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11章 夢の続き
10-2
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10-2
「っきぃー!このクソ遺跡、ぶっ壊してやるわっ!」
「よせよ、やめろよ。んなことしたって、次にどんな仕返しが飛んでくるか、分かったもんじゃないぞ」
顔面を真っ赤にしたアルルカ(怒りのせいもあるだろうが、大部分はハエ叩きのせいだろう)を雑になだめてから、俺は改めて、くだんの仕掛けに向き直った。
「やっぱり、正しい紐を引かないと、向こうに渡れない仕掛けみたいだな」
てっきりタイルを踏まなければいいのかと思っていたが、甘かったらしい。さっきのハエ叩きは、飛んでいるアルルカを正確に撃ち落とした。どういう技術かは分からないけど、恐ろしい精度だ。あのハエ叩きは、今はタイルの下に引っ込み、何事もなかったように元通りに収まっている。が、他にも様々なギミックがあることは、もう間違いないだろう。
「ですが、桜下さん。正しい紐って、どうやって見分けたらいいんですかね?」
「そこなんだよなぁ」
ずらりと並んだ赤い紐。そのどれを見ても、特に違いがあるようには思えないんだ。
「紐じゃないなら、この床の絵がカギなんじゃないの?」
ライラはタイルを端から端まで眺めている。確かに、タイルに描かれた図柄には、なにがしかの意味がありそうだが。ただ、ほんとーっに、法則性が見当たらないんだよな……絵柄には一つしかないものもあれば、二つダブっているものもある。凝ったものもあれば、シンプルなものもある。けど、それと紐とを、どうやって結び付けたらいいってんだ?
「うぅ~ん」
俺たちはそれぞれ、頭をひねって考え始めた。俺とウィルは、タイルと紐との法則性について悩んでいた。ライラは引き続き絵柄を見て回っている。エラゼムは部屋を調べまわって、何かヒントがないか探す。アルルカは不貞腐れていた。ところでフランは、紐を一本一本、丹念に調べている。
「フラン、紐に何かあるのか?」
「ううん、今のところは、別に。ただここって、ずっと前から使われてたんでしょ」
「たぶん、そうっぽいけど」
「なら正解の紐は、何度も引っ張られて、傷んでるかもしれない」
「あぁ~……」
そ、そういうアプローチの仕方はありか?……まあ、四の五のは言ってられないか。
(けど……)
俺は胸の内に、もやもやしたものを感じていた。今回の謎は、かなり難しい。それこそ、正攻法では答えが見つからないかもと思うくらいに。なんだけども……前の部屋には最低限のヒントは記されていたし、仕掛けを解けばきちんと扉は開いた。何が言いたいかって、結構フェアなんだ、ここの試練は。理不尽すぎる罠や、そもそも謎解きどころじゃないような仕掛けは施されていないんだよな。
(でも考えてみれば、当然かも)
そもそもこの試練は、侵入者を拒むためのものじゃない。ここに入ろうとするものを試すためのものであって、ということはつまり、謎を解かれて突破されることを前提にしているわけだ。
(じゃあやっぱり、ここもきちんと謎が解けるはずなんだよな……)
だが床のタイルにも、無数の紐にも、まったく法則性を感じない。解く謎すら見つからないって感じだ。
きっと、いや必ず、謎を解く方法はある。そう思ってどれだけ頭をひねっても、答えは見えてこなかった。
「……やっぱり、総当たりしかないよ」
全ての紐をチェックし終えたフランが、諦めた瞳で言う。
「このどれかが正解なんだとしたら、一本ずつ試していけば、いずれ当たりを引けるはずでしょ。時間はかかるけど、こうして悩み続けるよりは堅実だよ」
「そう……だな」
俺は完全には納得できなかったけど、かといって何かひらめきがあったわけでもない。あーだこーだ言う資格はないだろう。
「何があってもいいように、あなたたちは後ろに下がってて」
フランは、俺たちをずうっと後ろまで下がらせると、一人で紐の前に立った。
「フラン、大丈夫か?」
「うん。何かあっても、わたしが一番ダメージ少ないでしょ」
そりゃ、ゾンビだからな。けどだからって、ドキドキしないわけじゃない。俺はハラハラしながら、フランの様子を見守った。
「それじゃ、行くよ」
フランは紐のカーテンの一番端っこまで移動すると、その内の一本に手を掛けた。そしてぐっと力をこめ、引っ張る。
「……」
何も、起こらない。ハズレか?それとも、これが正解なのだろうか?
