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大使館1年目・春(2〜3部分
大森林を歩く・春 前編
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「おお……!思ったよりきれいだなあ!」
宰相さんから許可を得て初めて足を踏み入れた異世界の広大な森は、思ったよりも手入れがされていた。
「この辺りは一般の方も食料調達や木材の入手で出入りがありますから」
森林管理官のソルヴィさんが静かに歩み寄る。
キングコングのような大きくていかつい見た目に反して心優しく紳士なこの人物は、大森林に入る時の警護役としてついて来てくれる。
「森はある程度人手が入っていたほうが綺麗って言いますもんねぇ」
「ここからだいたい10ミルぐらいまでは人の手が入ってますね」
ミルはこの世界で使われている単位で、おおむねヤードポンド法と同じになる。ちなみに重さもほぼヤードポンド法に基準する。
1ミルが1.6キロなので16キロぐらいだろうか?
そう考えると意外に広いがこの国の人たちは体力があるので片道10キロぐらい余裕なんだろうか。
思うがままに歩いていると小さなテントや仕事をする声が聞こえてくる。
起伏はそこまでないけれど道は整備されていなくて歩きづらい。
「ここから手作業で運ぶのはしんどそうだなあ」
「大森林の樹木などは川船で運んでますからそこまで厳ししい仕事ではありませんよ、それに自分が切った分の木で得た収益はちゃんと自分のものになりますから」
「それ普通じゃない?」
「持ち主に掠め取られずに済む、という事は重要なことですから」
そうだった、ここは逃亡奴隷の国だから自分の仕事の報酬がちゃんと返って来なかった人もたくさんいる。
多少仕事がきつくても自分の報酬がちゃんと出されるのなら我慢できるという事だろう。
近くから生き物の悲鳴が聞こえてきて、胃袋センサーが反応してきた。
「誰かが猪捕まえたのかなあ」
狩猟については多少経験もあるから何となくわかる。
声のするほうへ向かうと、予想通り数人の猟師さんが落とし穴から何かを引き上げる様子が見えた。
「ちょっといいですか~?」
捕まえていたのはクマ獣人3人組で、ちょっと話をすると落とし穴を使った罠で猪の群れを捕まえる事に成功したらしい。
この猪の群れを解体した後、肉は市場へ・毛皮は家でなめして南の国の商人に売るらしい。
「内臓や頭は食べないんですか~?」
「頭はそんなに美味くないし内臓はなあ……」
「食うと昔の事思い出すしなあ」
「ああ」
内臓食は放るもんからホルモンなんて俗説があるぐらい昔は貧乏人の食事だった。
食べないなら寄生虫だけ気を付ければ美味しいホルモン焼きになりそうだ。新鮮だし。
骨も臭みを取りながら煮込めば出汁が取れるし、タンも美味しいだろうしなあ。
「このいちばん大きい奴、まるごと買うことできますかぁ?」
「丸ごと?解体しないで?」
「解体できるんで~、でも皮は要らないかなあ」
話し合った結果丸ごと1頭をここから自分で持ち帰ることを条件に安く売ってもらうことが出来た。皮は塩漬けにして後日3人組の1人が営む市場のなめし皮専門店に持って行けば買ってくれるという。
「ソルヴィさん、ちょっと運んでもらってもいいですか~?」
後ろにいたソルヴィさんに声をかけると目を合わせずに「分かりました」と答えてくる。
「アンタ知らねえのか?」
首をかしげると呆れた顔をしてこう告げる。
「ソルヴィさんは元傭兵なのに血が苦手で肉も食わない人なんだぞ」
「なるほど」
言われてみればこちらをちらりとも見ない事に納得する。
まあ大使館まで運んでもらったらソルヴィさんには帰って貰って後は全部自分でやればいいしなぁ、と考えていると呆れたように3人組がため息を履いた。
「ソルヴィさんが可哀そうだから解体場所貸してやるよ、近くに冷たい空気の出る洞窟があるんだ。そこ使うといい」
(※次から動物の解体描写を含みます、ご了承ください)
宰相さんから許可を得て初めて足を踏み入れた異世界の広大な森は、思ったよりも手入れがされていた。
「この辺りは一般の方も食料調達や木材の入手で出入りがありますから」
森林管理官のソルヴィさんが静かに歩み寄る。
キングコングのような大きくていかつい見た目に反して心優しく紳士なこの人物は、大森林に入る時の警護役としてついて来てくれる。
「森はある程度人手が入っていたほうが綺麗って言いますもんねぇ」
「ここからだいたい10ミルぐらいまでは人の手が入ってますね」
ミルはこの世界で使われている単位で、おおむねヤードポンド法と同じになる。ちなみに重さもほぼヤードポンド法に基準する。
1ミルが1.6キロなので16キロぐらいだろうか?
