じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
589 / 860
14章 痛みの意味

12-3

しおりを挟む
12-3

「っとと」

気がつくと俺は、自分の足で地面の上に立っていた。さっきまで宙に浮かんでいたから、なんだか新鮮だ。

「うぐっ……」

そ、そしてこれも久々だな。全身に鉄串が刺さったみたいだ……体中から上がってくる凄まじい筋肉痛に、俺はくしゃっと顔を歪めた。

「大丈夫?」

フランが隣に来て、肩を貸してくれた。

「わりぃ。助かるよ……あいてて」

「無茶するから。でも、すごかったね。さっきの」

「へへへ、だろ?」

珍しく素直に褒めてくれるフランに、俺は鼻を擦った。例にもよって、融合中は全く別の人格が出てくるから、ずいぶん俺らしくない事も言った気がするけど。

「にしても、我ながら少し、やりすぎちゃったかなぁ」

俺はいまだ崩れ続けている屋敷を見た。半壊どころか、ほぼほぼ全壊だ。

「いいんじゃないの。自業自得だよ、ライラにやったことを考えれば」

フランが吐き捨てるように言う。ま、それもそうだな。俺もそこまで罪悪感は持っちゃいない。ただ、あの老魔導士の安否が分からないのが、少し気がかりだった。崩落に巻き込まれたか、それとも……

(……いや、今は考えるのはよそう)

あの老人がどうなったにせよ、自分で招いた結果だ。今はそれよりも、みんなの方が気になる。俺はぐるりとあたりを見渡して、少し離れたところに浮かんでいたウィルを見つけた。

「ウィル!お疲れ。お前も大丈夫か?」

「あ、桜下さん……はい。桜下さんこそ、お怪我は?」

「へーきへーき。ちょっと動きづらいだけさ」

ウィルはこちらにやってくると、目を閉じ、ぶつぶつと呪文をつぶやいた。

「キュアテイル」

ウィルの手のひらから青色の光が放たれ、それが俺の体に吸い込まれていく。すると、体の中に澄んだ風が、すーっと吹き抜けた気分になった。

「おお、ありがとう。楽になったよ」

「いえ、大したことでは……」

「……?」

なんだろ。さっきから、ウィルはどこかぼーっとしている。夢から覚めたばかりのような、とろんとした目をしていた。

「ウィル……?」

「わかるよ、ウィル」

あん?俺に被せるように、フランが口を開く。

「よかったでしょ」

「え、う……は、はい……」

ウィルは顔を赤くすると、小さな声でうなずいた。よかった?何がだ?

「それって、なにが」

「あ、あー!それよりも、ほら!三つ編みちゃん、無事でよかったですね!」

ウィルがいきなり大声を出して、俺の質問を遮ってしまった。

「お、おう。ほんとにな」

ぎこちなくうなずいたけど、本当によかった。元々は、あの子を助けるためにここに来たんだから。俺は三つ編みちゃんたちの姿を探した。

「お、いたいた」

三つ編みちゃんと、いっしょについて来た男女が数人。二人が女で、一人が武装をした男だ。たぶん、女は侍女で、男はその護衛だろうな。三人は完全に呆けた顔で、ぽかんと崩れ行く屋敷を眺めている。突然の連続に、理解が追い付いていないようだ。
そして、大人たちから少し離れたところに、三つ編みちゃんはいた。トレードマークの髪型は相変わらずだったが、その三つ編みには、鮮やかなグラデーションの細布が編み込まれていた。別れる際、ライラが自分の宝物を半分に裂いて、渡したものだ。
三つ編みちゃんは目を大きく見開いて、前をまっすぐ見つめている。その視線の先には、そっくりな表情をしたライラがいた。

「三つ編みちゃん……」

「ライラ……」

ライラが一歩踏み出した。するとこらえ切れなくなったように、三つ編みちゃんがだっと走り出した。両手を広げて、ライラに飛びつく。

「ライラ!会いたかったわ!来てくれたのね!」

へ?俺もフランもウィルも、唖然とした。三つ編みちゃんが、流暢にこちらの言葉を話したぞ?