「渡ってみるよ」
何も起こらないことを確認したフランは、次にタイル敷きの床へ足を踏み入れる。ごくり……フランは、一歩、また一歩と、タイルの上を渡っていく。小柄な彼女が乗っても、タイルは何の反応も示さない。もしや、このまま行けるのか?そのままフランは、タイル地帯の半分まで渡り終えた。もうあと半分だ……
バタン!
「っ」
あぁ!フランが今まさに足を乗せようとしたタイルが、ぐるりとひっくり返った。タイルの裏面には、鋭い棘がびっしりと生えそろっている。フランはそれに足を突き刺す寸前、無理やり足を引っ込めて、後ろに跳び退った。
「あぁ!フランさん、後ろ!」
うわ、二段構えの罠だ!フランが跳んだ後方には、竜の首を模した石像がせり上がって来るところだった。まるで、こうなることを見越していたかのようだ。ゴゴゴ……と、地鳴りのような音がすると、ゴオォー!竜の口から、真っ赤な炎の塊が吐き出された。フランが一瞬で炎に包まれる。
「うわー!フラーン!」
ボン!炎の中から、火だるまのフランが跳び出してくる。たまらず俺は駆け出し、大慌てで上着を脱ぐと、叩いて火を消そうとした。が、全然勢いが弱まらない。くそ、油でも混ざってんのか!?後から追いついたライラが、すぐさま水の魔法を唱えた。
「ポンドロータス!」
ゴポゴポゴポ!フランの足下から、大量の水が沸き上がった。その上をフランが転がると、猛烈な水蒸気が発生した。ボシュウウ!
「ぶは、こほ、こほ。フラン、大丈夫か!?」
真っ白な蒸気を振り払って、フランの様子をうかがう。う、酷いありさまだ……服は焼け焦げてボロボロだし、銀色の髪は煤けて、灰色に変色している。それになにより、フランは火が苦手だ。彼女の死の原因は、火事の現場に取り残されたこと。その時のトラウマは、今でも彼女の心に傷を残している……自分で言っておいてアレだが、とても大丈夫には思えない。
「フラン、しっかりしろ!」
「だい、じょうぶ。わたし、ゾンビだから……」
「肉体的にはな……まってろ、すぐに治してやるから」
ぐったりするフランの肩をつかんで抱き起すと、彼女の胸の上に右手を重ねた。水に濡れて冷たいが、肌は未だ高熱を放っていて、奇妙な感覚だ。俺は右手に魔力をこめて、叫ぶ。
「ディストーションハンド・ファズ!」
ヴン!俺の右手が輪郭を失い、ぐぐっとフランの胸の中に沈み込む。う、お?以前よりも、ファズの感じが変わっている。前は、こんなに入り込まなかったはずだが……俺は無理やり引き抜くように、右手をフランの中から引っ張り出した。幸い、呪文自体はうまくいったらしい。フランの体は、すっかり元通りになった。
「ごめん……」
「なんで謝るんだよ。俺の方こそ、悪かった。こんなんなら、お前だけにやらせるんじゃなかった」
「いいよ、わたしが言い出したことだし。これが一番、効率的で……」
「効率なんか、クソくらえだ。こうなった以上、もうこの方法はナシだ。死なないって分かってても、みんながボロボロになるのを見続けるなんて、嫌すぎるよ」
アンデッドは死なないし、痛みも感じないが、傷つかないわけではない。その事を、俺は一番よく分かっている。
「でも……」
「でもはなし、だ。きちんと答えを見つけようぜ。きっとわかるようになってるはずなんだから」
横着しようとしたのが間違いだった。時間はかかるかもしれないけど、俺の予想が正しければ、正攻法でも行けるはずだしな。
