じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
491 / 860
12章 負けられない闘い

14-4

しおりを挟む
14-4

「……そろそろ、いいかな?」

うん?なんだ、なかなか一人で感傷に浸れないな。へへ、そういう渋いのは、俺には似合わないか。

「誰だ?」

「僕だよ……クラークだ」

そう言って、クラークが部屋の入り口から、半身をのぞかせた。

「ああ、お前か。どうしたんだよ、こそこそ隠れるみたいに」

「なっ、君なあ!君たちが話しているみたいだから、水を差さないように待っていたんじゃないか!」

「あ、そうだったの?悪いわるい。もう終わったから」

クラークは不満そうな顔で入ってくると、部屋をキョロキョロ見渡した。

「……君は、誰と話していたんだい?僕が来てから、誰も部屋を出て行かなかったと思うけれど」

「ん?ああ、俺たちには幽霊の仲間がいるんだよ。だからだろ」

「幽霊……そうか、君はネクロマンサーだものな」

「そういうこった。んで、ノロには?」

「伝えてきたよ……ノロ様は、大そう喜んでいたさ」

クラークは疲れた声で言うと、いくつもあるベッドの一つに腰かけた。

「リングが整い次第、試合を開始するそうだ。ただ、前の試合で派手に壊されたから、少し時間が掛かりそうだったけど」

「さいで。いっそのこと、フランに二度と使えないくらい粉々にしてもらえばよかったな」

「……僕としても、あまり気乗りはしない。だけど、こうなった以上、僕もベストを尽くすつもりだ。君もそのつもりで来てくれよ?」

「言われなくても、そのつもりだ」

会話が途切れる。クラークは腰を上げようとしない。言うことを言ったなら、とっとと自分の控室に戻ればいいのに。

「……君は、あの銀髪の女の子と、付き合っているのかい?」

「はぁ?」

俺はあんぐりと口を開けて、クラークを見た。なんだなんだ、だしぬけに?

「いきなりなんだよ?生憎だけど、今恋バナで盛り上がる気分じゃないんですけど?」

「う。僕だって、お前とそんな話をする気はない!ただ、あの子があんまり君の事ばかり言うもんだから……」

「お前……まさか、フランを狙ってんのか?」

「なっ、ちっ、違うぞ!」

クラークは顔を赤らめると、ぶんぶんと手を振った。別にフランとは、まだそういう関係ではないけれど……なんか、ちょっとイラっとしたな。

「はぁ。だいたい、おたくにはもう彼女がいるだろうが。あの赤髪の」

「こ、コルルのことかい?コルルと僕は、別にそういうんじゃ……」

「なんだ、そうだったのか?俺から見たら、お前らの方がよっぽどお熱く見えたけどな」

「そ、そうかな?僕は、君たちの方がよほどだと思ったんだけど」

なんだ、なんだ?俺たちは、お互いをそういう目で見ていたのか。まあけど、今はそんなことどうでもいいな。

「で?なんなんだよ、それが?」

「いや、特にどうというわけではないけれど……僕たちと似たような関係なのかな、と思っただけだよ」

はあ……?この緊迫したタイミングで、世間話を?こいつの神経が相当図太いのか、そもそも俺相手じゃ緊張もしないのか。俺がむすっとした顔をすると、クラークは少し慌てたように付け足した。

「ええっと、なんというか。今まで、近い歳の男子と話すことがなかったから、気になって」

「あぁ?俺たちくらいの歳のやつなんて、いくらでもいるだろ」

「そうじゃなくて、向こうの世界出身だ、って言う意味だよ」

「ああ。そっちか」

ふむ、考えてみれば、こうしてクラークとゆっくり話すのは初めてだな。この世界においては、ほぼ唯一と言ってもいい、同郷の、しかも歳も性別も同じ人間なのに。出会い方が違っていれば友達になれたかもしれないが、その出会いが最悪だったのが問題だな。

「不思議なことだよな。たまたま同じ時代、同じ国に生まれた男が、そろって勇者として召喚されるだなんて。しかも同じ病院に通ってた」

「そうだね……正直、まだ実感が湧いていないところもあるんだ。自分が勇者だなんて。実はこれは、向こうの世界の僕が見ている夢なんじゃないかって、時々思うことがあるよ」

それはそうだ。俺だって、まだ驚くことの方が多いから。俺たちがこの世界に馴染むには、それこそファーストみたいに、何十年も過ごさないといけないんだろう。

「……ひょっとして」

「ん?」

「ひょっとして君は、僕と同じ……」

そこまで言って、クラークは言葉を止めてしまった。

「同じ、なんだよ?」

「……いや、いい。忘れてしまった」

はぁ?ベタな言い訳だな。けど、こっちから無理に追及する気もない。
俺たち二人は、それぞれ思いを馳せながら、だまって床を見つめていた。遠くから、観客たちの歓声がぼんやりと、ここまで伝わってくる。ちっ、ずいぶん大盛り上がりだな。人の気も知らないでよ。

