じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
838 / 860
17章 再開の約束

30-1 フランの切り札

しおりを挟む
30-1 フランの切り札

「殺してやるよ。ボロ炭にしてな」

いよいよやばいぞ、これ……!
セカンドが歯を向きながら、こちらへとやって来る。今までクラークやペトラがさんざん攻撃してきたっていうのに、何度かは有効打も入ったはずなのに……奴は全く弱った様子を見せない。対してこっちはボロボロだ。

(こんなんじゃ、戦いにすらならない……!)

ただ一方的にやられるだけだ。奴の言葉通り、消し炭にされるしかない。

「くそ……冗談じゃねーぞ……!」

今はとにかく、あいつから一歩でも離れないとまずい!いったん退いて、そこから立て直すしかない。だってのに、なんで俺の足は動かないんだよ!ガクガクと震える膝を叩いても、痙攣は収まらない。体の痛みは刻一刻とひどくなっていく。くそ、くそっ!

「んなことやってる場合!?這いつくばってもいいから、早く逃げなさい!」

なに?動けずにいる俺の前に飛び出してきたのは、アルルカだった。彼女は杖を構えて、俺たちをセカンドから守るように立ちふさがる。

「あたしが時間を稼ぐ!あんたたちは早く!」

「あ、アルルカ……お前……」

だが、その彼女の肩を引いて、代わりに前に出るものがいた。

「わたしが、行く」

え……フラン……?
アルルカがその横顔を、目を見開いて見つめている。

「あんた……本気で、言ってるの?」

「うん。みんなを、お願い」

「……ダメよ。やっぱりダメ、上手くいきっこないわ……!」

「アルルカ。分かってるでしょ」

フランが静かに、だがきっぱりと告げると、アルルカは殴られたような顔で口をつぐんだ。分かっている……?一体、何を言っているんだ……?
フランはアルルカの肩を叩くと、そのままセカンドへ向かって歩き出した。はっ。俺は何をぼーっとしているんだ、行かせちゃいけない!

「フラン!まて、行くな……」

「まって!」

アルルカが背中を向けたまま腕を突き出し、俺を制した。

「アルルカ……?おい、何言ってんだ。あの炎には、フランじゃ耐えられないんだって!」

「……」

「頼むアルルカ、あいつを止めてくれ!早くしないと、フランが……」

「……あの子のこと、信じてあげて。お願い」

え……?信じるって、フランのことを?どうしてそれを、アルルカが……?
俺は伸ばしたアルルカの腕が、かすかにふるえていることに気付いた。どうなっているんだ。アルルカがこんなにも、フランを信じるようなことを……

(なんだ、これ……どうしてこんなに、胸騒ぎがするんだ……!?)

アルルカの言動に、フランの姿が重なる。戦いに向かう直前……フランの様子がおかしかったが、あれはもしかして……
俺が完全に混乱しているうちに、フランはセカンドの下へ辿り着いてしまった。

「……誰かと思えば、お嬢ちゃんか。へー、面白いじゃん」

一人でやって来たフランのことを、セカンドの目は、値踏みでもするかのようになめ回す。

「お嬢ちゃんが、オレの相手をしようっての?悪いけど、そりゃちょっと役者不足だなぁ。それとも、もう一本の腕も焼かれたいって?お前、ひょとしてドエム?」

「……個人的に、お前には借りがある」

完全に無視されて、セカンドはイラついたようにぴくっとまなじりを動かした。が、すぐににやけ面に戻る。

「借り?何のことだかわかんねーな。ま何でもいいけどさ、ちょっとそこどいててくんない?できれば君に手を加えたくないんだよ。これ以上傷物にしたら、せかっくのカワイ子ちゃんが台無しじゃん」

「いつか、もしお前に会うようなことがあったら、言おうと思ってたことがある。その機会は、あの世でのことになると思ってたけど」

「……キャッチボールできないねぇ。する気が無いのかな?まいいや、言いたいことがあるって?それってやっぱり、君のお父さんにってこと?」

「っ!」

フランが息をのんだ。ようやくまともな反応を得られたセカンドは、笑みをいっそう深くする。

「分かってるよ、フランセス・ヴォルドゥール。お前はオレの実の娘だ。そうだろ?可愛い愛娘に、手は出したくないわけ。父親の愛、分かってくれるか?」

「……」

フランは……つま先でトントンと地面を蹴ると、足首をぐりぐりと回す。背中を逸らすと、大きく息を吸い込む。

「……お前を!ぶっ飛ばすっ!!!」

フランの咆哮は、空気をも震わせるほどだった。ビリビリと放たれる敵意にわずかもひるまず、セカンドは顔をゆがめる。

「反抗期ってやつか?じゃあちっとばかし、オシオキが必要だなぁ……!」

セカンドが黒い炎を揺らめかせる。フランは鉤爪をジャキンと抜くと、今にも飛び掛かりそうだ。

「だ、ダメだ、フラーン!」

だがそれは、無謀な突撃にしかならない。フランの体では、あの炎に耐えらえない。骨まで燃やされて、消えてしまう……!
その時だった。アルルカが杖を構え、まっすぐ前に向けた。

