LGBTQサークルから逃げ出したアセクシャルの二人が、廊下で見つけた革命。アンデス山脈の麓で、500年前の織物が教えてくれたこと

霧人 イスラエル・ハイム

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ホルモン治療は誰かに見せるためじゃない! アセクシャル・トランスの叫び。

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*クロードによる生成小説です。

## シーン1:南米ペルー。首都リマの大学図書館・真夜中

サン・マルコス大学の古い図書館。もう深夜1時。誰もいない。

**アレハンドロ**(24歳、トランス男性、アセクシャル、短い黒髪、目の下にクマ)が、ノートパソコンの前で頭を抱えている。

画面には未完成の論文。カーソルが点滅している。

突然、アレハンドロの携帯が鳴る。画面には「ママ」の文字。

アレハンドロ、電話に出ない。でも着信が3回、4回、5回と続く。

ついに出る。

**アレハンドロ**
「…もしもし」

**母の声**(電話越し、スペイン語なまりの日本語)
「アレハンドラ! いつ帰ってくるの! もう深夜よ!」

**アレハンドロ**
「アレハンドロだって言ってるでしょ。それに、論文の締め切りが明日で…」

**母の声**
「また論文? いい加減にしなさい! そんなこと研究して、誰が結婚してくれるの!」

**アレハンドロ**
「結婚なんてしないって、何度も…」

**母の声**
「女の子なのに、そんな変なこと言って! お父さんが泣いてるわよ!」

アレハンドロ、電話を切る。

携帯を机に叩きつけそうになるけど、寸前で止める。

代わりに、自分の頭を両手で押さえる。

**アレハンドロ**(心の声)
「私は女じゃない。私は誰とも恋愛しない。私は…」

頭の中で、複数の声が喧嘩を始める。

**声1**(母の声で)
「お前は女だ」

**声2**(冷たく)
「お前は異常だ」

**声3**(小さく)
「消えたい」

アレハンドロ、呼吸が荒くなる。過呼吸の兆候。

そこに、図書館の奥から、歌声が聞こえてくる。

ケチュア語の子守唄。

アレハンドロ、はっとして顔を上げる。

-----

## シーン2:図書館の奥・先住民資料室

アレハンドロが、歌声の方に歩いていく。

図書館の一番奥、「アンデス先住民文化資料室」という看板がある部屋。

ドアが少し開いている。

中を覗くと、**ワイラ**(60代、ケチュア族の女性、伝統的な織物のポンチョを着ている、長い白髪を三つ編みにしている)が、古い織物を修復しながら、歌っている。

ワイラが、アレハンドロに気づく。

**ワイラ**(ケチュア語なまりのスペイン語で、優しく)
「あら、こんな夜中に。大丈夫?」

アレハンドロ、言葉が出ない。ただ首を横に振る。

ワイラ、作業を止めて、アレハンドロの方に手を差し伸べる。

**ワイラ**
「おいで。ちょっと座りなさい」

アレハンドロ、吸い寄せられるように部屋に入る。

ワイラが、床に敷いてある織物の上を指差す。

**ワイラ**
「ここ、座って。コカ茶、飲む?」

アレハンドロ、頷く。

ワイラが、魔法瓶からコカ茶を注いで、アレハンドロに渡す。

アレハンドロ、両手でカップを握る。温かい。

**ワイラ**
「あなた、息ができてない」

**アレハンドロ**
「え…?」

**ワイラ**
「深呼吸しなさい、とは言わない。深呼吸は、あなたみたいな子には逆効果だから」

アレハンドロ、驚いた顔でワイラを見る。

**アレハンドロ**
「どうして…?」

**ワイラ**
「私の孫もね、あなたと同じ。頭の中に声がたくさんある。深呼吸すると、声が大きくなる」

**アレハンドロ**
「…そう、なんです」

**ワイラ**
「だから、代わりに、これ」

ワイラが、修復中の織物を持ち上げて、アレハンドロに見せる。

複雑な幾何学模様。赤、青、黄色、緑。

