じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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11章 夢の続き

3-3

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3-3

剣の修理も無事に済み、いよいよこの地底都市ともおさらばする時が来た。ふーむ、ドワーフたちには悪いけど、名残惜しいよりは清々する気持ちの方が強いな。やっぱり人間、お日様の下が一番だ。

「おぬしら、そろそろ出発かの?」

荷物の整理も終え、そろそろ行こうかと言う時、宿にメイフィールドがやってきた。

「おう、メイフィールド。世話になったな、そろそろ行くよ」

「そうか。それは、ちと残念じゃの。あとほんの少しあれば、珍しいものが見れたのじゃが」

「珍しいもの?」

なんだろう。けど、そう言われると気になってくるよな。

「それ、すごい珍しいものなのか?」

「もちろん。神秘的で、何も意図しておらんように見えるが、しかして寸分の狂いも許されずに行われる事象じゃ。見ておいて損はないと思うがのー」

「へーえ、ずいぶん煽るじゃないか。そんなに言うなら、ぜひ見せてくれよ。別に急ぐ旅じゃないんだし」

「ほいきた。そう言うじゃろうと思って、呼びに来たんじゃよ」

なるほどな。うん、出発の前にちょっとした見物も悪くないだろう。

「ところで、何を見せてくれるんだ?」

「うむ。生命の神秘、新たなる魂の黎明。きら星のような……ようするに、ドワーフの誕生の立ち合いじゃよ。ちょうど今、新しい命が産まれるところなんじゃ」

え、ドワーフの誕生?俺とウィルは、思わず互いの顔を見つめた。確かドワーフは、男しかいないんだったよな?それでどうやって子どもが生まれるんだって、ウィルと話していたのだけれど……ついに、それが分かるのか!うわー、それは興味深いな。

「それなら、早く連れてってくれよ!」

「了解じゃ。それじゃ、そこの四名さん。わしについて来なされ」

あん?四名?俺は仲間たちの人数(幽霊のウィルは除いて、代わりに三つ編みちゃんを含む)を数えた。

「メイフィールド、俺たち六人なんだけど?」

「知っとるわい。わしが言っとるのは、女性の方のことじゃよ」

ああ、なるほど。じゃあ俺とエラゼムをのぞいて四人だ……え?

「ちょ、ちょっと待て。俺たちはついていけないのか?」

「そういうことになるの。ドワーフはみな、とある洞窟で産まれるのじゃが、そこに入れるのはアルバの資格を持つものだけなのじゃ。わしも案内はするが、入った事はないしの」

な、なんだって……アルバってのは、ドワーフの中で“産む力”を持つやつのことだから、俺たちの中だと女しか行けないことになるのか。

「なあぁぁんだよ、期待させるだけさせといて……なんか、急に興味なくなってきたな」

「そうかい?お嬢さん方も同じかの?」

メイフィールドが女性陣の方を見る。

「子どもが産まれるの?ライラ、ちょっと見てみたいな」

ライラは興味津々だった。そしてウィルも、「あの、私もちょっと……」と手を上げた。くっ……メイフィールドはライラを見て(ウィルは見えないから)、満足げに微笑んだ。

「うむ。決まりじゃの。好奇心には素直なことが一番じゃ」

かぁー!このタヌキじじい!俺だって行けるなら……いや、ちょっと待てよ。

「メイフィールド。実は俺。女なんだ。ドワーフ的には分かりづらいかもしれないけどさ」

「うわ、桜下さんそれは……」というウィルのボヤキは無視する。

「ほほう。それは好都合じゃな。実はわし、かねがね人間の女性とねんごろになりたいと思っておったんじゃ」

「え」

「おぬしぐらいガサツなほうがドワーフ好みじゃ。どうじゃ、これからわしの家に来てみんかの?」

メイフィールドがぬっと手を伸ばしてきたので、俺は稲妻のごとく後ろに跳び退った。メイフィールドは青くなった俺を見て髭を震わせて笑い、ウィルとライラもくすくす笑っている。

「わっはっは!このわしをからかおうなんて、百年は早いのぉ。けしからん小僧め、このわしが人間の性別程度、区別できんと思ったか?ドワーフのそれより、ずっと分かりやすいというのに?」

ああ、そうだった……ドワーフは、ぱっと見じゃ全く分からないアルバの資質を見抜けるんだっけ?くそ、はじめから分かった上でからかっていたのか。相手の方が一枚上手だ……

「それじゃあ、行ってきますね、桜下ちゃん?」

「じゃあね、桜下ちゃん!」

行きがけにウィルとライラが俺を茶化していく。くそ、子どもみたいなことしやがって……あ、本当に子どもなのか。フランとアルルカ、三つ編みちゃんもついていき、残されたのはぶすっとした俺と、エラゼムだ。

「……」

「……あー、桜下殿。観光でもいたしましょうか?」

「……いや、いい。それより体を動かそうぜ。なんだか無性に剣を振りたい気分だ」

「ははは、左様ですか。では、お付き合いさせていただきます」



それからしばらくして、女性勢とメイフィールドは戻ってきた。時間にして、三十分経つか経たないかくらいだろうか。意外と早かったな。

「おう、みんなおかえり」

「……」

「……?」

みんなはまさに、すごいものを見たという顔をしていた。ぼーっとしていて、誰も言葉を発さない。アルルカだけは、行きと変わらぬ様子だったが。

「ほっほ。命の誕生とは、まことに神秘的なものじゃからな。いちおう、あそこで見たことは他言無用でお願いしますぞ。説明したくてもできんじゃろうが」

女性陣はこくりとだけうなずいた。メイフィールドがそう言うくらいだから、よっぽどのものだったんだろう。うーん、想像もつかないな。

メイフィールドは町の入り口まで見送ってくれた。

「それではの。地上までの道は分かっておろうな?」

「ああ、大丈夫だ。いろいろありがとな」

「うむ。おぬしはからかいがいがあって、なかなか楽しかったぞい」

さいですか……ったく、最後まで食えない爺さんだ。俺はメイフィールドにさよならと手を振って別れた。さて、町を出たとは言え、地上まではまだまだ遠い。ここから狭い横穴を通って、あの大穴のふちをぐるぐる登って……ひい、外に出るだけでも一苦労だ。

