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17章 再開の約束
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「ヘルズニル……まさか、空に浮いているなんて……」
ついに俺たちは、その全貌をこの目で見ることとなった。
その城は、宙に浮かんでいた。以前、一の国との国境付近で、巨大な浮岩を見たことがあったが、あれに負けず劣らずでかい。島一つを、そっくりそのまま空へ浮かべたみたいだ。
「あんな馬鹿でかい島が、どうやったら宙に留まれるんだ……?」
するとアルルカが、合点がいった様子で、ふんっと鼻を鳴らした。
「ああ、なるほどね。そういうこと」
「アルルカ、何が分かったんだ?」
「単純なことよ。この辺り一帯に溢れ返ってる魔力。その上に、あの島が浮いてんの」
なに……?つまり、こういう事か?水の上にヤシの実が浮くように、このカルデラ地帯いっぱいに溜まった魔力が、あの島を支えている、と?
「でも……魔力が、物を支えることができるのか?それに、あんなでかい物を」
「えい」
「いてっ!おい、何すんだ!」
「目は覚めてるみたいね。じゃ、目の前の光景が、紛れもない現実だってこともわかんでしょ?」
うっ、そういう言い方をされると……現実に起こっているのだから、否定のしようがないじゃないか。
魔王城ヘルズニルは、その島の上に建てられていて……果たして、あれは城?その島に生える巨大な木、と言った方が近い気がする。遠目だからシルエットしか見えないが、無数の細い塔が絡み合ったような建物だ。絡み合った、というのは比喩ではなく、本当に塔同士が巻き付き合っている。二本の塔が絡まって一つになり、かと思えば枝分かれして三本になったりする。そんなのが寄り集まって、一つの大きな城を成しているようだ……ジャックと豆の木みたいだな。ツルがいくつも集まって、一つの巨大な木になるという……てっぺんに恐ろしい存在が待っている点もおんなじだ。
そして、外観もさることながら、その色だ。島と城は、たぶん、黒い色をしている。なんでたぶんかって?いや、俺も信じられないんだけど……城の上部は、透明、なんだ。より正確には、薄く透き通っているって感じだけど。目がおかしくなったのかと思って、何度もゴシゴシ擦ってみたけど、やっぱり透けている。
「い、意味わからん……ガラスかなにかで出来てるのか?」
『あれは、光学迷彩と呼ばれる、一種の保護魔法だと考えられています。主様、あの城の下部を見てください』
城の下?俺は目線を下に落として、その城の直下の地面を見た。
「あ、あれ?影が、ない……」
あれだけ大きな浮島なら、当然その下は真っ暗になるはず。なのに、影はどこにも見当たらない。
『あの保護魔法によって、光が透過しているのです。山を登っていた時にも、この城は見えなかったでしょう』
「あ、そういえば。なるほどな、こうやって近くに来ないと、見えない仕組みになっているのか……」
天空に浮かぶ、巨大な城。魔王軍の本拠地だから、普通じゃないだろうとは思っていたが、ここまで予想の上を行くとは……俺はぶるりと震えた。高山の空気に冷えたせいではないだろう。
「呑まれてる?」
んっ。いつの間にか、隣にフランが立っていた。
「顔が青いよ」
「お、おう……フランは、何ともないのか?」
「わたし?そうだね。さっきチラッと見えてたし……後は、少なくとも、足腰を鍛えるにはよさそう」
「は?足腰……?」
「あんな高い城、上り下りするだけで、半日掛かるよ」
あ、あんなすごい城を見た感想が、それ?俺は思わずずっこけそうになってしまった。だが、よくよく考えると、それもおかしい。フランは、わざわざこっちに来てまで、そんなことを言いたかったわけじゃないだろう。つまり……
(ああ……心配して、くれたのか)
ったく、どこまでも、不器用なやつ。でもそれは、俺も同じか。
「……それなら魔王軍の下半身に注目だな。パンパンだったら、つまりそういうことだ」
俺がそう言うと、フランは目をしばたいた。それから、二人でにやっと笑いあった。
「さて……ところで、あそこまでどうやって行けばいいんだろう?」
まさか、魔王城が空に浮かんでいるとは思っていなかった。空を飛ぶ手段はいくつか思いつくが、問題は連合軍の数の多さだ。
「……アルルカ。参考までに訊きたいんだけど、お前、同時に何人くらい抱えて飛べる?」
「ちょっ。あんた、何考えてんのよ……?イヤよ!ぜーったいイヤ!」
アルルカはさぁーっと青ざめると、ぶんぶん首を振る。
「まあまあ、あくまで参考だからさ。一度に三人いけるとして、連合軍が何万人いるかな……」
アルルカは翼を広げると、話も聞かずに逃げてしまった。冗談だってのに!