**ワイラ**
「この模様、数えてみて。赤い三角形がいくつあるか」

**アレハンドロ**
「え…? でも、論文が…」

**ワイラ**
「論文は逃げない。でも、あなたの呼吸は、今止まりかけてる」

アレハンドロ、織物を見つめる。

赤い三角形を数え始める。

1、2、3、4…

数を数えているうちに、呼吸が少しずつ落ち着いてくる。

**アレハンドロ**
「…16個」

**ワイラ**
「そう。じゃあ、青い四角形は?」

**アレハンドロ**
「…数えていいですか?」

**ワイラ**
「どうぞ。私はこっち織るから」

アレハンドロ、織物を見つめて、青い四角形を数える。

ワイラは、別の織物の修復を続けながら、時々ケチュア語の歌を歌う。

しばらくして、アレハンドロの呼吸が完全に落ち着く。

**アレハンドロ**
「…ありがとうございます」

**ワイラ**
「どういたしまして。で、何があったの?」

アレハンドロ、少し迷ってから、話し始める。

**アレハンドロ**
「母から電話がきて。また、女の名前で呼ばれて。結婚しろって言われて」

**ワイラ**
「あなた、結婚したくないの?」

**アレハンドロ**
「したくないです。誰とも。恋愛とか、そういうの、全然興味なくて」

**ワイラ**
「ああ、チャクラナシ(ケチュア語で『橋を架ける者』)なのね」

**アレハンドロ**
「…何ですか、それ?」

**ワイラ**
「アンデスの古い言葉でね。恋愛や性愛じゃなくて、別の方法で人と繋がる人のこと。チャクラナシは、橋を架ける。家族と家族の間、村と村の間、生者と死者の間。でも、自分自身は橋の上に立って、どちらにも属さない」

アレハンドロ、初めて聞く言葉に、目を見開く。

**アレハンドロ**
「それって…アセクシャルのこと?」

**ワイラ**
「そう呼ぶ人もいるわね。でも、アンデスでは、それは特別な役割なの。普通の人には見えないものが見える人」

**アレハンドロ**
「私…特別なんかじゃないです。ただ、変なだけで」

**ワイラ**
「変? 誰がそう言ったの?」

**アレハンドロ**
「母が。父が。大学の友達も。みんな、恋愛の話ばっかりで。私だけ、何も感じなくて」

**ワイラ**
「感じないんじゃない。違うものを感じてるの」

**アレハンドロ**
「違うもの…?」

**ワイラ**
「あなた、今、この織物を数えてる時、何を感じた?」

アレハンドロ、考える。

**アレハンドロ**
「…落ち着きました。模様が美しくて。数字が、秩序を作ってくれて」

**ワイラ**
「それよ。それが、あなたの愛し方」

**アレハンドロ**
「数字を…愛してる?」

**ワイラ**
「数字、模様、秩序、真実。あなたは、人間の体じゃなくて、世界の構造に恋をする。それは、チャクラナシの証」

アレハンドロ、涙が溢れてくる。

**アレハンドロ**
「でも…そんなの、おかしいですよね」

**ワイラ**
「おかしくない。ただ、珍しいだけ。でもね、珍しいものこそ、大切なの」

ワイラが、修復した織物を広げる。

**ワイラ**
「この織物、500年前のもの。インカ帝国の時代。これを作った人も、チャクラナシだったと思うの」

**アレハンドロ**
「どうして、そう思うんですか?」

**ワイラ**
「この模様を見て。完璧すぎる。恋愛してたら、こんな完璧な模様は作れない。恋は、人を狂わせるから。でも、この人は狂ってない。ただ、模様に全ての愛を注いでる」

アレハンドロ、織物を見つめる。

**アレハンドロ**
「…美しい」

**ワイラ**
「そうでしょ。これが、チャクラナシの愛」

-----

## シーン3:数日後・大学のLGBTQサークル

大学の古い建物の一室。「クィア学生の会」という手書きの看板。

10人くらいの学生が集まっている。ほとんどがカップル。手を繋いだり、肩を寄せ合ったり。

アレハンドロが、部屋の隅で一人座っている。

