じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
262 / 860
7章 大根役者

11-3

しおりを挟む
11-3

楽しもう。目の前のトンチキな格好をした女は、そう言って唇の端を吊り上げた。けど、それは無理な相談だ。

「……なあ、あんた」

俺は女に固い声で呼びかける。

「あんた、とはぶしつけな。わらわはこの城の主、アルルカ・ミル・マルク・シュタイアーであるぞ?」

「そうか。じゃあ、アルルカさん。一つ聞いてもいいか?」

「ほう?なんだ、いうてみぃ。なんでも答えてやるぞ。今まで死んでいった旅人の名前は全て記憶しておる。その中にお前の家族がいたか?ひょっとすると、お前の父をわらわが殺しているかもしれんのぅ。くひひ!」

「そんなことは、どうでもいい」

俺は吐き捨てるように言い、アルルカの耳につく笑いを遮った。

「俺が聞きたいのは、あんたが町の人たちに……そして犠牲になった人たちに、謝る気はあるのかってことだけだ」

「は?謝る?」

アルルカは、心底理解できないと言う顔をした。

「何を言っておるのだ。おぬしがわらわに謝るのならともかく、わらわが謝罪をする必要がどこにある?」

「当然だろう。胸に手を当てて考えてみろよ」

「胸……ははぁ~ん。おぬしさては、うまいこと言ってわらわの胸にさわりたいのだな?わらわは美しいからのぅ」

「ちがう」

俺が即答すると、アルルカは気分を害したようにむっとした。

「俺は、あんたにもなにか事情があるんだと思っていたんだ。生きるために仕方なく血を吸っているとか、その見返りに町を守っているとか。でも、あんたはどうだ?リンをいたぶり、過去のシスターたちの犠牲すら馬鹿にしている。お前はいったい、何を考えているんだ?」

「はぁ?わらわはヴァンパイアであるぞ?おぬしら人間より優れた存在だ。上等なわらわが、下等なおぬしらをどう扱おうが勝手だろう」

「お前もヴァンパイアである前は人間だったはずだ。そん時の心はどこに置いてきちまったんだ?」

「きひひ、でたでた。人の心がどうとか、偉そうに説教するやつら。前にもおったわ、高名な聖職者だとかいう男も、似たようなことをふんぞり返って言っていたのぅ。そやつが最後にどうしたと思う?なんと、仲間を置いて自分だけ逃げ出そうとしたのだ!あっははは、笑っちゃったわよ!なんだかんだ言って、お前ら人間はそういう生き物なのだ!」

「……どうあっても、罪を悔い改める気は無いみたいだな」

俺は、ぎんっとアルルカを睨みつけた。

「おーおー、怖ーい顔しちゃって。そうだのぅ、おぬしらがわらわに勝つことができたなら、その時は地面に頭をこすりつけてやってもいいがのぅ。どうだ?わらわに勝てると思うか?」

「当然だ。そのために、俺たちはここに来たんだからな」

俺は右手の袖をまくり上げた。アルルカは、俺たちをあざけるようにニヤニヤと笑い続けている。自分の優位を信じて疑わない顔だ。アルルカからは、強いアンデッドの気を感じている。間違いなく、こいつはアンデッド、それもとびきり強力なヴァンパイアだ。

「……悪いけど、全力で向かわせてもらう。手加減はできないぞ」

「おぉう。勇ましいのぅ。かっこいいのぅ。きひひひひ!」

今まで俺が出会ったアンデッドたちは、どこかしら同情できる余地があった。過去に悲惨な死に方をしていて、そのせいで暴れているやつらばかりだった。だが、こいつは違う。はっきりと、自分が楽しむためだけに、人の命をもてあそんでいる。

「俺は、お前を許せない」

俺は、怒っているのだ。

「くひひひ!気合十分だのぅ。では、お楽しみの前に、ひとつ演劇でも観覧しようではないか」

アルルカは呆けているリンをマントの下に隠すと、次の瞬間には黒いかすみとなって、姿が掻き消えていた。逃げた?いや、階段の上に瞬間移動したんだ。アルルカが俺たちを見下しながら高らかに叫ぶ。

「さあ、死人と踊れ!かつての犠牲者たちと、舞踏会といこうではないか!」

アルルカがバッと腕を広げると、部屋の両脇で闇が動いた。その中から、大勢の何かが這いだしてくる。

「う……」

それは、骨と皮だけになった人間の死体の群れだった。体中の血を吸い尽くされた、かつての犠牲者たちだ。死してなお、彼ら彼女らは吸血鬼の支配下から逃れられずにいるんだ。

「あっははははは!さあ!亡者の大軍の前にどうするおつもり!?わらわを倒そうと聖水でもたんまり準備してたのかもしれないけど、残念だったわねぇ!ここで使わなきゃ、あんたたちここで終わりよ?」