「グレイシア・ギガンテ!」

なに、呪文を?それも、今まで聞いた事がない呪文だ。
アルルカの髪が、パキパキと霜に覆われていく。ものすごい冷気が、彼女の全身から放たれているようだ。すると構えた杖からも、銀色の冷気が噴き出して、フランたちの方へと伸びていく。あれで攻撃する気か?だけど、魔法はセカンドには……

「っとお!ザコが邪魔すんなよ!」

思った通り、セカンドは全身を炎で包み込むと、冷気をシャットアウトしてしまった。ダメだ、やっぱりこれでは……
そこで俺は、目を疑った。冷気は……フランを、直撃したのだ。

「え?お、おい!」

銀色の冷気は吸い込まれるように、フランの体に流れ込んでいく。一体、何をしているんだ……?

「行くぞっ!」

はっ。フランが鉤爪を振りかざして、セカンドに突撃していく。当然奴は、容赦なく反撃してきた。

「じゃあ死ねよ、小娘がぁ!!!」

炎の波がフランに迫る。フランはきっと、それを避けるはずだと思っていた。それなのに……
ゴウッ!

「え……?」

フランの姿が、炎の中に消えた……フランは、炎を避けようとしなかった。一瞬で彼女は、黒い渦に飲み込まれた。

「ふっ……フランセスッッッ!!!!」

「フランさ……フランさぁーーーん!!!」

叫ぶ。俺はこんな時になっても、実は無傷のフランが炎の中から飛び出すんじゃないかとか、何か秘策があって炎が効かないんじゃないかとか、そんな甘いことを考えていた。だが、そのどれも、現実にはならない。
俺たちの目の前で、フランが焼かれていく。狂ったように踊る黒い炎の中で、フランの影が少しずつ小さくなっていくのを、俺はただ見ていることしかできない。

「フラアアァァァァァァン!!!」

行かなければ、とにかく行かなければ!だがアルルカが、しがみつくように俺を止める。

「だめよ!行っちゃだめ!」

「放せアルルカッ!ちくしょう、フラーンッ!!!」

「ヒャハハハハハハハ!まずは一匹目ぇ!」

セカンドが声高に笑っているが、俺は何も感じなかった。あいつのことなんて、ちり一つ分の価値もない。あいつなんかより、フランの方が……
もう炎の中には、影すらも見当たらない。俺の目の前に、銀色の何かが、風に漂って飛んできた。それが焼け焦げたフランの髪の毛だと分かった時、俺は目の前が真っ暗になった。

「フラン……フラン……」

体中の力が抜けていく。アルルカが支えてくれなければ、とっくに倒れていただろう。

「ハハハハ……ったく、飛んで火にいるなんとやらだねぇ。しかし、惜しいことをしたな。なかなか可愛い顔してたから、ぜひコレクションしたかったんだけど」

分からない……セカンドが何か言っているが、耳に入ってこない。フラン……

「さてと、残りのゴミもとっとと燃やして……あん?」

(…………)

なんだ……?
俺の聴覚は、もはや機能を停止させていた。誰かの声も、炎や風の音も聞こえてこない。だが、確かに、なにかが聞こえた。顔を、上げる。

バァー!

突然、黒炎が弾け飛んだ。あの辺りにはちょうど、フランがいたはず……そして俺は、目を見張った。
そこには、見たこともない人物がいた……人物と、言っていいのだろうか。全身が真っ黒だ。だが、ペトラのように甲殻に覆われているわけではない。
骨だ。そいつは、真っ黒な骸骨だった。唯一色が違うのは、額と、左手の先の爪の、紫色だけ。右腕はなかった。

「まさ、か」

その骸骨は、一瞬だけ、俺を振り返った。目が合うことはない。眼窩がんかに瞳はなく、うつろな穴が開いているだけ。だが俺は、そこに、ルビーのような赤い輝きを見た気がした。

ドンッ!

骸骨が、一瞬で消えた。そいつは、信じられないくらいの速度で、セカンドの目の前へと躍り出た。紫色の鍵爪が翻る。ザシュッ!

「ぐっ……ぎゃああぁぁぁ!」

セカンドが醜い悲鳴を上げた。奴の胸から腹にかけて、鋭い傷が付けられている。この戦いが始まってから、初めてセカンドについた傷だった。

「そうよ……行きなさい、フラン……!」

アルルカがそう呟いたのを聞いて、俺は認めざるを得なくなった。
あの黒い骸骨は、フランなんだ。


つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...