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5章 幸せの形
10-3
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10-3
「ふ、フラーーーン!」
フランは標本にされた蝶のように、ゴーレムの棘だらけの体に宙づりにされていた。
「くっそ、よくもやったな!」
「だい……丈夫!ごれくらい、自分で……」
フランは針の山から抜け出そうと体を捻るが、なかなか棘は抜けない。アイアンゴーレムが大きく体の向きを変えると、その勢いでようやくフランの体がすっぽ抜けた。
「フラン!お、と、と……うわ!」
どさ!飛んできたフランをキャッチして、俺は尻もちをついた。
「おいフラン、大丈夫か!?」
「べ、いき。がらだ、は、動く。ぢょっど、喉をやられだげど」
フランの全身には、無数の穴が開いていた。特にのど元がひどく、中から黒いタールのようなべっとりした血がのぞいている。
「とても大丈夫そうには見えないんだけど……」
「ゾンビ、だがら。げど、あんな攻撃がでぎるなんで」
「ああ……驚いたぜ。あいつ、隠してやがったのか?」
「わがんないけど……あれ、見で」
あれ?俺がゴーレムの方を見ると、ゴーレムは自らが生やした棘が自分の手や腕にぶつかり、上手く動けないでいた。
「あいつ、自分も棘に振り回されてないか?もしかして、自由に引っ込めることはできないのかな」
「うん。ぎっど、できれば隠しておきたい奥の手だったんだよ……ごほ、ごほっ」
フランがせき込み、俺はフランの背中をさすった。それでよくなるとは思えないが……
「フラン嬢、無事ですか!」
エラゼムがこちらへ駆け戻ってくる。
「エラゼム。フランはいちおう大丈夫みたいだ。ちょっと喋りづらくなってるけど」
「そうですか。しかし、なかなか一筋縄には行かぬものですな。あのような手まで……」
「それなんだけど、そう何度も使えるわけじゃないらしいぞ。あいつ、棘を引っ込めることが出来なくなってる。あまり使いすぎると、あいつ自身も危ないんだ」
「なるほど。確かに先ほどよりも動きが鈍くなっているようです。奥の手に頼らざるを得ないくらいには、やつも焦っているということですな。どれ、もう一息削り切って、あやつに完全に止まってもらいましょうか」
エラゼムは剣を担ぎなおすと、再びアイアンゴーレムへ向かっていく。そしてフランまで起き上がると、そのあとに続こうとした。
「あ、おいフラン!平気なのか?」
「いげる。まだ手も足も動くがら」
フランはガラガラ声でそう告げると、ゴーレムのほうへ駆け出して行った。それと入れ違いになるように、空からヘロヘロになったウィルがよろよろ落ちてきた。
「ウィル、今度はお前か!どうした、どこをやられた?」
「いえ、私は単なるガス欠です……」
あ、そういや前も魔法を使いすぎたらダウンしてたっけ。あれだけ連発したら当然だ。
「ごくろうさまだ、ウィル……まだゆっくり労ってはやれないけどな」
「ええ……」
エラゼムとフランは、アイアンゴーレムとの死闘を続けている。ゴーレムは棘の大半を切り落とされ、その体は明らかに欠けや切り傷が目立ってきていた。いいぞ、ダメージは確実に入っている。けど、どうしても決定打にかけているんだ。やつを真っ二つにできるような大火力があれば……
「……やっぱり私も、加勢してきます」
ウィルがふらふらと浮かび上がり、ロッドをぎゅっと握りなおす。
「よせ、ウィル!まだへろへろじゃないか」
「そうですけど……杖で殴るくらいはできます。百回くらい殴れば、少しは凹んでくれるかも……それに、私にはむこうの攻撃が当たりませんから」
そりゃそうだが……俺が言い返す前に、ウィルは飛んで行ってしまった。
「くそ……俺にも何かできれば」
『主様、いけません。不用意に近づいてあなたがやられれば、私たちは総崩れになってしまいます』
アニの言うとおりだ。けどだからって、落ち着いていられるかよ!もどかしい思い、焦る気持ち、だが一方で、フランたちへの期待、信頼。そんなないまぜの感情が俺の中で渦を巻き、胸のなかを熱く焦がすようだった。
「頑張れ……」
俺は自分でも気づかぬうちに、言葉が口をついて出てきていた。
「みんな、がんばれ!」
俺がそう叫んだ、その時だった。
「……もう、しょーがないな。手伝ってあげるよ」
え?声のした方に振り向くと、そこにはほうき草のような赤い髪の少女が立っていた。
「ライラ……!どうして……戻ってきてくれたのか?」
「……まぁ、なんとなく、ね。お前たちが死んで、それが、ライラが手を貸さなかったからってなったら……やな気がしたの」
「そ、そうか。いや、しかしな……」
「な、なに!いやなの、ライラが手伝ってあげるのに!」
「そうじゃなくて。その、気を悪くしないでほしいんだけど。ライラ、きみの魔法じゃ、あのゴーレムには効かなかったじゃないか」
ライラの放った火球は、ゴーレムに傷一つつけられなかった。あれ以上の威力の魔法はないと言ったのは、ほかならぬライラ自身だし。
「もう他の魔法も使えないんだろ?申し出はありがたいけど、それできみを危険な目に合わせるわけにも……」
「ああ。あんなの、ウソだよ」
「は?」
「ザッコいまほーを使ったら、お前たちがあきらめると思ったの。なのに、ぜんぜんあきらめようとしないんだから……」
「お、お前なぁ……」
