じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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11章 夢の続き

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4-3

それから俺たちは、二日を掛けてコバルト山脈を下山した。険しい山道は、幼い三つ編みちゃんを連れて歩くには過酷な道のりだった。けど、俺たちや、そしてライラの献身的なサポートもあり、三つ編みちゃんはよく歩いた。そして二日目の夕方には、ついに以前野宿をした高原まで戻ってくることができたのだ。

「はぁ~。なんて言うか、ようやく人が生きる世界に戻ってきた気がするよ」

踏みしめる草の感触を楽しみながら、俺は言った。こんなにも緑が美しいものだったとは!今までは氷か岩しか見てなかったからなぁ。

「過酷な旅でしたな」

と、エラゼムも同意する。

「吾輩の時代から、北部は貧しい土地として有名でした。ドワーフ以外で、あそこに好き好んで暮らす者はいないとも言われていたほどです」

「へぇ、百年前からそうなのか。あでも、メアリーさんのご先祖は、昔っからあそこに住んでたんだろ?」

「ええ。吾輩の時代よりもさらに昔、北部は罪人の流刑地として使われていたそうです。反乱を企てた貴族や、権力争いに敗れた王族などが送られる地です。それらの人間はなまじ位が高いものですから、首をねるには都合が悪かったのでございましょう。とは言え、人が暮らすには、ご存じの通り過酷な土地でございます。それでも彼らはしぶとく耐え、やがて小さいながらもコミュニティを持つまでになった」

「はー……その人たちが興したのが、今のアラガネとかミストルティンの町なのかもな」

「うむ、そうですな。して、人が集まり、町が栄えだすと、どうしても謀反の種火がちらつき始めます。もともと反逆者の血筋ですから、さがとでも言いましょうか。そうなってくると、王国としても無視できなくなります。その地を治め、監督する人間が必要になってくるわけです」

「あ、じゃあそれが」

「はい。メアリー様の家系です。やがてドワーフの坑道との取引が始まると、北部は少しずつ豊かになっていったと聞き及んでおります。アラガネの町の様子を見るに、それもあながち間違いではなさそうですな。しかし、それは以前と比べたらの話。他の土地と比べましたら、その差は歴然でしょう。ふむ、以前王都で乱を起こしたハルペリンとかいう貴族も、そう言った事情があったのかもしれませぬな」

ああ、なるほど。単純に権力に目が眩んだから反乱したわけじゃなかったんだな。本人に聞いたわけじゃないから、わからないけどさ。

「なんて言うか、あれだな。人の生きるところに歴史あり、って感じだな」

「おっしゃる通りですな」

そんなおしゃべりをしているうちに、顔に感じる日差しはいよいよ傾斜を増してきた。西の空が燃えるようだ。じきに夕暮れだろう。ほら、空にもポツンと、家路を急ぐカラスが飛んでいる。赤い空を背景に、黒い点が染みのように浮かぶ姿は、どことなく哀愁を漂わせていた。

「……?」

あれ?なんだろう、気のせいか?あの黒い点、だんだんおっきくなってきている……?カラスの巣が、たまたまこっちの方角なのだろうか。いや、そもそもだ。カラスって、あんなにでかいか?点はまだまだ小さいが、それは距離が離れているからだろ。むしろ、これだけ離れていても見えるってことは……

