異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館2年目・冬(13~14部分)

石薙誠一郎のウィンターホリデー

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2人の子ども達との待ち合わせは品川駅の改札口、今日も込み合う中ですが人探しは得意です。
「ああ、いたいた」
「父さんお疲れー」
「遅くね?俺集合9時半って言ったはずなんだけど」
大学生の息子が文句を言いますが時刻は10時5分前、確かに少々遅刻です。
(防衛省の夏沢さんと組むと聞いた上司から文句が来てその対応をしたせいで遅れたんですが……まあ言わずにおきましょう)
大体今になって把握する上も動きが遅いと思うんですがね。
「父さん、あと15分ぐらいで新幹線来るからまず乗っちゃおう」
娘が新幹線の切符を差し出します。
私の帰国に合わせて一緒に帰ることを提案してくれた娘が代わり取ってくれた3人分の新幹線の切符を受け取ると、グリーン席です。新幹線のグリーン券。
「こんないい席頼んだ記憶がないんですが」
「父さんが後で払ってくれるって言うからちょっと贅沢をね」
さっさと改札を通っていく娘を追いかけながら、そのちゃっかりした性格にため息が出ます。
たまにしか会えないからとつい我が子を甘やかしてしまった私が悪いのでしょう。
娘についていく形で東海道新幹線のホームに入ると乗る予定の新幹線がちょうど滑り込んできました。
東海道新幹線のグリーン席に乗るのは私も初めてです。
どうせ1時間程度しか乗らないのだし普通席でよかったんですけどねえ?
そんなことを思っていると新幹線はスムーズに走り出していきます。
「ところで、2人とも最近はどうしてました?」
先に口を開いたのは上の娘です。
「来年の獣医国試がこわい」
娘は獣医師を目指しており、都内の私立大学に通っております。
獣医師が人間の医者と同じように6年大学に通わないといけない事には驚きましたが、本人の希望なのでしょうがありません。
「国家資格ですからねえ」
「姉ちゃんみたいに国家資格狙わなくてよかったわ」
「あんたも来年の今頃は就活と卒論でヒイヒイ言ってるんだからね?」
息子も同じく文系私大の大学生ですが3年生という事でそろそろ就職の二文字が見えてくる頃合いです。
「希望職種は決まりました?」
「全然決まんない、というか母さんが帰ってこいって言うんだけど」
上の娘は獣医師になったら動物園で就職したいと言っており地元には戻らない可能性が高いので、息子だけでも地元にいてくれた方が寂しくないし安心なんですかね。
「ひとりは寂しいんでしょう」
「そうだろうけどさ」
息子の大学生活の愚痴が始まると娘が厳しい突っ込みを入れ、私が宥めるいつものやり取りが始まります。
そうこうしているうちに新幹線は静岡駅の手前まで来てしまいました。
「もう降りる準備しますよ」
「「はあい」」
静岡駅を降りると10分歩いて新静岡の駅まで乗り換えます。
久しぶりの静岡の中心部を歩いてみると大河ドラマのポスターがまだちょこちょこ残っています。家康公でしたもんねえ……見てませんけど……。
新静岡駅から電車で20分弱乗れば家の最寄り駅・狐ヶ崎です。
駅から15分も歩けば妻の暮らす家に到着です。
この家はもとをただせば妻の実家です。
外交官としてアフリカ各地を転々とする私を面白いと言って結婚してくれた妻ですが、子どもが生まれたのを機に別居婚状態になったので以降日本に帰るときは必ずこの家で過ごします。
実家は兄一家が住んでますし、父も入院中なのでこっちが一番気兼ねしないんですよね。
2人の子ども達が「ただいまー」と先に入っていきます。
「ただいま」
「あ、お帰り」
ソファーで文庫本を読んでいた妻はまるで今朝別れたかのように動じることなく私のほうを見ます。
この妙に動じないところが本当に好ましいんですよね。
「お昼ごはん食べました?」
「まだ食べてないけど……せっかくみんないるし、さわやか行く?」
「行く!」
子ども達がそう答えるので今日はハンバーグですね。
やっと何も考えないでいい休日の始まりです。
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