そう考えると意外に広いがこの国の人たちは体力があるので片道10キロぐらい余裕なんだろうか。
思うがままに歩いていると小さなテントや仕事をする声が聞こえてくる。
起伏はそこまでないけれど道は整備されていなくて歩きづらい。
「ここから手作業で運ぶのはしんどそうだなあ」
「大森林の樹木などは川船で運んでますからそこまで厳ししい仕事ではありませんよ、それに自分が切った分の木で得た収益はちゃんと自分のものになりますから」
「それ普通じゃない?」
「持ち主に掠め取られずに済む、という事は重要なことですから」
そうだった、ここは逃亡奴隷の国だから自分の仕事の報酬がちゃんと返って来なかった人もたくさんいる。
多少仕事がきつくても自分の報酬がちゃんと出されるのなら我慢できるという事だろう。
近くから生き物の悲鳴が聞こえてきて、胃袋センサーが反応してきた。
「誰かが猪捕まえたのかなあ」
狩猟については多少経験もあるから何となくわかる。
声のするほうへ向かうと、予想通り数人の猟師さんが落とし穴から何かを引き上げる様子が見えた。
「ちょっといいですか~?」
捕まえていたのはクマ獣人3人組で、ちょっと話をすると落とし穴を使った罠で猪の群れを捕まえる事に成功したらしい。
この猪の群れを解体した後、肉は市場へ・毛皮は家でなめして南の国の商人に売るらしい。
「内臓や頭は食べないんですか~?」
「頭はそんなに美味くないし内臓はなあ……」
「食うと昔の事思い出すしなあ」
「ああ」
内臓食は放るもんからホルモンなんて俗説があるぐらい昔は貧乏人の食事だった。
食べないなら寄生虫だけ気を付ければ美味しいホルモン焼きになりそうだ。新鮮だし。
骨も臭みを取りながら煮込めば出汁が取れるし、タンも美味しいだろうしなあ。
「このいちばん大きい奴、まるごと買うことできますかぁ?」
「丸ごと?解体しないで?」
「解体できるんで~、でも皮は要らないかなあ」
話し合った結果丸ごと1頭をここから自分で持ち帰ることを条件に安く売ってもらうことが出来た。皮は塩漬けにして後日3人組の1人が営む市場のなめし皮専門店に持って行けば買ってくれるという。
「ソルヴィさん、ちょっと運んでもらってもいいですか~?」
後ろにいたソルヴィさんに声をかけると目を合わせずに「分かりました」と答えてくる。
「アンタ知らねえのか?」
首をかしげると呆れた顔をしてこう告げる。
「ソルヴィさんは元傭兵なのに血が苦手で肉も食わない人なんだぞ」
「なるほど」
言われてみればこちらをちらりとも見ない事に納得する。
まあ大使館まで運んでもらったらソルヴィさんには帰って貰って後は全部自分でやればいいしなぁ、と考えていると呆れたように3人組がため息を履いた。
「ソルヴィさんが可哀そうだから解体場所貸してやるよ、近くに冷たい空気の出る洞窟があるんだ。そこ使うといい」
(※次から動物の解体描写を含みます、ご了承ください)
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