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9章 金色の朝
6-1 城の仕事
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6-1 城の仕事
パッパラッパ パッパパッパ パッパラッパパッパパー
「……んん?」
なんか聞こえたような……俺の肩になにかが触れる。
「起きて。朝だよ」
ゆさゆさ。むぅ、朝ということは、すなわち朝ということなんだろう……
「ふあ……」
俺はあくびを一つすると、目をぱちくり開いた。部屋の中はまだ薄暗い。相当早い時間のようだ。ベッドサイドに真っ黒な影が立っていてびくっとしたが、この暗がりの中でも、彼女の赤い瞳はルビーのように光っていた。
「フランか……」
「下で朝礼をするんだって。行かないといけないみたい」
ああ、昨日エドガーがそんなこと言ってたっけか……ずいぶん早い時間から始めるんだな。さて、であれば起きなきゃだな。俺が体を起こすと、隣にはライラが丸くなって眠っていた。後から横にもぐりこんできたらしい。
「ライラ。起きろ、朝だってさ」
「…………んん~~~?」
俺がライラをゆすると、ライラは小さく唸り、眠たそうに目をごしごしこすった。
「……まだ暗いよ……?」
「朝一に朝礼をするんだって。もう行かないと」
「…………」
ライラは腫れぼったい目をうすーく開いて、俺の顔を見上げている。まだ寝ぼけているのか?
「……だっこ」
「へ?」
「だっこして、つれてって」
ライラは腕を伸ばして、抱っこをせがんできた。ぜ、絶対寝ぼけている……普段あれだけ子ども扱いを嫌がるライラだ。しかし、今はそれよりも眠気のほうが強いらしい。
「つっても、抱っこで朝礼に出てもなぁ……」
俺が悩んでいると、フランが急かした。
「早くしないと、遅れるよ。みんな外に向かってる」
あ、ほんとだ。廊下をバタバタと走る足音がする。
「しょーがないな。ライラ、おんぶで勘弁してくれ」
俺はベッドのふちに腰掛けると、背中をライラに向けた。抱っこじゃ、ライラのもさもさの髪で前が見えなくなりそうだ。ライラがのしっと俺の背中に乗っかると、俺は彼女の細い足をつかんで、ひょいと担ぎ上げた。びっくりするほど軽い。
「さ、それじゃ俺たちも行こう」
フランが扉を開けてくれたので、俺たちは廊下に出て、営舎の外へと急いだ。
営舎の前には、大勢の兵士たちと、眼鏡をかけた職人らしき恰好が何人か、それに頭にタオルを巻いた-いかにもガテンな男たちが集まっていた。
「遅いぞ!早くせんか!」
うひゃ。前に立っているエドガーが、俺たちを見つけるや大声を飛ばしてくる。俺たちは急いでガテンたちの列の端っこに並んだ。
「くすくす……なんだ、子連れで登場か?」
「おいおい、ガキをおぶったまま仕事する気じゃねぇだろうな?」
むっ……俺たちが脇を走ると、そんな冷やかしがパラパラと飛んできた。けっ、言ってろ。
俺たちが列に加わると、エドガーが説明を始めた。
「諸君らには、これから各持ち場へ向かってもらう。昨日と引き続き同じ現場のもの、移動になるもの、それぞれバラバラだ。きちんと自分の持ち場を確認してから向かうように」
兵士たちが一斉に返事をしたので、俺もとりあえずうなずいておいた。けどよく見ると、返事をしたのは王国の兵士たちだけのようだ。
「現場についてからは、監督役の棟梁の指示に従うこと。昨日に引き続き、現場で見聞きしたことは一切他言無用、物品はたとえレンガ一つでも持ち出し禁止だ。違反すれば、最悪極刑も免れないことを、改めて説明しておくぞ」
ひー、やっぱり厳しいな。なんだったら、靴の裏に挟まった小石まで落として行けとか言われそうだ。
「では、これから各自現場の棟梁たちが班を分ける。よく聞いて、自分の現場へ向かうように。以上!」
エドガーが大声で怒鳴ると、とたんに喧騒があたりを包み込んだ。職人姿の人たちが大きな声で、A班はこっち、B班はあっちと呼んでいる。それに従って、みんなぞろぞろと移動をしていた。おい、けど俺たちは?班なんか聞いてないぞ?俺がおろおろしていると、群衆をかき分けて、エドガーがこちらへ近づいてきた。
「おい。お前たちはこれから班分けをするぞ」
「あ、そういうことか。わかった」
「ではまず、力自慢のもの。誰と誰だ?」
力、か。いうまでもなく、この二人だろう。フランとエラゼムが、並んで一歩進み出た。
「うむ。お前たちには、城内の補修に回ってもらう。資材搬送が担当だ」
二人がうなずくと、次にエドガーは、魔術の得意なものを指名した。
「魔法なら、お前らだな。ほれ、ライラ。そろそろ下すぞ」
俺は半分寝ぼけているライラを下すと、そろーり後ろに下がっていたアルルカをぐいと前に突き出した。
「こいつらがか……?」
エドガーが太い眉をぐにゃりと歪める。まぁ、確かにな……一人は幼女、もう一人は黒マントにマスクだ。
「あはは……でも、腕は確かだ。ロアから聞いてるだろ、スパルトイを飲み込んだ竜巻のこと」
