じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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8章 重なる魂

3-2

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3-2

「……まあ、とりあえず。いったんは、ホッとしてもいいんですよね?」

ウィルがあたりを見回しながら、疲れた顔で胸をなでおろす。

「そうだな。逃げたってことは、あいつもこれ以上、やり合う気はないってことだろうし」

マスカレードとの戦闘で、焚き火はすっかり消えてしまった。俺たちは火を焚きなおすと、くたびれた体を引きずって、その周りに座った。

「しっかし、一時はどうなることかと思ったな。アルルカがいなかったら、正直ヤバかったかも」

俺は、輪から離れた所に一人佇むアルルカの顔を見た。アルルカの眉間の傷はすでに塞がっているようだったが、その白い顔は赤黒い血でべっとりと汚れていた。俺はアルルカの方へ向き直る

「アルルカ、助かったよ。ありがとな」

「……はぁ?別に、アンタたちのためにやったわけじゃないから。礼を言われる筋合いはないわ」

アルルカはツンっと顔を背けた。相変わらず素直じゃないやつ……けどまあ、一言も口をきかないよりかはマシだな。

「そうだアルルカ、傷は大丈夫なのか?よければ治すけど」

「あのねぇ、あたしはヴァンパイアよ?こんな怪我、屁でもないわ……でも、治せるの?」

「え?ああ、うん。俺の能力を使えば、アンデッドの傷を消すことができるんだ」

「へー……面白いわね。いいわ、やってごらんなさいよ」

頼む側のアルルカが、なぜか偉そうなんだが……まあいい、俺はアルルカのそばまで這って行くと、ファズの呪文を唱えるために、アルルカへと手を伸ばした。

「……え。ちょ、ちょっと!どこ触る気よ!」

「へ?」

アルルカが驚いたように体をのけ反らせた……ああ、そうか。俺が手を伸ばしていたのは、アルルカの胸元だ。

「やばい、これが当たり前だと思ってたな……」

「……桜下さん。私たちはいいですけど、見知らぬ女性の胸は触らないでくださいね?」

ウィルが冷めた目でこちらを見つめてくる。うぅ、俺の中のモラルが……

「ご、ごほん。あー、ごめんアルルカ。でも、変な意味じゃないんだぞ。俺の能力は、魂の上に手を重ねなくちゃならないんだ」

「魂、ねぇ……確かに、前もそうだったわね。あんた、どさくさに紛れて胸に触りたいだけじゃないの?」

「んな、なわけないだろ!現にエラゼムにだって、そうやって術を掛けるんだからな」

アルルカはまぶたを半分閉じて、本当か?という視線を向けてくる。ちぇ、あんな破廉恥な格好しているくせに、人を非難するのか?

「まあ、無理にとは言わないよ。血だらけじゃ可哀想だと思っただけだからさ。支障がないならいいんだ」

「……まあ、確かにね。あたしの美貌が損なわれるのは、由々しき事態だわ。それを考慮すれば、その術を掛けてもらうのもやぶさかではないわね」

「はぁ……じゃあ、やるってことでいいんだな?」

「で、でも!勘違いしないで、あんたを信用したんじゃないわ!一度くらいなら騙されてもいいかなって思っただけ!」

「わかったってば」

俺はため息をつくと、右手を伸ばして、アルルカの胸の真ん中に置いた。手が触れた瞬間、アルルカはびくっと身を固くした。手のひらから伝わってくる、ふにっとした感触を極力無視して、俺は呪文を唱えた。

「ディストーションハンド・ファズ!」

ヴン!一瞬、俺の右手が実体を失い、アルルカの胸の中へわずかに溶け込む。そこから魔力が流れ込むと、アルルカの顔についた血は逆再生のように傷口に吸い込まれ、額の傷は何もなかったかのように、きれいにふさがった。

「これでよし。ほら、きれいに治っただろ?」

アルルカはそろりと自分の額に触れると、確かに傷が消えている事に気づいて、驚いた顔をした。

「へー……便利な技が使えるのね。インチキネクロマンサーじゃなかったんだ」

「インチキって……まあ、あれだ。マスカレードを追っ払ってくれた礼だと思ってくれよ」

「ふん、あのブサイクが気に障っただけよ。もう一度言うけど、あんたたちのためじゃないわ」

「わかったわかった。ところで、他のみんなは大丈夫か?」

俺は特に、フランの体をじろじろ見回した。フランは奴に一発もらっている。

「だ、大丈夫だってば。たいしたことない」

フランは顔を赤らめて、俺に背を向けた。なんだ、照れているのか?さんざん裸を見ているってのに。

「……ん?」

俺はふと、エラゼムに目を止めた。力なくうなだれるエラゼムは、ひどく元気がないように見える。変だな、普段の毅然とした様子とは大違いだ。

「エラゼム……?」

俺が呼びかけると、エラゼムは力なく顔を上げた。

「桜下殿……申し訳ございません。少し、試してもらってもよいでしょうか」

「試す……?何をだ?」

「吾輩の剣を、直せますでしょうか」

剣だって?エラゼムは背中に背負っていた大剣を外すと、俺の前へと差し出した。魔法の金属・アダマンタイト製で、どんな攻撃にもびくともしなかったエラゼムの剣……焚き木の炎に照らされたその表面には、大きな黒いひび割れが入ってしまっていた。

「えぇ!こ、こ、これ。どうしたんだよ?」

「先の戦闘の際、マスカレードの刺突を受け止めた折に、もらった傷です」

あ……あれか!確かにあれは、お互いに吹っ飛ばされるほどの、ものすごいぶつかり合いだった。ガシャアとすごい音がしていたけど、そんなまさか……

「吾輩が、未熟でした。敵の攻撃力を見誤り、剣の頑強さに甘えた結果です……お手を煩わせて申し訳ない。桜下殿の能力で戻せるかどうか、一度試していただけませぬか」

エラゼムは相当な落ち込みようだ。自慢の愛剣だったもんな……

「それはもちろんいいけど……」

しかし、正直自信がなかった。微妙なところだ……俺の“ファズ”は、アンデッドの時間を巻き戻す能力だ。だけど、この大剣もエラゼムの一部としてみなされるかどうかは、俺にもわからない。

「とにかく、試してみるしかないな」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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