**サークルのリーダー**(22歳、レズビアン、明るい)
「じゃあ、今日のテーマは『初恋の思い出』! みんな、順番に話してね!」

学生たちが、次々と話し始める。

「私の初恋は中学の時で…」
「俺は高校の時、同じクラスの男子に…」

アレハンドロ、だんだん居心地が悪くなってくる。

順番が回ってくる。

**リーダー**
「アレハンドロは?」

**アレハンドロ**
「え…あ、私は…」

**リーダー**
「初恋、ない? 大丈夫、ゆっくりでいいよ!」

**アレハンドロ**
「いや…そうじゃなくて。恋愛、したことないんです」

部屋が少し静かになる。

**別の学生**
「え、でもトランスなんでしょ? ホルモン治療始めたら、恋愛したくなるって聞いたけど」

**アレハンドロ**
「私は…アセクシャルなんです。恋愛も、性愛も、興味がなくて」

**リーダー**
「ああ、そうなんだ! それも全然OKだよ! LGBTQのAは、アセクシャルのAだもんね!」

でも、リーダーの言葉の後、会話が続かない。

他の学生たちは、また恋愛の話に戻る。

アレハンドロ、透明人間になった気分。

静かに部屋を出る。

誰も気づかない。

-----

## シーン4:廊下で・ソフィアとの出会い

アレハンドロが廊下を歩いていると、部屋のドアにもたれて座っている人がいる。

**ソフィア**(26歳、ノンバイナリー、アセクシャル、長い髪、大きめのセーター、ヘッドフォンをつけている)

ソフィアが、アレハンドロに気づいて、ヘッドフォンを外す。

**ソフィア**
「あ、あなたも逃げてきた?」

**アレハンドロ**
「え…?」

**ソフィア**
「LGBTQサークルの集まりでしょ。私も入ろうと思ったけど、ドア開けた瞬間、『初恋』の話してて。速攻で逃げた」

アレハンドロ、少し笑う。

**アレハンドロ**
「私も。恋愛の話、ついていけなくて」

**ソフィア**
「アセク?」

**アレハンドロ**
「…うん」

**ソフィア**
「仲間だ。私も」

二人、廊下に並んで座る。

**ソフィア**
「LGBTQのコミュニティって、結局恋愛中心なんだよね。『誰を愛するか』ばっかり」

**アレハンドロ**
「そう! で、『誰も愛さない』って言うと、『まだ出会ってないだけだよ』とか言われる」

**ソフィア**
「分かる! あと『寂しくないの?』とか」

**アレハンドロ**
「それ! 寂しくないって言っても、信じてもらえない」

二人、笑い合う。

**ソフィア**
「でもさ、本当は寂しい時、ない?」

アレハンドロ、笑いが止まる。

**アレハンドロ**
「…ある」

**ソフィア**
「だよね。私も。恋愛はしたくないけど、繋がりは欲しい。でも、どうやって繋がればいいか分からない」

**アレハンドロ**
「そう…誰かに甘えたい時もあるけど、恋人じゃない関係で甘えるって、どうすればいいのか」

**ソフィア**
「甘えると、『好きなの?』って聞かれるしね」

**アレハンドロ**
「で、『違う』って言うと、『じゃあなんで甘えるの?』って」

**ソフィア**
「恋愛以外の甘え方って、存在しないことになってる」

二人、しばらく黙る。

**ソフィア**
「ねえ、私たち、新しい甘え方、発明しない?」

**アレハンドロ**
「え?」

**ソフィア**
「恋愛じゃない甘え方。アセクシャル同士の、新しい繋がり方」

**アレハンドロ**
「…どうやって?」

**ソフィア**
「分からない。でも、実験してみない? 私、今すごく甘えたい気分なんだけど、恋愛抜きで、あなたに甘えてもいい?」

アレハンドロ、少し考える。

**アレハンドロ**
「…いいよ。どうぞ」

**ソフィア**
「じゃあ、肩、貸して」

ソフィアが、アレハンドロの肩に頭を乗せる。

アレハンドロ、最初は固まる。でも、これが恋愛じゃないと分かって、少しリラックスする。

**ソフィア**
「ありがとう。これ、すごく落ち着く」