フランはなおも何か言いたげだったが、俺が黙って手を差し出すと、渋々と言った様子でその手を掴んだ。ぐっと手を引いて、立ち上がらせる。
「……ありがと」
「おう。さて……精いっぱい頭をひねろうか。ご意見、じゃんじゃん募集中だぜ」
俺たちは紐の前にずらりと横一列で並ぶと、紐と、タイルとを交互に睨みつけ始めた。
「ねえ、こういうのはどうかしら。ここら一帯を氷漬けにして、ギミックを作動させなくするの」
「アルルカさん、まだ懲りてないんですか……あ、でも幽霊の私なら、罠も平気なんじゃ……」
「……お二方。できるのなら、真っ当な方法を考えたほうがよろしいのではないですかな」
しかし、やっぱり議論は進展を見せない。そりゃそうだ、もともと詰まっていたわけだから。俺は目の前にぶら下がる紐をぼーっと見つめている。本格的に、疲労と空腹が効いてきやがった。脳に糖分が足りていない気がする。きちんと謎を解こうだなんて言っておいて、俺が一番フラフラだな、ったく。
「なぁーんか、アレだよなぁ……」
まとまらない思考のまま、俺は何も考えずに口を動かした。
「縁日によくある、紐のくじ引きみたいな……」
もうそれしか思いつかない。あれもやっぱり、法則性とかはないからな。酷い時には、そもそも全部ハズレだなんて場合もあるとかないとか……はは、まさかここもそのパターンだったりな、なんて……
「……?」
今、俺……何て思った?全部、ハズレ……?
「……あー。そういうのもあるのか」
「ん~?何が?」
ライラがこちらを振り返る。
「いやさ、ちょっと思ったんだけど……」
あまりにも突拍子もない発想だったが、今は藁にもすがりたい。俺は口を開いた。
「そもそもここには、“当たりの紐”なんて存在しないんじゃないか?」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「よせよ、やめろよ。んなことしたって、次にどんな仕返しが飛んでくるか、分かったもんじゃないぞ」
顔面を真っ赤にしたアルルカ(怒りのせいもあるだろうが、大部分はハエ叩きのせいだろう)を雑になだめてから、俺は改めて、くだんの仕掛けに向き直った。
「やっぱり、正しい紐を引かないと、向こうに渡れない仕掛けみたいだな」
てっきりタイルを踏まなければいいのかと思っていたが、甘かったらしい。さっきのハエ叩きは、飛んでいるアルルカを正確に撃ち落とした。どういう技術かは分からないけど、恐ろしい精度だ。あのハエ叩きは、今はタイルの下に引っ込み、何事もなかったように元通りに収まっている。が、他にも様々なギミックがあることは、もう間違いないだろう。
「ですが、桜下さん。正しい紐って、どうやって見分けたらいいんですかね?」
「そこなんだよなぁ」
ずらりと並んだ赤い紐。そのどれを見ても、特に違いがあるようには思えないんだ。
「紐じゃないなら、この床の絵がカギなんじゃないの?」
ライラはタイルを端から端まで眺めている。確かに、タイルに描かれた図柄には、なにがしかの意味がありそうだが。ただ、ほんとーっに、法則性が見当たらないんだよな……絵柄には一つしかないものもあれば、二つダブっているものもある。凝ったものもあれば、シンプルなものもある。けど、それと紐とを、どうやって結び付けたらいいってんだ?
