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9章 金色の朝
8-4
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8-4
ライラの指示の下、アルルカは見通しのいい屋根の上に再び飛び乗った。
俺はライラに導かれるまま、彼女の後ろへと立たされる。
「ライラ、俺は何をするんだ?」
「あのね、これからやるまほーは、かなりマナの消費が激しいんだ。ものすごい量のマナを、精密にコントロールしなきゃいけないから、ライラだけのマナだと支えきれないかもしれないの。だからこの前みたいに、桜下の力を貸してほしいんだ」
ああ、あれか。ボーテングの町でやった、俺とライラの魂の同調。俺の膨大な魔力を、ライラに与えることで転用する術だ。
「わかった。そういうことなら、よろこんで力を貸すぜ」
「ありがとう!」
ライラはにこりと笑うと、目の前の城壁へと意識を集中させた。屋根の上から、アルルカの声が聞こえてくる。
「あたしは、いつでも行けるわよ」
「よぉし。それじゃあまず、門の周りの石を全部凍らせて!」
えっ、そんなことできるのか?と俺が口に出す間もなく、アルルカは得意の早撃ちで、素早く呪文を唱えた。
「ゼロ・アベーテ!」
な、何の音だ?ミシ、ミシ……パキパキパキパキッ!
うわ!ガラスがひび割れるような音と共に、城壁が、根元から凍り付いていく!まるで、氷河が生成される過程を見ているかのようだ。武骨な石壁がキラキラした粒子で覆われ、と思った次には分厚い氷で覆われていく。氷はどんどん壁面をせり上がり、ものの数十秒で、城門の周りは完全に氷漬けになってしまった。
「うわ……これじゃまるで、氷の門だ」
「これなら、壁が崩れることはないでしょ?さあ、次はライラたちの番だよ!いくよ、桜下!」
「あ、お、おう!」
ライラに呼びかけられ、俺は目の前の光景から慌てて目を離すと、ライラの小さな肩に両手を置いた。
「いくぜ!」
「きて!」
意識を集中させ、ライラの魂の鼓動を感じ取る。そこへ波長を合わせて、俺の魔力を流し込む……!
「受け取れ……!」
「……っ!感じるよ、桜下の魔力!」
ライラの髪が、磁気を帯びたかのようにふわりと巻き立つ。その状態で、ライラは両手を前に突き出し、よどみなく呪文を詠唱した。
「クレイローチ!!」
ぐにゃり。え、目の錯覚か?城門の前の地面が、水のように波打ったように見えたけど……いや、見間違いじゃない!地面が、湧き水のようにぼこぼこと沸き立っている!
「出てこいっ!」
ライラが手を振り上げると、地面が爆発し、無数の土柱が飛び出してきた。ズドドドド!
土柱は触手のようにしなやかで、ともすれば竜の首のようにも見える。まるで、土でできたヤマタノオロチを呼び出したかのようだ。
「いけっ!」
ライラが今度は手を前に突き出すと、無数の土柱は城門へと襲い掛かった。壁を覆う氷を砕き、城壁を構成する石材に容赦なくぶつかっていく……ぜ、全部ぶっ壊すつもりじゃないよな?頭ではわかっていても、そう思わずにはいられない迫力だ。
城壁に激突した土柱は、その身を石材の隙間に滑り込ませて、壁の深くまで浸透しているようだ。城門をぐるりと取り囲むように、無数の土柱が壁から生えているように見える。異様な光景だ……
「いっくぞおぉぉぉ……」
気合と同時に、ライラが突き出していた手を、ぎゅっと握り拳にしていく。ちょうど、見えない何かを掴んでいるような具合に。そしてそれと呼応するように、土柱の刺さった壁が、地鳴りのような音を発し始めた。ズズ……ズズズ……
ま、まさか。
「ぬっっけろおぉぉぉぉ!」
ライラが思い切り手を引く!それと同時に、ズゴゴゴゴ、ぼこん!石材と一体化した無数の土柱が、壁から石をまとめて引っこ抜いた!
