407 / 860
11章 夢の続き
3-3
しおりを挟む
3-3
剣の修理も無事に済み、いよいよこの地底都市ともおさらばする時が来た。ふーむ、ドワーフたちには悪いけど、名残惜しいよりは清々する気持ちの方が強いな。やっぱり人間、お日様の下が一番だ。
「おぬしら、そろそろ出発かの?」
荷物の整理も終え、そろそろ行こうかと言う時、宿にメイフィールドがやってきた。
「おう、メイフィールド。世話になったな、そろそろ行くよ」
「そうか。それは、ちと残念じゃの。あとほんの少しあれば、珍しいものが見れたのじゃが」
「珍しいもの?」
なんだろう。けど、そう言われると気になってくるよな。
「それ、すごい珍しいものなのか?」
「もちろん。神秘的で、何も意図しておらんように見えるが、しかして寸分の狂いも許されずに行われる事象じゃ。見ておいて損はないと思うがのー」
「へーえ、ずいぶん煽るじゃないか。そんなに言うなら、ぜひ見せてくれよ。別に急ぐ旅じゃないんだし」
「ほいきた。そう言うじゃろうと思って、呼びに来たんじゃよ」
なるほどな。うん、出発の前にちょっとした見物も悪くないだろう。
「ところで、何を見せてくれるんだ?」
「うむ。生命の神秘、新たなる魂の黎明。きら星のような……ようするに、ドワーフの誕生の立ち合いじゃよ。ちょうど今、新しい命が産まれるところなんじゃ」
え、ドワーフの誕生?俺とウィルは、思わず互いの顔を見つめた。確かドワーフは、男しかいないんだったよな?それでどうやって子どもが生まれるんだって、ウィルと話していたのだけれど……ついに、それが分かるのか!うわー、それは興味深いな。
「それなら、早く連れてってくれよ!」
「了解じゃ。それじゃ、そこの四名さん。わしについて来なされ」
あん?四名?俺は仲間たちの人数(幽霊のウィルは除いて、代わりに三つ編みちゃんを含む)を数えた。
「メイフィールド、俺たち六人なんだけど?」
「知っとるわい。わしが言っとるのは、女性の方のことじゃよ」
ああ、なるほど。じゃあ俺とエラゼムをのぞいて四人だ……え?
「ちょ、ちょっと待て。俺たちはついていけないのか?」
「そういうことになるの。ドワーフはみな、とある洞窟で産まれるのじゃが、そこに入れるのはアルバの資格を持つものだけなのじゃ。わしも案内はするが、入った事はないしの」
な、なんだって……アルバってのは、ドワーフの中で“産む力”を持つやつのことだから、俺たちの中だと女しか行けないことになるのか。
「なあぁぁんだよ、期待させるだけさせといて……なんか、急に興味なくなってきたな」
「そうかい?お嬢さん方も同じかの?」
メイフィールドが女性陣の方を見る。
「子どもが産まれるの?ライラ、ちょっと見てみたいな」
ライラは興味津々だった。そしてウィルも、「あの、私もちょっと……」と手を上げた。くっ……メイフィールドはライラを見て(ウィルは見えないから)、満足げに微笑んだ。
「うむ。決まりじゃの。好奇心には素直なことが一番じゃ」
かぁー!このタヌキじじい!俺だって行けるなら……いや、ちょっと待てよ。
「メイフィールド。実は俺。女なんだ。ドワーフ的には分かりづらいかもしれないけどさ」
「うわ、桜下さんそれは……」というウィルのボヤキは無視する。
「ほほう。それは好都合じゃな。実はわし、かねがね人間の女性とねんごろになりたいと思っておったんじゃ」
「え」
「おぬしぐらいガサツなほうがドワーフ好みじゃ。どうじゃ、これからわしの家に来てみんかの?」
メイフィールドがぬっと手を伸ばしてきたので、俺は稲妻のごとく後ろに跳び退った。メイフィールドは青くなった俺を見て髭を震わせて笑い、ウィルとライラもくすくす笑っている。
「わっはっは!このわしをからかおうなんて、百年は早いのぉ。けしからん小僧め、このわしが人間の性別程度、区別できんと思ったか?ドワーフのそれより、ずっと分かりやすいというのに?」
ああ、そうだった……ドワーフは、ぱっと見じゃ全く分からないアルバの資質を見抜けるんだっけ?くそ、はじめから分かった上でからかっていたのか。相手の方が一枚上手だ……
「それじゃあ、行ってきますね、桜下ちゃん?」
「じゃあね、桜下ちゃん!」
