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大使館2年目・冬(13~14部分)
異世界恵方巻
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きょうは海苔が出来たから2月3日は恵方巻記念日。
どっかで聞いたようなフレーズを思い浮かべながら乾燥させていた板海苔もどきをぺりぺりと剥がす。
「……これ本当に食べられるんですか?」
不安そうにそう尋ねてきたのはオーロフくんだ。
珍しい食材に目がない僕のために知人から貰って来たという海苔によく似た川藻をくれたのはオーロフくんだが、実際に食べたことはないとも言っていた。
そもそもこちらで川や海などの水辺を生息域にする動物を祖にする人たちしか藻類を食べない上、使い方もスープの具にすることが多いらしいのでこういう使い方は物珍しいようなのである。
「生で食べた時にイケると思ったからたぶん大丈夫だよ~」
念のため上手く剥がれなかった海苔のかけらを味見してみる。
(……うん、だいぶ板海苔っぽい)
日本で食べる板海苔よりも少々鮎に似た青臭さがあるが、歯触りは完全に市販の板海苔だ。
ありあわせのもので作る代用品としては成功の部類といっていいだろう。
今回成功した板海苔はコピー用紙10枚分ぐらいの大きさなので使いやすいようにカットすれば海苔は完成である。
「さて、具材もいい感じになったかなぁ?」
台所に戻って準備していた具材の確認をする。
今回の恵方巻の具は7種類。
だし巻き卵、鹿肉そぼろ、川魚のほぐし身、はつか大根の浅漬け、ゆでた人参、ほうれん草のおひたし、白髪ねぎ。
本来の恵方巻とは全然違う組み合わせだが恵方巻にいれるものって割と何でもありのイメージなのでこれぐらいならたぶん問題ないだろう。数は揃えてあるし。
粗熱が取れたことを確認すると手をアルコールで軽く消毒してから巻き簾に手を伸ばし、自家製板海苔の上に南の国から仕入れたお米を乗せる。
本来はインディカ米に近いぱらっとしたお米だが今回はゼラチンを多めに入れてお米の粘度をあげている。
その上にまず乗せるのは細長く切った厚焼き卵。これは金羊国北部の山岳で冬を越す大型の鳥の卵を使っていて、卵1つで2~3キロはあるという素晴らしいシロモノである。
次に鹿肉のそぼろ。これは秋に捕まえた鹿肉を塩と魚醤で味付け、瓶詰にしてある。大使館定番のごはんのお供である。
川魚のほぐし身は今朝捕まえたものを塩焼きにして荒くほぐしたものだ。
はつか大根の浅漬け。金羊国では冬でも育つ野菜なので新鮮な野菜が恋しい時によく食べられる。
茹で人参。これは地元の農家が冬前に収穫したものを雪室に入れて保存したものでとにかく甘い。
ほうれん草のおひたしは金羊国でも特に寒い山のほうで育つちぢみほうれん草を使っている。最近市場で売られるようになったので重宝している。
白髪ねぎは大使館の嘉神君がジョン君との散歩で仲良くなった地域の人から譲って貰ったものだ。形が悪いので市場には出せないが食用とするには十分な逸品である。
(こうしてみると僕らもこの土地に馴染んだなあ)
1つの料理を完全にこの土地の食材で作れるようになったということは、この土地のコミュニティを知ることが出来るようになった証拠だと思う。
そして、これを巻き簾でくるりと巻き付けて軽く形を整える。
「できた」
巻き簾を外せば見た目は普通の恵方巻だ。
多少のゆがみは自家製ゆえのご愛敬、これが全部異世界の食材で出来ているというのが大切なのである。
「これを食べるんですか?」
「僕らはね、オーロフくんは藻類食べ慣れてないみたいだから海苔の代わりに薄焼き卵も準備してあるよー」
「じゃあ自分の分だけでも巻いてみていいですか?うちの子たちとやってみたくて」
