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12章 負けられない闘い
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ペトラとマスカレードが激闘を繰り広げた時より、数週間ほど経ったころ。
一の国と二の国の国境付近に位置する遺跡では、一人の少年と六体のアンデッドが地上を目指していた……
「んがっ」
びくりと体が震えて、俺は目を覚ました。なんだか、高い所から落っこちたような気がしたが……いやいや、ありえない。それは数時間前にすでに体験済みだ。俺はボケーっとした頭で、今の状況を思い出した。
俺は今、鎧の騎士エラゼムの背中に背負われている。なぜなら、夜通し走り回ってくたくただから。うぅ、まだ足が痛い……少し寝たくらいじゃ、ちっとも元気にならないな。ではなぜそんな目に遭ったのかと言うと、この遺跡にまつわる儀式と、最深部に眠っていた姫君が主なる原因だ。
(ロウラン……今まで戦った相手の中でも、トップクラスの強敵だった)
ロウラン・ザ・アンダーメイデン。桜色の髪を持ち、全身をリボンのような包帯で巻いているという、奇抜な格好をしている。
彼女は数百年前の時代のお姫さまで、儀式の為に若くして永遠の眠りにつき、そして今の今まで待ち続けていた。誰をって?そりゃあ、あれだ。お姫様が待つ人と言ったら、運命の赤い紐が結ばれた人、あるいは白馬に乗った王子様……ようするに、結婚相手だ。なんの悪戯か、俺がその相手に選ばれそうになったんだけど、戦闘と説得の末、彼女は俺たちと共に行くことになった。当時からして、ものすごい人気のあった美人のお姫様なんだけど、肝心の本体のほうは……時の流れは残酷だ。
(ロウランの猛攻は、エラゼムが全部防いでくれたんだよな)
エラゼム・ブラッドジャマー。今俺を担いでくれている、全身鎧の騎士。彼の鎧の中身は空っぽで、魂が憑依して鎧を動かしている。彼が居なければ、俺はとっくにロウランにボコボコにされていただろう。鎧と大剣、そして熟練の技による圧倒的な防御力は、なんども俺を助けてくれた。
(守られたと言えば、ライラもだな)
ライラ。ほうき草のようなもさもさの赤毛を持つ、幼いグールの女の子。彼女はエラゼムを毛嫌いしていたが、最近はそれも鳴りを潜めてきた気がする。もともとは誤解によるものだったんだし、ようやくそれが解けつつあるんだろう。天才的な魔法の才を持つ彼女だが、今は魔力を使い果たして、ぐったりとフランに背負われている。
(フランの怪我も、早く治してやらないと)
フランセス・ヴォルドゥール。銀髪と真紅の瞳を持つゾンビ。彼女のおかげでロウランとの戦いに決着がついたのだが、その代償は大きかった。フランの右腕はすっぱり切り落とされ、今は彼女自身が口でそれをくわえている。そして空いた左手でライラを支えているのだ。通常の人間基準だと考えられないが、ゾンビは痛みも疲労も感じない。なので、見た目ほど大怪我ではないのだが、それでも痛々しいことに変わりはない。それになにより、俺が気にするんだ。
(痛々しいと言えば、ウィルも大概だ)
ウィル・O・ウォルポール。金髪金眼の幽霊シスター。彼女とライラのコンビネーション魔法は、ロウランの操る大蛇をも倒して見せた。だがその大活躍の代償で、ウィルは完全に魔力がガス欠となり、今はまともに立つ事すらできないでいる。彼女は幽霊なので、立てなくても飛ぶことで移動は可能なのだが、壁に半分めり込みながら移動する様は、やっぱり痛ましいとしか言えないだろう。
(それと比べると、やっぱりアルルカはさすがだな)
アルルカ・ミル・マルク・シュタイアー。つややかな黒髪を持つヴァンパイア。やつもまた、ウィルやフランと協力して、魔法に物理にと八面六臂な活躍をしていた。にもかかわらず、多少の汚れや傷はありつつも、今もシャンと背筋を伸ばして歩いているわけで。自称高貴なヴァンパイアにしてはあまりにもアレな中身とは裏腹に、やっぱり実力は相当のものだったんだな。
(きびしい戦いだった……これが一晩の出来事だなんて、信じられないな)
ずっと地の底にいるせいで、時間の感覚は曖昧だ。ひょっとすると、外はもう朝なのだろうか。うひー……食いっぱぐれるのは、夕飯だけにしてもらいたいもんだ。今回の戦いで一番身に染みたのは、腹が減っては戦はできぬという事実だった。
「もうすぐだよ。あとちょっとで、上に出られるの」
ロウランの声がぼんやりと聞こえてくる……考え事をしていたせいで、俺はその声を危うく聞き逃すところだった。まてまて、あと少しだって?