「そんなもの、必要ない」

俺はまくった右腕を高々と突き上げると、勢いよく地面へ振り下ろし、叫んだ。

「ディストーションハンド!オーバードライブ!!」

ブワァー!霊波が部屋中に広がり、亡者たちを包み込んだ。

「なっ……え。嘘!お前、何をした!?」

亡者たちは俺の放った霊波に触れると、その場に硬直して動かなくなった。アルルカが初めて焦った声を出す。

「お前をぶっ飛ばすまでの間、おとなしくしててもらうように頼んだ。みんな快く了解してくれたよ、お前を倒すためならってな」

「ふっ……ふふん。なるほど、ただの旅人ではないというわけか。おもしろい、ならばわらわが直接相手をしてやろう」

アルルカはマントをバサッと広げると、カツカツと杖を突き、階段の中ほどまで下りてくる。

「今からお前たちが目にするのは、数ある属性魔法の中でも特に希少とされるものだ。この秘技を見れることを幸運に……」

「ごたくはいい。さっさとかかってこいよ」

「んぎ……生意気なっ!スノーフレークッ!」

アルルカが手のひらをこちらへ突きつける。すると、バキバキバキ!俺たちの足もとに氷が広がり、足が張り付けられてしまった。

「うわっ」

「なぁーはっはっは!見たか、油断するからだぞ?わらわの魔法の早打ちに対抗できたものなど、この半世紀見たことないわ!さーて、どうしてくれようかのぅ。まずは、ずいぶん無礼な口をきいた小僧、貴様から……」

バキッ!
フランが足に力をこめると、氷は一瞬で粉々に砕け散った。フランがつま先をぐりぐりしながら言う。

「ちょっと冷たかったけど……それで?これで終わり?」

アルルカが唖然とする。俺とライラの氷は、エラゼムが剣で砕いてくれた。

「う、うそでしょ。大人の大男でも砕けない氷なのに……」

「腕が衰えたんじゃない?わたし、見てのとおり女だけど」

「~~~ッ!生意気な!いいだろう、わらわも本気で行かせてもらう!」

アルルカは杖を握ると、見えないリボンを操るように宙をかいた。

「スノウウィロウ!」

パキパキパキ!杖の先に氷が紐のように連なり、氷の鞭となった。

「くらいなさい!」

ビューン!鞭がしなりながら飛んでくる。フランは俺を突き飛ばして後ろに下げると、鞭を自分一人で受け止めた。フランの右腕に鞭が絡みつくと、氷が広がって右手全体を包み込んでしまった。

「さぁ、捕まえたぞ!片腕が使えなければ、もう戦えまい!」

「……」

フランは氷に包まれた右腕ごと、ぐいと引っ張った。すると鞭でつながれたアルルカも、がくんと引っ張られる。

「わっ。な、なに?なんて馬鹿力なの……」

「…………」

馬鹿と言われて、さらにフランは強く右腕を引いた。アルルカも足を踏ん張ってそれに対抗する。

「ぐぎぎ……なめ、ないでよ!」

ブンッ!アルルカが強く鞭を振り上げると、フランの体は高々と宙に舞った。

「ヴァンパイアの力を舐め過ぎではなくて?肉弾戦だって、わらわはいけるのだ!」

アルルカが落っこちてくるフランに狙いを定め、拳を引く。しかし、俺は慌てていない。あいつは、フランを舐め過ぎだ。

「おりゃあ!」

「ふっ!」

アルルカが撃ち込んでくる拳にあわせて、フランは巧妙に体を捻り、蹴りを繰り出した。パンチとキックが正面衝突する。ドパーン!

「きゃあぁぁぁ!」

吹っ飛んだのはアルルカのほうだった。アルルカが階段を転がり落ちた拍子に、氷の鞭は切れてしまった。フランは右腕の氷を床に打ち付けて砕くと、すぐさまアルルカに追撃を掛ける。

「あいたぁ……ッ!」

アルルカが起き上がるころには、フランの鉤爪が目の前に迫っていた。しかし次の瞬間、アルルカの姿が黒い煙となって消えてしまう。フランの鉤爪は宙を切った。

「甘いわ!」

煙はフランの背後に集まり、再び実体となって襲い掛かる。アルルカは鋭い牙をむくと、フランのむき出しの肩へ噛みついた。

「っ」

「ッ!?」

アルルカが悶絶の表情を浮かべる。噛みつかれたフランが後ろ蹴りを放ったので、アルルカは後ろに飛び退り、再び階段の中ほどへ陣取った。

「ぺっぺ。ぺっぺっぺ!まっず~~~~い!なにこの血、腐ってんじゃないの!?」

どうやら、アルルカはフランの血を吸おうとしたらしい。しかし、俺は前にフランの血を見たことがある。ゾンビである彼女の血は、真っ黒なタールのようにドロドロだった。

「あんた!じつは若作りしてるだけで、中身はシワシワのババァなんでしょ!」

「うるさい!勝手に吸っといて、文句言うな!」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...