「うわ!」
思わず目を覆いたくなったが、あいにくと両手は使用中だ。俺は両の目で、城壁の一部がすっぽり引き抜かれるのを目の当たりにした。あんな無茶なことしたら、すぐに壁が崩れて……しまわない。城壁はアルルカの氷によって、引っこ抜かれた形をきれいに残したまま、形状を保っていた。誰かが叫ぶ。
「あっ!門が!」
え?わ、ほんとだ。
周りの壁が抜かれ、支えを失った城門が、ゆっくりと傾いていく。うわわ、倒れるぞ!まるでスローモーションのように、ひび割れた城門は俺たち全員に見守られる中、ゆっくりと大地に倒れ伏した。ドダアアァァァァン!
城門は地面に当たると、震えながらバウンドした。超重量の木材が軋み、壮絶な悲鳴を発する。ギシギシ、グワアアン。
「よぉし、抜けたね。あとは、直すだけだ」
ライラは最後の仕上げとばかりに、引いていた腕をゆっくり元に戻す。すると土柱たちは、引き抜いた石材をもとの位置にはめなおし始めた。パズルのピースがはまるように、壁がかちり、かちりと元の姿に戻っていく。
ものの数分の出来事だった。たぶん、五分も経っていない。そのわずかな間に、城壁は破壊され、そして元に戻された。開いた口が塞がらない……
「これで、いっちょあがり、だね」
ライラは、満足げに鼻の頭をこすった。
「どう?すっごく早く片付いたでしょ?」
「あ、う、うん。そうだな……」
今までライラの魔法にはさんざん驚かされてきたが、それでもやっぱりビックリだ。この小さな女の子が一人いれば、王都の城門は簡単に破壊してしまえるのだから。たぶん今後も、俺は何度となく驚くはめになるんだろうなぁ……
「お、おい!お前たち!」
おっと。こちらにドタバタと走ってくるのは、血相を変えたヘイズだ。その背後では、兵士たちが腰を抜かしてしまっていた。俺みたく、ライラの魔法に慣れてないからな、彼らの驚きは俺の何倍もすごかっただろう。それはヘイズも同じなようで、少ししか走っていないのに、激しく息を震わせていた。
「い、い、今のは……?」
「あー、ライラがやったんだ」
「ど、ど、どうやって……?」
「魔法だな。さっきも話しただろ?」
ヘイズは動転して、普段の冷静さを失っているようだ。深く深呼吸をすると、ようやく落ち着きを取り戻した。
「今のが、いい考えとやらか。小さな魔術師どの?」
「そうだよ。手っ取り早かったでしょ?」
ライラがふんぞり返ると、ヘイズは悔しそうに顔を歪めた。
「ちっ。ああ、まったくな。こんな乱暴な方法と知っていたら、絶対に許可はしなかっただろうが。結果として、想定のウン倍は早く門が取り外せた」
「ふふーん、でしょう。だから言ったんだよ、ライラの言うとーりにしたらいいって」
「だぁー、癪に障るなぁ!まあいい、今回は礼を言っておく。だが、次はオレの許可を取ってからにしろよ!じゃないと現場が混乱する」
「うるさいなぁ。そんなことより、門を見てきたら?いちおう元には戻したけど、きちんとメンテナンスしたほうがいいって思うな」
「っとに生意気なガキ!言われなくても、分かってんよ!」
吐き捨てるように言い残すと、ヘイズはくるりと踵を返して、いまだに腰を抜かしている兵士たちへ檄を飛ばしに行ってしまった。
「き、きみたち……」
「え?」
今度は、なんだ?振り返ると、ローブ姿の魔術師たちが、ずらりと集まっていた。端っこには、さっきライラと一触即発になりかけた、中年魔女もいる。魔女は悔しそうにこちらを一瞥すると、ふいっと視線を外してしまった。まったく、いい根性してるよな。
