異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・冬(18~19部分)

帰り道を行く前に

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「今年も実家に帰るのか」
冬の休暇を目前に控えたある日の夜、囲炉裏の前で火を囲みながら暖かい茶をしばいていた時にファンナルがそう聞いてきた。
「そうだね、帰省はうちの親との約束でもあるから」
「約束?」
「異世界に娘を送り出すのは心配だから定期的に顔出しなさい、ってね」
親にはそれなりに心配をかけた自覚もある、顔を出すだけで安心して送り出してくれるなら帰ってやるのが親孝行と言うものだろう。
「確かにアケノの親にとってこの国は未知の場所だものな」
「うん。ファンナルの家族は?親御さんはともかく兄弟はみんな東の国とかにいるんでしょ?」
「そうだな……うちの親とは秋の収穫祭の時に会ったが、兄弟とはもう10年くらいは会ってないかもな」
ファンナルの両親は傭兵を引退してファンナルと共にこの国へ移住したのに対して、兄弟たちは今も東の国で流れの傭兵団を率いていると聞いた。
国防に関わる立場になった今のファンナルが気軽に国外に出るのは難しいし、兄弟たちも滅多にこちらまで足を延ばせないので長らく会ってないというのもまあわからないでもない。
「会えるうちに会っときな、って言いたいけど立場的に難しいのがねえ」
「お互い稼業が稼業だから会える時に会うべきなんだろうがな。お互いプロの傭兵なんだ、内戦の終わった今そう簡単に死ぬことはないだろ」
「信頼だねえ」
私が軽く笑うとファンナルも穏やかに笑う。
いずれこの男の血を分けた男に会ってみたい気持ちはあるが、それはきっと私がこの男の家族になる日なのだろうと思った。
(……まあそんな日が来るかは神のみぞ知るんだろうけどね)
あるかどうかも分からない未来の事にちょっとだけ未来を想ってみる。
「ファンナル、寂しいかもしれないけどちゃんとここに帰ってくるから安心してよ」
私がからかい気味にそう答えてみると、ファンナルはちょっとムッとしたように「別に不安な訳じゃないんだが?」と強めに言い返した。
案外図星だったんだろうか。可愛い男だ。
「今年もちゃんとお土産買ってくるからさ、浮気せずに待っててね」
「20日ちょっとの浮気なんかするわけないだろ」
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