じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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8章 重なる魂

4-1 黒い旅人

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4-1 黒い旅人

「おーい、もう残っている旅人さんはいないなー?ゲートを閉めますよーっと」

あ、まずい!俺は声のかぎりに叫んだ。

「まったーーー!まったまった、まだいまーーーす!」

俺の声を聞きつけ、門の前で衛兵の男が手を止めた。

「うん?なんだ、まだいたんですか。それじゃ、さっさとしてください。日が暮れたら、もう国境は通れなくなりますよ」

よーし、ぎりぎりセーフだ。俺たちは大急ぎでそこへ向かう。
マスカレードの襲撃から数日。俺たちは三の国の東側沿岸を全速力で駆け抜け、今日の夕暮れ時になってようやく、二の国との国境まで戻ってきたのだ。マスカレードの追撃もなく、旅路は順調だったと言えるだろう。

「はあ、はあ……あ、そうだ。俺、こういうものなんですけど」

俺は息を切らしながらカバンをひっかきまわすと、金属製の小さなプレートを取り出した。ファインダーパス、国境を渡る通行手形みたいなもんだ。衛兵はプレートを見ると、すぐに態度を変えた。

「おや、ファインダーパスをお持ちの方でしたか。失礼いたしました」

さすが、効果テキメンだな。このパスがあれば、国境も楽々通れるんだ。先行した俺の後から、鎧・少女・幼女・幽霊・黒マスクという奇妙奇天烈な仲間たちがやってきても、パスの効果か、衛兵は目を丸くしただけで何も言わなかった。

「皆様は、二の国へお帰りですね。アアルマートはいかがでしたか?」

「さすが、叡智の都って呼ばれるだけあったよ。実に刺激的だった」

良くも悪くもだったけれど。そうとも知らず、衛兵は俺の返事に満足したのか、にっこり笑って門の中へと案内してくれた。二の国と三の国の国境検閲所は、巨大な洞窟の中に作られている。洞窟の中には、魔法で作られた光の玉の照明がいくつも設置されていて、白と黒のコントラストを洞窟内に投げかけていた。衛兵に連れられて進むうちに、ついに国境が見えてきた……ゆらゆらと揺れる、半透明のヴェール。天井から床まで隙間なく覆うそれは、違法な魔道具を検知する魔力のヴェールだ。本来であれば、旅人はそこをくぐらなければいけないのだけれど……

「みなさまは、どうぞこちらに」

そう言って、衛兵はヴェールのすぐ隣の詰め所へと案内してくれた。ファインダーパスを持っていると、あのヴェールをくぐらずに国境を渡れるのだ。衛兵は帳簿のようなノートを開いて、さらさらと簡単に記入した。

「はい、これで手続きは完了です。またのお越しをお待ちしております」

「どうもー」

ふう、楽勝楽勝。あっけないほど簡単に、俺たちは検閲所を出て、茜色に染まる二の国ギネンベルナへと戻ってきた。

「はは、別の国に行った後だと、なんだか懐かしく感じるな。大した時間は経ってないのに」

「本当ですね。なんだか、空気まで違った匂いがする気がします」

俺とウィルが話していると、ライラが首をかしげて、小さな鼻をふんふん言わせた。俺とウィルは、顔を見合わせてくくくっと笑った。

「さあ、日没までもうひと踏ん張りだ。行こう!」

この先には、ラクーンの町がある。今日中にたどり着けるかは微妙なところだけど、進むだけ進んでおこう。俺たちはストームスティードに乗り込むと、山道を下り始めた。



「ん~……お。ラクーンの町明かりが見えてきたな!」

俺はエラゼムのわきから顔を突き出して、前方にそびえる街並みを眺めた。俺たちは、宵闇迫る草原を走っている。夕日が見えなくなってから十分は経っただろうか。今は西の空の端っこに、うっすらとピンク色が残っているだけだ。じき夜の闇が後を追ってくるだろう。

「このままのペースで行けば、今夜は町で過ごせましょう!」

エラゼムが叫ぶと、ストームスティードの腹を蹴ってさらに加速する。ここ最近野宿続きだったから、そうなったらありがたい。ラクーンに着いたら、今度こそクリスの宿に泊まることにしよう。前はあいさつだけで、店に寄れなかったからな。親父さんも喜んでくれるだろうし、あそこのミートパイはうまい。
俺がそんなことを考えながら、町へと順調に進んでいた矢先のことだ。突如として隣を走るフランが、鋭い声を上げた。

「まって!」

うぇ?フランは足を踏ん張って急停止した。ズササー!それを見たエラゼムも、ストームスティードの速度を緩める。さすがに馬は急停止できないので、俺たちは大きく弧を描くように、フランの元へと駆け寄った。エラゼムがたずねる。

「いかがなされました、フラン嬢?」

「今一瞬、叫び声が聞こえた。それに、たくさんの馬のひづめの音も」

馬のひづめ?俺は耳を澄ませるが、さわさわという、日暮れの草原をそよぐ風の音しか聞こえない。しかしフランの五感は人並以上の鋭さだと、俺は知っている。きっと、フランにしか聞こえない何かがあったんだ。すると上空を飛んでいたアルルカが、ばさりと俺たちのそばへ降りてきた。