俺たちに話しかけてきたのは、集団のちょうど真ん中にいる、小太りの魔術師だった。
「さ、さっきの魔法を使ったのは、誰だね?」
「ああ、この子だよ」
俺がライラの肩をぽんと叩くと、魔術師たちはギラリと視線を変えた。う、嫌な予感がする……
「きっ、きみ!よかったら、当ギルドに入らないかね!」
「何を言うか!お嬢さん、そこなギルドよりも、われらが研究所のほうがよりよい場所ですぞ!」
「あなたのような魔術師には、私たちの同盟のほうがふさわしいわ!ぜひ、私たちと共に!」
う、うわ。魔術師たちからの、我先にとばかりの勧誘の嵐。エドガーが言っていた、今はどこのギルドも、優秀な魔術師を欲しがっているってのは、本当らしいな。
「えーっと、この子はどこのギルドにも入らないっていうか……」
「そんな、もったいない!この子の才能を埋もれさせる気か!」
「この子の魔力は、世界をより良い方向へ導くための力だ!正しい機関で、正しい方向に導いてやる必要がある!」
「その通りだ!だから、せひとも我がギルドに!」
魔術師たちは目をやばい色に変えていて、俺の話はちっとも耳に入っていないみたいだ。さて、どうしたものかと頭を抱えていると、ライラが腕を広げて、ざざっと俺の前に立った。魔術師たちの目もライラに集中する。
「ちょっと!勝手なこと言わないでよ!ライラはどこのギルドにも入らないし、誰にも導いてもらう必要なんかない!」
「し、しかしだね、きみ。きみは、自分の力をもっと伸ばしたくはないのかい?優秀な指導者の下でなら、きみはもっと……」
「いらない。どんなに頭がよくたって、どんなにまほーが使えたってね。桜下以上にライラの力を引き出せる人なんて、いないもん」
え?ら、ライラ?ライラは俺の腕を取ると、誇らしげに胸を張った。
「ライラには、桜下がいるもん。お前らなんか、いらないよーっだ」
べーっと、舌を突き出すライラ。魔術師たちの視線は、ライラから俺へと移った。
(こ……怖いっ!)
魔術師たちは何も言わないが、顔にはっきりと書いてある。「こいつを亡き者にすれば、あるいは……」って。か、勘弁してくれ。せっかく命を狙われなくなったのに。
「あ、あはは。そういうわけだから、あきらめてくれ」
「し、しかし君。その子の才能は、埋もれさせておくにはあまりにも……」
「埋もれさせるつもりはないさ。俺の下で、きちんと開花させるんだから。それなら、文句はないんだろ?」
俺が強く言い切ると、魔術師たちは口をつぐんだ。この際だ、言いたいことは全部言っちまえ。
「あ、あとそれと。今後は、あんまりこの子にちょっかいを掛けないでくれよ。目に余るようなら、王宮にチクるからな。俺には、ちょこっとコネがあるんだ」
最後の方は、なるべく大きな声で言った。これで、端っこにいるキセルの魔女にも聞こえただろう。彼女が昨日の犯人かどうかは、わからない。けれど二度目を許せる自信は、俺にもなかった。
「さて……行こうぜ、ライラ」
言いたいことを言い切った俺は、ライラの手を掴むと、速やかにその場を後にした。口喧嘩で勝つには、言い逃げに限る。初めて前の世界での経験が役立ったな、はは……
背中には、チクチクと視線が突き刺さりまくっている。帰りに刺されたりとか、しないよな……?