**アレハンドロ**
「…うん」

**ソフィア**
「お礼に、私にも甘えて」

**アレハンドロ**
「え、でも…」

**ソフィア**
「甘えて。遠慮しないで」

アレハンドロ、少し迷ってから、言う。

**アレハンドロ**
「じゃあ…手、繋いでもいい?」

**ソフィア**
「どうぞ」

二人、手を繋ぐ。

恋人同士の手の繋ぎ方じゃない。ただ、繋がっている感じ。

**アレハンドロ**
「これ…恋愛じゃないよね?」

**ソフィア**
「違う。これは、チャクラナシの繋がり方」

**アレハンドロ**
「え、チャクラナシ、知ってるの!?」

**ソフィア**
「知ってるよ。私のおばあちゃん、アヤクーチョ(ペルーの都市)のケチュア族なんだ」

**アレハンドロ**
「本当!? 私も、この間、ワイラっていうおばあちゃんに教えてもらった!」

**ソフィア**
「ワイラ!? 大学の資料室にいる!?」

**アレハンドロ**
「そう!」

**ソフィア**
「あの人、私のおばあちゃんの友達! 小さい頃、よく会ってた!」

二人、興奮して話し始める。

-----

## シーン5:ワイラの資料室・夜

アレハンドロとソフィアが、ワイラの部屋を訪ねる。

ワイラが、二人を見て、にっこり笑う。

**ワイラ**
「あら、ソフィア! 久しぶり! そして、アレハンドロも!」

**ソフィア**
「ワイラおばあちゃん! 会いたかった!」

**ワイラ**
「二人とも、ここに来たってことは…チャクラナシ同士、繋がったのね」

**アレハンドロ**
「はい。でも、どうやって繋がればいいか、まだよく分からなくて」

**ワイラ**
「じゃあ、教えてあげる。座って」

三人、織物の上に座る。

ワイラが、古い織物を広げる。

**ワイラ**
「これ、見て。この模様、二つの糸が編み込まれてるでしょ」

アレハンドロとソフィア、模様を見る。

赤い糸と青い糸が、複雑に編み込まれている。でも、絡まってない。それぞれが独立しながら、一つの模様を作っている。

**ワイラ**
「チャクラナシの繋がり方は、これ。二人は、絡まない。でも、一緒に模様を作る」

**ソフィア**
「絡まない…?」

**ワイラ**
「恋愛は、二人が絡まること。一つになること。でも、チャクラナシは違う。二人は二人のまま。でも、同じ模様の一部になる」

**アレハンドロ**
「じゃあ、お互いに甘え合うのは…?」

**ワイラ**
「それは、糸が交差する瞬間。交差するけど、絡まらない。そして、また離れて、でもまた交差する」

ワイラが、実際に赤い糸と青い糸を取り出して、織り方を見せる。

**ワイラ**
「ほら、こうやって。糸は独立してる。でも、お互いを支えてる。片方がないと、模様が完成しない」

アレハンドロとソフィア、じっと見つめる。

**ソフィア**
「これ…私たちに教えてもらえますか?」

**ワイラ**
「もちろん。あなたたち、自分の織物を作りなさい。二人の糸で」

-----

## シーン6:数週間後・ワイラの部屋

アレハンドロとソフィアが、並んで座って、織物を作っている。

アレハンドロが赤い糸、ソフィアが青い糸。

二人、時々間違える。糸が絡まる。

**アレハンドロ**
「あ、ごめん、絡まっちゃった」

**ソフィア**
「大丈夫、ほどけばいい」

二人で丁寧に糸をほどく。

そして、また織り始める。

**ソフィア**
「ねえ、これって、私たちの関係みたいだね」

**アレハンドロ**
「どういうこと?」

**ソフィア**
「時々、近づきすぎて絡まりそうになる。でも、ちゃんとほどいて、また適切な距離に戻る」

**アレハンドロ**
「そっか。恋愛は、絡まったままでいること?」

**ソフィア**
「たぶんね。でも、私たちは絡まらない。独立したまま、でも一緒に何かを作る」

アレハンドロ、織物を見る。

赤と青の糸が、美しい模様を作り始めている。