あのどでかい竜巻を作り出したのは、間違いなくここにいるライラだ。あの時はほとんど意識のなかったエドガーでも、更地になった森のことは知っているだろう。エドガーはぐっと口をつぐむと、重々しくうなずいた。
「……わかった。では、お前たちの持ち場は正門の修理だ。あそこではどうしても大掛かりな工事が必要になるから、それをサポートすることになるぞ。いいな?」
エドガーの念押しに、ライラは大きなあくびで答えた……エドガーの頬がひくひくと動く。
「だ、大丈夫だって……な?」
俺はかがみこむと、ライラの肩に手を置いた。
「ライラ、頼んだぜ。お前の魔法がすごいってこと、ここの連中に見せつけてやれよな」
「桜下……うん、わかった」
ぽやぽやしていたライラの目がしゃっきりした。うん、これできっと大丈夫だろう。それと、注意すべきはもう一人だな。
「おい、アルルカ」
「……ぁによ」
俺はアルルカのマントをついと引っ張ると、彼女の耳に口を寄せた。
「いいか、ちゃんと現場の人の指示に従えよ?」
「なっ。あたしが、人間ごときに指示されろっていうの?冗談じゃ……」
「いいから、よく聞けって。ここの連中は、お前のことひ弱なザコ女だと思ってるんだぞ」
「……は?」
ピシ。アルルカの顔色が変わった。よし、いいぞ。
「お前がつっかえない、役立たずだと思ってやがるんだ。だから、その鼻を明かしてやってほしいんだよ。お前の力なら、それくらい余裕だろ?」
「……いーじゃない。上等よ。あたしを舐めたらどうなるか、思い知らせてやるわ……!」
これでよし。ある意味ライラより単純だった。
「頼んだぜ。けど、やりすぎんなよ。何か問題があったら、ぜーんぶ月末にかかってくるからな」
「うっ……わかってるわよ」
「ああ、あとそれと。できれば、ライラのことも気にかけてやってくれ」
「え?」
アルルカがきょとんと俺の顔を見つめ返した。
「大人ぶってるけど、まだ小さな子どもだからな。今日あいつの近くにいてやれるのは、お前だけだ。無理しないように、お前が見といてくれよ。な?」
するとアルルカは、心底意外そうに俺を見つめた。
「……あたしでいいわけ?」
「ん?ああ。だから頼んでる」
「……」
アルルカはなぜかむすっとして、俺から顔を背けた。
「……ガキのお守りなんて、ごめんだわ。けど、たまに様子を見るくらいなら……してあげても、いいわよ」
「おう。頼んだぜ」
俺はアルルカの肩をぽんと叩くと、彼女のそばから離れた。
「ごめん、待たせたな」
俺はエドガーのそばに戻った。エドガーはまだライラたちに疑惑の視線を向けていたが、最後に残った俺(とウィル)に目を戻した。
「それで。お前は、何が得意なんだ?」
「俺?俺は……フランたちみたいに怪力なわけでもないし、ライラたちみたいに魔法ができるわけでもないから……」
だから……俺はぽりぽりと頬をかいた。
「その……雑用係とか、ないかな?」
「……はぁ~~~~…………」
特大のエドガーのため息。癪に障るなぁ、もう。
「な、情けない。おぬし、それでも元勇者か!」
「わ、声でかいって!しょーがないだろ、ウソ言っても仕方ないんだし」
「むぅ……わかった。お前にも仕事を見繕ってある。後で道具を届けさせるから、お前は自分の部屋に戻っておれ」
え?部屋で仕事をするとは思ってなかったな。でもそうすると、四人とはここでいったんお別れだな。
「じゃあな、みんな。またあとで」
俺とウィルは、仲間たちに手を振った。俺たちが見送る中、フランとエラゼムは城のほうへ、ライラとアルルカは城門のほうへ向かうグループに加わっていった。大丈夫かな……いや、セイラムロットでも別行動を取ったんだ。今回も大丈夫、みんなを信じよう。
つづく
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明日からは通常投稿に戻りますので、引き続きよろしくお願いいたします。
読了ありがとうございました。
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「……んん?」
なんか聞こえたような……俺の肩になにかが触れる。
「起きて。朝だよ」
ゆさゆさ。むぅ、朝ということは、すなわち朝ということなんだろう……
「ふあ……」
俺はあくびを一つすると、目をぱちくり開いた。部屋の中はまだ薄暗い。相当早い時間のようだ。ベッドサイドに真っ黒な影が立っていてびくっとしたが、この暗がりの中でも、彼女の赤い瞳はルビーのように光っていた。
「フランか……」
「下で朝礼をするんだって。行かないといけないみたい」
ああ、昨日エドガーがそんなこと言ってたっけか……ずいぶん早い時間から始めるんだな。さて、であれば起きなきゃだな。俺が体を起こすと、隣にはライラが丸くなって眠っていた。後から横にもぐりこんできたらしい。
「ライラ。起きろ、朝だってさ」
「…………んん~~~?」
俺がライラをゆすると、ライラは小さく唸り、眠たそうに目をごしごしこすった。
「……まだ暗いよ……?」
「朝一に朝礼をするんだって。もう行かないと」
「…………」
ライラは腫れぼったい目をうすーく開いて、俺の顔を見上げている。まだ寝ぼけているのか?