「うぅ~ん」
俺たちはそれぞれ、頭をひねって考え始めた。俺とウィルは、タイルと紐との法則性について悩んでいた。ライラは引き続き絵柄を見て回っている。エラゼムは部屋を調べまわって、何かヒントがないか探す。アルルカは不貞腐れていた。ところでフランは、紐を一本一本、丹念に調べている。
「フラン、紐に何かあるのか?」
「ううん、今のところは、別に。ただここって、ずっと前から使われてたんでしょ」
「たぶん、そうっぽいけど」
「なら正解の紐は、何度も引っ張られて、傷んでるかもしれない」
「あぁ~……」
そ、そういうアプローチの仕方はありか?……まあ、四の五のは言ってられないか。
(けど……)
俺は胸の内に、もやもやしたものを感じていた。今回の謎は、かなり難しい。それこそ、正攻法では答えが見つからないかもと思うくらいに。なんだけども……前の部屋には最低限のヒントは記されていたし、仕掛けを解けばきちんと扉は開いた。何が言いたいかって、結構フェアなんだ、ここの試練は。理不尽すぎる罠や、そもそも謎解きどころじゃないような仕掛けは施されていないんだよな。
(でも考えてみれば、当然かも)
そもそもこの試練は、侵入者を拒むためのものじゃない。ここに入ろうとするものを試すためのものであって、ということはつまり、謎を解かれて突破されることを前提にしているわけだ。
(じゃあやっぱり、ここもきちんと謎が解けるはずなんだよな……)
だが床のタイルにも、無数の紐にも、まったく法則性を感じない。解く謎すら見つからないって感じだ。
きっと、いや必ず、謎を解く方法はある。そう思ってどれだけ頭をひねっても、答えは見えてこなかった。
「……やっぱり、総当たりしかないよ」
全ての紐をチェックし終えたフランが、諦めた瞳で言う。
「このどれかが正解なんだとしたら、一本ずつ試していけば、いずれ当たりを引けるはずでしょ。時間はかかるけど、こうして悩み続けるよりは堅実だよ」
「そう……だな」
俺は完全には納得できなかったけど、かといって何かひらめきがあったわけでもない。あーだこーだ言う資格はないだろう。
「何があってもいいように、あなたたちは後ろに下がってて」
フランは、俺たちをずうっと後ろまで下がらせると、一人で紐の前に立った。
「フラン、大丈夫か?」
「うん。何かあっても、わたしが一番ダメージ少ないでしょ」
そりゃ、ゾンビだからな。けどだからって、ドキドキしないわけじゃない。俺はハラハラしながら、フランの様子を見守った。
「それじゃ、行くよ」
フランは紐のカーテンの一番端っこまで移動すると、その内の一本に手を掛けた。そしてぐっと力をこめ、引っ張る。
「……」
何も、起こらない。ハズレか?それとも、これが正解なのだろうか?
「渡ってみるよ」
何も起こらないことを確認したフランは、次にタイル敷きの床へ足を踏み入れる。ごくり……フランは、一歩、また一歩と、タイルの上を渡っていく。小柄な彼女が乗っても、タイルは何の反応も示さない。もしや、このまま行けるのか?そのままフランは、タイル地帯の半分まで渡り終えた。もうあと半分だ……
バタン!
「っ」
あぁ!フランが今まさに足を乗せようとしたタイルが、ぐるりとひっくり返った。タイルの裏面には、鋭い棘がびっしりと生えそろっている。フランはそれに足を突き刺す寸前、無理やり足を引っ込めて、後ろに跳び退った。
「あぁ!フランさん、後ろ!」
うわ、二段構えの罠だ!フランが跳んだ後方には、竜の首を模した石像がせり上がって来るところだった。まるで、こうなることを見越していたかのようだ。ゴゴゴ……と、地鳴りのような音がすると、ゴオォー!竜の口から、真っ赤な炎の塊が吐き出された。フランが一瞬で炎に包まれる。
「うわー!フラーン!」
ボン!炎の中から、火だるまのフランが跳び出してくる。たまらず俺は駆け出し、大慌てで上着を脱ぐと、叩いて火を消そうとした。が、全然勢いが弱まらない。くそ、油でも混ざってんのか!?後から追いついたライラが、すぐさま水の魔法を唱えた。
「ポンドロータス!」
ゴポゴポゴポ!フランの足下から、大量の水が沸き上がった。その上をフランが転がると、猛烈な水蒸気が発生した。ボシュウウ!