「もちろん!」
僕らはまだこの土地で暮らす。その暮らしがふたつの世界をつなぐ第一歩になるのだ。
どっかで聞いたようなフレーズを思い浮かべながら乾燥させていた板海苔もどきをぺりぺりと剥がす。
「……これ本当に食べられるんですか?」
不安そうにそう尋ねてきたのはオーロフくんだ。
珍しい食材に目がない僕のために知人から貰って来たという海苔によく似た川藻をくれたのはオーロフくんだが、実際に食べたことはないとも言っていた。
そもそもこちらで川や海などの水辺を生息域にする動物を祖にする人たちしか藻類を食べない上、使い方もスープの具にすることが多いらしいのでこういう使い方は物珍しいようなのである。
「生で食べた時にイケると思ったからたぶん大丈夫だよ~」
念のため上手く剥がれなかった海苔のかけらを味見してみる。
(……うん、だいぶ板海苔っぽい)
日本で食べる板海苔よりも少々鮎に似た青臭さがあるが、歯触りは完全に市販の板海苔だ。
ありあわせのもので作る代用品としては成功の部類といっていいだろう。
今回成功した板海苔はコピー用紙10枚分ぐらいの大きさなので使いやすいようにカットすれば海苔は完成である。
「さて、具材もいい感じになったかなぁ?」
台所に戻って準備していた具材の確認をする。
今回の恵方巻の具は7種類。
だし巻き卵、鹿肉そぼろ、川魚のほぐし身、はつか大根の浅漬け、ゆでた人参、ほうれん草のおひたし、白髪ねぎ。
本来の恵方巻とは全然違う組み合わせだが恵方巻にいれるものって割と何でもありのイメージなのでこれぐらいならたぶん問題ないだろう。数は揃えてあるし。
粗熱が取れたことを確認すると手をアルコールで軽く消毒してから巻き簾に手を伸ばし、自家製板海苔の上に南の国から仕入れたお米を乗せる。
本来はインディカ米に近いぱらっとしたお米だが今回はゼラチンを多めに入れてお米の粘度をあげている。
その上にまず乗せるのは細長く切った厚焼き卵。これは金羊国北部の山岳で冬を越す大型の鳥の卵を使っていて、卵1つで2~3キロはあるという素晴らしいシロモノである。
次に鹿肉のそぼろ。これは秋に捕まえた鹿肉を塩と魚醤で味付け、瓶詰にしてある。大使館定番のごはんのお供である。
川魚のほぐし身は今朝捕まえたものを塩焼きにして荒くほぐしたものだ。
はつか大根の浅漬け。金羊国では冬でも育つ野菜なので新鮮な野菜が恋しい時によく食べられる。
茹で人参。これは地元の農家が冬前に収穫したものを雪室に入れて保存したものでとにかく甘い。
ほうれん草のおひたしは金羊国でも特に寒い山のほうで育つちぢみほうれん草を使っている。最近市場で売られるようになったので重宝している。
白髪ねぎは大使館の嘉神君がジョン君との散歩で仲良くなった地域の人から譲って貰ったものだ。形が悪いので市場には出せないが食用とするには十分な逸品である。
(こうしてみると僕らもこの土地に馴染んだなあ)
1つの料理を完全にこの土地の食材で作れるようになったということは、この土地のコミュニティを知ることが出来るようになった証拠だと思う。
そして、これを巻き簾でくるりと巻き付けて軽く形を整える。
「できた」
巻き簾を外せば見た目は普通の恵方巻だ。
多少のゆがみは自家製ゆえのご愛敬、これが全部異世界の食材で出来ているというのが大切なのである。
「これを食べるんですか?」
「僕らはね、オーロフくんは藻類食べ慣れてないみたいだから海苔の代わりに薄焼き卵も準備してあるよー」
「じゃあ自分の分だけでも巻いてみていいですか?うちの子たちとやってみたくて」
「もちろん!」
僕らはまだこの土地で暮らす。その暮らしがふたつの世界をつなぐ第一歩になるのだ。
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