「そいつの言ってること、あながち間違いじゃないわよ」

「え?アルルカ、上で何か見たのか?」

「ええ。この先、数百キュビットほど行ったところで、何人かがレースをしてたわ」

「レース……?」

ひづめの音がしたってことは、馬に乗ってレースをしてるってことだろ。なんだろう、競馬?まさかな、こんなのっぱらで?だいたい、もう日が暮れるってのに、わざわざ追いかけっこなんて……

「……まてよ。アルルカ、まさかそれ、誰かが追われてるって意味か?」

「ぴんぽーん。だいせいかーい」

おどけた口調のアルルカに、フランが無言で拳を振り上げるが、俺は馬上から、振り上げた腕をがしっと押さえつけ、話を続けた。

「アルルカ、そいつらのこと、よく見えたか?つまり、なんの目的で追ってるのかとか……」

「目的ぃ?そんなの、荒野で女が追われる理由なんて、一つしかないでしょ」

「え?待ってくれ、追われてるのは女の人なのか?」

「そーよ。ながーい髪をしてたから、たぶんね。で、追っかけてるのはブサイクな男ども。こんなん、人攫い以外ありえないわよ」

「ひと、さらい……?」

「あそっか。あんたたちは二の国の人間だから知らないのね。アアルマートじゃ日常茶飯事よ。奴隷にするために、田舎町のガキを掻っ攫ってくんの。ここは国境付近でしょ?こんな時間と場所に女一人でうろついてたら、そりゃ恰好の獲物に……って、ちょっと!?」

アルルカが言い終える前に、俺はエラゼムに向かって叫んでいた。

「エラゼム!行こう!」

「承知しました!」

「ちょ、ちょっと!え、もしかして助けに行くつもり?バッカじゃないの、その女とは面識もクソもないのよ?」

「だから、なんだ!目の前でそんなことされちゃ、夢見が悪くなるだろ!」

イヒヒーン!ストームスティードは透明な前足を高くあげ、勇ましくいなないた。

「フラン、アルルカ!そいつらのいた方向、案内してくれ!」

「わかった!」

「いや、あたしは……あ、こら。待ちなさいよ!もぉー!」

ダダダッ!俺たちを乗せたストームスティードは、草を引きちぎりながら荒野を走り始めた。
陽は完全に沈んでしまった。夜の闇が瞬く間に帳《とばり》を広げると、視界は一気に暗くなってくる。俺は首から下げたアニを高く掲げ、その青い光で前方を照らした。

「……っ!見つけた!あそこだ!」

フランが叫ぶ。あ!百メートルほど離れた所を、ちょうど俺たちの前を横切るように、一騎の馬が走り抜けていく。そしてその後から、十人はいそうな大軍がどやどやとそれを追い立てていた。

「どう見ても尋常じゃなさそうだな!」

「後を追います!ぬりゃ!」

エラゼムが手綱を操ると、ストームスティードはぐるりと九十度首の向きを変え、疾走する一団と平行に走り出した。

「それで、どうするんですか!?」

ウィルが俺の耳元で叫ぶ。あまり早く飛べないウィルは、俺の両肩に必死にしがみついていた。

「とりあえず、追手の足を止めよう!ウィル!お前の出番だ!」

「ぅええぇー!?」

ダダダッ、ダダダッ!疾風の騎馬は軽やかに大地を蹴り、ぐんぐん一団との距離を詰めていく。

「ライラの魔法じゃ威力がありすぎだ!フランも同文!お前の魔法で、あいつらビビらせてやれ!」

「しょ、しょんな……」

ダダダッ、ダダダッ!ついに俺たちは、猛チェイスをする一団に並んだ。男たちが俺たちをぎょろりと睨み、女は横目でこちらを一瞥する。男たちが口を開きかけるが、先に声を上げたのは女のほうだった。

「助けて!」

女が俺たちのほうを向いて叫ぶ。そう言われちゃ、加勢しないわけにはいかないな。俺の胸の中に、闘争心が燃え上がった。

「よし、ウィル!いまだ……!?」

ズキン!俺が叫ぼうとした瞬間、胸の奥に鋭い痛みが走った。

「ぐっ……!?」

「お、桜下さん?大丈夫ですか?」

胸を押さえる俺の耳元で、ウィルが心配そうな声を上げる。い、いったいなんだ?突然胸がうずきだした……いや、突然じゃあない。こんなうずきを、前にも感じたことがある。マスカレードの闇の魔法を受けたときと、同じ感覚だ。

(くそ……なんだって、こんな時に!)

思わず奥歯をギリリと噛みしめた。アニが言っていた、これが心の傷ってやつか?確かに今、俺は人攫いたちに対して、闘志を燃やしていた。だが振り返ってみれば、それは純粋な闘志だけではなかったかもしれない。もっと、どす黒い感情……憎しみや、怒りのような気持ちも、そこにはあったんじゃないか?

(このうずきは、憎しみに反応しているのか?)

マスカレードから受けた心の傷が、俺の負の感情に呼応して、再び俺を暴れさせようとしているのかもしれない。ちくしょう!そんなこと、させてたまるもんか!
俺は深く息を吸い込むと、昂っていた感情をゆっくりと落ち着けた。

「……悪い、ウィル。もう大丈夫だ。それよりウィル、いけそうか?」

「え、ええ……もう、腹はくくりました」

「よし。それじゃ一発、かましてやれ!」

「わかりました……!桜下さん、協力してください!」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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