「なあ、ところでさっきのやつ、俺にも教えてくれよ」

歩きながら、俺は気になっていたことを訊いてみた。すると女性陣はさっと視線を交わし、代表してウィルがおずおずと口を開く。

「あの……メイフィールドさんが言っていたこと、覚えていますか?門外不出がどうこうって」

「ああ。だから話せない?」

「いえ、そうではなく。私たちも詳細を見せては貰っていないんです。詳細っていうのは、どうやって産まれてくるだとか、産まれる瞬間だとかってことですけど」

「あ、なんだ。じゃあ、みんなは何を見たんだ?」

「えっと、それの準備だとか、道具の説明だとか……あとは、アルバのドワーフさんにお話を伺いました。ただ、それが……」

それが、なんなんだろう。ウィルはちらりと、フランを見る。

「すごかった、としか言いようがなくて……」

「……うん。なんか、すごかった」

「はぁ……?」

どうやら二人とも、うまく説明できないらしい。なんかこの感じ、学校で受けた保険体育の授業を思い出すな。男子が内容を訊いても、女子は一切教えてくれなかった気がする。

(……あんまり触れないほうがいいのかな)

気になりはするが、説明できないものを聞いてもしょうがないだろう。俺は話題を変えることにした。

「いやぁ、それにしても、なかなか濃い所だったな、カムロ坑道。正直居心地がいいとは言えないけど、とりあえずエラゼムの剣が直せてほんとによかった」

それが第一目標だったのだし、目的は無事達成した。いやー、ここまで長い道のりだった。何かをやり遂げるってのは、なかなか気分がいいもんだな。

「桜下殿、それに皆様。改めまして、ありがとうございました」

エラゼムがきっちりと礼をする。みんなには言わないけど、今回の一件で、彼との絆が深められたのもよかったよな。

「それで、これから王都まで戻って、三つ編みちゃんのことをロアに相談して……その後はどうしようか?」

今までは何となく目的があったけど、ここにきてそれがさっぱりなくなってしまった。俺の目標の事や、みんなの未練探しを考えると、あちこち旅したほうがいいんだけどな。

「うーん……」

「……でも、それなら」

ライラが、腕をさすりながら、ぽつりとこぼす。

「次行くとこは、あったかいとこだといいなぁ」

「あはは……同感だ」

北部の寒さは身に染みた。いっそ南の島にバカンスに行くのもいいかもしれない。



ぐるぐると螺旋の通路を上る長い道のりも、ぼつぼつ終わりが見えてきた。頭上にぽつりと浮かんでいた円形の空は、今や見渡すほどに大きくなっている。もうそろそろ大穴のふちに出られるだろう。空模様は晴れ。よかった、吹雪の中を下山しなくてすみそうだ。

「三つ編みちゃん、大丈夫?」

「ソリティアス、エス?グラティア」

ライラは三つ編みちゃんが歩きやすいように、手を握ってあげている。いつもなら、ライラだってとうにへばっていてもおかしくないんだけど。妹分ができたことで、いいとこ見せようとしているみたいだ。
そしてついに、地上へと頭が出る時がやってきた。

「ふ、ぅわ~。はぁ、陽の光があたたかいぜ」

穴の外に出ると、顔いっぱいにお日様の明かりを感じる。まぶしいと感じることがずいぶん久々に思えるぜ。あはは、たった数日、地の底に潜っていただけなのにな。エラゼムがそんな俺を気遣う。

「桜下殿、お疲れではありませぬか?山は下山時がもっとも注意すべきだと聞きます。無理せず、適度に休息を入れていきましょう」

「へ?登るより、下りるときの方が危険なのか?」

「ええ。下りは足腰への負担が大きいそうです。それに加え、登るときは気を張っていますが、一度山頂についてしまうと、それが緩むのが原因だとか」

「なるほどなぁ、油断大敵ってわけだ。俺は、まだ平気だけど……今は小さい同行者もいるしな。少し休んでいこうか」

三つ編みちゃんとは相変わらずコミュニケーションが取れないから、俺たちが様子を見てやらないといけない。ライラも見た目は元気だが、無理してそうだしな。俺たちはドワーフの町の市場で見つけた、油が無くても火が付く携帯コンロに火を灯した。面倒な火おこしが必要ないので、こういう野火では便利な代物だ。現地価格で安く買えたのもグッドポイントだな。

「せっかくですし、あったまるものでも淹れましょうか」

ウィルはお湯を沸かすと、中にハチミツを溶かしたお茶を淹れてくれた。それを飲むと、じんわりとした熱が広がって、腹の底から温まることができた。ライラと三つ編みちゃんの顔色もずいぶん良くなったな。
そして、後になって思えば、ここで一息ついていたのは大いに正解だった。なぜなら……この後に思いもよらない相手との再戦となったからだ。

つづく
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読了ありがとうございました。

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