11 / 14
11
しおりを挟む
翌朝。梅野ママの店のドラァグクイーン達が共同で暮らす家の客間で目を覚ました俺は時刻を確認する。
「7時過ぎならぼちぼち帰ってくるか……?」
舞台の後はいつもこの店のドラァグ達が共同で暮らす家の客間で一夜を過ごしている。
朝帰り上等始発で帰宅が普通の他のドラァグ達と違い、終電の時刻を過ぎると眠くてしょうがなくなる昼型体質なのでいつも12時すぎには店を出るのだが帰宅が億劫でいつもここに泊めてもらっていた。
隣には客間の布団に身体が入り切らないシラノがすやすやと眠っていて、いつも俺より早く起きてるシラノがまだ寝てるのは慣れない場所故の疲れもあるのだろう。
(……改めて見るとこいつって男前の部類なんだよなあ)
思わずそんな感想が思い浮かぶ程度には綺麗な寝顔をしていた。
一緒に暮らしてはいるけど寝室別だからあんまり見慣れていないので、こうまじまじと見る機会が無いのだ。
「そうだ、メシつくんなきゃ」
ここに泊めてもらった時はお礼も兼ねていつも朝食(夜型生活の彼らには夕飯だが)を拵えるようにしている。
米は早炊きモードで炊き上げ、冷蔵庫に残った野菜と冷凍焼けした肉で豚汁を作り、賞味期限が今日までの卵と麺つゆで出汁巻きを作る。
「ただいまぁ」
「おかえりー」
もうすぐ米が炊けるというタイミングでぞろぞろと仕事終わりの遊びを終えた住人達が帰宅してくる。
派手な女装を剥がして普通の兄ちゃんやおっさんに戻った彼らは「シラノくんはー?」と聞いてくるので「まだ寝てた」と軽く答える。
女装を解いて普通のおっさんになった梅野ママが「ご飯あとどのくらい?」と聞いてくる。
「蒸らし込みで15分ぐらいですかね」
「じゃーアンタたちシラノくん起こすのはご飯出来てからにしなさいよ、それまでお触り厳禁だから!」
はーい!と答えた男達がシラノのいる客間に忍び込む。
しかし5分もしないうちに客間から「うわぁ!」「痛!」という悲鳴が上がり、様子を見に行くとシラノがこの家の男達を投げ飛ばしていた。
「何やってんだよ」
「タモツ!ここにいるのは……?」
「全員昨日出会ったドラァグクイーンが女装を解いた姿だ。別人に見えるだろうが全員昨日会ってるからな?」
「そうだったのか……起きたら枕元に見知らぬ男が沢山いたから、つい身を守ろうとして手が出てしまった」
全員にしっかり詫びを入れさせ、怪我をしてない事を確認した頃には朝食も出来上がっていた。
****
朝食の後は勉強のため都内各所を車で巡ることになった。
マジックグッズ専門店や大道芸を見学したり、色んな商業施設を見学したり、夕方以降には都内の大きな繁華街やショーパブなども見て回った。
夜の首都高に入って東京タワーを見ながらの帰り道のことだった。
「この国は賑やかで迷路のように複雑だが、俺のいた街よりもみんなが自由に生きている感じがする」
「自由?」
「どんな派手な服を着ても、どんな体に生まれ付いても、どんな人を愛しても掴まることなく生きられる」
「まあ逮捕はされないな。世間の目とか社会の仕組みとか追いついてない部分はあるけど、少なくとも逮捕されたりそれで死ぬことはないか」
シラノはこの国でどんなふうに生きるのだろう。
俺はふとそれを最後まで見守りたいと不意に思った。
「7時過ぎならぼちぼち帰ってくるか……?」
舞台の後はいつもこの店のドラァグ達が共同で暮らす家の客間で一夜を過ごしている。
朝帰り上等始発で帰宅が普通の他のドラァグ達と違い、終電の時刻を過ぎると眠くてしょうがなくなる昼型体質なのでいつも12時すぎには店を出るのだが帰宅が億劫でいつもここに泊めてもらっていた。
隣には客間の布団に身体が入り切らないシラノがすやすやと眠っていて、いつも俺より早く起きてるシラノがまだ寝てるのは慣れない場所故の疲れもあるのだろう。
(……改めて見るとこいつって男前の部類なんだよなあ)
思わずそんな感想が思い浮かぶ程度には綺麗な寝顔をしていた。
一緒に暮らしてはいるけど寝室別だからあんまり見慣れていないので、こうまじまじと見る機会が無いのだ。
「そうだ、メシつくんなきゃ」
ここに泊めてもらった時はお礼も兼ねていつも朝食(夜型生活の彼らには夕飯だが)を拵えるようにしている。
米は早炊きモードで炊き上げ、冷蔵庫に残った野菜と冷凍焼けした肉で豚汁を作り、賞味期限が今日までの卵と麺つゆで出汁巻きを作る。
「ただいまぁ」
「おかえりー」
もうすぐ米が炊けるというタイミングでぞろぞろと仕事終わりの遊びを終えた住人達が帰宅してくる。
派手な女装を剥がして普通の兄ちゃんやおっさんに戻った彼らは「シラノくんはー?」と聞いてくるので「まだ寝てた」と軽く答える。
女装を解いて普通のおっさんになった梅野ママが「ご飯あとどのくらい?」と聞いてくる。
「蒸らし込みで15分ぐらいですかね」
「じゃーアンタたちシラノくん起こすのはご飯出来てからにしなさいよ、それまでお触り厳禁だから!」
はーい!と答えた男達がシラノのいる客間に忍び込む。
しかし5分もしないうちに客間から「うわぁ!」「痛!」という悲鳴が上がり、様子を見に行くとシラノがこの家の男達を投げ飛ばしていた。
「何やってんだよ」
「タモツ!ここにいるのは……?」
「全員昨日出会ったドラァグクイーンが女装を解いた姿だ。別人に見えるだろうが全員昨日会ってるからな?」
「そうだったのか……起きたら枕元に見知らぬ男が沢山いたから、つい身を守ろうとして手が出てしまった」
全員にしっかり詫びを入れさせ、怪我をしてない事を確認した頃には朝食も出来上がっていた。
****
朝食の後は勉強のため都内各所を車で巡ることになった。
マジックグッズ専門店や大道芸を見学したり、色んな商業施設を見学したり、夕方以降には都内の大きな繁華街やショーパブなども見て回った。
夜の首都高に入って東京タワーを見ながらの帰り道のことだった。
「この国は賑やかで迷路のように複雑だが、俺のいた街よりもみんなが自由に生きている感じがする」
「自由?」
「どんな派手な服を着ても、どんな体に生まれ付いても、どんな人を愛しても掴まることなく生きられる」
「まあ逮捕はされないな。世間の目とか社会の仕組みとか追いついてない部分はあるけど、少なくとも逮捕されたりそれで死ぬことはないか」
シラノはこの国でどんなふうに生きるのだろう。
俺はふとそれを最後まで見守りたいと不意に思った。
50
あなたにおすすめの小説
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩
ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。
※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる