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9章 金色の朝

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「な、なにごとだ!誰だ、大騒ぎしている奴は!?」

十分ほどした後で、バタンと扉があき、エドガーが大声をあげて飛び込んできた。ちょうどその時は、フランとアルルカがお互いの髪を引っ張り合って、床でもんどりうっていた時だった。エドガーは目の前の光景に唖然とし、一方の俺たちといえば、意気消沈して止める気にもなれなかったのだ。

「なっ、何をしとるんだ!いい歳した娘が、はしたない!」

エドガーに止められ、二人はやっとケンカをやめた。二人とも髪はぼさぼさだし、アルルカはフランに蹴られた跡が顔にくっきり赤く残っていたし、フランはアルルカに引っかかれた傷が猫のひげのようについていた。まったく、しょうがないな。俺が二人を“ファズ”で治すと、今度は俺が怒られた。

「な、な、な……おなごの胸に手を突っ込むなど!この破廉恥小僧が!」

「あー、もう!話が進まないよ!」

それからさらに十分ほどして、ようやくエドガーは落ち着きを取り戻した。

「ごほん……まったく、お前たちときたら。少し目を離すだけですぐこれだ。ロア様がこんな連中を信用されているのが、つくづく疑問に思えてくるわ」

「もーいーだろ、その話は。それより、仕事について教えてくれよ。そのつもりで来たんだろ?」

「ちっ!生意気な小僧め!……まあいい、その通りだ。お前たちには、城内の補修、および城下町の復興作業に当たってもらう」

「うん、そうだろうって聞いた。前の戦いで傷んだところを直すんだろ」

「その通りだ。ただし、これらの仕事は、内容そのものが国家レベルの機密事項だ。もしもペラペラと外に話すようなことがあれば、その時は今度こそ、絞首台は免れんぞ……?」

「言わないってば。ロアとの約束もあるんだから。そっちもちゃんと守ってるだろ?」

「ふん!それもどうだか。聞いたぞ、三の国のでの出来事を。お前たち、あそこでも暴れたそうだな」

あれ?どうしてそれを……俺が驚いた顔をすると、エドガーは再三鼻を鳴らした。

「知らんとでも思ったか!勇者の情報はあっという間に広がるんだ。たとえ他国のことであろうとな」

「えっ。な、なあ。それって、まさか俺たちの正体についてとかじゃないだろうな……?」

「ああ、幸いそれはなかった。二の国の勇者が、三の国のとある村を救ったとか、そんなところだったか」

ほっ……シリス大公が約束を破って、俺のことをあけすけにしゃべったのかと思った。あいつならやりかねないのが恐ろしいところだ。

「なぁにホッとしている!自国でも把握してない勇者の情報が入ってきたものだから、ロア様はてんてこ舞いになられたのだぞ!」

「こっちにも事情があったんだよ。ちゃんと正体を隠したんだから、約束破りにはなってないはずだぜ?それよりほら、また話が脱線してるって」

「ぐっ……ち、口が減らんボウズめ。まあとにかく、仕事は秘密厳守だ。毎朝下で朝礼があるから、それに参加するように。持ち場はその時に伝える。あとは現地で指示に従ってくれ」

「ん、わかった。それじゃあ、本稼働は明日からか?」

「そうなるな。どっちみち、もうじき夕刻だ。今日はもうやれることもないだろう」

「あ、じゃあさ。今から夜の間だけ、ちょっと外に出てきてもいいかな?」

「なぁにぃ?」

エドガーがぎょろりと目玉をむく。

「この期に及んで、まだ夜遊びをする気か!駄目だダメだ、これ以上騒ぎをおこされてはかなわん!」

「ち、ちがくて。金がないのも本当だけど、俺たち、それとは別に入用な理由があるんだ。仲間の剣を直すためなんだよ」

「なに?剣?」

エドガーがきょとんと目をしばたいた。エラゼムが背中に背負っていた大剣を外し、そのヒビを見せる。

「こういうわけでしてな。桜下殿と皆様は、吾輩の剣の修理費の調達を買って出てくれたのだ。そして、それがどのくらいになるかの見積もりを得るために、鍛冶屋へ出向きたいのだよ」