「えっ。えっと、三つ編みちゃん……?」

抱き着かれたライラも、戸惑っているようだ。だがそれにも気づかずに、三つ編みちゃんはライラの首元に、おでこをこすり付けている。

「ひょっとしたら……」

フランが二人を見ながら、ぽつりとつぶやく。

「もうすでに、言語魔法は掛けられていたのかも」

「え?三つ編みちゃんに?」

「うん。だって、そうじゃないとおかしいよ。あの魔導士、まるでわたしたちのことを、最初から知ってたみたいだった。普通、ライラが四属性の魔術師だなんて思わないでしょ」

お、言われてみれば……あの老魔導士は、初めっからライラだけを狙っていた。事前に何らかの情報を得ていたとしか思えない。

「でも、それがどうして三つ編みちゃんに……あ。そういうことか」

「うん。たぶんね」

うなずき合う俺たちを見て、ウィルがやきもきする。

「ど、どういうことなんですか?私にも教えてくださいよぅ」

「いや、たぶんあのジジイ、最初はライラの事なんか知らなかったんじゃないかな。三つ編みちゃんのことも、普通の依頼だと思ってこなしたはずだ」

「はぁ。じゃあ、その後でライラさんを知った……ってことですよね」

「ああ。たぶん、三つ編みちゃんからな」

「あ……!」

そういうことですか、とウィルはうなずいた。

「悪気はなかったんだ、三つ編みちゃんは。きっと、魔法が上手くいったかテストするとか何とか言って、あのジジイと話したんだろ。これまでの事とかさ。三つ編みちゃんは、ライラが魔術師だってことは知ってただろうし」

「なるほど、それで……ん、ちょっと待ってください。そもそも、私たちがここに来たのって、三つ編みちゃんたちにトラブルがあったからですよね?そういうお手紙が来て……」

「あ、ほんとだ!じゃあの手紙も、最初から罠だったのか……」

ここに来て、いろんなことが一本の線に繋がったな。あの老魔導士は、入念に策を巡らせていたんだ。

(けど、それでもいくつか、疑問点は残るんだよな……)

それは、あの老魔導士が、ライラにやけに詳しかったことだ。いかにライラが優れた魔術師だったとしても、四属性を確かに持つかどうかまでは、確かめるまで分からないじゃないか。それなのに老魔導士は、初めっからライラがそれだと決めてかかっていたように見えたんだけど。

(まだ何か、俺の知らない繋がりがあるのか……?)

あの曲者の魔導士が、伝説級の四属性を、すんなり信じた理由とは……気になるが、それを訊くには、がれきの中から老魔導士を引っ張り出さないといけない。廃品回収は後回しでいいだろう。

「フラン。三つ編みちゃんと一緒に来た、大人たちのとこに連れてってくれないか」

「分かった」

俺はフランに肩を借りて、いまだに茫然としている侍女と兵士の下へと歩いて行った。

「どうも。いろいろ大変でしたね」

俺が声を掛けると、侍女の一人、中年のおばちゃんがはっと我に返った。

「あ、あなたたちは?それに、あの魔導士は……」

「魔導士の方は、もう大丈夫だと思うよ。で、俺たちは、あの子の保護を依頼したものっす」

「え?あ、ああ……じ、じゃあ、二の国の人なのね?」

「まあ、いちおうは」

いちおう?と侍女は首をかしげていたが、すぐに慌てたように、俺の腕を掴んだ。

「そ、それよりも!こんなところ、早く逃げないと!いつ魔導士の手下がやってくるか、分かったものじゃないわ!」

おばちゃんが慌てると、残りの二人もそうだそうだ、こうしちゃいられない、と顔色を変えた。

「ちょちょ、ちょっと待ってくれ!その心配も、もうないと思うんだ。ほら、屋敷は御覧のありさまだし」

「そ、そうだけれども……けど私たち、あやうく奴隷として売り飛ばされるところだったのよ!」

「え?奴隷?」

「そうよ!だから檻の中に閉じ込められたんだわ!恐ろしい……」

おや。どうやらこの人たちは、何も事情を知らないようだ。ま、それも当然か。この人たちは、ただただ三つ編みちゃんに付き添っただけなんだもんな。

「まあとにかく、安心してくれって。もう危険はないから、後は国に帰るだけで……」

と、そこまで俺が言った時だった。

ドカーーン!

「ぎゃああ!」

「うわっ。なんだ!?」

おばちゃんが悲鳴を上げて地面に伏し、俺とフランは、音の聞こえてきた方へと振り向いた。何かが、吹き飛んだような音だったが……

「え!?」

「……あいつ!」

俺とフランは、崩れた屋敷の上空を見上げる。そこには、透明なバリアのようなものに覆われた、老魔導士の姿があった。

「よくも……よくもこれだけ、儂を手こずらせおったな!下等な虫けらの分際でぇぇぇぇぇ!」

老魔導士は、オッドアイの両目をぎらぎらと光らせ、長い白髪とひげをめらめらと逆立たせている。どうみても尋常ではなさそうだ。

「ちっくしょうが!あのジジイ、まだやる気かよ!」



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...