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6章 風の守護する都

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「えーーー!王都に、行く!?」

キーーン。あらかじめ塞いでいたとはいえ、耳がキリキリするぜ。俺は耳から手を離すと、ウィルがまた叫ぶ前に慌てて声を重ねた。

「ウィル、いったん俺の話を聞いてくれないか。何も考えずに言ったわけじゃないんだよ」

「ぬぐっ……で、でも。私、何を言われても納得できない気がします……」

「わたしも、右に同じ」

フランがいつになく冷たい視線で、ウィルに賛同する。うぅ、アウェーだなぁ……

「だいたい、なんで今王都なの?あのバカ勇者が言ってたこと、気にしてるわけ?」

「バカ勇者って……まあ、そうと言えばそうなんだけど。あいつが言ってたろ、王都で反乱が起きたってさ」

「だから、なに?むしろラッキーじゃん。あっちが揉めてる間に、わたしたちは逃げちゃえばいいでしょ」

「けどさ、その反乱の原因って、なんか俺が逃げ出したせい、みたいなんだよな」

「だっ……そんなの、あなたが殺されそうになったからでしょ!そんなの、誰だって逃げるにきまってるじゃん!」

「うん。俺も、それは許してないし、責任も感じてないよ」

「だったら……!」

「でもさ、フラン。自分の責任じゃないからって、見過ごせないこともあるだろ。この戦いで、下手したらものすごい数の人が死ぬかもしれないんだ。それも、兵隊だけじゃない、普通に暮らしている人たちが、さ」

「……じゃあ、どうするの。自分の首でも差し出すつもり?」

「いや、それもしない。俺も考えたんだけど、正直俺たち五人……アニも入れれば六人か。それが馳せ参じたところで、でっかい戦争を防げるわけじゃないしな。たぶん、できることのほうが少ないとは思うんだけど……」

「……意味わかんないよ。なんでそんなこと……」

フランは理解ができないというように、銀色の髪をふるふるとゆすった。するとウィルが、フランの肩にそっと手を置いた。

「フランさん……すごく腹が立ちますけど、私。桜下さんの言いたいこと、少しわかったかもしれません……」

「ウィル……?」

「桜下さん。桜下さんは、きっと……この事件を、最後まで見届けたいんじゃないですか?」

ウィルは俺の目をまっすぐに見つめた。

「見届ける、か……そうなのかもしれないな。これって、もしかしたら、野次馬根性なのかな?」

「そんなことは、ないと思います。だって、桜下さんはずっとそうだったじゃないですか。自分の関係ないことにいっつも首を突っ込んで、危険な目にもあって、時には人にさげすまれて……」

う。改めて言われると、確かにそんなのばっかりだ。

「結局桜下さんは、見過ごせないんですよ。俺たちは自由な勢力を目指すんだー、なんて無責任なこと言ってるくせに、自分が面倒を見れることならいっつも何とかしようとしちゃうんです」

「そ、そうかな?だって、見ちゃったものを、見てないふりはできないだろ?」

「そーいうとこですよ。それでいて、得したことは一度もないんですから……」

俺は、だんだん元気がなくなってきた。ウィルは、ひょっとすると俺をいじめたいのか……?

「でもね、桜下さん。私は、桜下さんを馬鹿だとは思いません。桜下さんは、自分のできることとできないことを、いつだってきちんと線引きしていましたから。だからきっと、今回のことも、自分の手に負えないことを分かったうえで……それでも、見届けたいんだろうなって。だって、桜下さんがここにやってきてから、ずーっと関わってきた出来事ですもんね」

「ウィル……」

「え、えへへ……ちょっと照れ臭いですね」

「……お前、最初はめちゃくちゃ反対してなかったか?」

「あーーー!そういうこと言うんですか、もぉー!」

あはは。けど、ウィルの言う通りかもしれない。俺がこの世界に来てから、ず~っと悩まされてきた連中だからな。あの王女と、その取り巻きどもは。そいつらが俺の知らないところで、勝手に滅ぼうとしている。俺は、それが気に入らないのかもしれないな。

「ありがとな、ウィル。確かに俺は、蚊帳の外でいるのが嫌なんだ。へへっ、この国が滅びるんだとしても、せめて死に顔くらいは拝んでやらないとな」

「まーた、そうやって悪ぶって……似合ってないと思いますよ、私」

「いいんだよっ。俺は、俺のやりたいようにやるって決めたんだ。それにやっぱり、人がたくさん死ぬのは嫌だ」

「そうですね……私も、それは嫌です」

俺は、フランのほうを見た。

「フラン、どうかな。お前は、ついてきてくれるか?」

「……そういう言い方は、ずるい」

フランはふいっとそっぽを向いてしまったが、小さく、ほんのわずかにうなずいた。

「エラゼムは、朝に納得してくれたもんな」

「ええ。吾輩に異存はございません」

「ライラはどうだ?それでもいいかな」

「うーん、よくわかんないけど。みんなが行くんだったら、ライラもついてくよ」

「おっけー。じゃあ、最後に。アニ、お前は?」

俺は最後に、首から下がるガラスの鈴に声をかけた。思い返せば、一番最初に城から逃げ出した時は、俺とアニだけだった。それが今、俺たちは六人になって、王都に戻ろうとしている。

『……字引は、意見をしません。主様が決めたのであれば、それに従います』

「お前、それ今更だぞ……今までさんざん言いたい放題だったくせに」

『……そりゃあ、本音を言えばそんな馬鹿げた話、一蹴してやりたくもありますよ。危険すぎますし、メリットもない……ですが、私だって学習しないわけではありません。主様がこうと決めたら変えない人だというのは、今までの経験で嫌というほど学びました。ですので、主様が無事に切り抜けられるよう、サポートに徹することに決めたのです』

「あ、どうりで最近辛口コメントが減ったわけだ……でも、そっか。サンキューな」

『礼には及びません。そちらのほうがより効率的だと判断したまでです』

へへ、アニらしいや。けど、アニが居てくれるありがたみは、俺が一番よくわかってるつもりだ。

『ですが、細心の注意を払う場合のみの話ですよ。今まで以上に綿密に作戦を立てて、危険を感じたらすぐに逃げると約束してください』

「わかってるよ。ここでヘマするほど、カッコ悪いものはないからな」

よぅし、みんなの意思はまとまった。

「それじゃあ行くか。王都に!」



つづく
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