ロウランの言った通り、まもなく狭い階段は終わりを告げ、平坦な通路へと繋がった。その通路もすぐに終わり、俺たちの目の前に武骨な石の扉が現れた。ていうか、ほとんど岩だな、これ。
「今開けるの。ひらけゴマ!」
ロウランがパンパンと手を叩くと、岩はずずず、とゆっくり横にスライドした。そこから外へと出ると、どうやら大きな広間に出たようだ……いや、ここってラミアと戦った、あのホールじゃないか?
「戻ってきたのか……?」
俺がつぶやくと、エラゼムがこちらに振り向いた。
「桜下殿、目を覚まされましたか?どうやら、上の遺跡に戻ってきたようなのですが……」
「そうか……なら、後はヘイズたちと合流しないとな……」
「っと。その心配は、どうやら不要のようです」
え?エラゼムが見ている方を俺も向くと、闇の中にゆらゆらと揺れる炎が見えた。あれって……松明の明かり?てことは、まさか。
「……ぉおーい!」
かすかな声が聞こえてくる。男の声だから、またラミアだということもないだろう。俺はため息をついた。
「はーあ……ようやく、メシにありつけそうだな」
ヘイズたちの隊は、ラミアと戦闘した場所をほとんど移動していなかった。どうやら、どうにかして俺たちが戻ってくると信じたうえで、そこを動かなかったらしい。幸運にも階段がそこに通じていたおかげで、こんなに早く合流することができたんだ。
「お前たち!よく、よく戻ってきた!」
ヘイズは再会するやいなや、俺の背中をバシバシと叩いた。いてて、ありがたい歓迎だよ、まったく。
「悪いな、ヘイズ。心配してくれたのか?」
「もちろんだ!お前が居なけりゃ、一の国との交渉ができなくなっちまうからな。このままじゃ任務失敗になるかと思って冷や冷やしてたんだぞ!」
俺の心配じゃねぇのかよ。まあでも、今回の任務はエドガーにかかった死の呪いを解くこと。それの失敗とはすなわち、そういうことだ。ヘイズを怒るわけにもいかないな。
「しかし、いったい何があった?ずいぶんボロボロみたいだが」
「ああ……なんだけど、ごめん。その事については、また後日でもいいか?正直、体力が一滴も残ってないんだ……」
「あん?」
ヘイズは眉をひそめたが、エラゼムに背負われてぐったりする俺を見て、とやかく言うことはなかった。もともとこいつは、頭は切れるほうだしな。
「わかった。時間は一刻でも惜しい。そんなら、とっとと移動を再開するとしよう。お前らが無事に戻ってきたってことは、危機は取り除かれたってことなんだろ?」
「察しがいいな。ああ、もう大丈夫だ」
「よし。ならもう行け。それとも、回復術師の治療がいるか?」
「いや……今必要なのは、食事と睡眠だ……」
「はは、そいつは万病に効くな。わかった、後でメシを届けさせる。先に馬車に戻ってろ」
「そうさせてもらう……」
ヘイズはそれだけ言うと、きびきびと去っていった。大声で指示を飛ばして、行軍再開を命じているようだ。あたりには焚火と食事の跡が見えるから、すぐに移動ができるように、こっちはこっちで休憩を取っていたみたいだ。俺たちがいつ戻るかもわからなかったっていうのに、大した状況判断力だな。
俺たちが使っていた馬車に帰ってくると、俺はエラゼムの背中からずるずる落ちて、ばったりと床に倒れた。自分ちに帰ってきた気がする……
