山から抜け出そうと体を捻るが、なかなか棘は抜けない。アイアンゴーレムが大きく体の向きを変えると、その勢いでようやくフランの体がすっぽ抜けた。

「フラン!お、と、と……うわ!」

どさ!飛んできたフランをキャッチして、俺は尻もちをついた。

「おいフラン、大丈夫か!?」

「べ、いき。がらだ、は、動く。ぢょっど、喉をやられだげど」

フランの全身には、無数の穴が開いていた。特にのど元がひどく、中から黒いタールのようなべっとりした血がのぞいている。

「とても大丈夫そうには見えないんだけど……」

「ゾンビ、だがら。げど、あんな攻撃がでぎるなんで」

「ああ……驚いたぜ。あいつ、隠してやがったのか?」

「わがんないけど……あれ、見で」

あれ?俺がゴーレムの方を見ると、ゴーレムは自らが生やした棘が自分の手や腕にぶつかり、上手く動けないでいた。

「あいつ、自分も棘に振り回されてないか?もしかして、自由に引っ込めることはできないのかな」

「うん。ぎっど、できれば隠しておきたい奥の手だったんだよ……ごほ、ごほっ」

フランがせき込み、俺はフランの背中をさすった。それでよくなるとは思えないが……

「フラン嬢、無事ですか!」

エラゼムがこちらへ駆け戻ってくる。

「エラゼム。フランはいちおう大丈夫みたいだ。ちょっと喋りづらくなってるけど」

「そうですか。しかし、なかなか一筋縄には行かぬものですな。あのような手まで……」

「それなんだけど、そう何度も使えるわけじゃないらしいぞ。あいつ、棘を引っ込めることが出来なくなってる。あまり使いすぎると、あいつ自身も危ないんだ」

「なるほど。確かに先ほどよりも動きが鈍くなっているようです。奥の手に頼らざるを得ないくらいには、やつも焦っているということですな。どれ、もう一息削り切って、あやつに完全に止まってもらいましょうか」

エラゼムは剣を担ぎなおすと、再びアイアンゴーレムへ向かっていく。そしてフランまで起き上がると、そのあとに続こうとした。

「あ、おいフラン!平気なのか?」

「いげる。まだ手も足も動くがら」

フランはガラガラ声でそう告げると、ゴーレムのほうへ駆け出して行った。それと入れ違いになるように、空からヘロヘロになったウィルがよろよろ落ちてきた。

「ウィル、今度はお前か!どうした、どこをやられた?」

「いえ、私は単なるガス欠です……」

あ、そういや前も魔法を使いすぎたらダウンしてたっけ。あれだけ連発したら当然だ。

「ごくろうさまだ、ウィル……まだゆっくり労ってはやれないけどな」

「ええ……」

エラゼムとフランは、アイアンゴーレムとの死闘を続けている。ゴーレムは棘の大半を切り落とされ、その体は明らかに欠けや切り傷が目立ってきていた。いいぞ、ダメージは確実に入っている。けど、どうしても決定打にかけているんだ。やつを真っ二つにできるような大火力があれば……

「……やっぱり私も、加勢してきます」

ウィルがふらふらと浮かび上がり、ロッドをぎゅっと握りなおす。

「よせ、ウィル!まだへろへろじゃないか」

「そうですけど……杖で殴るくらいはできます。百回くらい殴れば、少しは凹んでくれるかも……それに、私にはむこうの攻撃が当たりませんから」

そりゃそうだが……俺が言い返す前に、ウィルは飛んで行ってしまった。

「くそ……俺にも何かできれば」

『主様、いけません。不用意に近づいてあなたがやられれば、私たちは総崩れになってしまいます』

アニの言うとおりだ。けどだからって、落ち着いていられるかよ!もどかしい思い、焦る気持ち、だが一方で、フランたちへの期待、信頼。そんなないまぜの感情が俺の中で渦を巻き、胸のなかを熱く焦がすようだった。

「頑張れ……」

俺は自分でも気づかぬうちに、言葉が口をついて出てきていた。

「みんな、がんばれ!」

俺がそう叫んだ、その時だった。

「……もう、しょーがないな。手伝ってあげるよ」

え?声のした方に振り向くと、そこにはほうき草のような赤い髪の少女が立っていた。

「ライラ……!どうして……戻ってきてくれたのか?」

「……まぁ、なんとなく、ね。お前たちが死んで、それが、ライラが手を貸さなかったからってなったら……やな気がしたの」

「そ、そうか。いや、しかしな……」

「な、なに!いやなの、ライラが手伝ってあげるのに!」

「そうじゃなくて。その、気を悪くしないでほしいんだけど。ライラ、きみの魔法じゃ、あのゴーレムには効かなかったじゃないか」

ライラの放った火球は、ゴーレムに傷一つつけられなかった。あれ以上の威力の魔法はないと言ったのは、ほかならぬライラ自身だし。

「もう他の魔法も使えないんだろ?申し出はありがたいけど、それできみを危険な目に合わせるわけにも……」

「ああ。あんなの、ウソだよ」

「は?」

「ザッコいまほーを使ったら、お前たちがあきらめると思ったの。なのに、ぜんぜんあきらめようとしないんだから……」

「お、お前なぁ……」

「けど、ここからは本気だよ。大まほーつかいの力、見せてあげるんだから!」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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