エラゼムは、意外にもフランクな口調(いつもと比べて、という意味だが)でエドガーに説明した。そういや、この二人は以前、ラクーンの町で一度やりあっている。知り合いと言えるか微妙だけど、少なくとも顔見知りではあるんだ。

「むぅ……そ、そうか。お主ほどの腕でありながら傷をもらうとは、並々ならぬ敵であったようだな?」

「うむ。奴は、銀の仮面をつけていた」

エドガーが、はっと息をのんだ。

「銀の、仮面……?」

「そうだ。隊長殿の言うところの、マスカレードなる人物にもらった傷だ」

「まっ、マスカレード……!また奴が出たのか!」

ああ、そういやそれの報告もしないとな。マスカレードとの交戦、それにペトラから聞いた竜の話も……

「……なるほどな。ただほっつき歩いていたわけではないようだ。わかった。それについての報告は、後日改めて受ける。ロア様もその話を聞きたがるだろう。それと、お前たちの外出も認めてやる」

おお、エラゼムの語りが聞いたな。エラゼムは素直に頭を下げる。

「かたじけない、隊長殿」

「よせよせ、白々しい……しかし、あまり遅くなれば門が閉まるぞ。零時には戻れよ」

十二時には戻れだなんて、おとぎ話みたいだな……じゃなくて。

「俺たち、時計なんか持ってないぜ?」

「王都では六時間おきに鐘が鳴るようになっている。それでおおよその目安をつけられるだろう」

「へー、そうなんだ」

さすが王都。ほかの村と違って、時間の概念がきっちりしているな。

「それと、営舎での食事は決まった時間にしか出んからな。外出するのであれば、お前たちはお前たちでどうにかしろよ」

「ん、わかった。外で食ってくるよ」

「うむ。門を出るときに、衛兵に一声かけていくのを忘れるなよ。それと、明日は早いのだから、今夜は早く寝ないと痛い目を見るぞ」

「わかった、わかったって」

見た目のわりに、意外と細かいんだな。ひとしきり小言を言うと、エドガーは部屋を出て行った。

「さてと。それじゃ、早速行くか」

あ、けどライラが寝ているんだった。ライラは心地よさそうに、ベッドで寝息を立てている。起こすのも気が引けるが、かといってこの子を一人残しては行けないし……

「でしたら、吾輩だけで行ってまいりましょう。みなさんは休んでいてくだされ」

エラゼムが剣を背負って言った。確かに、別にみんなぞろぞろついていく必要ない。けど……

「へへ……実は俺、ちょっと興味があったりして」

さっきの専門街が、ちょっと気になっていたのだ。鍛冶屋なんて言ったら、ゲームじゃ定番だろ?かっこいい武器が置いてあったり、ぴかぴかの鎧が飾られていたり……

「でしたら、わたしがお留守番してましょうか?」

ウィルが留守番を買って出てくれた。アルルカも出歩くのに興味なさそうにしている。フランも残ると言った。

「わたしがいないと、万が一コイツ・・・が暴れたら、抑えられないでしょ」

フランはアルルカを憎々しげに見つめ、それを受けたアルルカは、親指で首をかき切るジェスチャーをした……だ、大丈夫かな、こいつらを置いて行って。帰ってきたら血みどろの争いになっていないだろうか……

「……ウィル。なんかあったら、すぐに呼びに来いよな」

俺がウィルに耳打ちすると、ウィルはまさかぁと笑った。

「いくらなんでも、そんな酷いことには……ならないですよね?」

俺が黙って首を振ると、ウィルは笑みを引っ込めて、不安げに目を潤ませた。



つづく
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