このまま眠ってしまいたかったが、ウィルが優しく揺り動かしてくる。
「桜下さん、辛いでしょうけど、もう少しだけ頑張ってください。なにかお腹に入れてから寝たほうがいいですよ」
「うぅ……そうだな」
このまま寝たら、夢の中でまで腹を空かせそうだ。すぐに一人の兵士が馬車にやって来る。
「しょ、食事を、お持ち……しました」
「ん?あれ、あんた……」
兵士の顔に見覚えがある。中年の男……あ、思い出した。遺嶺洞に入る前、俺をさんざん脅かしてきた、意地悪な兵士だ。あっちもそのことを覚えているのか、実に気まずそうな顔をしている。いや、というより、俺なんかの為にお使いをさせられていることが我慢できないって顔だな。
男は唇を震わせながら、パンとスープが入ったかごを差し出した。ひひひ、無責任な行動の罰として、下っ端の仕事をさせられているらしいな?いいもんが見れた、こりゃ飯がうまくなりそうだ。
だがメシを食い始めると、途端に猛烈な疲労が襲ってきた。気絶寸前の俺が二度もスープをこぼしたのを見かねてか、ウィルはスープをすくって俺の口元まで運び、パンをちぎって食べさせてくれた。ウィルだって、まだ魔力切れが回復していないだろうに……うぅ、頭が上がらないな。
「はい、頑張りましたね。そこに毛布が敷いてありますから、ゆっくり休んでください」
スープ皿が空になると、ウィルに促されるまま、俺は毛布に横になった。隣ではすでにライラが寝息を立てている。
「わるいな、ウィル……」
「いえ。おやすみなさい、桜下さん」
毛布が胸にかけられるのを感じる。なんだか、この感じ……
(母さん……)
俺は泥のような眠りに落ちた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ペトラとマスカレードが激闘を繰り広げた時より、数週間ほど経ったころ。
一の国と二の国の国境付近に位置する遺跡では、一人の少年と六体のアンデッドが地上を目指していた……
「んがっ」
びくりと体が震えて、俺は目を覚ました。なんだか、高い所から落っこちたような気がしたが……いやいや、ありえない。それは数時間前にすでに体験済みだ。俺はボケーっとした頭で、今の状況を思い出した。
俺は今、鎧の騎士エラゼムの背中に背負われている。なぜなら、夜通し走り回ってくたくただから。うぅ、まだ足が痛い……少し寝たくらいじゃ、ちっとも元気にならないな。ではなぜそんな目に遭ったのかと言うと、この遺跡にまつわる儀式と、最深部に眠っていた姫君が主なる原因だ。
(ロウラン……今まで戦った相手の中でも、トップクラスの強敵だった)
ロウラン・ザ・アンダーメイデン。桜色の髪を持ち、全身をリボンのような包帯で巻いているという、奇抜な格好をしている。
彼女は数百年前の時代のお姫さまで、儀式の為に若くして永遠の眠りにつき、そして今の今まで待ち続けていた。誰をって?そりゃあ、あれだ。お姫様が待つ人と言ったら、運命の赤い紐が結ばれた人、あるいは白馬に乗った王子様……ようするに、結婚相手だ。なんの悪戯か、俺がその相手に選ばれそうになったんだけど、戦闘と説得の末、彼女は俺たちと共に行くことになった。当時からして、ものすごい人気のあった美人のお姫様なんだけど、肝心の本体のほうは……時の流れは残酷だ。