「桜下、さっきの、どうだった?嬉しい?うれしい?」
ライラはそんなことちっとも気にせず、しきりに俺の腕を引っ張ってくる。まったく、かなわないな。
「おう。大魔術師様に気に入ってもらえて、俺も光栄だ」
「へへへぇ。そうでしょー」
「それに、よくやったよ。ヘイズも礼を言ってたしな。大したもんだ」
「うん!これで、昨日の分を取り戻せたかなぁ」
「そうだなぁ。けど、今日で終わりってわけじゃないからな。まだまだ気を抜くなよ」
「はぁい。大丈夫だよ、ライラは大まほーつかいなんだから!」
昨日涙を流していたとは思えないくらい、ライラは明るく笑った。
俺は、心の底から、ほっとした。
「……」
「あれ?アルルカ、どうしたんだ。ていうか、いたのか」
「いたわよ!ずーっと、いたわよ!!」
「わ、わかったって。大声出すなよ」
「なによ!あたしだって、すごい魔法を使ったじゃない!なのに、あの腐れ人間どもときたら、そのガキには群がるくせに、あたしには見向きもしなかったのよ!」
「あー。アルルカのも確かにすごかったな」
「そ、そうでしょう!?」
「けど、ちょっと地味だったな。あはは」
「ぶっ殺す!!!!」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺はライラに導かれるまま、彼女の後ろへと立たされる。
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「わかった。そういうことなら、よろこんで力を貸すぜ」
「ありがとう!」
ライラはにこりと笑うと、目の前の城壁へと意識を集中させた。屋根の上から、アルルカの声が聞こえてくる。
「あたしは、いつでも行けるわよ」
「よぉし。それじゃあまず、門の周りの石を全部凍らせて!」
えっ、そんなことできるのか?と俺が口に出す間もなく、アルルカは得意の早撃ちで、素早く呪文を唱えた。
「ゼロ・アベーテ!」
な、何の音だ?ミシ、ミシ……パキパキパキパキッ!
うわ!ガラスがひび割れるような音と共に、城壁が、根元から凍り付いていく!まるで、氷河が生成される過程を見ているかのようだ。武骨な石壁がキラキラした粒子で覆われ、と思った次には分厚い氷で覆われていく。氷はどんどん壁面をせり上がり、ものの数十秒で、城門の周りは完全に氷漬けになってしまった。
「うわ……これじゃまるで、氷の門だ」
「これなら、壁が崩れることはないでしょ?さあ、次はライラたちの番だよ!いくよ、桜下!」
「あ、お、おう!」
ライラに呼びかけられ、俺は目の前の光景から慌てて目を離すと、ライラの小さな肩に両手を置いた。
「いくぜ!」
「きて!」
意識を集中させ、ライラの魂の鼓動を感じ取る。そこへ波長を合わせて、俺の魔力を流し込む……!
「受け取れ……!」
「……っ!感じるよ、桜下の魔力!」
ライラの髪が、磁気を帯びたかのようにふわりと巻き立つ。その状態で、ライラは両手を前に突き出し、よどみなく呪文を詠唱した。
「クレイローチ!!」
ぐにゃり。え、目の錯覚か?城門の前の地面が、水のように波打ったように見えたけど……いや、見間違いじゃない!地面が、湧き水のようにぼこぼこと沸き立っている!
「出てこいっ!」
ライラが手を振り上げると、地面が爆発し、無数の土柱が飛び出してきた。ズドドドド!
土柱は触手のようにしなやかで、ともすれば竜の首のようにも見える。まるで、土でできたヤマタノオロチを呼び出したかのようだ。
「いけっ!」
ライラが今度は手を前に突き出すと、無数の土柱は城門へと襲い掛かった。壁を覆う氷を砕き、城壁を構成する石材に容赦なくぶつかっていく……ぜ、全部ぶっ壊すつもりじゃないよな?頭ではわかっていても、そう思わずにはいられない迫力だ。
城壁に激突した土柱は、その身を石材の隙間に滑り込ませて、壁の深くまで浸透しているようだ。城門をぐるりと取り囲むように、無数の土柱が壁から生えているように見える。異様な光景だ……
「いっくぞおぉぉぉ……」
気合と同時に、ライラが突き出していた手を、ぎゅっと握り拳にしていく。ちょうど、見えない何かを掴んでいるような具合に。そしてそれと呼応するように、土柱の刺さった壁が、地鳴りのような音を発し始めた。ズズ……ズズズ……
ま、まさか。
「ぬっっけろおぉぉぉぉ!」
ライラが思い切り手を引く!それと同時に、ズゴゴゴゴ、ぼこん!石材と一体化した無数の土柱が、壁から石をまとめて引っこ抜いた!
「うわ!」
思わず目を覆いたくなったが、あいにくと両手は使用中だ。俺は両の目で、城壁の一部がすっぽり引き抜かれるのを目の当たりにした。あんな無茶なことしたら、すぐに壁が崩れて……しまわない。城壁はアルルカの氷によって、引っこ抜かれた形をきれいに残したまま、形状を保っていた。誰かが叫ぶ。
「あっ!門が!」
え?わ、ほんとだ。
周りの壁が抜かれ、支えを失った城門が、ゆっくりと傾いていく。うわわ、倒れるぞ!まるでスローモーションのように、ひび割れた城門は俺たち全員に見守られる中、ゆっくりと大地に倒れ伏した。ドダアアァァァァン!
城門は地面に当たると、震えながらバウンドした。超重量の木材が軋み、壮絶な悲鳴を発する。ギシギシ、グワアアン。
「よぉし、抜けたね。あとは、直すだけだ」
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ものの数分の出来事だった。たぶん、五分も経っていない。そのわずかな間に、城壁は破壊され、そして元に戻された。開いた口が塞がらない……
「これで、いっちょあがり、だね」
ライラは、満足げに鼻の頭をこすった。
「どう?すっごく早く片付いたでしょ?」
「あ、う、うん。そうだな……」
今までライラの魔法にはさんざん驚かされてきたが、それでもやっぱりビックリだ。この小さな女の子が一人いれば、王都の城門は簡単に破壊してしまえるのだから。たぶん今後も、俺は何度となく驚くはめになるんだろうなぁ……
「お、おい!お前たち!」
おっと。こちらにドタバタと走ってくるのは、血相を変えたヘイズだ。その背後では、兵士たちが腰を抜かしてしまっていた。俺みたく、ライラの魔法に慣れてないからな、彼らの驚きは俺の何倍もすごかっただろう。それはヘイズも同じなようで、少ししか走っていないのに、激しく息を震わせていた。
「い、い、今のは……?」
「あー、ライラがやったんだ」
「ど、ど、どうやって……?」
「魔法だな。さっきも話しただろ?」
ヘイズは動転して、普段の冷静さを失っているようだ。深く深呼吸をすると、ようやく落ち着きを取り戻した。
「今のが、いい考えとやらか。小さな魔術師どの?」
「そうだよ。手っ取り早かったでしょ?」
ライラがふんぞり返ると、ヘイズは悔しそうに顔を歪めた。
「ちっ。ああ、まったくな。こんな乱暴な方法と知っていたら、絶対に許可はしなかっただろうが。結果として、想定のウン倍は早く門が取り外せた」
「ふふーん、でしょう。だから言ったんだよ、ライラの言うとーりにしたらいいって」
「だぁー、癪に障るなぁ!まあいい、今回は礼を言っておく。だが、次はオレの許可を取ってからにしろよ!じゃないと現場が混乱する」
「うるさいなぁ。そんなことより、門を見てきたら?いちおう元には戻したけど、きちんとメンテナンスしたほうがいいって思うな」
「っとに生意気なガキ!言われなくても、分かってんよ!」
吐き捨てるように言い残すと、ヘイズはくるりと踵を返して、いまだに腰を抜かしている兵士たちへ檄を飛ばしに行ってしまった。
「き、きみたち……」
「え?」
今度は、なんだ?振り返ると、ローブ姿の魔術師たちが、ずらりと集まっていた。端っこには、さっきライラと一触即発になりかけた、中年魔女もいる。魔女は悔しそうにこちらを一瞥すると、ふいっと視線を外してしまった。まったく、いい根性してるよな。
俺たちに話しかけてきたのは、集団のちょうど真ん中にいる、小太りの魔術師だった。
「さ、さっきの魔法を使ったのは、誰だね?」
「ああ、この子だよ」
俺がライラの肩をぽんと叩くと、魔術師たちはギラリと視線を変えた。う、嫌な予感がする……
「きっ、きみ!よかったら、当ギルドに入らないかね!」
「何を言うか!お嬢さん、そこなギルドよりも、われらが研究所のほうがよりよい場所ですぞ!」
「あなたのような魔術師には、私たちの同盟のほうがふさわしいわ!ぜひ、私たちと共に!」
う、うわ。魔術師たちからの、我先にとばかりの勧誘の嵐。エドガーが言っていた、今はどこのギルドも、優秀な魔術師を欲しがっているってのは、本当らしいな。