「……だっこ」
「へ?」
「だっこして、つれてって」
ライラは腕を伸ばして、抱っこをせがんできた。ぜ、絶対寝ぼけている……普段あれだけ子ども扱いを嫌がるライラだ。しかし、今はそれよりも眠気のほうが強いらしい。
「つっても、抱っこで朝礼に出てもなぁ……」
俺が悩んでいると、フランが急かした。
「早くしないと、遅れるよ。みんな外に向かってる」
あ、ほんとだ。廊下をバタバタと走る足音がする。
「しょーがないな。ライラ、おんぶで勘弁してくれ」
俺はベッドのふちに腰掛けると、背中をライラに向けた。抱っこじゃ、ライラのもさもさの髪で前が見えなくなりそうだ。ライラがのしっと俺の背中に乗っかると、俺は彼女の細い足をつかんで、ひょいと担ぎ上げた。びっくりするほど軽い。
「さ、それじゃ俺たちも行こう」
フランが扉を開けてくれたので、俺たちは廊下に出て、営舎の外へと急いだ。
営舎の前には、大勢の兵士たちと、眼鏡をかけた職人らしき恰好が何人か、それに頭にタオルを巻いた-いかにもガテンな男たちが集まっていた。
「遅いぞ!早くせんか!」
うひゃ。前に立っているエドガーが、俺たちを見つけるや大声を飛ばしてくる。俺たちは急いでガテンたちの列の端っこに並んだ。
「くすくす……なんだ、子連れで登場か?」
「おいおい、ガキをおぶったまま仕事する気じゃねぇだろうな?」
むっ……俺たちが脇を走ると、そんな冷やかしがパラパラと飛んできた。けっ、言ってろ。
俺たちが列に加わると、エドガーが説明を始めた。
「諸君らには、これから各持ち場へ向かってもらう。昨日と引き続き同じ現場のもの、移動になるもの、それぞれバラバラだ。きちんと自分の持ち場を確認してから向かうように」
兵士たちが一斉に返事をしたので、俺もとりあえずうなずいておいた。けどよく見ると、返事をしたのは王国の兵士たちだけのようだ。
「現場についてからは、監督役の棟梁の指示に従うこと。昨日に引き続き、現場で見聞きしたことは一切他言無用、物品はたとえレンガ一つでも持ち出し禁止だ。違反すれば、最悪極刑も免れないことを、改めて説明しておくぞ」
ひー、やっぱり厳しいな。なんだったら、靴の裏に挟まった小石まで落として行けとか言われそうだ。
「では、これから各自現場の棟梁たちが班を分ける。よく聞いて、自分の現場へ向かうように。以上!」
エドガーが大声で怒鳴ると、とたんに喧騒があたりを包み込んだ。職人姿の人たちが大きな声で、A班はこっち、B班はあっちと呼んでいる。それに従って、みんなぞろぞろと移動をしていた。おい、けど俺たちは?班なんか聞いてないぞ?俺がおろおろしていると、群衆をかき分けて、エドガーがこちらへ近づいてきた。
「おい。お前たちはこれから班分けをするぞ」
「あ、そういうことか。わかった」
「ではまず、力自慢のもの。誰と誰だ?」
力、か。いうまでもなく、この二人だろう。フランとエラゼムが、並んで一歩進み出た。
「うむ。お前たちには、城内の補修に回ってもらう。資材搬送が担当だ」
二人がうなずくと、次にエドガーは、魔術の得意なものを指名した。
「魔法なら、お前らだな。ほれ、ライラ。そろそろ下すぞ」
俺は半分寝ぼけているライラを下すと、そろーり後ろに下がっていたアルルカをぐいと前に突き出した。
「こいつらがか……?」
エドガーが太い眉をぐにゃりと歪める。まぁ、確かにな……一人は幼女、もう一人は黒マントにマスクだ。
「あはは……でも、腕は確かだ。ロアから聞いてるだろ、スパルトイを飲み込んだ竜巻のこと」
あのどでかい竜巻を作り出したのは、間違いなくここにいるライラだ。あの時はほとんど意識のなかったエドガーでも、更地になった森のことは知っているだろう。エドガーはぐっと口をつぐむと、重々しくうなずいた。