行きがけにウィルとライラが俺を茶化していく。くそ、子どもみたいなことしやがって……あ、本当に子どもなのか。フランとアルルカ、三つ編みちゃんもついていき、残されたのはぶすっとした俺と、エラゼムだ。
「……」
「……あー、桜下殿。観光でもいたしましょうか?」
「……いや、いい。それより体を動かそうぜ。なんだか無性に剣を振りたい気分だ」
「ははは、左様ですか。では、お付き合いさせていただきます」
それからしばらくして、女性勢とメイフィールドは戻ってきた。時間にして、三十分経つか経たないかくらいだろうか。意外と早かったな。
「おう、みんなおかえり」
「……」
「……?」
みんなはまさに、すごいものを見たという顔をしていた。ぼーっとしていて、誰も言葉を発さない。アルルカだけは、行きと変わらぬ様子だったが。
「ほっほ。命の誕生とは、まことに神秘的なものじゃからな。いちおう、あそこで見たことは他言無用でお願いしますぞ。説明したくてもできんじゃろうが」
女性陣はこくりとだけうなずいた。メイフィールドがそう言うくらいだから、よっぽどのものだったんだろう。うーん、想像もつかないな。
メイフィールドは町の入り口まで見送ってくれた。
「それではの。地上までの道は分かっておろうな?」
「ああ、大丈夫だ。いろいろありがとな」
「うむ。おぬしはからかいがいがあって、なかなか楽しかったぞい」
さいですか……ったく、最後まで食えない爺さんだ。俺はメイフィールドにさよならと手を振って別れた。さて、町を出たとは言え、地上まではまだまだ遠い。ここから狭い横穴を通って、あの大穴のふちをぐるぐる登って……ひい、外に出るだけでも一苦労だ。
「なあ、ところでさっきのやつ、俺にも教えてくれよ」
歩きながら、俺は気になっていたことを訊いてみた。すると女性陣はさっと視線を交わし、代表してウィルがおずおずと口を開く。
「あの……メイフィールドさんが言っていたこと、覚えていますか?門外不出がどうこうって」
「ああ。だから話せない?」
「いえ、そうではなく。私たちも詳細を見せては貰っていないんです。詳細っていうのは、どうやって産まれてくるだとか、産まれる瞬間だとかってことですけど」
「あ、なんだ。じゃあ、みんなは何を見たんだ?」
「えっと、それの準備だとか、道具の説明だとか……あとは、アルバのドワーフさんにお話を伺いました。ただ、それが……」
それが、なんなんだろう。ウィルはちらりと、フランを見る。
「すごかった、としか言いようがなくて……」
「……うん。なんか、すごかった」
「はぁ……?」
どうやら二人とも、うまく説明できないらしい。なんかこの感じ、学校で受けた保険体育の授業を思い出すな。男子が内容を訊いても、女子は一切教えてくれなかった気がする。
(……あんまり触れないほうがいいのかな)
気になりはするが、説明できないものを聞いてもしょうがないだろう。俺は話題を変えることにした。
「いやぁ、それにしても、なかなか濃い所だったな、カムロ坑道。正直居心地がいいとは言えないけど、とりあえずエラゼムの剣が直せてほんとによかった」
それが第一目標だったのだし、目的は無事達成した。いやー、ここまで長い道のりだった。何かをやり遂げるってのは、なかなか気分がいいもんだな。
「桜下殿、それに皆様。改めまして、ありがとうございました」
エラゼムがきっちりと礼をする。みんなには言わないけど、今回の一件で、彼との絆が深められたのもよかったよな。
「それで、これから王都まで戻って、三つ編みちゃんのことをロアに相談して……その後はどうしようか?」
今までは何となく目的があったけど、ここにきてそれがさっぱりなくなってしまった。俺の目標の事や、みんなの未練探しを考えると、あちこち旅したほうがいいんだけどな。
「うーん……」
「……でも、それなら」
ライラが、腕をさすりながら、ぽつりとこぼす。
「次行くとこは、あったかいとこだといいなぁ」
「あはは……同感だ」
北部の寒さは身に染みた。いっそ南の島にバカンスに行くのもいいかもしれない。
ぐるぐると螺旋の通路を上る長い道のりも、ぼつぼつ終わりが見えてきた。頭上にぽつりと浮かんでいた円形の空は、今や見渡すほどに大きくなっている。もうそろそろ大穴のふちに出られるだろう。空模様は晴れ。よかった、吹雪の中を下山しなくてすみそうだ。
「三つ編みちゃん、大丈夫?」