(ロウランの猛攻は、エラゼムが全部防いでくれたんだよな)
エラゼム・ブラッドジャマー。今俺を担いでくれている、全身鎧の騎士。彼の鎧の中身は空っぽで、魂が憑依して鎧を動かしている。彼が居なければ、俺はとっくにロウランにボコボコにされていただろう。鎧と大剣、そして熟練の技による圧倒的な防御力は、なんども俺を助けてくれた。
(守られたと言えば、ライラもだな)
ライラ。ほうき草のようなもさもさの赤毛を持つ、幼いグールの女の子。彼女はエラゼムを毛嫌いしていたが、最近はそれも鳴りを潜めてきた気がする。もともとは誤解によるものだったんだし、ようやくそれが解けつつあるんだろう。天才的な魔法の才を持つ彼女だが、今は魔力を使い果たして、ぐったりとフランに背負われている。
(フランの怪我も、早く治してやらないと)
フランセス・ヴォルドゥール。銀髪と真紅の瞳を持つゾンビ。彼女のおかげでロウランとの戦いに決着がついたのだが、その代償は大きかった。フランの右腕はすっぱり切り落とされ、今は彼女自身が口でそれをくわえている。そして空いた左手でライラを支えているのだ。通常の人間基準だと考えられないが、ゾンビは痛みも疲労も感じない。なので、見た目ほど大怪我ではないのだが、それでも痛々しいことに変わりはない。それになにより、俺が気にするんだ。
(痛々しいと言えば、ウィルも大概だ)
ウィル・O・ウォルポール。金髪金眼の幽霊シスター。彼女とライラのコンビネーション魔法は、ロウランの操る大蛇をも倒して見せた。だがその大活躍の代償で、ウィルは完全に魔力がガス欠となり、今はまともに立つ事すらできないでいる。彼女は幽霊なので、立てなくても飛ぶことで移動は可能なのだが、壁に半分めり込みながら移動する様は、やっぱり痛ましいとしか言えないだろう。
(それと比べると、やっぱりアルルカはさすがだな)
アルルカ・ミル・マルク・シュタイアー。つややかな黒髪を持つヴァンパイア。やつもまた、ウィルやフランと協力して、魔法に物理にと八面六臂な活躍をしていた。にもかかわらず、多少の汚れや傷はありつつも、今もシャンと背筋を伸ばして歩いているわけで。自称高貴なヴァンパイアにしてはあまりにもアレな中身とは裏腹に、やっぱり実力は相当のものだったんだな。
(きびしい戦いだった……これが一晩の出来事だなんて、信じられないな)
ずっと地の底にいるせいで、時間の感覚は曖昧だ。ひょっとすると、外はもう朝なのだろうか。うひー……食いっぱぐれるのは、夕飯だけにしてもらいたいもんだ。今回の戦いで一番身に染みたのは、腹が減っては戦はできぬという事実だった。
「もうすぐだよ。あとちょっとで、上に出られるの」
ロウランの声がぼんやりと聞こえてくる……考え事をしていたせいで、俺はその声を危うく聞き逃すところだった。まてまて、あと少しだって?
ロウランの言った通り、まもなく狭い階段は終わりを告げ、平坦な通路へと繋がった。その通路もすぐに終わり、俺たちの目の前に武骨な石の扉が現れた。ていうか、ほとんど岩だな、これ。
「今開けるの。ひらけゴマ!」
ロウランがパンパンと手を叩くと、岩はずずず、とゆっくり横にスライドした。そこから外へと出ると、どうやら大きな広間に出たようだ……いや、ここってラミアと戦った、あのホールじゃないか?