「ダーリン、アタシが運んであげよっか?」
ロウランが包帯の端を掴み、ひらひらさせて見せる。
「ロウランが?どうやるつもりだ?」
「最初に、アルルカちゃんにアタシだけ運んでもらうの。で、アタシが包帯を垂らして、みんなを引き上げてあげる。どう?」
ほほう、リフトみたいにやろうってことか?まさに雲の上から、一筋の糸が垂れるというわけだ。ふふん、極楽浄土に逝く気分を味わえそうだな。
しかしその場合、あの高さまで、宙ぶらりんで運ばれていくことになる。高所恐怖症の人がいたら発狂してしまうんじゃないかな……俺もそんなに、高い所は得意じゃないぞ。
『主様、その心配はいりません。ちゃんとあそこへ行く手段は存在します』
リンリンと、ガラスの鈴が落ち着かせるように鳴った。
「なんだ、それを早く言ってくれよ。だいたいアニ、はじめっから、城が浮かんでるって教えてくれてたらいいじゃんか」
『ええ、はい、そうですね。言うべきかとも思ったのですが、それを登山前に言ってしまうと、主様の気勢がそがれるかと思いまして……』
お?アニなりに、俺のことを考えてくれていたのか。そう言えば、山を登る前、アニが言い淀んだことがあったっけ。俺を気遣って、言うのをやめていたってことだったんだ。
へへ、こいつにもかわいいとこあるじゃないか。俺はにっこり笑って、ガラスの鈴を爪先で小突いた。
「そうだったんだな。そんで、その手段ってのは?」
『“道”があるのです。盆地の中心に行けば分かるかと』
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ヘルズニル……まさか、空に浮いているなんて……」
ついに俺たちは、その全貌をこの目で見ることとなった。
その城は、宙に浮かんでいた。以前、一の国との国境付近で、巨大な浮岩を見たことがあったが、あれに負けず劣らずでかい。島一つを、そっくりそのまま空へ浮かべたみたいだ。
「あんな馬鹿でかい島が、どうやったら宙に留まれるんだ……?」
するとアルルカが、合点がいった様子で、ふんっと鼻を鳴らした。
「ああ、なるほどね。そういうこと」
「アルルカ、何が分かったんだ?」
「単純なことよ。この辺り一帯に溢れ返ってる魔力。その上に、あの島が浮いてんの」
なに……?つまり、こういう事か?水の上にヤシの実が浮くように、このカルデラ地帯いっぱいに溜まった魔力が、あの島を支えている、と?