「けど、ここからは本気だよ。大まほーつかいの力、見せてあげるんだから!」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ふ、フラーーーン!」
フランは標本にされた蝶のように、ゴーレムの棘だらけの体に宙づりにされていた。
「くっそ、よくもやったな!」
「だい……丈夫!ごれくらい、自分で……」
フランは針の山から抜け出そうと体を捻るが、なかなか棘は抜けない。アイアンゴーレムが大きく体の向きを変えると、その勢いでようやくフランの体がすっぽ抜けた。
「フラン!お、と、と……うわ!」
どさ!飛んできたフランをキャッチして、俺は尻もちをついた。
「おいフラン、大丈夫か!?」
「べ、いき。がらだ、は、動く。ぢょっど、喉をやられだげど」
フランの全身には、無数の穴が開いていた。特にのど元がひどく、中から黒いタールのようなべっとりした血がのぞいている。
「とても大丈夫そうには見えないんだけど……」
「ゾンビ、だがら。げど、あんな攻撃がでぎるなんで」
「ああ……驚いたぜ。あいつ、隠してやがったのか?」
「わがんないけど……あれ、見で」
あれ?俺がゴーレムの方を見ると、ゴーレムは自らが生やした棘が自分の手や腕にぶつかり、上手く動けないでいた。
「あいつ、自分も棘に振り回されてないか?もしかして、自由に引っ込めることはできないのかな」
「うん。ぎっど、できれば隠しておきたい奥の手だったんだよ……ごほ、ごほっ」
フランがせき込み、俺はフランの背中をさすった。それでよくなるとは思えないが……
「フラン嬢、無事ですか!」
エラゼムがこちらへ駆け戻ってくる。
「エラゼム。フランはいちおう大丈夫みたいだ。ちょっと喋りづらくなってるけど」
「そうですか。しかし、なかなか一筋縄には行かぬものですな。あのような手まで……」
「それなんだけど、そう何度も使えるわけじゃないらしいぞ。あいつ、棘を引っ込めることが出来なくなってる。あまり使いすぎると、あいつ自身も危ないんだ」
「なるほど。確かに先ほどよりも動きが鈍くなっているようです。奥の手に頼らざるを得ないくらいには、やつも焦っているということですな。どれ、もう一息削り切って、あやつに完全に止まってもらいましょうか」
エラゼムは剣を担ぎなおすと、再びアイアンゴーレムへ向かっていく。そしてフランまで起き上がると、そのあとに続こうとした。
「あ、おいフラン!平気なのか?」
「いげる。まだ手も足も動くがら」
フランはガラガラ声でそう告げると、ゴーレムのほうへ駆け出して行った。それと入れ違いになるように、空からヘロヘロになったウィルがよろよろ落ちてきた。
「ウィル、今度はお前か!どうした、どこをやられた?」
「いえ、私は単なるガス欠です……」
あ、そういや前も魔法を使いすぎたらダウンしてたっけ。あれだけ連発したら当然だ。
「ごくろうさまだ、ウィル……まだゆっくり労ってはやれないけどな」
「ええ……」
エラゼムとフランは、アイアンゴーレムとの死闘を続けている。ゴーレムは棘の大半を切り落とされ、その体は明らかに欠けや切り傷が目立ってきていた。いいぞ、ダメージは確実に入っている。けど、どうしても決定打にかけているんだ。やつを真っ二つにできるような大火力があれば……
「……やっぱり私も、加勢してきます」
ウィルがふらふらと浮かび上がり、ロッドをぎゅっと握りなおす。
「よせ、ウィル!まだへろへろじゃないか」
「そうですけど……杖で殴るくらいはできます。百回くらい殴れば、少しは凹んでくれるかも……それに、私にはむこうの攻撃が当たりませんから」
そりゃそうだが……俺が言い返す前に、ウィルは飛んで行ってしまった。
「くそ……俺にも何かできれば」
『主様、いけません。不用意に近づいてあなたがやられれば、私たちは総崩れになってしまいます』
アニの言うとおりだ。けどだからって、落ち着いていられるかよ!もどかしい思い、焦る気持ち、だが一方で、フランたちへの期待、信頼。そんなないまぜの感情が俺の中で渦を巻き、胸のなかを熱く焦がすようだった。
「頑張れ……」
俺は自分でも気づかぬうちに、言葉が口をついて出てきていた。
「みんな、がんばれ!」
俺がそう叫んだ、その時だった。
「……もう、しょーがないな。手伝ってあげるよ」
え?声のした方に振り向くと、そこにはほうき草のような赤い髪の少女が立っていた。
「ライラ……!どうして……戻ってきてくれたのか?」
「……まぁ、なんとなく、ね。お前たちが死んで、それが、ライラが手を貸さなかったからってなったら……やな気がしたの」
「そ、そうか。いや、しかしな……」
「な、なに!いやなの、ライラが手伝ってあげるのに!」
「そうじゃなくて。その、気を悪くしないでほしいんだけど。ライラ、きみの魔法じゃ、あのゴーレムには効かなかったじゃないか」
ライラの放った火球は、ゴーレムに傷一つつけられなかった。あれ以上の威力の魔法はないと言ったのは、ほかならぬライラ自身だし。
「もう他の魔法も使えないんだろ?申し出はありがたいけど、それできみを危険な目に合わせるわけにも……」
「ああ。あんなの、ウソだよ」
「は?」
「ザッコいまほーを使ったら、お前たちがあきらめると思ったの。なのに、ぜんぜんあきらめようとしないんだから……」
「お、お前なぁ……」
「けど、ここからは本気だよ。大まほーつかいの力、見せてあげるんだから!」
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