「戻ってきたのか……?」
俺がつぶやくと、エラゼムがこちらに振り向いた。
「桜下殿、目を覚まされましたか?どうやら、上の遺跡に戻ってきたようなのですが……」
「そうか……なら、後はヘイズたちと合流しないとな……」
「っと。その心配は、どうやら不要のようです」
え?エラゼムが見ている方を俺も向くと、闇の中にゆらゆらと揺れる炎が見えた。あれって……松明の明かり?てことは、まさか。
「……ぉおーい!」
かすかな声が聞こえてくる。男の声だから、またラミアだということもないだろう。俺はため息をついた。
「はーあ……ようやく、メシにありつけそうだな」
ヘイズたちの隊は、ラミアと戦闘した場所をほとんど移動していなかった。どうやら、どうにかして俺たちが戻ってくると信じたうえで、そこを動かなかったらしい。幸運にも階段がそこに通じていたおかげで、こんなに早く合流することができたんだ。
「お前たち!よく、よく戻ってきた!」
ヘイズは再会するやいなや、俺の背中をバシバシと叩いた。いてて、ありがたい歓迎だよ、まったく。
「悪いな、ヘイズ。心配してくれたのか?」
「もちろんだ!お前が居なけりゃ、一の国との交渉ができなくなっちまうからな。このままじゃ任務失敗になるかと思って冷や冷やしてたんだぞ!」
俺の心配じゃねぇのかよ。まあでも、今回の任務はエドガーにかかった死の呪いを解くこと。それの失敗とはすなわち、そういうことだ。ヘイズを怒るわけにもいかないな。
「しかし、いったい何があった?ずいぶんボロボロみたいだが」
「ああ……なんだけど、ごめん。その事については、また後日でもいいか?正直、体力が一滴も残ってないんだ……」
「あん?」
ヘイズは眉をひそめたが、エラゼムに背負われてぐったりする俺を見て、とやかく言うことはなかった。もともとこいつは、頭は切れるほうだしな。
「わかった。時間は一刻でも惜しい。そんなら、とっとと移動を再開するとしよう。お前らが無事に戻ってきたってことは、危機は取り除かれたってことなんだろ?」
「察しがいいな。ああ、もう大丈夫だ」
「よし。ならもう行け。それとも、回復術師の治療がいるか?」
「いや……今必要なのは、食事と睡眠だ……」
「はは、そいつは万病に効くな。わかった、後でメシを届けさせる。先に馬車に戻ってろ」
「そうさせてもらう……」
ヘイズはそれだけ言うと、きびきびと去っていった。大声で指示を飛ばして、行軍再開を命じているようだ。あたりには焚火と食事の跡が見えるから、すぐに移動ができるように、こっちはこっちで休憩を取っていたみたいだ。俺たちがいつ戻るかもわからなかったっていうのに、大した状況判断力だな。
俺たちが使っていた馬車に帰ってくると、俺はエラゼムの背中からずるずる落ちて、ばったりと床に倒れた。自分ちに帰ってきた気がする……
このまま眠ってしまいたかったが、ウィルが優しく揺り動かしてくる。
「桜下さん、辛いでしょうけど、もう少しだけ頑張ってください。なにかお腹に入れてから寝たほうがいいですよ」
「うぅ……そうだな」
このまま寝たら、夢の中でまで腹を空かせそうだ。すぐに一人の兵士が馬車にやって来る。
「しょ、食事を、お持ち……しました」
「ん?あれ、あんた……」
兵士の顔に見覚えがある。中年の男……あ、思い出した。遺嶺洞に入る前、俺をさんざん脅かしてきた、意地悪な兵士だ。あっちもそのことを覚えているのか、実に気まずそうな顔をしている。いや、というより、俺なんかの為にお使いをさせられていることが我慢できないって顔だな。
男は唇を震わせながら、パンとスープが入ったかごを差し出した。ひひひ、無責任な行動の罰として、下っ端の仕事をさせられているらしいな?いいもんが見れた、こりゃ飯がうまくなりそうだ。
だがメシを食い始めると、途端に猛烈な疲労が襲ってきた。気絶寸前の俺が二度もスープをこぼしたのを見かねてか、ウィルはスープをすくって俺の口元まで運び、パンをちぎって食べさせてくれた。ウィルだって、まだ魔力切れが回復していないだろうに……うぅ、頭が上がらないな。
「はい、頑張りましたね。そこに毛布が敷いてありますから、ゆっくり休んでください」
スープ皿が空になると、ウィルに促されるまま、俺は毛布に横になった。隣ではすでにライラが寝息を立てている。
「わるいな、ウィル……」
「いえ。おやすみなさい、桜下さん」
毛布が胸にかけられるのを感じる。なんだか、この感じ……
(母さん……)
俺は泥のような眠りに落ちた。
つづく
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