じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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7章 大根役者

10-2

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10-2

「……なるほどな。俺たち全員を檻に入れて、山の上の城まで連れていく、と。それで、その先は?」

「そ、それだけだ!俺たちの役目は、そこまでしか聞かされていない!」

「そうか。城に入るときは、何か特別な手順がいるのか?」

「手順だと?そんなもの必要ない。いつも生贄を運ぶときは、勝手に門が開いているんだ」

「なるほど……城主の目を欺くには、あくまで生贄を輸送するテイを保つ必要があると……そんじゃあんたたちは、この後すぐに俺たちを運ぶつもりだったのか?」

「い、いや。日が落ち、シスターの儀式が始まってからだ。俺たちは、その後を追うように山を登れと指示されている」

ふむ、確かに。檻に入った俺たちをリンが見たら、何事かと思うだろうからな。

「……よし。大体段取りはつかめたな。それじゃあ、あんたたちはもう用済みだ」

俺がエラゼムに目配せすると、エラゼムはコクリとうなずいた。エラゼムに抑えられていた男が真っ青になる。

「ま、まって、待ってくれ!俺はただ、神父様に命令されてやっただけなんだ!だから、どうか命だけは……」

「すまんが、少し黙ってもらおう」

ドスッ!エラゼムの鉄拳が男のみぞおちにめり込むと、男はグルリと白目をむいて気絶してしまった。

「そんじゃ、次はあんただ」

俺はフランが押さえつけている方に、手のひらを突き付けた。男の目が俺の手にくぎ付けになる。

「ソウル・カノン!」

ドンッ!俺の手から魔力の塊が放出され、男の顔面に直撃する。

「ウィル、いまだ!」

「はい!」

ウィルが水に飛び込むような格好で、男の体へとダイブする。シュパァー!青白い光がふきだし、男の体は一瞬びくりと痙攣すると、やがてぱちくり目をしばたいた。

「……入りました。うまくいきましたよ」

よし。ウィルの憑依、成功だ。ウィルが中から操る男は、手を握ったり開いたり、膝を曲げ伸ばしして動きを確認している。うん、問題無さそうだな。

「あとはコイツだな。ライラ、頼む」

「うん!」

ライラはエラゼムが気絶させた男の前に立つと、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。

「ブリーズアイヴィ!」

ふわっ。部屋の中にそよ風が吹く。すると気絶していた男の体が、むくりと起き上がった。

「おっとと。おっとっと……」

ライラが手をふらふらさせると、男の体もぐらぐら揺れた。ガツン!うわー、痛そう。顔面から壁に突っ込んでる。

「あちゃ、意外と難しい……いちおう、歩いてるっぽくさせてみるけど。しゃべったり、リアルな感じにはできないよ」

「ああ。そのへんはウィルにやってもらおう」

ウィルが入った男はこくりとうなずいた。

「それじゃ、外に出ないとな」

おそらく宿の表に、檻とやらが置いてあるのだろう。問題は、そこまでどうやって行くかだ。俺たちは薬で眠らされた事になってるから、歩いて行くわけにもいかない。表に他の教団員がいないとも限らないし……というわけで。

「ふぎぎぎぎ……」

「ウィル……大丈夫か?」

「何の、これしき……」

ウィルとライラの操る男たちに運ばれる形で、俺たちは宿の外へと出ることとなった。受付の前を通る時、しゃがれた声が俺たちに話しかけ、俺は飛び上がりそうになった。

「……大丈夫でしたか?何やら物音がしましたが」

「わへ!?」

ウィルがすっ飛んだ声を上げる。無人のように見える受付だけど、やっぱり奥に人がいたんだ。

「あ、ああ、はい。この通り、問題ありませんよ」

「……?そうですか……」

しゃがれた声は少し訝しげだったが、それ以上は追及してこなかった。あ、危ないところだった。慎重すぎるに越した事はないな……
宿の外には、二頭立ての立派な馬車が停められていた。だがよく見ると、窓には鉄格子がはまり、扉には南京錠で鍵がかけられるようになっている。罪人を輸送する車みたいだな。

「じゃあ、入れちゃいますよ……」

ウィルは小声で言うと、俺をその馬車へと押し込んだ。荷馬車の中は暗く、黒っぽい染みであちこち汚れていた。けど、案外これはいいぞ。窓くらいしか開いているところは無いので、外の視線を気にしなくても済みそうだ。

「それじゃあ、みなさんを連れてきます」

ウィルは窓から声をかけると、残りの仲間たちを担ぎに宿へと戻っていった。

「ふぅ、ふぅ……こ、これで全員ですね」

最後に鉄の塊とも言えるエラゼムを運び終わってから、ウィルin男は息を吐いた。誰かの肉体に入っていると、アンデッドとはいえ疲れを感じるのだろうか。

「おつかれ、ウィル。それじゃあ、時間になるまで……」

「っ!静かに!クライブ神父です!」

ウィルが鋭くささやいたので、俺は慌てて口をつぐんだ。みんなして床に寝転がり、寝ているふりをする……そのうちに、外からウィル(が入っている男)へと声をかける、クライブ神父の声が聞こえてきた。

「おい、うまくいったのか?」

「は、はい。いま、全員運び終えたところです……」

ウィルの少しどもった応答が聞こえる。俺は薄目を開けて様子をうかがっていたが、ふっと窓の部分が影に覆われた。クライブ神父が、中を覗き込んでいるらしい。

「……よし。ふん、馬鹿なガキどもよ。お前たち、手筈は忘れていないだろうな?」

「も、もちろんです。日没後、シスターの後について、山を登ればいいんですよね」

「馬鹿者、それまで油を売っているつもりか。シスターの出発までまだ時間がある、それまでに少しでも距離を縮めておけ。予定時刻より遅れたらどうなるか、いまさら言わなくてもいいだろうな?」

「あっ、そ、そうですね。そうでした……」

「まったく、ウスノロめが。町はずれの林の中なら、シスターに見られる心配もあるまい。そこまで先行し、シスターが行き次第続くのだ」

「はい、了解しました」

「ふん、どうだか……おい、そっちの男はどうかしたのか。さっきから一言もしゃべらないが」

あ、まずい!ライラが魔法で動かしている方だ。あくまで魔法で手足を動かしているだけ、言っちまえば操り人形みたいなもんだから、しゃべったりすることなんてできるわけない。ウィル、なんとかごまかせ~!

「あ、ああ、あの、こいつ、昼に妙なものを食べたらしくて。そのせいで、だんまりなんですよ。責めないでやってください……」

「ちっ、馬鹿が。ヘマをこくような真似をしてみろ。今度はお前がこの檻に入ることになるからな。覚悟しておけ」

クライブ神父は口酸っぱくしかりつけるが、男は気絶しているからまったく聞こえていない。意識を失っている顔が、神妙にしているっぽく見えるといいんだけど……

「私はもう行くぞ。くれぐれも、抜かりの無いようにな」

「は、はい」

ほっ……神父はとりあえず溜飲が下がったようだ。神父が去って行く足音がする……



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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