**アレハンドロ**
「ねえ、ソフィア。今日、甘えてもいい?」

**ソフィア**
「どうぞ」

**アレハンドロ**
「実は今日、病院でホルモン治療の診察があって。医者に『恋人はいますか』って聞かれて」

**ソフィア**
「で?」

**アレハンドロ**
「『いません、アセクシャルなので』って答えたら、『じゃあなぜホルモン治療するんですか。誰かに見せるためじゃないんですか』って言われて」

**ソフィア**
「最悪…」

**アレハンドロ**
「すごく傷ついて。自分の体なのに、誰かに見せるためだと思われて」

ソフィアが、織物を置いて、アレハンドロの手を握る。

**ソフィア**
「あなたの体は、あなたのもの。誰に見せるためでもない」

**アレハンドロ**
「ありがとう…」

**ソフィア**
「お礼に、私も甘えていい?」

**アレハンドロ**
「うん」

**ソフィア**
「実は私も今日、家族に『いつまで大学にいるの、早く結婚しなさい』って言われて」

**アレハンドロ**
「つらかったね」

**ソフィア**
「うん。だから今、ここであなたと織物作ってるのが、すごく救いになってる」

アレハンドロ、ソフィアの手を握り返す。

**アレハンドロ**
「私も」

二人、また織物に戻る。

でも今度は、手を繋いだまま、片手だけで織る。

不器用だけど、模様は少しずつできていく。

-----

## シーン7:数ヶ月後・大学の文化祭

大学の中庭で文化祭。いろんなブースが並んでいる。

アレハンドロとソフィアが、「アンデス織物ワークショップ」というブースを出している。

ワイラも一緒にいる。

テーブルの上には、アレハンドロとソフィアが作った織物が飾られている。赤と青の糸が、美しい幾何学模様を作っている。

**学生A**
「これ、すごくきれい! 二人で作ったんですか?」

**ソフィア**
「はい。これは『チャクラナシの織物』っていいます」

**学生A**
「チャクラナシ?」

**アレハンドロ**
「ケチュア語で『橋を架ける者』。恋愛や性愛じゃなくて、別の方法で繋がる人たちのことです」

**学生B**
「それって、アセクシャルのこと?」

**ソフィア**
「そうです。でも、アンデスでは、それは特別な役割なんです」

**ワイラ**
「チャクラナシは、二人で一つの模様を作る。でも、絡まらない。それぞれが独立したまま、美しいものを作るの」

学生たちが、興味深そうに織物を見る。

**学生C**
「これ、体験できますか?」

**アレハンドロ**
「もちろん! 二人一組で、やってみますか?」

学生たちが、次々とペアになって、織物作りを体験する。

カップルもいれば、友達同士もいる。

**学生D**(恋人と一緒に来ている)
「あれ、これ、意外と難しい。すぐ絡まっちゃう」

**ソフィア**
「絡まったら、ゆっくりほどけばいいんです。焦らないで」

**学生E**(友達と来ている)
「私たち、友達だけど、これ作ってもいいんですか?」

**アレハンドロ**
「もちろん! 恋人じゃなくても、繋がりは作れます」

夕方になって、ブースが片付け始める頃。

一人の学生が、恥ずかしそうにブースに近づいてくる。

**学生F**(20歳くらい、目を伏せている)
「あの…私、アセクシャルなんですけど」

アレハンドロとソフィア、すぐに立ち上がる。

**ソフィア**
「ようこそ! 座って!」

学生Fが、座る。

**学生F**
「私、ずっと一人だと思ってて。LGBTQのサークルに行っても、恋愛の話ばっかりで。居場所がなくて」

**アレハンドロ**
「分かる。私もそうだった」

**学生F**
「でも…あなたたちを見て。アセクシャルでも、繋がれるんだって。初めて思えた」

ソフィアが、学生Fの手を取る。

**ソフィア**
「繋がれるよ。しかも、恋愛以上に深く繋がれる」

**学生F**
「本当ですか…?」

**アレハンドロ**
「本当。私たち、証明してる」