「ソリティアス、エス?グラティア」
ライラは三つ編みちゃんが歩きやすいように、手を握ってあげている。いつもなら、ライラだってとうにへばっていてもおかしくないんだけど。妹分ができたことで、いいとこ見せようとしているみたいだ。
そしてついに、地上へと頭が出る時がやってきた。
「ふ、ぅわ~。はぁ、陽の光があたたかいぜ」
穴の外に出ると、顔いっぱいにお日様の明かりを感じる。まぶしいと感じることがずいぶん久々に思えるぜ。あはは、たった数日、地の底に潜っていただけなのにな。エラゼムがそんな俺を気遣う。
「桜下殿、お疲れではありませぬか?山は下山時がもっとも注意すべきだと聞きます。無理せず、適度に休息を入れていきましょう」
「へ?登るより、下りるときの方が危険なのか?」
「ええ。下りは足腰への負担が大きいそうです。それに加え、登るときは気を張っていますが、一度山頂についてしまうと、それが緩むのが原因だとか」
「なるほどなぁ、油断大敵ってわけだ。俺は、まだ平気だけど……今は小さい同行者もいるしな。少し休んでいこうか」
三つ編みちゃんとは相変わらずコミュニケーションが取れないから、俺たちが様子を見てやらないといけない。ライラも見た目は元気だが、無理してそうだしな。俺たちはドワーフの町の市場で見つけた、油が無くても火が付く携帯コンロに火を灯した。面倒な火おこしが必要ないので、こういう野火では便利な代物だ。現地価格で安く買えたのもグッドポイントだな。
「せっかくですし、あったまるものでも淹れましょうか」
ウィルはお湯を沸かすと、中にハチミツを溶かしたお茶を淹れてくれた。それを飲むと、じんわりとした熱が広がって、腹の底から温まることができた。ライラと三つ編みちゃんの顔色もずいぶん良くなったな。
そして、後になって思えば、ここで一息ついていたのは大いに正解だった。なぜなら……この後に思いもよらない相手との再戦となったからだ。
つづく
====================
投稿2倍キャンペーン中!
お盆の間は、毎日0時と12時の二回更新!
夏の休みに、小説はいかがでしょうか。
読了ありがとうございました。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
剣の修理も無事に済み、いよいよこの地底都市ともおさらばする時が来た。ふーむ、ドワーフたちには悪いけど、名残惜しいよりは清々する気持ちの方が強いな。やっぱり人間、お日様の下が一番だ。
「おぬしら、そろそろ出発かの?」
荷物の整理も終え、そろそろ行こうかと言う時、宿にメイフィールドがやってきた。
「おう、メイフィールド。世話になったな、そろそろ行くよ」
「そうか。それは、ちと残念じゃの。あとほんの少しあれば、珍しいものが見れたのじゃが」
「珍しいもの?」
なんだろう。けど、そう言われると気になってくるよな。
「それ、すごい珍しいものなのか?」
「もちろん。神秘的で、何も意図しておらんように見えるが、しかして寸分の狂いも許されずに行われる事象じゃ。見ておいて損はないと思うがのー」
「へーえ、ずいぶん煽るじゃないか。そんなに言うなら、ぜひ見せてくれよ。別に急ぐ旅じゃないんだし」
「ほいきた。そう言うじゃろうと思って、呼びに来たんじゃよ」
なるほどな。うん、出発の前にちょっとした見物も悪くないだろう。
「ところで、何を見せてくれるんだ?」
「うむ。生命の神秘、新たなる魂の黎明。きら星のような……ようするに、ドワーフの誕生の立ち合いじゃよ。ちょうど今、新しい命が産まれるところなんじゃ」
え、ドワーフの誕生?俺とウィルは、思わず互いの顔を見つめた。確かドワーフは、男しかいないんだったよな?それでどうやって子どもが生まれるんだって、ウィルと話していたのだけれど……ついに、それが分かるのか!うわー、それは興味深いな。
「それなら、早く連れてってくれよ!」
「了解じゃ。それじゃ、そこの四名さん。わしについて来なされ」
あん?四名?俺は仲間たちの人数(幽霊のウィルは除いて、代わりに三つ編みちゃんを含む)を数えた。
「メイフィールド、俺たち六人なんだけど?」
「知っとるわい。わしが言っとるのは、女性の方のことじゃよ」
ああ、なるほど。じゃあ俺とエラゼムをのぞいて四人だ……え?