「えーっと、この子はどこのギルドにも入らないっていうか……」
「そんな、もったいない!この子の才能を埋もれさせる気か!」
「この子の魔力は、世界をより良い方向へ導くための力だ!正しい機関で、正しい方向に導いてやる必要がある!」
「その通りだ!だから、せひとも我がギルドに!」
魔術師たちは目をやばい色に変えていて、俺の話はちっとも耳に入っていないみたいだ。さて、どうしたものかと頭を抱えていると、ライラが腕を広げて、ざざっと俺の前に立った。魔術師たちの目もライラに集中する。
「ちょっと!勝手なこと言わないでよ!ライラはどこのギルドにも入らないし、誰にも導いてもらう必要なんかない!」
「し、しかしだね、きみ。きみは、自分の力をもっと伸ばしたくはないのかい?優秀な指導者の下でなら、きみはもっと……」
「いらない。どんなに頭がよくたって、どんなにまほーが使えたってね。桜下以上にライラの力を引き出せる人なんて、いないもん」
え?ら、ライラ?ライラは俺の腕を取ると、誇らしげに胸を張った。
「ライラには、桜下がいるもん。お前らなんか、いらないよーっだ」
べーっと、舌を突き出すライラ。魔術師たちの視線は、ライラから俺へと移った。
(こ……怖いっ!)
魔術師たちは何も言わないが、顔にはっきりと書いてある。「こいつを亡き者にすれば、あるいは……」って。か、勘弁してくれ。せっかく命を狙われなくなったのに。
「あ、あはは。そういうわけだから、あきらめてくれ」
「し、しかし君。その子の才能は、埋もれさせておくにはあまりにも……」
「埋もれさせるつもりはないさ。俺の下で、きちんと開花させるんだから。それなら、文句はないんだろ?」
俺が強く言い切ると、魔術師たちは口をつぐんだ。この際だ、言いたいことは全部言っちまえ。
「あ、あとそれと。今後は、あんまりこの子にちょっかいを掛けないでくれよ。目に余るようなら、王宮にチクるからな。俺には、ちょこっとコネがあるんだ」
最後の方は、なるべく大きな声で言った。これで、端っこにいるキセルの魔女にも聞こえただろう。彼女が昨日の犯人かどうかは、わからない。けれど二度目を許せる自信は、俺にもなかった。
「さて……行こうぜ、ライラ」
言いたいことを言い切った俺は、ライラの手を掴むと、速やかにその場を後にした。口喧嘩で勝つには、言い逃げに限る。初めて前の世界での経験が役立ったな、はは……
背中には、チクチクと視線が突き刺さりまくっている。帰りに刺されたりとか、しないよな……?
「桜下、さっきの、どうだった?嬉しい?うれしい?」
ライラはそんなことちっとも気にせず、しきりに俺の腕を引っ張ってくる。まったく、かなわないな。
「おう。大魔術師様に気に入ってもらえて、俺も光栄だ」
「へへへぇ。そうでしょー」
「それに、よくやったよ。ヘイズも礼を言ってたしな。大したもんだ」
「うん!これで、昨日の分を取り戻せたかなぁ」
「そうだなぁ。けど、今日で終わりってわけじゃないからな。まだまだ気を抜くなよ」
「はぁい。大丈夫だよ、ライラは大まほーつかいなんだから!」
昨日涙を流していたとは思えないくらい、ライラは明るく笑った。
俺は、心の底から、ほっとした。
「……」
「あれ?アルルカ、どうしたんだ。ていうか、いたのか」
「いたわよ!ずーっと、いたわよ!!」
「わ、わかったって。大声出すなよ」
「なによ!あたしだって、すごい魔法を使ったじゃない!なのに、あの腐れ人間どもときたら、そのガキには群がるくせに、あたしには見向きもしなかったのよ!」
「あー。アルルカのも確かにすごかったな」
「そ、そうでしょう!?」
「けど、ちょっと地味だったな。あはは」
「ぶっ殺す!!!!」
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黒ハット
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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