「……なあ、君。もう一つ聞いてもいいかな」

口を開いたのは、またクラークのほうだった。

「今度はなんだ?」

「君が、勇者は道具だと言っていた意味。それを教えてくれないか」

「え?」

その話は、確か……勇演武闘の開催が宣言された、あの夜のことか。

「ああそういや、その話をしようとしたところで、ノロが演説を始めたんだっけか」

「ああ。それどころじゃなくなってしまって、聞きそびれていたけれど。どういうことだったんだい?」

「えっと、あの日俺たちは、キサカに会って話を聞いてたんだ」

「キサカ?ひょっとして、光の聖女のこと?」

「お前も会ったことあるんだ?そうだよな。キサカはお前にも話したって言ってたぞ。この世界に召喚された勇者は、所詮戦争の道具みたいなもんなんだって」

確かキサカは、クラークがまるで聞き耳を持たなかったって言っていた。やつはどういうリアクションをするだろう?
クラークは眉間にしわを寄せて、昔のことを思い出しているようだった。

「……確かに……そんなようなことを、話した記憶がある。こっちの世界に来たばかりの時で、あまりよく覚えてはいないけれど」

「そんでお前は、キサカになんて言ったんだ?」

「……否定をしたと思う。そんな事はないと」

「え?でも、聞いたんだよな?過去の勇者が、どんな扱いを受けてきたのかを。戦いを強要されて、逃げることもできずに……」

「ああ、聞いたよ。でも、それは当然のことじゃないか?」

なんだと?俺はクラークの方を見た。やつもまた、こちらを向いている。

「勇者の役目は、魔王を倒し、この世界に平和を成すことだ。その役目を求められることは、至極当然のことだよ」

「じゃあお前は、かつての勇者の苦しみは当然であって、気にすることなんてないって言いたいのか?」

「いいや、同情はするよ。でも、だからって勇者が道具のように扱われたとは思えないんだ。こう考えてみてくれ。サラリーマンは社会の歯車だなんて言うけれど、彼らは会社の道具か?人を治す医者は、医療の道具かな?なにかの役割をこなす人を、道具と呼ぶと思うかい?」

サラリーマン、ときたか。こっちじゃとんと聞かない単語だ。こういう時、同郷の相手と話しているって実感するよ。

「……そうは思わねえよ。けどな、サラリーマンも医者も、人としての尊厳を守られてこそ、人間扱いされているって言えるんだ。ブラック企業に使い潰された人は、自分を道具扱いされたと感じるんじゃないか」

「それは、そうかもしれない……だけど、勇者はどうだったろう。過去の勇者は苦しんだかもしれないけど、働く人は誰だって、それなりに苦しいものじゃないかな。戦場へ送られた勇者は、なにも丸腰で魔物の相手をさせられたわけじゃないんだろう?たくさんの仲間によるバックアップがあって、なにより強力な勇者の能力があったからこそ、より戦いの激しい前線へ行かされたんだ。どうだい?」

「……勇者の苦しみは、生きてく上では当然のもので、とりたてて不幸だとは思わない。そういうことか?」

「僕はそう思う。君は?」

「俺?あいにく、おたくの言ってることにはこれっぽっちも共感できないよ。俺はお前と違って、真面目な勇者じゃないんでね」

勇者は苦しんで当然だと?こちらから望んでもないのに、かってに神輿に担がれて、あげく苦しみまで押し付けられてたまるかってんだ。クラークは苦笑いをした。

「……はぁ。君と僕は、つくづく考えが合わないらしいね」

「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」

まったく。今日ここでやつと闘うことになったのは、ある意味必然だったのかもしれないな。

「ふん。それならおたくは、勇者になれてさぞかし幸せなんじゃないか?苦しみも当然として受け入れられるんなら、悩むこともないだろ」

「僕か、そうだね……正直、勇者になれたことは幸運だと思っているよ。この力のおかげで、僕は正義を貫くことができるようになったんだから」

「正義、ねえ。お前はほんとに、それにこだわるよな」

「当たり前だろ。正義がなければ、秩序は存在しないんだ。この世の何よりも大事なのは、公明な正義だ」

クラークはきっぱりと言い切った。こいつのこだわりも尋常じゃないな。それにも、何か理由があるんだろうけど……ま、今は知りたいとも思わないな。いずれ知る機会もあるだろう。こいつが、また俺を悪の勇者だなんだと言い出さなければ、の話だが……

(こいつとの一時休戦も、いつまで続くか分かったもんじゃないしな)

もともと俺とクラークは犬猿の仲だ。どちらかと言えば、向こうがこちらを毛嫌いしているんだけど。俺だって、自分を嫌っている人間と、わざわざ仲よくしようとは思わないし。そんな事を考えていたので、次にクラークが口にした言葉は、俺を大いに驚かせた。

「……その信念のもとに、僕は今まで、君を悪の存在だと思っていたけれど。だけど、それは今日で撤回するよ」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...