「ちょ、ちょっと待て。俺たちはついていけないのか?」
「そういうことになるの。ドワーフはみな、とある洞窟で産まれるのじゃが、そこに入れるのはアルバの資格を持つものだけなのじゃ。わしも案内はするが、入った事はないしの」
な、なんだって……アルバってのは、ドワーフの中で“産む力”を持つやつのことだから、俺たちの中だと女しか行けないことになるのか。
「なあぁぁんだよ、期待させるだけさせといて……なんか、急に興味なくなってきたな」
「そうかい?お嬢さん方も同じかの?」
メイフィールドが女性陣の方を見る。
「子どもが産まれるの?ライラ、ちょっと見てみたいな」
ライラは興味津々だった。そしてウィルも、「あの、私もちょっと……」と手を上げた。くっ……メイフィールドはライラを見て(ウィルは見えないから)、満足げに微笑んだ。
「うむ。決まりじゃの。好奇心には素直なことが一番じゃ」
かぁー!このタヌキじじい!俺だって行けるなら……いや、ちょっと待てよ。
「メイフィールド。実は俺。女なんだ。ドワーフ的には分かりづらいかもしれないけどさ」
「うわ、桜下さんそれは……」というウィルのボヤキは無視する。
「ほほう。それは好都合じゃな。実はわし、かねがね人間の女性とねんごろになりたいと思っておったんじゃ」
「え」
「おぬしぐらいガサツなほうがドワーフ好みじゃ。どうじゃ、これからわしの家に来てみんかの?」
メイフィールドがぬっと手を伸ばしてきたので、俺は稲妻のごとく後ろに跳び退った。メイフィールドは青くなった俺を見て髭を震わせて笑い、ウィルとライラもくすくす笑っている。
「わっはっは!このわしをからかおうなんて、百年は早いのぉ。けしからん小僧め、このわしが人間の性別程度、区別できんと思ったか?ドワーフのそれより、ずっと分かりやすいというのに?」
ああ、そうだった……ドワーフは、ぱっと見じゃ全く分からないアルバの資質を見抜けるんだっけ?くそ、はじめから分かった上でからかっていたのか。相手の方が一枚上手だ……
「それじゃあ、行ってきますね、桜下ちゃん?」
「じゃあね、桜下ちゃん!」
行きがけにウィルとライラが俺を茶化していく。くそ、子どもみたいなことしやがって……あ、本当に子どもなのか。フランとアルルカ、三つ編みちゃんもついていき、残されたのはぶすっとした俺と、エラゼムだ。
「……」
「……あー、桜下殿。観光でもいたしましょうか?」
「……いや、いい。それより体を動かそうぜ。なんだか無性に剣を振りたい気分だ」
「ははは、左様ですか。では、お付き合いさせていただきます」
それからしばらくして、女性勢とメイフィールドは戻ってきた。時間にして、三十分経つか経たないかくらいだろうか。意外と早かったな。
「おう、みんなおかえり」
「……」
「……?」
みんなはまさに、すごいものを見たという顔をしていた。ぼーっとしていて、誰も言葉を発さない。アルルカだけは、行きと変わらぬ様子だったが。
「ほっほ。命の誕生とは、まことに神秘的なものじゃからな。いちおう、あそこで見たことは他言無用でお願いしますぞ。説明したくてもできんじゃろうが」
女性陣はこくりとだけうなずいた。メイフィールドがそう言うくらいだから、よっぽどのものだったんだろう。うーん、想像もつかないな。
メイフィールドは町の入り口まで見送ってくれた。
「それではの。地上までの道は分かっておろうな?」
「ああ、大丈夫だ。いろいろありがとな」
「うむ。おぬしはからかいがいがあって、なかなか楽しかったぞい」
さいですか……ったく、最後まで食えない爺さんだ。俺はメイフィールドにさよならと手を振って別れた。さて、町を出たとは言え、地上まではまだまだ遠い。ここから狭い横穴を通って、あの大穴のふちをぐるぐる登って……ひい、外に出るだけでも一苦労だ。
「なあ、ところでさっきのやつ、俺にも教えてくれよ」
歩きながら、俺は気になっていたことを訊いてみた。すると女性陣はさっと視線を交わし、代表してウィルがおずおずと口を開く。
「あの……メイフィールドさんが言っていたこと、覚えていますか?門外不出がどうこうって」
「ああ。だから話せない?」
「いえ、そうではなく。私たちも詳細を見せては貰っていないんです。詳細っていうのは、どうやって産まれてくるだとか、産まれる瞬間だとかってことですけど」
「あ、なんだ。じゃあ、みんなは何を見たんだ?」