「……フラン。ちょーっといいかな」

「ん?なに?」

俺はちょいちょいと手招きして、フランを呼び寄せる。不思議そうに首をかしげるフランに、俺はさっきのカラスの方角を指さして見せた。

「あの先、あーっちの空を見てみてくれないか。鳥が飛んでるのが見えるだろ?」

「ん……うん。見えるけど、カラスじゃないの?」

「俺も最初はそう思った。でもカラスにしちゃ、ちょいとでかくないか?」

「……言われてみれば、確かに」

俺たちの会話を聞いていたのか、仲間たちも足を止めて、それぞれ西の空に手をかざす。

「考えすぎかもしれないんだけどな。あの鳥、こっちに向かってきてる気がして」

「敵ってこと?」

「まだわからない。けど、鳥に知り合いはいなかったはずだろ。となると、化物みたいにでかい鳥が、晩のおかずを探してるのかもしれない」

北への旅では、合計三度もモンスターに襲われた。最後の最後に、四度目が訪れたのかもしれない。仲間たちがさっと顔を引き締める。ウィルがふわりと上空に浮かび上がった。

「……私にも見えます。まっすぐこちらに向かってきているみたいですね……」

今やその鳥のシルエットは、翼の動きが分かるくらいの大きさになっている。すごいスピードだ。じきの俺たちのもとにやってくるだろう。単にねぐらに帰るだけならいいんだけどな……
俺たちは緊張の面持ちで、その鳥の飛来を待ち構える。先制しようと思えばできるが、わざわざちょっかいを掛けずとも、そのまま頭上を通り過ぎてくれるかもしれない。けど鳥は、徐々に高度を落としてきている気がした。つまり、俺たちの頭上ではなく、俺たちに突っ込む進路のような気がすんだよな……

「……だいぶ近づいてきた。もう姿がはっきり見えるよ」

フランが西陽を受けながら、目を細めてつぶやく。

「真っ黒な鳥。トンビを二回りも大きくしたみたい。鋭いくちばし……それに、足が三本生えてる」

なんだって?足三本?三本足のからすと言ったら……

「あっ!そういうことか!」

俺は叫ぶと、カバンの中をひっかきまわした。確か、どっかに……フランやみんなは、突然荷物を散らかし始めた俺を、呆気に取られて見つめている。やがて俺は、お目当てのものを引っ張り出した。

「あった!みんな、これだよこれ!」

俺が手に持っているのは、大きな真っ黒い羽一枚。こいつは以前、王都でロアに押し付けられたものだ。

「ヤタガラスだ!エドガーの伝書鳥だよ」

「ああ!」

ウィルがポンと手を打つ。三本足のヤタガラスは、この羽を持っている者を確実に見つけ出すことができるのだという。あの鳥がこっちに向かってきているのは、そういうわけだ。

「ん?ていうことは、うげぇ。あいつ、王城からの手紙を運んで来たってことじゃないかよ」

ロアが俺にこれを持たせたのは、あちこち旅している俺への連絡手段を設けるためだ。嫌だなぁ、あいつからの手紙なんて、面倒なことに決まっている。今度はなんだろう、まさかミストルティンでの騒動がもうバレたのか?それとも、他の事だろうか……
俺が心当たりを思案している間に、ヤタガラスは目と鼻の先まで近づいてきていた。漆黒の翼で力強く羽ばたく、三本足の巨大なカラス。その足の一つには、筒のようなものが結わえ付けられている。
ヤタガラスは、俺たちのことを確かめるように頭上を旋回すると、目の前にバサバサと降り立った。こうして前に立たれると、やっぱりでかい。頭は俺のへそに届きそうだ。ヤタガラスは、黒い瞳で俺の顔をじっと見つめると、三本の足で器用に筒の蓋を開け、中のものを俺に差し出した。

「……受け取れってことか?」

「ガァー」

そうらしい。鉤爪の間に握られていたのは、一枚の紙きれだった。広げてみると、焦って書きなぐったかのような汚い字で、手紙が綴られていた。差出人は、ロアだ。

「げー……やっぱり、ロアからの手紙だよ」

俺は渋面で手紙をひらひら振ると、ヤタガラスに問いかける。

「なあ、これ受け取り拒否ってできないのか?……うわ、わかった、わかったから。ちゃんと読むってば」

ヤタガラスが今にも俺の手をつつきそうな動きをしたので、俺は慌てて手紙に目を落とした。どうやらこのカラスは、俺が読み終わったことを確認するまで、てこでも動かないつもりらしい。熱心な配達員さんだよ、まったく。

「ったく……なになに」

俺は嫌々ながら、ロアからの手紙を読み始めた。みんなも手紙を読む俺を見ている。して、その手紙の内容は……俺は文字を読み進めるうちに、どんどん自分の表情がこわばっていくのを感じだ。

「……桜下さん、何が書いてあるんですか?」

しびれを切らしたのか、ウィルが俺に問いかけてくる。ごくり……俺はつばを飲み込むと、乾いた唇を舐めた。予想外の内容に、頭の中がかぁーっと熱を持ったみたいだ。俺は、ロアからの手紙の冒頭に書かれていたことを、そのまま口にした。

「エドガーが、死にかけてる」


つづく
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