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Lesson1 「俺様No.1に狙われた子犬」 ―夜の街で始まる、危険で甘い沼の入口。
しおりを挟む今宵も光と影が交錯する舞台。
シャンデリアの下、香水とアルコールが溶け合い、笑い声とグラスの音が渦を巻く。
ここはホストクラブCLUB・A(エース)女たちが夢を買いに来る場所。
俺の名は「レオ」。
それが源氏名。
だが本当は黒咲和希、25歳。
この店でNo.1を張る男——自信と余裕をまとった俺様イケメン。
フロアを歩けば必ず視線が集まり、ひとたび目が合えば誰もが二度と離れられなくなる。
オーナーが俺を呼んだ。
「レオ、今日から新人が入るから頼むな」
「へえ。どんな子っすか?」
口元に笑みを浮かべる。
「お前またからかう気だろ?」
オーナーが肩を揺らして笑う。
「人聞き悪いなあ。俺はいつだって、後輩に“愛のある指導”してるだけですよ」
「ま、期待しとけ。めちゃくちゃ可愛いんだ。俺がスカウトした自慢の新人。子犬みたいだぞ」
「子犬?」
俺の口角がさらに上がる。
(へえ、楽しみだな)
——19時、開店前。
「は、はじめまして……みのるです。二十歳です。お酒は弱いんですけど、指名をいただけるように頑張ります。よ、よろしくお願いします!」
金髪がシャンデリアの光を弾き、澄んだ瞳が不安に揺れていた。
スタッフたちが口々にざわめく。
「え、可愛くね?」
「サラサラの髪……やば」
俺は腕を組んで見やる。
(おいおい、想像以上じゃねぇか。こいつ、本当に仔犬だな)
——開店。
「みのる!こっち来い!」
リツに呼ばれて新人は駆け寄る。
「こちらが当店のNo.1、レオさんだ。……かっこいいだろ?」
「はいっ!めちゃくちゃイケメンですね!」
眩しい笑顔に、胸が一瞬ざわつく。
(なんなんだ、この素直さ。危ねぇ……眩しすぎんだろ)
「よろしくな」
俺は軽く頭を撫でるような声色で告げた。
その直後——
「レオさーん!三番テーブル指名です!」
「今行く!」
手を振ってフロアを滑るように歩き出す。
背後では、みのるがリツに必死で教わっていた。
——三番テーブル。
「レオ~!今日も会いたかった!」
香水の匂いとともに、しつこい常連・さおりが身を乗り出す。
「おー、さおりちゃん!俺、幸せだよ~。マジ?シャンパン開けてくれるの?嬉しい!」
俺は完璧な笑顔で抱き寄せる。
(……けど正直、距離感バグってんだよな。甘えたいのか?それとも俺を試したいのか?)
頭を撫でてごまかすと、彼女はさらに密着してきた。
「レオさ~ん、次は一番テーブルです!」
スタッフが救いの手を伸ばす。
「はーい。……さおりちゃんごめん。また戻るから待ってて?」
甘い声で耳元に囁いて、席を立つ。
フロアを抜ける途中、ふと視界の端に映った。
——みのる。
頬が赤く、グラスを握りしめている。
(おいおい……新人のくせに、あの客に無理やり飲まされてんのか?)
足を止め、つい視線を向ける。
そこには、困った顔で笑う仔犬と、距離を詰めてくる女性客。
俺は迷わずテーブルに歩み寄った。
「はじめまして。俺、レオ」
客の瞳が一瞬で奪われる。
「あ、あら……イケメン」
「ありがとう。君はなんて呼べばいい?」
微笑むと、女は頬を赤らめ「えみちゃんって呼んで」と答える。
「えみちゃんか。かわいい名前だな」
軽く指先でグラスを持ち上げ、視線を絡め取る。
背後でみのるが小さく息をついた。
(助けてくれたんだ……)
その表情を見た瞬間、胸の奥に妙な熱が走った。
(クソ……やっぱ可愛い。仔犬のくせに、人を沼に落とす顔しやがって)
——閉店。
煌びやかなネオンがようやく落ち着き、フロアに「お疲れ様」の声が飛び交う。
時計の針は深夜一時。
「レオ!ラーメン行かね?」
声をかけてきたのはケン。指名No.7ホスト、ケン、トーク力とお調子物。場を盛り上げる会話術と人懐っこさで客を惹きつける
「いや、遠慮しとく」
俺はネクタイを緩めながら答えた。
「なんだよーつれないな。……なぁレオ、みのるのやつ、やっぱ可愛いよな?リツとセイヤがこれから焼き肉に連れてくってよ」
「は?」
思わず眉が動く。
セイヤ——指名No.8
ガタイの良いワイルド系。力任せで雑な性格、枕営業で上り詰めた経歴を持つ
「よし、俺らも焼き肉行くぞ」
「え?あいつらと?なんで?」
ケンが目を丸くする。
「……焼き肉の気分だ」
嘘だ。正直、肉なんて今は欲しくない。
ただ、あの仔犬が気になっただけ。
——韓国風の焼肉店。
ジュージューと肉の焼ける音、タレの香ばしい匂い。深夜の空腹とアルコールで、空気がさらに熱を帯びる。
「かんぱーい!」
ジョッキがぶつかり合い、笑い声が弾ける。
セイヤがみのるに身を乗り出した。
「なぁ、みのるはなんでホストやろうと思ったんだ?」
「僕……実は大学中退しちゃって。田舎に戻りたくなくて……バイト探してたら、オーナーに声かけられて……それで」
「へぇ~なるほどな」
俺は横目で彼を見ながら、わざと軽く問いかける。
「みのる、本名は?」
「……みのるです」
「お前、源氏名が本名かよ」
テーブルは一気にひやかしモードに。
「純粋すぎ~」
「嘘つけなさそうだもんな」
みのるは耳まで真っ赤にして、うつむきながら小声で答える。
「だって……嘘ついたら慣れない気がして」
その言葉に俺はつい笑ってしまった。
「クスクス……お前、ほんと可愛いな」
ケンがじっと俺を見て、口の端を上げる。
(……なんだよ、その目は)
ジュージューと肉が焼ける音。
グラスの氷がカランと溶けていく音。
そして、みのるの素直すぎる笑顔。
胸の奥に、妙な予感が灯る。
——こいつといると、ただの夜じゃ済まなくなる。
Lesson2に続く——
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