ワイラが、新しい織物の材料を学生Fに渡す。

**ワイラ**
「あなたも、作ってみる? チャクラナシの織物」

**学生F**
「一人でも、作れますか?」

**ワイラ**
「作れるわよ。でも、いつか誰かと一緒に作りたくなったら、この二人を訪ねてきなさい」

学生F、初めて笑顔になる。

**学生F**
「ありがとうございます」

-----

## シーン8:夕暮れのリマの海岸

文化祭が終わった後。

アレハンドロとソフィアが、ミラフローレスの海岸の崖の上を歩いている。

太平洋に夕日が沈んでいく。

二人は手を繋いでいる。でも、恋人の繋ぎ方じゃない。チャクラナシの繋ぎ方。

**ソフィア**
「ねえ、今日は私が甘えていい?」

**アレハンドロ**
「どうぞ」

**ソフィア**
「あのね、実は今日、すごく嬉しかったんだ」

**アレハンドロ**
「何が?」

**ソフィア**
「学生Fが来てくれたこと。あの子、私たちを見て、希望を持ってくれたでしょ」

**アレハンドロ**
「うん」

**ソフィア**
「それって、私たちの存在が、誰かの役に立ってるってことだよね」

アレハンドロ、ソフィアの肩を抱く。恋人の抱き方じゃない。ただ、支える感じ。

**アレハンドロ**
「私も、同じこと思ってた」

**ソフィア**
「お礼に、私もあなたに甘えさせて」

**アレハンドロ**
「もう甘えてるじゃん」

**ソフィア**
「これは序の口。本当に甘えたいのは、これから」

**アレハンドロ**
「え?」

ソフィアが、バッグから何かを取り出す。

大学院の入学願書。

**ソフィア**
「実は、大学院に出そうと思ってるんだ。アセクシャルの研究で」

**アレハンドロ**
「すごい!」

**ソフィア**
「でも、一人だと怖くて。だから、甘えていい? 一緒に出願してくれない?」

**アレハンドロ**
「え、私も?」

**ソフィア**
「うん。あなたも、トランスとアセクシャルの交差点、研究したいでしょ?」

アレハンドロ、少し考える。

**アレハンドロ**
「…したい。でも、私、論文書くの苦手で」

**ソフィア**
「大丈夫。私が手伝う。というか、一緒に書こう。チャクラナシの研究方法で」

**アレハンドロ**
「チャクラナシの研究方法?」

**ソフィア**
「そう。二人で一つの論文を織る。絡まらないけど、一緒に模様を作る」

アレハンドロ、笑う。

**アレハンドロ**
「それ、面白いかも」

**ソフィア**
「じゃあ、決まり! お互いに甘え合いながら、大学院行こう!」

**アレハンドロ**
「うん!」

二人、夕日に向かって手を挙げる。

その手は繋がっている。でも、絡まっていない。

-----

## シーン9:数年後・国際学会

大きな会議室。「ラテンアメリカLGBTQ+研究学会」という看板。

アレハンドロとソフィアが、壇上に立っている。二人とも修士号を取得している。

スクリーンには「チャクラナシ:アンデス先住民の知恵から学ぶアセクシャルの新しい繋がり方」というタイトル。

**アレハンドロ**(マイクに向かって)
「私たちの研究は、一人では完成しませんでした」

**ソフィア**
「私たちは、お互いに甘え合いながら、この論文を織りました」

聴衆の中には、世界中からの研究者たち。そして、何人かのアセクシャルの若者たち。

**アレハンドロ**
「アセクシャルの人々は、しばしば『繋がりがない』と誤解されます」

**ソフィア**
「でも、私たちは発見しました。アセクシャルには、独自の繋がり方があると」

**アレハンドロ**
「それは、アンデスの先住民が何千年も前から知っていたことです」

**ソフィア**
「チャクラナシ。橋を架ける者。絡まらないけど、一緒に美しいものを作る人たち」

スクリーンに、アレハンドロとソフィアが作った織物の写真が映る。

赤と青の糸が、複雑で美しい模様を作っている。

聴衆から、拍手が起きる。

質疑応答の時間。

一人の若い研究者が手を挙げる。

**若い研究者**
「質問です。お二人は、恋人なんですか?」

アレハンドロとソフィア、顔を見合わせて、微笑む。

**ソフィア**
「いいえ、恋人ではありません」

**アレハンドロ**
「でも、家族でもありません」

**ソフィア**
「友達でもありません」

**アレハンドロ**
「私たちは、チャクラナシです」

**若い研究者**
「それは…どういう関係ですか?」

**ソフィア**
「新しい関係です。まだ、名前がちゃんとありません」

**アレハンドロ**
「でも、これから作っていきます。私たちだけじゃなく、世界中のアセクシャルの人たちと一緒に」

聴衆の中から、アセクシャルの若者が立ち上がる。

**若者**
「私も、チャクラナシになれますか?」

アレハンドロとソフィア、大きく頷く。

**アレハンドロ**
「もちろん」

**ソフィア**
「あなたは、もうなってる。ただ、名前を知らなかっただけ」

若者、涙を流しながら、座る。

-----

## エピローグ:ワイラの資料室・夜

学会から帰ってきたアレハンドロとソフィアが、ワイラの部屋を訪ねる。

ワイラは、いつものように織物を修復している。

でも、今度は新しい織物も作っている。

赤、青、緑、黄色、紫…たくさんの色の糸が、複雑に編み込まれている。

でも、どの糸も絡まっていない。それぞれが独立しながら、一つの大きな模様を作っている。

**ワイラ**
「おかえり。学会、どうだった?」

**ソフィア**
「すごかったです! たくさんの人が、チャクラナシに興味を持ってくれて!」

**アレハンドロ**
「世界中から、『私もチャクラナシだ』ってメールが来てます」

**ワイラ**
「そう。じゃあ、これ、完成させないとね」

ワイラが、新しい織物を見せる。

**ワイラ**
「これはね、世界中のチャクラナシの織物。一人一人が、自分の糸を送ってくれたの」

アレハンドロとソフィア、織物を見つめる。

何十本もの糸が、美しく編み込まれている。

どれも絡まっていない。でも、一緒に、言葉では表現できないほど美しい模様を作っている。

**アレハンドロ**
「これ…世界中のアセクシャルの?」

**ワイラ**
「そう。ペルーだけじゃない。日本、イスラエル、アメリカ、ケニア、いろんな国から」

**ソフィア**
「みんな、チャクラナシなんですね」

**ワイラ**
「そうよ。そして、あなたたちが橋を架けた。だから、みんな繋がれた」

アレハンドロとソフィア、お互いの手を握る。

**アレハンドロ**
「ワイラおばあちゃん、ありがとうございます。おばあちゃんがいなかったら、私たち、ここにいなかった」

**ワイラ**
「いいえ。あなたたちは、自分で見つけたの。私は、ただ名前を教えただけ」

**ソフィア**
「でも、名前があるって、大事ですよね」

**ワイラ**
「そうよ。名前があれば、存在できる。存在すれば、繋がれる。繋がれば、世界を変えられる」

ワイラが、最後の糸を織物に編み込む。

織物が、完成する。

**ワイラ**
「さあ、これをリマの広場に飾りましょう。世界中に見せるの。チャクラナシは、ここにいるって」

**アレハンドロ**
「はい!」

**ソフィア**
「世界中のアセクシャルに、伝えましょう。あなたは一人じゃないって」

三人、織物を抱えて、部屋を出る。

リマの夜空には、星がきらめいている。

そして、遠くアンデス山脈の向こうから、ケチュア語の歌が聞こえてくる。

チャクラナシの歌。

橋を架ける者たちの歌。

絡まらないけど、一緒に美しいものを作る人たちの歌。

-----

**おわり**

でも、本当は、始まり。

世界中のチャクラナシが、今日も、お互いに甘え合いながら、新しい模様を織っている。​​​​​​​​​​​​​​​​
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