「えっと、それの準備だとか、道具の説明だとか……あとは、アルバのドワーフさんにお話を伺いました。ただ、それが……」
それが、なんなんだろう。ウィルはちらりと、フランを見る。
「すごかった、としか言いようがなくて……」
「……うん。なんか、すごかった」
「はぁ……?」
どうやら二人とも、うまく説明できないらしい。なんかこの感じ、学校で受けた保険体育の授業を思い出すな。男子が内容を訊いても、女子は一切教えてくれなかった気がする。
(……あんまり触れないほうがいいのかな)
気になりはするが、説明できないものを聞いてもしょうがないだろう。俺は話題を変えることにした。
「いやぁ、それにしても、なかなか濃い所だったな、カムロ坑道。正直居心地がいいとは言えないけど、とりあえずエラゼムの剣が直せてほんとによかった」
それが第一目標だったのだし、目的は無事達成した。いやー、ここまで長い道のりだった。何かをやり遂げるってのは、なかなか気分がいいもんだな。
「桜下殿、それに皆様。改めまして、ありがとうございました」
エラゼムがきっちりと礼をする。みんなには言わないけど、今回の一件で、彼との絆が深められたのもよかったよな。
「それで、これから王都まで戻って、三つ編みちゃんのことをロアに相談して……その後はどうしようか?」
今までは何となく目的があったけど、ここにきてそれがさっぱりなくなってしまった。俺の目標の事や、みんなの未練探しを考えると、あちこち旅したほうがいいんだけどな。
「うーん……」
「……でも、それなら」
ライラが、腕をさすりながら、ぽつりとこぼす。
「次行くとこは、あったかいとこだといいなぁ」
「あはは……同感だ」
北部の寒さは身に染みた。いっそ南の島にバカンスに行くのもいいかもしれない。
ぐるぐると螺旋の通路を上る長い道のりも、ぼつぼつ終わりが見えてきた。頭上にぽつりと浮かんでいた円形の空は、今や見渡すほどに大きくなっている。もうそろそろ大穴のふちに出られるだろう。空模様は晴れ。よかった、吹雪の中を下山しなくてすみそうだ。
「三つ編みちゃん、大丈夫?」
「ソリティアス、エス?グラティア」
ライラは三つ編みちゃんが歩きやすいように、手を握ってあげている。いつもなら、ライラだってとうにへばっていてもおかしくないんだけど。妹分ができたことで、いいとこ見せようとしているみたいだ。
そしてついに、地上へと頭が出る時がやってきた。
「ふ、ぅわ~。はぁ、陽の光があたたかいぜ」
穴の外に出ると、顔いっぱいにお日様の明かりを感じる。まぶしいと感じることがずいぶん久々に思えるぜ。あはは、たった数日、地の底に潜っていただけなのにな。エラゼムがそんな俺を気遣う。
「桜下殿、お疲れではありませぬか?山は下山時がもっとも注意すべきだと聞きます。無理せず、適度に休息を入れていきましょう」
「へ?登るより、下りるときの方が危険なのか?」
「ええ。下りは足腰への負担が大きいそうです。それに加え、登るときは気を張っていますが、一度山頂についてしまうと、それが緩むのが原因だとか」
「なるほどなぁ、油断大敵ってわけだ。俺は、まだ平気だけど……今は小さい同行者もいるしな。少し休んでいこうか」
三つ編みちゃんとは相変わらずコミュニケーションが取れないから、俺たちが様子を見てやらないといけない。ライラも見た目は元気だが、無理してそうだしな。俺たちはドワーフの町の市場で見つけた、油が無くても火が付く携帯コンロに火を灯した。面倒な火おこしが必要ないので、こういう野火では便利な代物だ。現地価格で安く買えたのもグッドポイントだな。
「せっかくですし、あったまるものでも淹れましょうか」
ウィルはお湯を沸かすと、中にハチミツを溶かしたお茶を淹れてくれた。それを飲むと、じんわりとした熱が広がって、腹の底から温まることができた。ライラと三つ編みちゃんの顔色もずいぶん良くなったな。
そして、後になって思えば、ここで一息ついていたのは大いに正解だった。なぜなら……この後に思いもよらない相手との再戦となったからだ。
つづく
====================
投稿2倍キャンペーン中!
お盆の間は、毎日0時と12時の二回更新!
夏の休みに、小説はいかがでしょうか。
読了ありがとうございました。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる