じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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7章 大根役者

12-2

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12-2

「……見えてきたな」

俺は目の前に点々と灯る明りを見て言った。セイラムロットの住人たちの町明かりだ。暗い夜にぽつぽつと浮かぶ光は、怪しい人魂を連想させる。
俺たちは城からひたすら道を下り、町はずれの森まで戻ってきていた。真っ黒な枝を付けた木にフクロウが一羽、黄色い目玉を光らせてとまっている。俺たちを出迎えるのはそいつくらいで、町の連中は儀式の掟に従い、誰一人外を出歩いてはいない。このルールも、今思えば怪しいもんだ。外へ誰も出られないということは、誰かがシスターに近づけばすぐに分かるということ。もしも儀式本番の日になって、血迷った誰かがシスターを助けようとしても、すぐに見つけられるってわけだ。

「……」

俺たちの列の先頭は、完全に沈黙するアルルカだ。うつむき、ほとんど地面しか見えないような恰好だが、一応道なりにとぼとぼ歩き続けている。その後ろを、アニの明かりを煌々と照らしながら俺が歩いている。勇者の証であるアニを見せびらかしていいのかって?大丈夫だ、今の俺は“勇者”だからな。
俺と仲間たちの後からは、無数の亡者たちが後をついてくる。この人たちは、“ハイゲイト”と呼ばれるアンデッドらしい。吸血鬼に襲われた犠牲者のなれの果てであると、アニが教えてくれた。彼ら彼女らはただ黙々と、きしきし軋む関節を動かしながら歩き続けている。

「……見られてる」

隣を歩くフランがぼそっと言った。俺たちが通り過ぎた後で、家々の扉がきぃと開く音がする。ときおり窓の向こうに、人影がちらつくのも見えた。

「結構だ。どうせこの後、みんなに聞いてもらうんだから」

俺は視線を気にせず、まっすぐシュタイアー教の御神堂へと向かった。



御神堂に近づくと、いよいよ町全体が何事かと騒ぎ始めたようだ。家々の中から、あわただしい足音が聞こえてくる。俺は少し前から、こっそり後をつけてくる人の気配も感じていた。
入り組んだ路地を抜け、御神堂の上に建つ事務所が見えると、俺は足を止め、大声で叫んだ。

「クライブ神父!出てきてもらいたい!」

もらいたい、もらいたい、もらいたい……俺の声が、夜の空にこだまする。うひゃ、自分でもびっくりした。ライラの魔法で声を拡張してもらっていたが、ここまでとは思ってなかったんだ。
俺のこだまが夜空のかなたに吸い込まれたころ、事務所の扉がゆっくりと開かれ、中からクライブ神父が顔をのぞかせた。

「……何者だ、お前は?」

神父がこう言うのも無理はない。今の俺は、以前王都で付けた仮面を付け、その上からマントとフードをすっぽり被っていたからだ。声も鼻声気味にしているから、まさか俺が、罠にはまったはずの少年だとは思わないだろう。

「俺か?これを見ても、ピンとこないか」

俺は、首から下がるアニを指でつまみ上げた。

「……まさか。それは、エゴバイブル……!」

「そうだ。俺は、二の国の勇者だ!」

勇者だ、勇者だ、勇者だ……まさか、またこう名乗る日がこようとは。俺の言葉に、神父の後ろからもざわつく声が聞こえてきた。教団の連中も奥で慌てているようだ。

「俺は、とある噂を聞きつけ、はるばるこの国に参上したのだ。理由はわかるな?」

「理由?はて、なんのことか……」

「とぼけるな!俺は、今夜あの城で起こったことをすべて知っている!これを見るがいい!」

俺はアルルカの肩を押して、ぐいと前に立たせた。アニの光に照らされ、アルルカの白い顔が浮かび上がる。クライブ神父が息をのんだ。

「まさか……シュタイアー様!」

「そうだ!俺はこのヴァンパイア、アルルカを打ち倒した!お前たちのしてきたこともすべて知っている。しらを切るのはよせ」

クライブ神父は、今まで見たことがないような表情を浮かべていた。焦りと、興奮がないまぜになったような顔だ。

「俺は城で生贄が捧げられると聞き、その場へ駆け付けた。が、残念な事に、少年一人が犠牲になった。しかし、お前たちのシスターは無事だ」

この場にいない俺は、死んだことにしとかないとな。そしてエラゼムが、気絶したリンを抱えて前に進み出た。

「っ!姉さん!通してっ!」

「あ、こら!」

クライブ神父の後ろでなにやらバタバタと聞こえると、ローズが制止する手を振り払って飛び出してきた。

「姉さんっ!」

「安心してくれ、気を失っているだけだ。シスターのことが気になるだろうが、今は少し待ってくれないか。俺は、そこのクライブ神父と話をしなければいけない」

俺が言い聞かせると、ローズはしぶしぶ引き下がった。彼女に話したいことも山ほどあったが、今はこっちが先だ。

「さて、クライブ神父。あなたたちがやってきたことは、とても褒められたことじゃないが、それでも頭ごなしに悪だと決めつけることはできないと、俺は思う。なぜなら、その裏にはヴァンパイアという、強い力を持った怪物の存在があったからだ」

クライブ神父の頬がぴくっと動いた。

「なので、まず先に、ヴァンパイアの贖罪から始めたいと思う。もしもこの声を聴いているのなら、町の人たちにもぜひ集まってほしい。この町の人たちは、ヴァンパイアに等しく苦しめられてきた。あなたたちは、謝罪を受ける権利があるはずだ」

俺が言い終わると、町全体にどよめきが走った気がした。今俺たちがいるのは、ひっそりとした細い路地を抜けた先だ。人の目なんか、めったにあるはずがない……しかし、今は全住人の注目が、この場所へと集まっているように思えた。

「謝罪、と言ったか……?」

クライブ神父が、恐る恐るといった様子で、口を開いた。

「ああ、そうだ。このヴァンパイア・アルルカに、あんたたちへ謝ってもらう。もちろんそれで犠牲者が帰ってくるわけじゃないし、損害を補えるとも思わない。けど、こいつがあんたたちへ返せるのは、それくらいだ」

この町にとっては、アルルカがいなくなることが何よりの幸福だろう。謝罪は単なる形式にしかならないことはわかっていたが、俺はそれが、アルルカが通すべきせめてもの筋だと思うのだ。悪いことをしたら、謝る。謝って許されることではないが、謝らないのはもっとひどいだろ。

「さあ、アルルカ」

俺はアルルカの肩をぽんと叩いて、先を促す。ここに来るまでに、俺はアルルカにさせることをすべて説明していた。おすわりみたいに、無理やりさせたんじゃ意味がないだろ。もちろん、彼女が心の底から反省しているとも思えないが……それでもだ。

「……」

アルルカはうつむいたまま、ピクリとも動かない。そんな彼女を、クライブ神父が食い入るように見つめていた。神父だけじゃない、ローズも、ほかの教団の連中も、いつのまにか集まってきた町人たちも、固唾をのんでその様子を見守っていた。

「……さい……」

マスクの下で、アルルカの唇がわずかに動き、そこから蚊の鳴くようなかすかな声が発せられた。

「ごめんなさい……あたしのせいで、たくさん人を死なせて……すみません、でした……」

それは夜風にかき消されてしまうほどかすかな声だったが、この場にいた全員が耳を限界まで傾けていたため、みなが聞き取ることができた。
うん、まあ及第点だろう。俺は十分だと判断して、アルルカを後ろに下がらせた。
しかし、セイラムロットの住人たちは、それではまだ足りなかったようだ。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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