「ぶは、こほ、こほ。フラン、大丈夫か!?」
真っ白な蒸気を振り払って、フランの様子をうかがう。う、酷いありさまだ……服は焼け焦げてボロボロだし、銀色の髪は煤けて、灰色に変色している。それになにより、フランは火が苦手だ。彼女の死の原因は、火事の現場に取り残されたこと。その時のトラウマは、今でも彼女の心に傷を残している……自分で言っておいてアレだが、とても大丈夫には思えない。
「フラン、しっかりしろ!」
「だい、じょうぶ。わたし、ゾンビだから……」
「肉体的にはな……まってろ、すぐに治してやるから」
ぐったりするフランの肩をつかんで抱き起すと、彼女の胸の上に右手を重ねた。水に濡れて冷たいが、肌は未だ高熱を放っていて、奇妙な感覚だ。俺は右手に魔力をこめて、叫ぶ。
「ディストーションハンド・ファズ!」
ヴン!俺の右手が輪郭を失い、ぐぐっとフランの胸の中に沈み込む。う、お?以前よりも、ファズの感じが変わっている。前は、こんなに入り込まなかったはずだが……俺は無理やり引き抜くように、右手をフランの中から引っ張り出した。幸い、呪文自体はうまくいったらしい。フランの体は、すっかり元通りになった。
「ごめん……」
「なんで謝るんだよ。俺の方こそ、悪かった。こんなんなら、お前だけにやらせるんじゃなかった」
「いいよ、わたしが言い出したことだし。これが一番、効率的で……」
「効率なんか、クソくらえだ。こうなった以上、もうこの方法はナシだ。死なないって分かってても、みんながボロボロになるのを見続けるなんて、嫌すぎるよ」
アンデッドは死なないし、痛みも感じないが、傷つかないわけではない。その事を、俺は一番よく分かっている。
「でも……」
「でもはなし、だ。きちんと答えを見つけようぜ。きっとわかるようになってるはずなんだから」
横着しようとしたのが間違いだった。時間はかかるかもしれないけど、俺の予想が正しければ、正攻法でも行けるはずだしな。
フランはなおも何か言いたげだったが、俺が黙って手を差し出すと、渋々と言った様子でその手を掴んだ。ぐっと手を引いて、立ち上がらせる。
「……ありがと」
「おう。さて……精いっぱい頭をひねろうか。ご意見、じゃんじゃん募集中だぜ」
俺たちは紐の前にずらりと横一列で並ぶと、紐と、タイルとを交互に睨みつけ始めた。
「ねえ、こういうのはどうかしら。ここら一帯を氷漬けにして、ギミックを作動させなくするの」
「アルルカさん、まだ懲りてないんですか……あ、でも幽霊の私なら、罠も平気なんじゃ……」
「……お二方。できるのなら、真っ当な方法を考えたほうがよろしいのではないですかな」
しかし、やっぱり議論は進展を見せない。そりゃそうだ、もともと詰まっていたわけだから。俺は目の前にぶら下がる紐をぼーっと見つめている。本格的に、疲労と空腹が効いてきやがった。脳に糖分が足りていない気がする。きちんと謎を解こうだなんて言っておいて、俺が一番フラフラだな、ったく。
「なぁーんか、アレだよなぁ……」
まとまらない思考のまま、俺は何も考えずに口を動かした。
「縁日によくある、紐のくじ引きみたいな……」
もうそれしか思いつかない。あれもやっぱり、法則性とかはないからな。酷い時には、そもそも全部ハズレだなんて場合もあるとかないとか……はは、まさかここもそのパターンだったりな、なんて……
「……?」
今、俺……何て思った?全部、ハズレ……?
「……あー。そういうのもあるのか」
「ん~?何が?」
ライラがこちらを振り返る。
「いやさ、ちょっと思ったんだけど……」
あまりにも突拍子もない発想だったが、今は藁にもすがりたい。俺は口を開いた。
「そもそもここには、“当たりの紐”なんて存在しないんじゃないか?」
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