「でも……魔力が、物を支えることができるのか?それに、あんなでかい物を」
「えい」
「いてっ!おい、何すんだ!」
「目は覚めてるみたいね。じゃ、目の前の光景が、紛れもない現実だってこともわかんでしょ?」
うっ、そういう言い方をされると……現実に起こっているのだから、否定のしようがないじゃないか。
魔王城ヘルズニルは、その島の上に建てられていて……果たして、あれは城?その島に生える巨大な木、と言った方が近い気がする。遠目だからシルエットしか見えないが、無数の細い塔が絡み合ったような建物だ。絡み合った、というのは比喩ではなく、本当に塔同士が巻き付き合っている。二本の塔が絡まって一つになり、かと思えば枝分かれして三本になったりする。そんなのが寄り集まって、一つの大きな城を成しているようだ……ジャックと豆の木みたいだな。ツルがいくつも集まって、一つの巨大な木になるという……てっぺんに恐ろしい存在が待っている点もおんなじだ。
そして、外観もさることながら、その色だ。島と城は、たぶん、黒い色をしている。なんでたぶんかって?いや、俺も信じられないんだけど……城の上部は、透明、なんだ。より正確には、薄く透き通っているって感じだけど。目がおかしくなったのかと思って、何度もゴシゴシ擦ってみたけど、やっぱり透けている。
「い、意味わからん……ガラスかなにかで出来てるのか?」
『あれは、光学迷彩と呼ばれる、一種の保護魔法だと考えられています。主様、あの城の下部を見てください』
城の下?俺は目線を下に落として、その城の直下の地面を見た。
「あ、あれ?影が、ない……」
あれだけ大きな浮島なら、当然その下は真っ暗になるはず。なのに、影はどこにも見当たらない。
『あの保護魔法によって、光が透過しているのです。山を登っていた時にも、この城は見えなかったでしょう』
「あ、そういえば。なるほどな、こうやって近くに来ないと、見えない仕組みになっているのか……」
天空に浮かぶ、巨大な城。魔王軍の本拠地だから、普通じゃないだろうとは思っていたが、ここまで予想の上を行くとは……俺はぶるりと震えた。高山の空気に冷えたせいではないだろう。
「呑まれてる?」
んっ。いつの間にか、隣にフランが立っていた。
「顔が青いよ」
「お、おう……フランは、何ともないのか?」
「わたし?そうだね。さっきチラッと見えてたし……後は、少なくとも、足腰を鍛えるにはよさそう」
「は?足腰……?」
「あんな高い城、上り下りするだけで、半日掛かるよ」
あ、あんなすごい城を見た感想が、それ?俺は思わずずっこけそうになってしまった。だが、よくよく考えると、それもおかしい。フランは、わざわざこっちに来てまで、そんなことを言いたかったわけじゃないだろう。つまり……
(ああ……心配して、くれたのか)
ったく、どこまでも、不器用なやつ。でもそれは、俺も同じか。
「……それなら魔王軍の下半身に注目だな。パンパンだったら、つまりそういうことだ」
俺がそう言うと、フランは目をしばたいた。それから、二人でにやっと笑いあった。
「さて……ところで、あそこまでどうやって行けばいいんだろう?」
まさか、魔王城が空に浮かんでいるとは思っていなかった。空を飛ぶ手段はいくつか思いつくが、問題は連合軍の数の多さだ。
「……アルルカ。参考までに訊きたいんだけど、お前、同時に何人くらい抱えて飛べる?」
「ちょっ。あんた、何考えてんのよ……?イヤよ!ぜーったいイヤ!」
アルルカはさぁーっと青ざめると、ぶんぶん首を振る。
「まあまあ、あくまで参考だからさ。一度に三人いけるとして、連合軍が何万人いるかな……」
アルルカは翼を広げると、話も聞かずに逃げてしまった。冗談だってのに!
「ダーリン、アタシが運んであげよっか?」
ロウランが包帯の端を掴み、ひらひらさせて見せる。
「ロウランが?どうやるつもりだ?」
「最初に、アルルカちゃんにアタシだけ運んでもらうの。で、アタシが包帯を垂らして、みんなを引き上げてあげる。どう?」
ほほう、リフトみたいにやろうってことか?まさに雲の上から、一筋の糸が垂れるというわけだ。ふふん、極楽浄土に逝く気分を味わえそうだな。
しかしその場合、あの高さまで、宙ぶらりんで運ばれていくことになる。高所恐怖症の人がいたら発狂してしまうんじゃないかな……俺もそんなに、高い所は得意じゃないぞ。
『主様、その心配はいりません。ちゃんとあそこへ行く手段は存在します』
リンリンと、ガラスの鈴が落ち着かせるように鳴った。
「なんだ、それを早く言ってくれよ。だいたいアニ、はじめっから、城が浮かんでるって教えてくれてたらいいじゃんか」
『ええ、はい、そうですね。言うべきかとも思ったのですが、それを登山前に言ってしまうと、主様の気勢がそがれるかと思いまして……』
お?アニなりに、俺のことを考えてくれていたのか。そう言えば、山を登る前、アニが言い淀んだことがあったっけ。俺を気遣って、言うのをやめていたってことだったんだ。
へへ、こいつにもかわいいとこあるじゃないか。俺はにっこり笑って、ガラスの鈴を爪先で小突いた。
「そうだったんだな。そんで、その手段ってのは?」
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