「……わかった。では、お前たちの持ち場は正門の修理だ。あそこではどうしても大掛かりな工事が必要になるから、それをサポートすることになるぞ。いいな?」
エドガーの念押しに、ライラは大きなあくびで答えた……エドガーの頬がひくひくと動く。
「だ、大丈夫だって……な?」
俺はかがみこむと、ライラの肩に手を置いた。
「ライラ、頼んだぜ。お前の魔法がすごいってこと、ここの連中に見せつけてやれよな」
「桜下……うん、わかった」
ぽやぽやしていたライラの目がしゃっきりした。うん、これできっと大丈夫だろう。それと、注意すべきはもう一人だな。
「おい、アルルカ」
「……ぁによ」
俺はアルルカのマントをついと引っ張ると、彼女の耳に口を寄せた。
「いいか、ちゃんと現場の人の指示に従えよ?」
「なっ。あたしが、人間ごときに指示されろっていうの?冗談じゃ……」
「いいから、よく聞けって。ここの連中は、お前のことひ弱なザコ女だと思ってるんだぞ」
「……は?」
ピシ。アルルカの顔色が変わった。よし、いいぞ。
「お前がつっかえない、役立たずだと思ってやがるんだ。だから、その鼻を明かしてやってほしいんだよ。お前の力なら、それくらい余裕だろ?」
「……いーじゃない。上等よ。あたしを舐めたらどうなるか、思い知らせてやるわ……!」
これでよし。ある意味ライラより単純だった。
「頼んだぜ。けど、やりすぎんなよ。何か問題があったら、ぜーんぶ月末にかかってくるからな」
「うっ……わかってるわよ」
「ああ、あとそれと。できれば、ライラのことも気にかけてやってくれ」
「え?」
アルルカがきょとんと俺の顔を見つめ返した。
「大人ぶってるけど、まだ小さな子どもだからな。今日あいつの近くにいてやれるのは、お前だけだ。無理しないように、お前が見といてくれよ。な?」
するとアルルカは、心底意外そうに俺を見つめた。
「……あたしでいいわけ?」
「ん?ああ。だから頼んでる」
「……」
アルルカはなぜかむすっとして、俺から顔を背けた。
「……ガキのお守りなんて、ごめんだわ。けど、たまに様子を見るくらいなら……してあげても、いいわよ」
「おう。頼んだぜ」
俺はアルルカの肩をぽんと叩くと、彼女のそばから離れた。
「ごめん、待たせたな」
俺はエドガーのそばに戻った。エドガーはまだライラたちに疑惑の視線を向けていたが、最後に残った俺(とウィル)に目を戻した。
「それで。お前は、何が得意なんだ?」
「俺?俺は……フランたちみたいに怪力なわけでもないし、ライラたちみたいに魔法ができるわけでもないから……」
だから……俺はぽりぽりと頬をかいた。
「その……雑用係とか、ないかな?」
「……はぁ~~~~…………」
特大のエドガーのため息。癪に障るなぁ、もう。
「な、情けない。おぬし、それでも元勇者か!」
「わ、声でかいって!しょーがないだろ、ウソ言っても仕方ないんだし」
「むぅ……わかった。お前にも仕事を見繕ってある。後で道具を届けさせるから、お前は自分の部屋に戻っておれ」
え?部屋で仕事をするとは思ってなかったな。でもそうすると、四人とはここでいったんお別れだな。
「じゃあな、みんな。またあとで」
俺とウィルは、仲間たちに手を振った。俺たちが見送る中、フランとエラゼムは城のほうへ、ライラとアルルカは城門のほうへ向かうグループに加わっていった。大丈夫かな……いや、セイラムロットでも別行動を取ったんだ。今回も大丈夫、みんなを信じよう。
つづく
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2倍期間は本日までとなります。
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