異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館1年目・春(2〜3部分

一時帰国の話

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久しぶりの東京は初夏の陽気を迎え、率直に言うとアホみたいに暑い。
迎えに来てくれた外務省の担当者も「暑いねえ」とつぶやきながら膨大な量の報告書をちょっと無理して車に積み込んでくれる。
市ヶ谷・霞が関に書類を置いていってくれたあと、通っている病院の真ん前で下ろしてもらった。
このあと府中にある私の職場にもいくつか持って行ってくれるという。
私の場合は大使館に出向という形なのでまだ籍は向こうにもあるし、他にも研究したい人たちに共有するのなら大学同士の繋がりを使うほうが早い。
「ファンナルさんどうします?」
車に乗っている間ずっと外を見てソワソワしていたファンナルさんにそう聞くと「一緒に行こう」と告げてくる。
大して面白いものはないだろうけれど、まあ一刻も早く自分の身体でこの世界を感じたいという好奇心に満ちているので反対する理由はない。
「終わったら電話しますんでお迎えお願いしても大丈夫ですか?」
「構いませんよ、下手に公共交通機関に乗られても混乱の原因ですしね」
言われてみればそうだ。
向こうではともかく、日本だとまだまだ獣人は見慣れたものじゃない。テレビの芸能人みたいなものだし、変な混乱を起こしても仕方ない。
いちおう病院側には軽く話してあるからまだこっちで大人しくしてくれたほうがマシという事だろうか。

****

大学病院で受付を済ませると平日朝にも拘らずの大盛況だった。
吹き抜けのあるホールでは診察・会計待ちやお見舞いの人があちらこちらに座っている。
「ここは病院なんだよな?」
「向こうの病院とやっぱ違います?」
「ああ、随分と広々して清潔だ。一般人の通う病院でもここまで広くはないだろうな」
あちらの世界の医療水準については分からないが、病院もかなり事情が違うらしい。
私はここの7階に担当医がいるのでガラス製のエレベーターを指差してあれに乗ると告げると「動く箱だ……!」と嬉しそうに見つめている。
向こうにも似たようなものはあるらしいが、獣人は動かすだけで乗れない事が多いらしい(国によって差はあるらしいが)
「乗っていいんだな?!」
そう言いながら嬉しそうにエレベーターに乗り込む姿に思わずほっこりしてしまう。
他の人たちも同じ意見らしく、まるで小さな子供を見守るように温かい目をしていた。
私が医師の診察を受けている間は診察ロビーにあった料理雑誌を読みふけっていたらしく「あんなはっきりした印刷は初めて見たな」と満足気であった。
お会計のほうも込んでいたので時間を潰せるように売店に連れて行くと再び目を輝かせていた。
「こんなものが病院の中に……?!」
「向こうにはないんですか」
「いや、定期的に商人が来て注文したものを持ってきてくれるんだが、一般人の病院でも10日に1度程度しか来ないしバカ高い、しかも野戦病院や貧乏人が行くような病院には商人も来ない」
注文したら持って来てくれるのはいいが頻度が少なすぎるな。あまり便利とは言えないだろう。
野戦病院に売店が無いのは仕方ない気もするがー……どうなんだろう、地球の野戦病院にはあるんだろうか。
「でも魔術でパパッと運べたり出来そうですけどねえ」
「少なくとも俺は聞いたことが無いな」
結局売店ではチョコレート菓子とコーヒーを買って、お会計待ちのスペースでつまんでいるとテレビのニュースに釘付けになっている。
海外の紛争についての報道を真剣に見入っているが、「こんな道具があるのか」「この道具を入手出来たら我々は」と妙に不穏なことを言っている。
(……武器関係見せていいんかな)
真柴さんか外務省の担当者に聞いときゃよかったな。
そんなことを考えつつ私はチョコをつまむのであった。
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